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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1570話 地球からのメッセージ ――二度目の初起動――

 数日掛けて日本との間で行われた外交的な話し合い。これに協力するべく皇都に滞在する事となったカイトは、更に隠れて地球とエネフィア、二つの世界の時間軸の調律をしながら忙しい日々を過ごしていた。

 そんな作業の甲斐あって、通信機の使用の許可が下りついに天桜学園に設置された通信機の初起動にまで漕ぎ着けられていた。というわけで、彼もまた学園生達同様に天桜学園に戻っていた。と言っても学生達が集まる体育館に向かうではなく、彼はその前にティナの居る通信室に密かに入っていた。


「ティナ」

「おぉ、来たか」

「おう。色々と忙しかったが……なんとかな。リルさんは?」

「外に設置した軍の飛空艇の中じゃ。あちらに検査機を設けておるからのう。そこから、詳細なデータを観測してくださっておるよ」


 リルが居ない事を訝しんだカイトの問いに、ティナが通信機に接続されているコンソールを叩きながら答えた。皇都での起動で得られたデータを基に色々と調整をしていたのだ。


「……良し。これで問題なかろう。『時空石』に掛かる負荷を更に20%は低減出来る」

「そうか……後で皇都のヴァステーユに送っておいてくれ」

「もうやっておるよ……」

「で、次は何を?」


 一つの作業を終えて更に別の作業に取り掛かったティナに、カイトが問いかける。それにティナはどうという事はない、とばかりに普通に答えた。


「ログ取っとるじゃろ、これ」

「ああ。必要だからな」

「……ちょっと、のう」

「おい」


 にやり、とあくどい笑みを浮かべたティナに、カイトは思わずツッコミを入れる。まぁ、何時も通り彼女の事。自分が望むタイミングでログの消去が出来たり出来る様にバックドアを設けているという所だろう。ここら、三百年前の時点で大天才と言われ未だに解析されていない技術を遺している彼女の腕だ。バレる事はないだろう。


「ま、お主や余らが必要となる事は無いじゃろ。そもそも地球となら普通に連絡取れるしのう」

「……そりゃそうだ。ならなんでわざわざ?」

「今後、オフレコにしたい話とかはあるじゃろう。それを見据えてじゃ。今からやっとこうかな、と」

「なるほど。単に必要と思われる機能を取り付けた、というだけか」

「まぁの」


 聞けばカイトとしても納得の出来る話だ。どちらの世界でも政府が関わるのでログが取れる様にはしているが、だからこそ記録に残したくない話は出て来るだろう。そういった際、全てがログに残ると面倒だ。故に消せたり残さない様に設定出来たりする様にした、というわけだった。


「なら何故さっきあんな顔したし」

「気分じゃ気分。ヴァステーユからの依頼でもあるしのう」

「ってことは、陛下からの依頼でもあるわけか。どれぐらいで終わる?」

「ま、データのプリセットそのものはヴァステーユが作っておった。なので余が少し手直ししてやっておるだけじゃ」


 カタカタカタ、とコンソールを叩きながらティナは現状を報告する。と、そんな作業もあっという間に終わりを迎えた。


「良し。ヴァステーユ、聞いておるな」

『はい、魔王様』

「インストールしたデータを送る。皇都の通信機にもインストしとけ。地球側については一台は余がなんとか出来る。もう一台はま、スカサハあたりに頼むかのう」

「いや、姉貴はパソコン使えねーぞ?」


 ヘッドセットを使ってヴァステーユへと報告している所に、カイトが口を挟む。基本万能に見えるスカサハであるが、実は万能というわけではない。理由があって現代技術はまだ使いこなせていなかった。


「む?」

「いや、姉貴達ここ最近まで引きこもってただろ。多分まだ使えねーだろ。てーか、オレが引っ張り出されるの目に見えてるし」

「……そうじゃった。はぁ、今度スカサハが来た時にでもインストするだけで良い様にしておいてやるかのう……どうせ当分は使わんじゃろうし……」


 魔術の腕は自分級。武術の腕はカイト以上というチートに隠れていて忘れていた事を思い出し、ティナはため息を吐いた。というわけでこちらについてはそれで対応する事にして、彼女は立ち上がった。


「ま、それは後で良いじゃろ。カイト、これで全部オッケーじゃ」

「あいよ……じゃあ、行くか」

「うむ」


 これで全ての準備が整った。二人は一つ頷きあうと、転移術で通信室の外に出て学生達の待つ体育館へと向かう事にするのだった。




 さて、それからおよそ一時間。桜率いる生徒会と桜田校長より現状の報告が行われ、合わせて誰がどの時間に通信機を使う様に皇国と日本政府から指示が出たか、という通達が行われる。

 というわけでその支度に忙しく動き出した生徒達の一方で、天桜学園――冒険部ではない――の学園生生としての上層部は先に通信室に集まっていた。理由は簡単で使い方を簡易に説明する為だ。

 他の生徒達にはマニュアルを配るのだが、万が一わからない、と言う場合には何時も通り彼らが教えてもらう必要があった。と言っても、その場には三人学園生ではない人物も混じっていた。


「まぁ、機械操作という事で速攻で我関せずを決め込んだカナン、緊張しっぱなしのアルとリィルは実際に使う事は無いだろうが……」

「ふぇ?」

「「……」」


 カイトの言葉にカナンが顔を上げ、非常に緊張した面持ちの二人が頷いた。何故この三人が居るのか。前者はちょっとした理由と魅衣が紹介したい、という理由で、後者は言ってしまえば恋人として紹介したい、という理由からだった。恋人の両親に会うのだ。二人が緊張して当然だ。


「まぁ、カナンは兎も角。二人はあまり緊張してなにか変なミスはしないようにな」

「……」

「が、がんばります」


 カイトの助言に珍しく緊張でガチガチなアルはこくこくと無言で頷き、リィルの顔は真っ赤だった。それにカイトは初々しく思いながら、改めて通信機の使用の手はずを教える事にした。


「まず、モニター横のスイッチで起動出来る。が、その横にあるランプが緑色じゃないと起動は出来ないから注意する様に。で、それから……」


 カイトは初起動に参加した者として、皇都の技術者に教えてもらった体で説明していく。まぁ、これはエネフィア側に機械知識が無い場合も考慮されて使える様に思案されている物だ。なので基本的にはスイッチ一つで起動が出来る様になっていた。


「で、音声についてはここでボリュームを変更。映像の輝度やコントラストについては、モニターに直接……」


 更にしばらく、カイトの解説が続いていく。まぁ、これについては特に問題は起きる事ではない。基本的な機能は地球のテレビや電話と同じだ。学生達になにか詳しい操作をさせる事のない様に設定されている。なので教えるべきはここを使えば動くという所と触るな、という所だけだ。というわけで、二十分程の講習で説明は終わりとなった。


「こんな所だな。初回に限り、オレ達上層部の面々が一緒に入れる様にしてもらっている。もしわからない様子の奴が居たら、積極的に声を掛けてくれ。以上だ」


 一通り重要な事を話し終えて、カイトは解散を宣言する。この場の天桜学園の生徒側上層部は全員今日中に通信機を使う事になる。なので全員がこのまま学園に残留だった。

 そしてその中でも先になるのは、冒険部上層部だった。桜も瞬もこちらに含まれるし、瑞樹らもこれに含まれる。日本政府としても有り難い判断だった。というわけで解散の後、カイトは残る冒険部上層部と共に開始を待つ事にする。


「にしても……まさかこんな物を作れるとはな」

「あんたは何もやってないの?」

「全くノータッチらしい。オレはオレで手一杯らしかったからなぁ……」


 魅衣の問いかけにカイトはため息混じりに首を振る。地球に残っているカイトの使い魔は片や世界中で暗躍し、片や()(海瑠)の支援だ。やっている暇なぞ無かった。


「というか、今更ながらですけど……マスター。本当に大変なんですね……」

「やめて!? その哀れみの視線、マジやめて!?」


 カナンの哀れみの視線に、カイトが半べそで声を荒げる。エネフィアでは三百年前は大改革の上、今は貴族と冒険者の二足わらじ。しかもかつての敵まで復活だ。その上、地球は地球で暗躍である。勇者なぞならない方が良い、とよく分かる一幕であった。と、そんな彼にティナが呆れた様に告げた。


「ま、お主の場合はいろいろとやらんで良い事をやるからじゃろ。そもそもの原因はお主が暴力団壊滅したからじゃったか」

「あれはオレの眼の前でやるから悪い」

「あー、そういえばそんな事もあったわねー」


 ティナの言葉にカイトがはっきりと切り捨て、そんな事もあったな、と魅衣が懐かしげに笑う。この時、丁度教育実習生として来ていた魅衣の姉が実家の関連で暴力団組織に拐われたそうだ。

 で、それを偶然目撃したカイトが救助に向かった、というわけであった。その当時魅衣はカイトの手で救出されたとは知らなかったのだが、こちらに来て恋人となってから教えられたのであった。と、そんな話をしていればあっという間に時間が経過して、カイトの時間が大分と近づいていた。


「っと……そろそろか」

「うむ。時間軸のズレ、許容範囲内。問題は無いのう」

「良し。幸運だな……全員、一度身だしなみはチェックしてくれ」


 カイトは自分が手配していたという事をおくびにも出さず、全員に一度頷いた。この初起動に際しては一度冒険部上層部は起動までをしっかりと確認させるつもりで、皇国とも日本政府とも話をしている。

 まぁ、これはやり方を教える為、という話と同時に良家の子女も多い冒険部上層部を一堂に会する事で一気に向こう側で確認の手間を省いてしまおう、という算段だった。

 なので向こう側も天道財閥の社員――この通信機の作製は天道財閥が主導したらしい――の幾人かが同様の理由で待機している筈だった。


「ティナ、頼む」

「うむ」


 カイトの指示を受けたティナが通信機のスイッチを押して起動させる。とはいえ、モニターにはノイズが流れるだけだ。


「さっきも言ったと思うが、基本的にこの通信機は両方の通信機が起動していないと映像は映らない。なので今は向こうが動いていない、というわけだな」


 通信が確保されていない現状を受けて、カイトは改めての解説を行っておく。皇都での初起動ですぐに繋がったのは地球側が先に起動させていたから、というわけだ。と、そうして数分すると通信機のモニターに映像が映った。


『カイトくんか……それに桜ちゃんも一緒か』

「はい」

「お久しぶりです、天城のおじ様」


 映像の中心に座っていた星矢の言葉にカイトと桜が頭を下げる。桜の父と星矢は幼馴染らしい。なので古くから桜も知っているとの事であった。と、そんな彼女はその横に居た祖父を見付け、笑顔を浮かべた。


「お祖父様。お久しぶりです」

『おぉ、桜。元気にしておるか? なにか不安な事は?』

「大丈夫です、お祖父様。こちらの学友達が良くしてくれていますので……」

『そうかそうか』


 桜の言葉を聞いて、彼女の祖父が相好を崩す。どうやら溺愛されている、というのは事実らしかった。これでも辣腕として知られていて、カイトも幾度となく話をした事がある。その彼がここまで相好を崩す事があるのか、と驚く程であった。と、そうして少しの会話の後、桜が切り出した。


「では、お祖父様。今回は通信機の使用方法を学ぶ、という事ですので……また後ほど」

『む……』

「お祖父様。公私は分けるべき、と思います。違いますか?」

『そうじゃのう。うむ、桜はよう分かっておるな。うむ、では儂らは引く事にしよう』


 桜の指摘に桜の祖父は不満そうだった表情を一変させて深く頷いて他の天道財閥の社員達を率いてその場を後にする。と、その中にカイトは灯里の父を見付け、小さく頭を下げた。それに、映像の前から立ち去ろうとした桜の父――天道財閥の社長の為、同席していた――が気が付いた。


『ん? ああ、そういえば知り合いだったか』

『ええ……』

「お元気そうで何よりです」

『ああ。君も元気そうで何よりだ……まぁ、詳しい話は天音……君のお父さんから聞く事にしよう』

「はい。じゃあ、また」


 カイトは灯里の父の言葉に頷くと、一度頭を下げてまたの再会を口にする。そうして、それに合わせて桜達も部屋を後にして、残ったのはカイトとティナ、カナン――ティナが紹介したいとの事――の三人となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1571話『地球との対話』

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