表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1597/3940

第1566話 地球からのメッセージ ――準備完了――

 ミカヤから暴走した魔眼用の眼帯の最後の調整を行った翌日。カイトは冒険部の人員の統率を桜ら上層部に任せると、再びミカヤの所へと顔を出していた。


「ああ、来たわね。これ、出来てるわよ。すぐに使うと思ったから、今回は包装してないわ」

「おう、サンキュ。依頼料金は特急料金上乗せで、朝一番に銀行の口座に振り込んでる」

「毎度あり。そこらは貴方の手抜かり無いから、信用してるわ」


 カイトは料金の支払いについて話し合いながら、出来たばかりの眼帯をしっかりと装着する。昨日カイトが来たのは最後の調整を行う為だ。なので仮縫いだった所も微調整が終わり、本縫いがされていた。


「よし。これで大丈夫か?」

「……ええ、魔眼の力の漏出も無し。何時も通りの仕上がりを保証するわ」

「あはは。それで良いのかよ」

「ダメだけど、今出来る最高の仕事をした事は保証するわ」


 昨日の愚痴を思い出してのカイトの言葉に、ミカヤも笑って太鼓判を押す。今出来る最高の仕事をした、という事と未来により優れた作品を作ろうと思う事は別問題だ。より上を目指したいというだけに過ぎないのだ。


「おし。じゃあ、行ってくる」

「はい、またご贔屓にー。あ、今度は弟さんも連れてらっしゃいねー」

「あいつ地球だ、無理言うなー」


 冗談っぽくカイトの背に投げかけたミカヤの言葉に、カイトは後ろ手に手を振って彼の店を後にする。幸いまだオープン前だった事もあり、今日は普通に出入り出来た。


「さて……急がないとな」


 ショッピングモールを後にしたカイトは一つ頷くと、ひとまず飛んで自宅こと公爵邸を目指す事にする。昨日の夜の便で椿と共にシアが皇都に向かっており、皇帝レオンハルトと共に今回の通信機初起動に伴うカイトの渡航に備える事になっている。なので荷物もその便で向こうに送られているが、色々としなければならない事も多かった。


「クズハ。ストラからの報告は?」

「すでに報告が。どこかの国が動いた形跡は無しとの事です」

「そうか。引き続き監視を行う様に指示を。追って、ティナが更に強固な結界を展開するが……今はまだ地盤が整っていない。どうしてもブラックボックスの作製で手一杯だったからな」


 クズハよりの報告を受け、カイトは更に指示を残す。皇国が一番恐れているのは『時空石』を盗まれる事。そして学園生程度が盗める物でもない。これを盗めるとしたら、どこかの国だけだ。故に周囲にはカイトが密かに兵を配置しており、それの統率をストラが担っていたのである。


「かしこまりました。では、その様に……あ、そうだ。お兄様」

「どうした?」

「先程、叔父上よりお手紙が。以前の贈り物のお礼状です」

「ああ、あれか。別に気にされる必要は無かったんだが……」


 以前の贈り物のお礼状。それはカイトがスーリオンから貰ったネックレスに対して返礼としてエルフ達の国に貢物を送ったわけであるが、それへのお礼状というわけだった。というわけで、苦笑混じりの彼はクズハから手紙を受け取った。


「わかった。向こうで読む。椿に校正も頼んで執筆も終わらせておくから、封筒とかの用意だけはしておいてくれ」

「かしこまりました」

「……で、そろそろ一つ良い?」

「ダメです」


 カイトの問いかけにクズハが非常に良い笑顔で却下を下す。カイトの視線の前ではアウラが拗ねた様子でペンを走らせていた。というわけで笑顔のまま下を向いて執務に取り掛かったクズハを横目に、カイトは給仕をしてくれていたユハラに問いかけた。


「な、何があったんだ?」

「毎度毎度の事ですよー。ご主人様の所へ向かおうとして見付かった、と」

「それだけであれだけ拗ねないだろ」

「色々とあったのですよ」

「色々?」

「はい、色々」


 どうやらその色々とやらは隠される事になったらしい。カイトの重ねての問いかけに対して、ユハラもまた楽しげにはぐらかす。


「まぁ、良いけどさ……あんまり拗ねさせるなよ?」

「あはは。少々、朝から不幸が続いたというだけです。お気になさらず」

「ふーん……」


 まぁ、それならそれで良いか。こういう事はマクダウェル家では何時もの事と言えば何時もの事だ。なのでカイトは後で時間が空いた時にでもアウラを慰めてやる事にする。

 なお、不幸が続いたというのは本当にそのままで、クズハが非常に良い笑顔、つまり怒っているのはその不幸の影響で彼女も被害を受けたから、らしかった。何やらアウラが引き起こした事態の所為で、朝一番にずぶ濡れになったそうだ。


「さて、じゃあオレは皇帝陛下の所へ向かう。後は任せた」


 しばらくの執務の後、カイトは後事を二人に託して公爵邸を後にする。そうして転移術で一気に皇城へと入ると、カイトの事を知る職員に案内され椿と合流した。


「御主人様」

「ああ……椿。衣服については」

「ご用意しております」


 カイトの問いかけを受けた椿はクローゼットに収納しておいた礼服を取り出す。これから皇帝と会うというのだ。礼服は必須だった。というわけで、カイトは手早く用意されていた礼服に袖を通す。


「……うっわ。中二くせっ」


 眼帯で礼服だ。鏡で己の姿を見たカイトがそう言いたくなるのも無理はない。と、そんな彼へと声が掛けられた。


「さっきまでのお主の方がよほどじゃ。ロングコートに眼帯なぞ……」

「ん? ああ、ティナか。通信機の最終調整は?」

「終わった。こちらも問題は起きまいな」


 カイトの問いかけを受けたティナは少し疲れた様子で椅子に腰掛ける。昨夜から彼女は大忙しだ。エネフィアには彼女以上の魔術師は存在していない。故に彼女が通信機の最終調整を担っており、学園に設置された通信機の最終調整を終えた後は即座にこちらに来て最終調整の監督を行っていたのである。

 ほぼほぼ徹夜作業だったのだろう。精細さを欠いていても無理もない。そんな彼女に、カイトは少しだけ優しげな顔で問いかけた。


「おつかれ。なんだったら起動に立ち会っていくか?」

「余は技術者として参加じゃ」

「そうか……リンクシステムは?」

「完璧に動いておるよ。流石にルルの手に余、スカサハの三人が組んで作った物じゃ。手抜かりなぞ何も無い。ルル曰く、私があのアホに劣る物を作るわけがないだろう、との事じゃ」

「あはは」


 やっぱり拗ねてるな。カイトは地球にて自らの家族を守ってくれているイクスフォスの妹の事を思い出し、わずかに笑う。何故拗ねているとわかったか。それは何時もより言葉に毒があったからだ。

 と言っても、これはカイトへの毒ではない。彼女の兄への毒だ。探しているのに会いに来ない彼に拗ねていたのである。と、そんな彼女に笑いながらティナをねぎらおうと抱き寄せようとして、カイトの鼻先にティナがデコピンを放った。


「っと」

「いてっ……なんだよ」

「シワを付けて皇帝の前に出ようとするでないわ。公爵であれば公爵に相応しい身だしなみをせい」

「あはは。疲れてるな、お前も」


 カイトは何時もとは少し辛辣なティナの言葉に、彼女が疲れている事を理解する。何故そう思うのか、というと普通なら魔術でどうにでも出来るので問題視しない事を問題視していたからだ。


「椿。悪いがコーヒーを。お姫様がおつかれだ」

「かしこまりました」


 カイトの指示に椿がティナ用のコーヒーを入れ始める。皇帝に会うというのだ。時間に余裕を持って行動していた。なのでここで一杯のコーヒーを飲んだ所で問題にはならなかった。というわけで、しばらくのんびりとした時間が流れる。


「ふぅ……うむ。椿。お主の入れるコーヒーはもしやするとミレーユより美味いかもしれん」

「ありがとうございます」

「うむ……ふぅ……」


 どうやら徹夜明けの朝にはカフェインが良く効くらしい。幾分疲れの取れた顔でティナがコーヒーを呷る。なお、彼女は言わなかったが紅茶に関してはミレーユの方が上との事だ。

 が、ここらはカイト好みかティナ好みか、という所だろう。そうしてそんなコーヒーを飲む彼女と共にコーヒーを飲みながら、カイトは小声で椿へと指示を出した。


「椿。悪いがしばらくティナの面倒を見てやってくれ。流石にここしばらくは忙しかったからな」

「かしこまりました」

「ティナ。オレは行くが、お前も遅れない様にな」

「うむ。一休みしたら、余も向かおう」


 少し微笑んだような椿がカイトの指示に小さく頭を下げる。そうして、カイトはそれを見届けてその場を後にすると、皇帝レオンハルトと謁見を行った。


「陛下。臣マクダウェル。参上しました」

「うむ。公よ。色々と聞いているが……目は大丈夫か?」

「ありがとうございます。この程度、三百年前であれば日常でした。ご心配には及びません。それに今はララツの手によって作られた眼帯をしております。問題は一切ありません」


 やはりカイトは臣下。その臣下が怪我をしたというのだ。皇帝レオンハルトとしては立場上その怪我の塩梅を聞いておくのが筋というものだろう。そうしてそんな彼の言葉に礼を述べたカイトの報告に、彼もまた頷いた。


「そうか。公程の武人であれば容態に嘘は言うまい。余もその言葉を信じよう」

「は」


 皇帝レオンハルトの言葉にカイトが頭を下げる。余と言ったのは一応は公的な場だからだ。そうして、一通り公的な会話が終わった所で皇帝レオンハルトが口調を変えた。


「で、マクダウェル公。話は聞いたぞ。お手柄だったそうだな」

「ありがとうございます」


 皇帝レオンハルトが述べたのは丁度昨日カイトの所に入ってきたソラの続報だ。と言ってもソラからの報告書ではなく、ラグナ連邦に入っている情報屋ギルドからの連絡だった。

 どうやら見事に役人を裏から操っていた非合法組織の頭首を捕縛してみせたらしい。その際、ブロンザイトの側近としてソラも参加しており、頭首捕縛に一役買ったそうだ。


「今回、連邦にとって頭の痛い話は彼らが信頼されていなかった事であろうな」

「あはは。一方、我が国は私の縁でという所ですか」

「ああ。やはり何事もコネは重要な物だ」


 皇帝レオンハルトは今回の一件に対して上機嫌に笑っていた。今回、ラグナ連邦はブロンザイトの助けを借りつつも、表向き自国のみで事件を解決した事になっている。

 が、そこにソラが居た事は各国共に知る所で、支援にマクダウェル家が着いていた事は自ずと知られる事になるだろう。であれば皇国が恩を売った形でもあった。

 以前皇帝レオンハルトがその程度は皇国の力を持ってすれば造作もない、と言ったのはこの事もあった。大抵の国なら大国の国力を前に泣き寝入りしかないが、皇国が相手であればそれも出来ない。ラグナ連邦は皇国に密かに一つ借りを作った形だった。


「で、ソラくんはどう言うであろうな」

「あいつなら謙遜する事でしょう」

「ははは。そうであろうな」


 カイトの返答に皇帝レオンハルトもまた笑って同意する。今回の事は間違いなく大手柄と言って良い。それに対してソラはおそらくこう言っただろうと二人は予想していた。自分はお師匠さん(ブロンザイト)の指示に従っただけです、と。


「まだ大器はならぬか。惜しいな」

「あはは。陛下、私も十数年を経て今の在り方となっております。高々数ヶ月のあいつをあまり買いかぶらないであげてください」

「そうだな」


 笑うカイトの執り成しに皇帝レオンハルトもまた、笑って頷いた。ここら、まだソラがきちんと色々と道理を理解していないだろうと二人は思っていた。そうして、カイトが重要な事を口にした。


「何故軍人が表彰されるか。それがわかっていれば謙遜なぞ必要がない」

「うむ。軍人が作戦を成功して褒められるのが軍師だけであれば兵士達もやる気を無くす。が、何よりその軍師の作戦を遂行せしめるのは兵士達よ。兵士達の頑張りがあってこそ、軍師の策とは活き……いや、生きる。策を生かすも殺すも兵士達の働き一つよ。それに何より、公が表彰されている事が道理にそぐわぬからな」

「あはは」


 流石は軍よりの信望の厚い皇帝レオンハルトという所だろう。きちんとどう表彰するべきかの妙を心得ている様子だった。と、そんな彼は一転して僅かな憂いを浮かべた。


「にしても……ここから先。どうなるのであろうな」

「陛下。賢者が策を練られた上での事です。心配は無用かと」

「……そうだな。賢者ブロンザイトが長い月日を掛けて練った策。手抜かりなぞあるまいか」


 カイトの諫言に皇帝レオンハルトもまた気を取り直して頷いた。と、そんな話が終わるか終わらないかの所で執事が入ってきて、皇帝レオンハルトへと一つ耳打ちした。


「……そうか。マクダウェル公。ハイゼンベルグ公が来たそうだ」

「そうですか……」

「公も楽しみか?」

「楽しみでない筈がありません」


 少し冗談っぽく告げられた皇帝レオンハルトの問いかけに、カイトは素直に認め頷いた。家族との久方ぶりの対話。それが楽しみでない筈がなかった。そうして、その場にハイゼンベルグ公ジェイクが入ってきて場は一転引き締まったムードになる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1567話『地球からのメッセージ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ