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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1565話 地球からのメッセージ ――完成と設置――

 カイトが灯里の手伝いをしながら、錬金術を使って通信機の作製作業に取り掛かってから翌日。ティナに通信機の移送の手配を任せると、カイトは公爵邸応接室にて皇国の使者を出迎えていた。


「閣下。お久しぶりです」

「ああ」


 使者の差し出した手をカイトが握る。明後日には通信機の初起動だ。初起動という事もあり、学園生が焦って勝手に起動したりしない様に軍――それも近衛兵――が監視に就くことになっている。というわけで公爵家として応対にあたる事になっており、それ故に使者も一度こちらに来たのであった。


「さて、すでに閣下は把握されているかとは思いますが……」

「ああ、わかっている。それについてはすでに通知済みで……」


 使者とカイトは幾つかの事について、しっかりと確認を取っておく。ここらで面倒は起こしたくない。というわけでしっかりとした確認と合意が取られる事になっていた。


「では、以上です」

「ああ。しっかりと通達しておく。そちらもなるべく万が一の場合にも手荒な真似はしない様に頼む」

「ご安心ください。人格面については公安部と諜報部隊がきちんと確認を取った上での人選です」

「頼む。無用な問題は起こしたくない」

「理解しております」


 変に揉め事を起こせばそれだけで統治に問題が出るのだ。せっかく現状問題が出ていないというのに、下手に問題が起きる要因を作りたくなかった。というわけで、種々の話し合いの後、カイトは使者を見送って自身もすぐに冒険部ギルドホームへと向かう事にする。


「ティナ。そちらの現状の報告を」

『うむ。こちらは搬送作業を進行中じゃ。すでに外装の積み込みは終了。梱包に異常も無い』

「わかった。丁度使者が帰った。こちらも作業に参加する」

『うむ』


 ティナの返答を聞くと、カイトは通話を切って即座に各種の手配に入る事にする。そうして彼はその日一日を輸送艇への運び込みに費やす事になるのだった。




 冒険部により輸送艇に通信機の部品が積み込まれた翌日。カイトは飛空艇を操って天桜学園にやってきていた。そちらにはすでに桜が入っており、今回通信機を置くべく新設される事になった通信室の状況を確認してくれていた。


「あ、カイトくん」

「ああ、桜。通信室はどうなってる?」

「あれです」


 カイトの問いかけに桜が新設された建屋を指さした。そこにはコンクリートで出来た新たな建物が出来上がっており、周囲を近衛兵が警戒していた。まぁ、これは今だけだ。今回の初回の通信が終われば、後はまた出入りに皇国から派遣された職員が職員が立つだけとなる。


「わかった。じゃあ、少し話をしてくる」

「はい」


 兎にも角にも今は全体的に忙しい。桜も生徒会会長として忙しく動いているし、瞬もまた運動部連合会会頭として動いている。カイトの方が生徒会役員としての仕事が無い分手が空いているぐらいだ。

 無論、その分冒険部の運営は一挙に引き受けている上、ブロンザイトの補佐として動いているので決して彼が忙しくないわけではない。そんな彼が今後職員達が詰める事になるセキュリティルームに向かうと、即座に中へと迎え入れてくれた。


「閣下。お待ちしておりました」

「いや、そちらこそお疲れ様だ」


 頭を下げた皇国の職員――今後出入り口の監視とはまた別――に、カイトがその労をねぎらう。そうして少しの話し合いが持たれる事になった。


「内装の方はもう?」

「はい。すでに内装も完成し、後は必要な資材を運び入れるだけです。また、閣下のご命令通り監視用の魔道具も密かに設置しております」

「助かる。この映像については?」

「はい。皇都及びマクダウェル邸のモニターにて監視出来る様にしております」


 カイトの問いかけに、皇都の職員は内部の監視カメラに繋がるモニターの映像を提示する。そこにはこれから通信機を設置する部屋が映されており、他にもそこに繋がるまでの通路、建屋周辺の映像が映り込んでいた。


「学生達はこの事は?」

「勿論、知りませんとも。夜間密かに軍の特殊工作員が入り、作業を行いました。露呈した可能性は無いと断言して良いでしょう」

「そうか。ならば問題はない」


 カイトは職員の言葉に一つ頷いた。ここまで警戒しているのは勿論、学生達に対してではない。通信機の内部にある『時空石』を狙われる事を危惧していた。破壊されるのならまだ良いのだ。が、盗まれる事態だけは避けたかった。


「それ以外にも閣下が持ち込まれました各種のセンサー類も全てご指示の通り」

「そうか……物資搬送用の大扉については?」

「そちらも仔細問題なく。動体感知のセンサー、重量を感知するセンサー等、全て設置済みです」

「よし……わかった。では、これより通信機の搬送を行う。が、変な話ではあるが、こちらの指示があるまで動力炉の電源はオフにしておいてくれ」

「承知しております」


 カイトの指示に職員が頭を下げる。今回の通信機は電源を内蔵していない。スカサハ曰く、動力源を内蔵にすると、ただでさえ大きな通信機――現状でも縦横2メートルはある――が更に巨大化する事になってしまったらしい。そもそも持ち運べる物でも無いのだから、内蔵にする意味も無いだろう。

 というわけで、話し合いを終えたカイトは通信機の運び込みを行うべく通信機の搬送の指揮を執るティナへと連絡を入れた。


「ティナ。手配が終わった。搬送と確認を頼む」

『うむ。ああ、そう言えばリンクシステムとブラックボックスじゃが、こちらについては皇都側で接続を完了したとの報告が入った。異常なく動作しておるとのことじゃ。無論、まだ接続はしておらんがの』

「そうか。なら、こちらも問題は起きなさそうだな」

『と、考えてよかろう』


 基本的に通信機については造り手が違う以外は同じ様に作っている。その部分で差は出るが、一番重要となるブラックボックスとリンクシステム、通信に関わる部分については二台ともティナが自ら製造を行っている。なのでどちらかで問題が出なければ、もう一方でも問題は出ない筈だった。


「さて……」


 ここまでに問題はない。カイトはティナとの話を終えると、一つ安堵しておく。これでひとまずは問題なく動ける。あとは実際に動かしてみないとなんとも言えない所だった。


「大扉へ向かうか」


  一度だけ気分を入れ替えたカイトは、一転して気を取り直す。大扉はこことは逆の所にあり、そちらに向かうつもりだった。


「大扉は……良し。既に開いてるな」

「む?」

「ああ、一応の視察だ」


 生徒達への指示をしていたティナだが、カイトに気がついてそちらに視線を向ける。


「で、どういう風に設置する予定だ?」

「前に言うた通り、モニターは入り口からは見えん形じゃ」

「まぁ、そりゃそうか」


 通信室の監視カメラは総計3台となっており、死角は殆ど無い。なので入り口から隠れていても問題は無かった。

 それより問題なのは、背面のパネルからブラックボックスに近付ける事だ。通信機を盾にされると面倒だし、資材搬入用の大扉から近いというのも頂けない。


「取り敢えず、設置についてはそのまま続けてくれ。オレはオレで色々とやらないといけない事が多くてなぁ」

「ま、仕方があるまいのう」


 ティナはカイトの言葉に、彼の右目を覆う魔眼封じの布を見る。ミカヤ曰く、昨日の夜なんとか試作段階の物は出来たらしい。今日中に調整するので指定した時間に来い、と言われていた。


「ま、お主の作業も必要な事じゃ……と、思えばお主。親御さんにはなんと言い訳するつもりじゃ」

「あー……完全に考えてなかった……」


 そもそもカイトが魔眼持ちである事は両親は知らない。ただでさえ魔眼で苦労している弟が居る以上、下手な事をしたくなかった。更には先天的に封印されていた事もある。誰にもバレていなかった。


「まぁ、そこら辺は適当に誤魔化すよ。それ以外に方法無いし」

「そーするしかあるまいのう。かと言って隠さんでも、目色が違うしのう」


 ため息混じりのカイトにティナもため息混じりだ。これについては職業柄避けられない事だ。妙案は思いつかなかった。


「はぁ……とんだ高い買い物だった」

「特にお主はの。ま、取り敢えず受け取って来い。お主の魔眼は危のうてならん」

「へいへーい」


 ティナの指示にカイトは気だるげに手を振って踵を返す。兎にも角にも眼帯がないとどうにもならない。と言うわけで、カイトは一旦作業を中断してミカヤの所へと向かう事にするのだった。




 カイトが学園での作業を中断してすぐ。彼はマクスウェルに帰還すると、ショッピングモールにあるミカヤの店へと向かっていた。


「ん?」

「あら。来たわね」

「おう、カイトか。話聞いたよ。やっちまったねぇ」

「カリンか」


 手を挙げたカリンにカイトも片手を挙げる。彼女も魔眼持ちだ。なので時折ミカヤの所には来ており、ノーアポも良くある事だった。今日は偶然暇を見つけた、という所だろう。


「召喚術師とバトってな。術者当人の腕はまぁまぁ、召喚獣はランクS級だな」

「あんたがそれ以外に不覚はないだろ」

「あはは……で、ミカヤ。依頼の物は?」

「出来てるわよー」


 カイトの問いかけにミカヤはことん、と店で小物を入れる小箱を置いた。


「これ。後はサイズ調整するから、一度ちゃちゃっと着けちゃって。最後のサイズ調整だけだから、それでよければ持ってて良いけどね」

「あいよ……まぁ、オレの場合はこれだよなー」

「しょーがないでしょ。あんたの場合は魔眼の封印が主目的なんだから。こっちとは違うの」


 はぁ、とため息を吐いたカイトに、ミカヤは苦言を呈する。カイトの眼帯はカリンの物とは違い、目の周辺を覆う物ではない。顔の右上部分を完全に覆うような大きな物だ。目的が違う為、これだけの大きさになってしまうのである。


「わーってるよ。素材は?」

「ランクS級の天竜の皮よ。それを鞣した物を加工してるわ」

「そっちもいつも通りか」

「そうね。今回はただ長いだけだし。症状としては軽い方よ。長く浅く。一番厄介と言えば、厄介なパターン。まぁ、貴方自身が一番分かってるでしょうけどね」


 カイトの眼帯の長さの微調整を行いながら、ミカヤがカイトに眼帯の説明を行なっていく。基本的には、外さなければ問題ないということだ。


「ふぅ……あー、すげぇ久しぶりに眼帯したが……この違和感だけは慣れないもんだ」

「貴方がそうしてくれ、って言ったんでしょ?」


 しかめっ面のカイトにミカヤが笑う。確かにこの眼帯は魔眼封じであるが、全てを封じているわけではない。暴走を抑制するだけしかしておらず、このままでもやろうとすれば魔眼の発動も可能だった。

 かなり高度な魔具製作者のみが出来る芸当だった。とはいえ、普通はこんな機能は設けない。なので完全にオプションで、その分値は張った。


「まぁな。色々と生活するならそっちのが楽だ」

「別に見ないでも生活は出来るだろ、あんたなら」

「そりゃ、出来るは出来る。お前だって出来るだろ」

「ま、そりゃね」


 カイトの問いかけにカリンが笑う。伊達に地球換算で何十年分と修行したわけではないのだ。カイトだって普通に見ないでも生活出来る。優れた武芸者だからこそ、彼らの鋭敏な感覚であれば風の流れ一つで物の場所を悟る事は出来た。なので敢えて高い金を積んでまでオプションで魔眼の透過能力をスルーさせる者は多くはなかった。


「でも、オレのはほら、これ。外すの面倒なんだよ。でかいから」

「流石にこれ以上の小型化は無理ね。技術的な限界値がかなり近いもの。三百年前からさほど変わってないのよ。無論、幾つか簡略化とか色々と出来てるんだけど……貴方の場合はレアリティが高すぎてそういう簡略化出来ない物ばかりなのよねぇ。使い勝手の悪さの改善だけは、私も今でも苦労してるのよ」

「良いよ、これで。その分外さないで良い様にしてんだから」

「だからそれがダメなのよ。取り回しが悪い、ということはその分商品価値が低い、という事なんだから……」

「まぁ、そう言ってもだな……」


 カイトの返答にミカヤは職人としての無念さを口にする。それにカイトはしばらく付き合う事にして、この日は結局店の営業終了後にミカヤの愚痴を聞かされる事になり、バーで過ごす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1566話『地球からのメッセージ』

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