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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1564話 地球からのメッセージ ――作製――

 カイトがミカヤに眼帯の作製を依頼して翌日。その日、素材の全てが揃った事でついに通信機の製作に取り掛かる事になった。ではその方法は、というとこれは当然魔術を使ってとなる。

 灯里が言っていた事でもあるが、この世界には錬金術という物がある。これは確かに低級では単に素材の変換ぐらいしか出来ないが、上級の錬金術師ともなれば例えばホムンクルスや部品の錬成等もしてしまえた。というわけで、素材と設計図さえあれば極論、工作機械要らずで機械を組み上げる事が可能なのである。


「これをこうして、っと」


 灯里はティナが冒険部ギルドホーム内の実験室に拵えた魔法陣の上に、幾つもの素材を設置する。錬金術は見た目簡単な魔術なのに、やっている事は非常に高度な知識が必要となる。なので高度な科学者でもある彼女は、錬金術師としても非常に優れていた。


「カイトー。鉄鉱石の精錬はー?」

「終わったよ。つーか、けが人駆り出すなよ」

「あんた以外に無茶言えないもーん」

「他に研究班居ますよね!?」


 楽しげな灯里にカイトが声を荒げる。なお、眼帯についてはミカヤが色々と手配してくれた結果、なんとか明日の夜には出来上がるらしい。なので彼は今も魔封じの布を使っていた。


「えー、ま、でも大丈夫は大丈夫なんでしょ」

「けが人ですけどね!?」

「ああ、冗談じゃなく。あんた、もしマジでダメならここに来ないでしょ」

「……」


 マジでナニモンだよ、こいつ。カイトは灯里の言葉に思わず絶句する。だからカイトは彼女が怖かった。カイトは基本、自身の状態はあまり明かさない。なので冒険部内では魔眼の暴走についても戦闘の影響で習得した魔眼が暴走している、としか公表していない。

 戦闘に参加した竜騎士達が破壊は起きていなかった、と言っていたし、カイトも魔封じの布を介しても魔眼の影響でしっかりと物が見えている、とだけ言っている。大凡詳細を知る以外の全員が、<<千里眼>>が暴走しているのだろうと考えていた。そんな彼の鼻先を灯里がちょん、と小突いた。


「ま、怪我してる時ぐらいは少しは甘えなさいな。なんなら、一緒に寝てあげよっか?」

「けが人働かせてるあんたの言葉かよ」

「それはそれ。これはこれ。現実問題としてあんたが一番使い勝手良いしねー」


 一瞬だけ姉貴分としての顔を覗かせた灯里にカイトが照れくさそうに拗ねれば、灯里が何時もの顔で笑う。それにカイトは嬉しくも思い、申し訳なくも思った。この魔眼については灯里に何も明かしていない。心配に思っても無理はない。


「で、その眼。何がどうなってるの? 嘘を滅多に使わないあんただから、その布通しても視えてるのは事実なんでしょ。でもそれ以外にもあると見た」

「ま、あるよ。言わないけどな」

「えー。いいもーん。自分で考えるから」

「それはお好きにどうぞー」


 不満げな灯里であるが、カイトが明かさないには明かさない理由があるだろうぐらいは理解していた。故に灯里の言葉もカイトの返答もいい加減だった。というわけで適度な雑談を挟んだ後、二人は再び作業に取り掛かる。

 なお、この実験室は幾つもあり、ここ以外でも作業は行われている。他の研究員は他の研究員で動いており、灯里の助手としてカイトが動いているというだけだ。と、そんな最中に再び灯里がふと問いかけた。


「あ、そう言えばふと気になったんだけど」

「んだー」

「視えてるって、どこまで視えてるの? 魔眼って色々とあるんでしょ? 聞けば千里眼と透視は似てるって話じゃん」

「んー? まぁ、布越しぐらいは視えるぞ」

「え?」

「おい、ちょっと待てや」


 目を見開いて己の身体を抱きしめた灯里に、カイトが思わず待ったを掛ける。服については透き通る事は無い。いくら暴走していても、その程度はコントロール出来ている。

 いや、完全に無いかというとそうではないが、出力を上げない限りは視える事はない。そしてそれ以前の問題があった。というわけで、灯里は一転気を抜いた。


「まー、それもそうか。今更思い出したけどあんた私の裸、見慣れてるもんねー」

「そうですね!? ん?」

「……あ、ご、ごめんなさい! 立ち聞きするつもりは……」


 どうやら、また別の所で錬成された物資を持ってきてくれたらしい。人の気配に気が付いて振り返ってみれば、そこには白衣の小柄の女の子が立っていた。

 どうやら灯里の所為で注意が散漫になってしまっていたのだろう。聞かれていたらしく、彼女の顔は真っ赤だった。と、そんな少女と灯里は知り合いだったらしい。気軽に手を振っていた。


「あ、水無月さん。ありがとねー」

「い、いえ……」

「おい! いや、ありがとうはありがとうなんだが! 先に誤解解こうとか思いません!? 一応教師だよな!? 生徒との不純異性交遊の噂立つとか大問題だろ!?」


 真っ赤になった水無月というらしい女子生徒に気軽に礼を言った灯里に、カイトが思いっきり対処を頼む。が、これに灯里は楽しげだった。


「えー。誤解じゃないでしょ。流石に教師が生徒に嘘は言えないわー」

「確かに誤解じゃないですけどね!? 確かに見た事ありますけどね!?」

「なんだったらお風呂も入ったわねー」

「入りましたね!? でも今言う事はそれじゃねぇよ!?」


 どうやら口での力関係は明白らしい。灯里が楽しげに言っているのであるが、カイトは逐一否定するのに精一杯だった。と、その一方、水無月とやらは思いっきりドン引きしていた。


「ちょ、ちょっと!? えーっと、水無月さん!? 引かないでくださいません!? 肉体関係はありませんからね!?」

「いえ……まぁ……先輩ならあり得るかなー……と」

「ほらぁ!」


 水無月の言葉にカイトが思いっきり半べそを掻く。まぁ、こればかりは事情が悪い事もある。というのも、彼女は暦のクラスメートで友人らしかった。

 色々と噂は聞いていたらしい。と、少しカイトが半べそになった所で流石にこれ以上時間を潰すと他にも影響が出る、という事で灯里がきちんと誤解の訂正を行った。


「あはははは。というわけで私の弟みたいなもんなのよ、こいつ。生まれた頃から知ってるのよ」

「は、はぁ……」


 それでも自宅で素っ裸はどうなのだろうか、と思わないでもない水無月であるが、取り敢えずの誤解は解けていた。


「で、でも先生……そんな性格だったんですね……」

「まー、流石に生徒の前じゃ普通にするわねー。こいつの前だから素なだけで……で、いい加減機嫌直してよー」

「……」


 つーん、とカイトが拗ねた様子でそっぽを向く。やはり灯里や皐月というカイトの過去を知る者の前では見た目相応の対応が出るらしい。何時も以上に子供っぽかった。と、拗ねた彼であるが、いつまでも拗ねてもいられない。なので気を取り直して本題に入った。


「……まぁ、良いわ。で、水無月さん。他の所の進捗はどうなってる?」

「あ、はい。先生の指示通りで作業は進行中です。他、皇国からの監督も問題無く順調に進んでいます」

「そっかー。じゃあそのまま進めて大丈夫よー」

「せめて教師の皮ぐらいはかぶれよ……ぐぇ」

「小生意気な口はこれかなー? これかなー?」

「口じゃねぇよ! てーか、当たってんだよ!」


 無駄口を叩いたカイトの頭へと灯里がネックツイストを仕掛ける。そうして少しのじゃれ合いの後、再び会話が再開した。


「はぁ、はぁ……何故抜け出せん……」

「こちとら何年あんたの家族やってると思ってんの。力じゃなくて技で勝てんのよ」


 肩で息をするカイトに対して、灯里がどこか勝ち誇った顔で仁王立ちする。まぁ、所詮はじゃれ合い。カイトの癖を見切っている上、洞察力であればティナをして化物と言わしめる灯里だ。カイトさえ逃れられないのは仕方がないのかもしれなかった。


「はぁ……まぁ、良いわ。取り合えず報告を」

「あ、はい……」


 起き上がったカイトの指示を受けた水無月が再度報告を開始する。なお、何故彼女が報告に来たか、というとどうやら灯里の助手をしているのが彼女らしかった。


「そ。わかった。じゃあ、とりあえず精錬は全部終わり、と」

「はい。現在は大まかな外枠等の作製に取り掛かっています」

「じゃあ、そちらについてはそのまま進めさせて。私達の方で内部の細かな所についてはしておくから」

「はい」


 灯里の指示に水無月が頷いて、再び実験室を後にする。とりあえず錬金術に使う為の原石を全て精錬出来たらしい。これで後は加工するだけだ。まぁ、本来なら原石から一気に加工も出来るが、それでは全員の練習にならない。これだけ大規模に練習出来る機会があるのだ。活かさない道理は無かった。


「さて……じゃあ、やっちゃいましょ」

「あいよ」


 そうと決まれば、作業再開だ。二人は気を取り直して作業に取り掛かる。


「えっと……ニッケルよし。設計図よし」


 灯里は魔法陣の前に立つと、眼を閉じて魔法陣に手を当てる。地球でもそうだったが、実は錬金術と科学は似ている。なので錬金術で重要なのはどれだけその物質の特性を知っているか、となる。

 魔術とて万能ではないのだ。一見荒唐無稽に見えても、不可能を可能にしているわけではない。例えば金属と肉を合成、なぞ出来ないのである。あくまでも、物理学を応用して錬成するに過ぎない。そうして、わずかに魔法陣がスパークを放つ。


「……はい、出来上がり」

「あいよ。さて、これを……」


 魔法陣の上に置かれた素材を合金へと合成した灯里から、今度はカイトが場を入れ替わる。錬金術師として見れば灯里は冒険部一と言えるが、それでもカイトやティナには数段劣る。こればかりは練習量の差が大きい。

 なのできちんとした錬成に関しては二人が手直しをする事になっていた。今はティナがブラックボックスの作製に取り掛かっている為、カイトがここに居たのであった。


「にしても、相変わらず錬金術師としちゃ見事な腕前というか……本気でバケモンだろ、あんた」

「なによ、失礼ねー」

「いや、褒めてるんだよ。多分灯里さん、錬金術師なら大成出来るぞ?」

「まぁ、古来の科学者は錬金術師だったものね。こっちじゃ今もそうに近いらしいけど」


 カイトの掛け値なしの称賛に灯里が特に感慨も無くスルーする。が、これは本当にそうらしく、数年修行すれば錬金術師として食べていける程ではあったらしい。

 数年で良いのは地球の基礎知識があればこそだが、それでもここまで優れた才能なのは類を見ないそうだ。先行投資を含めれば、マクダウェル家として公的に支援しても問題が無い領域だそうである。


「そういえば、それなら煌士くんとかも錬金術に優れた才能示すの?」

「いや、多分灯里さんの方が上だ」

「あら、意外」

「そうでもない。実際、確かに煌士は優れているし、物理学においては灯里さんより上だが……化け学の方の化学なんかの科学全般については灯里さんの方が広く知ってるだろ?」

「まぁ……そこら私好きでやってるし」


 煌士とは桜の弟にして、灯里が研究の助手をしていた少年の事だ。現在カイトの弟妹達と共に地球の事件に当たっている一人でもある。その彼は若くして物理学、特に近年発展している重力場技術に関する分野では第一人者と言われており、その知性についてはカイトも認める程だった。が、彼が特化しているのは物理学。カイトの言う通り、化学についてはあくまでもある程度でしかなかった。


「錬金術はそういった化学分野の知識も必要だ。勿論、金属の錬成だけなら必要無いがな。が、錬金術師としてやっていくのなら、化学分野の知識も要る。最終到達点がホムンクルスになるからな」

「あー……そう言えばティナちゃんも地球の化学は知っておいて損はない、とか言ってたわねー……」


 どうやら何度かティナから錬金術に関する話を聞いた事があったらしい。なお、この際にも錬金術師としてやっていけるだろう、とティナからも太鼓判を押されていた。彼女曰く、潜在能力では自身と同等かそれ以上との事だそうだ。

 と、そんな話をしながらも錬金術で部品を作ること、およそ5時間。大凡全ての部品が出来上がった。そしてその最後の部品は、天桜学園の中から持ってきた物だった。


「久しぶりに見たわね、このモニター」

「使わないモニターが倉庫に仕舞われてあって助かった。なるべく無駄なく使いたいからな」


 カイトは学園の倉庫に眠っていたモニターを指定された形へと組み直す。これは錬金術の応用ではなく、単に台座を外してモニターアームで取り付けられる様にしただけだ。修理については錬金術で行った。


「そういえば皇都側の物はどうするの?」

「それもウチから出してる。そっちはティナがやった」

「ふーん……あ、カイト。こっちの端子接続オッケー」

「あいよ」


 カイトはモニターの背面の端子に灯里が取り付けたケーブルの逆の端子を取り付ける。と言っても今は起動しないし、組み立ては天桜学園での作業になる。今はきちんとケーブルが取り付けられるかを確認するだけだった。


「よし。問題無し。修繕も……問題なし」


 カイトは一度モニターを電源に接続し、起動を確認。映像に乱れが無い事を確認して電源を落とす。これで全ての部品が完成した事になる。後は、ティナが作っているブラックボックスとスカサハが地球で作ったリンクシステムを取り付けるだけだ。そうして、全ての部品の作製を終わらせたカイトは次いで移送の為の梱包作業に取り掛かる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1565話『地球からのメッセージ』

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