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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1563話 地球からのメッセージ ――眼帯――

 カイトの使い魔の一人である龍族の鈴仙。そんな彼女の異母兄である事が発覚したミカヤとの少しの昔話の後、流石にこの服で居たくないとのたまった鈴仙が消えた事で、カイトとミカヤの二人は話の軌道修正を行っていた。というわけでミカヤは再びリーシャの診断書に向き直っていた。


「ふむ……そうねぇ。何時も何時も思うのだけど、貴方の魔眼。強力過ぎるわねぇ」

「言わないでくれ。こいつだけは、本当にチートだからな」


 ミカヤは魔具の制作においては天才的だが、同時に魔眼の診断についても優れていた。これについては当然といえば当然だ。魔眼封じを作れるということは、魔眼に詳しくなければ出来ない事だ。

 まぁ、わかりやすく言えば彼は魔眼専門の眼科と言ってよかった。本業からは外れるので診る事はないが、本業で必要なので医師の免許も持っているらしかった。魔眼封じの眼帯等は医療品となる為、製作には医師の免許も必要らしい。


「先天性の中でも更にレア。魂が保有する魔眼。須らく強力かつ、レアリティの高い魔眼ね。しかも魂に紐付けされている所為で、目を抜き取った所で意味がない究極に厄介な魔眼」

「しかも魂に紐づけされてるおかげで譲渡も出来ない、っつーね」


 ミカヤの言葉に続けてカイトが笑う。それに、ミカヤも更に肩を竦めた。


「しかも貴方の場合、魔眼が先天性の物であるにも関わらず先天的に封印されていた類でしょ? 私、そんな症例貴方しか知らないわよ」

「あっははは。オレも知らね。多分、その時々のオレが仕掛けてるんだろうとは思うけどな」


 ミカヤの問いかけにカイトは半ば嘘を吐く。これが先天的に封じられる理由は一つだ。あまりに強力過ぎた為、人類と敵対する魔王が持つと本当に対処不可能なチート化しかねなかったのである。

 昨今異世界転生チート物があるが、彼の場合はラスボスがチートを持つとどうなるか、というのがわかる様になってしまうのである。物語ならまだしも、現実にそんな事が起きてはたまったものではなかった。


「まぁ、良いわ。どうせ今は発動しない状態でしょ? その程度の魔眼封じで一時的な抑制が出来ているぐらいだし。一度外して頂戴。見ないと何も言えないわ。貴方達は一旦下がっておきなさい。暴走は抑えられていると言っても、やはり危ないわ」

「わかった」

「「「わかりました」」」


 ミカヤの要請を受けて、カイトは秘書達が部屋から出ていった後に覆っていた布を外す。そうして、真紅の眼が露わになった。


「相変わらず何がなんだかわからない魔眼ねぇ。こんな形式の術式、見たこと無いわ」

「そりゃ、オレ以外には使い手が居ないからな。レアリティ最高は伊達じゃねぇよ」

「なんだっけ? 前暴走した時はランクS級の魔物の群れが消し飛んだんだっけ?」

「何の話だよ……」

「あれ? 貴方じゃなかったかしら」


 ミカヤはカイトの魔眼を自ら調整したメガネを掛けて覗き込みながら、他愛もない雑談を行っていく。が、そんな彼の目は非常に真剣で、真面目に診断している様子だった。


「なるほど。確かにこれは私も見たことのない残滓があるわね。どこかは知らないけれど、魔眼のスイッチに当たる部分に何かが噛んでるわね。これがスイッチを押しっぱにしてる、という所かしら。もう良いわよ」

「あいよ」


 ミカヤの承諾を得て、カイトは魔眼封じの布で右目を覆い隠す。


「まぁ、リーシャの見立て通り、下手な事はせずに自然経過で治癒するのを待つ方が良いわね。特に貴方の場合、魔眼に未知の部分が多すぎるわ。下手に押し込んで暴発、なんてなる方が怖いわね」

「未知の部分ねぇ……別にオレはわかってるんだが」

「それは貴方は、でしょう。解析させないんだから、こう言うしかないじゃないの。本来なら、それは解析してきちんと対処する方が良いのよ。後世の為にもね」


 ため息混じりのカイトに、ミカヤがため息を吐いた。カイト自身が言っていたが、彼の魔眼は非常に希少性の高い魔眼だ。エネフィア・地球の両世界でカイトと同一の魔眼を持つ者は、誰一人として存在していない。歴史上にも存在していない。それ故彼の魔眼の詳細は分からず、名前は無いという状況だった。カイトが解析を避けているからだ。


「良いんだよ、こいつは解析しないで。どうせオレ以外に持つ者は現れない。解析して擬似的にこいつと同じ力が出来る方が面倒事が多い。まぁ、それに飯のタネを人に教えるバカも居るまいよ」

「まぁ、貴方の場合はそれがあるから、仕方がない側面があるのだけどもね」


 カイトはどうしても戦う者だ。それを鑑みた場合、下手に彼の力が解析されるというのは皇国からしても有り難くない。とはいえ、魔眼を解析しようとする者が居ても面倒だ。なのでカイトは皇国にもこの魔眼については――公的には――秘密にしていたのであった。


「で、今はどうなの?」

「ん? こいつの現状か?」

「そう。むず痒い、とか疼く、とか」

「そういう事は無いな。目を閉じておけば視える事もない。まぁ、開けば眼帯もほとんど無意味になるがな」


 ミカヤの問診に対して、カイトは素直に所感を語る。一応意識的に魔眼の発動を封じてはいるが、起動している事は起動している。更には彼の魔眼が強力である事も相まって、魔眼封じの布を無意味にするぐらいの力は発動していた。


「どの程度視える?」

「魔術的な防御が効く分、素っ裸には見えないぐらいか。暴走の強度としては弱い」

「なら、前と同じぐらいという所ね。封印の強度は以前と同じ程度にしておきましょう」


 さらさらさら、とミカヤはメモにカイトの所感を書き留める。兎にも角にもカイトの状態を確認しない事にはどうにも出来ない。そしてリーシャの診断は言ってしまえば外科医の診断。眼科医の診断とはまた別だ。


「うん。こんなもので良いでしょう。今回は災難だったわね」

「そう言って貰えれば助かる」


 ミカヤもカイトの話を聞く限り、今回は不運だったとしか言い様がない。戦いなのだ。こういうことは得てして起こり得た。


「で、どれぐらいで眼帯はできそうだ?」

「そうねぇ……私も可能ならこれを急ぎでやりたいのだけど……流石にこの作製に掛り切りになるわけにもいかないのよねぇ……」


 カイトの問いかけにミカヤは現在の自分の状況を思い出す。やはり彼もデザイナーやオーナーとして動いている以上、本来はカイトの予定を突発で入れる方が可怪しいのだ。

 とはいえ、そこらは貴族制度があるこの世の中の利点と言える。大半の相手より領主であるカイトが優先されるのだ。しかもそれが身の安全に関わるとなれば、誰も文句は言えなかった。が、ここで面倒なのがカイトが公職に復帰していない事だ。


「何か急がないとダメな理由ある? 一週間ぐらい見繕いたいんだけど……今の会議は良いけど、この後は各地の店長を集めた店長会議があるの。そちらは私が出ない事にはどうにもねぇ」

「んー……まぁ、直近三日に急ぎはない。が、四日後に皇帝陛下と謁見せにゃならん。これはオレが出にゃどうしようもない話でな。代理は立てられんし、陛下の予定があるから延期は出来ん。移動は転移術でなんとかする。四日目の朝に出来ていれば問題無い」

「あらら……それは急ぎねぇ。まぁ、貴方の物は慣れているからそこまで時間は掛からないのだけど……」


 カイトからの報告にミカヤがさてどうしたものか、と苦笑する。とはいえ、ここら秘書が居るわけで、それならそれで予定を調整させるだけだ。というわけで、彼は手を鳴らして秘書達を呼び戻す。


「この三日、どこかに時間を空けて頂戴。詳細は後で報告して。この子、ちょっとした事情で皇帝陛下の前に行かないとダメらしいのよ」

「わかりました。その予定で調整させて頂きます……お時間は?」

「三時間もあれば十分終わらせられるわ。この子、常連だもの。慣れてるわ。お願いね」

「わかりました。即座に調整を行います」


 ミカヤは予定の調整を秘書に任せる事にして、一つ頷く。


「すまん、頼む」

「良いのよ。お代金はきちんと頂くもの」

「わかってるよ。今回も今回で特急料金割増しとく」

「流石。お金持ちは違うわね」


 何時もの事と言えば何時もの事なので、ミカヤもカイトからの支払いが滞る事がない事は分かっていた。なので一つ頷くだけだ。


「ああ、そうだ。振込は色々理由があるから、冒険部経由で支払わせる」

「色々……ああ、そう言えばさっきフランクール家とマクシミリアン家から助成金が出るとか言ってたかしら」

「そういう事。なのでそちらからもまた使者が来るが……まぁ、そっち任せた」

「大変ね、隠れて行動するのも」

「まだ楽さ」


 ミカヤの慰めに対して、カイトはどこか苦笑気味に笑うだけだ。まだ勇者カイトとして世界各地で知られていた頃より、冒険部の長カイトの知名度は随分と落ちる。故に色々と動きやすい事は動きやすかった。と、そんな所でカイトは立ち上がった。


「あら、もう帰るの?」

「会議、あるんだろ? 割り込んで悪かったな」

「良いわよ。こっちが本業だものね」

「あはは……ま、また酒でも飲みに行くか。奥さんにもよろしくな。じゃな」

「じゃねー」


 カイトは気軽に手を振って自身の眼帯の素案を考え始めたミカヤを背に、事務所を後にする。そうして秘書の一人に案内されて、裏口から外に出る事にするのだった。




 カイトがミカヤの所を後にして少し。彼は冒険部のギルドホームに帰っていた。と、そこではシロエが手紙や届いた封筒の整理を行っていた。冒険部は母体が母体という事もあり、様々な荷が届けられる。仕分けも一苦労だった。


「あ、マスター。お帰りですか?」

「ああ。丁度な。後は出来上がりを待つだけだ……何か書類は届いてるか?」

「いえ、特には……あ、そうだ。ソラさんからの手紙は届いてますよー」

「そうか。なら、それだけは受け取っておこう」


 カイトはシロエより手紙を受け取ると、それを手に執務室へと戻る事にする。


「由利、ソラからの手紙。帰った所で丁度夕方の宅配で来た手紙を整理しててな。ついでに受け取っておいた。中から報告書を抜いておいてくれ」

「あ、ありがとー……よいしょ」


 カイトからソラからの封筒を受け取ると、由利はそれから自身とナナミ宛の分を抜き取ってカイトへと提出する。そうしてそれを受け取って、カイトは自身への報告を読む事にした。


「ふ、む……」


 やはりそろそろ一ヶ月にもなろうという頃合いだ。流行り病の対処を隠れ蓑に進めていた不正の摘発についてはなんとかなったらしい。今は突発の事で混乱する情勢に対処するべく、ブロンザイトが一時的に執政官の代理を務めているそうだ。

 後は予後を少し見届けて代理の役人がやってきたのを見届けて、また別の所へ旅するとの事だった。それが終わった頃に、ソラも帰還する見込みだった。


「……とりあえず作戦の第一段階は終了か……ああ、オレだ。ラグナ連邦の大使に連絡を」


 カイトはマクダウェル家に連絡を入れると、即座にラグナ連邦の大使へと連絡を入れる事にする。ソラはまだ知らされていないが、ブロンザイトが代理を務めているのはその更に先を見据えての事だ。一時的に彼に軍の統括権限を与える為で、この悪徳役人の裏に潜んでいる者達をそのまま一気に摘発するのである。


『はい、ルジュヌです』

「ああ、カインです。お久しぶりです」

『ああ、カインさん。例の件ですか?』

「ええ。こちらにたった今、ブロンザイト殿の弟子より連絡が入りまして。例の件が進んでいる、という事でご連絡を」

『そうでしたか。こちらには今朝方連絡が届きまして……ご連絡を入れようとしたのですが、急なご用事でご不在と』


 今回の事はそもそもラグナ連邦ともきちんと話し合った上で行われている事だ。なので代理についてもきちんと政府の公認で行われており、この大使が一時的にラグナ連邦の代理人としてブロンザイトとの間で話をしていた。カイトはそのブロンザイトの補佐をしているマクダウェル家の代理人というわけだ。


『わかりました。では、例の物資についても即座に入れられる様に手配致します』

「お願いします。こちらは今日中に搬送が終わる様に手配致します」

『ありがとうございます。では、次は数日後という所ですかね』

「そうですね。全てが上手く行けば……いえ、上手く行くでしょう。では、数日後」


 幾つかの話し合いの後、カイトとラグナ連邦の大使との間でわかる者にのみわかる話し合いが終わる。そうして更にブロンザイトの補佐をするべく更に手配を行い、カイトは深く椅子に腰掛けた。


「……この手紙が出されたのが二日前……まだ、か」


 おそらくソラは驚くだろうな。この数日後に待ち受けているさらなる大捕物を想像して、カイトは少し楽しげに笑う。ここら、流石は賢者ブロンザイトという所で、弟子にも詳細は教えていない。

 気付けば良し。気付かぬのなら後で教えてやる、というのが彼のやり方らしかった。と、そんな事に笑ったカイトだが、一転して顔に僅かな憂慮を浮かべ、ブロンザイトから預かったという箱を開いた。


「……大丈夫、か」


 箱の中を見たカイトは安堵のため息を吐いて、一つ頷いた。この中身は冒険部の誰にも教えていない。ティナとユリィのみが知る所だ。その時が来れば、教える。そう告げるだけだった。


「頑張れよ、ソラ。賢者がこの縁を良いと考えた。必ず、お前が得られる物があるはずだ」


 箱を閉じ、カイトは最後に遠くの友人へと激励を送る。それが風に乗ってソラへと届いたのかは、誰にもわからない事であった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1564話『地球からのメッセージ』

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