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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1561話 地球からのメッセージ ――眼帯――

 盗賊団により盗まれた天桜学園の物資。その奪還の為にフランクール伯爵領にて盗賊団の討伐戦に参加したカイトであるが、盗賊団の討伐については簡単に終わったもののその討伐戦の最中に盗賊を裏切った召喚術師の召喚した異形の召喚獣により、魔眼の暴走という手傷を負わされる事となっていた。

 そんな彼はマクダウェルに帰還すると、リーシャの診断を受けて魔眼封じの眼帯を作製してもらうべく専門家の所へと向かう事になっていた。


「さて……」


 討伐戦を終えてマクスウェルに帰還した翌日。カイトはティナに後事を託すと、一人本来の姿に戻ってマクスウェルの街に出ていた。専門家、と言っても彼が頼る専門家だ。彼の正体を知る者の一人で、腕利きだった。


「……まぁ、腕は確かだしセンスは抜群だし……でもなぁ……あいつ何時もハイテンションなんだよなぁ……」


 マクスウェルの街を歩きながら、カイトはため息混じりに今回会いに行く相手の事を思い出す。彼の目の暴走は実は今回が初めての事ではない。昔から年に何度かは今回のように戦闘の影響で暴走していた。

 この眼帯を作る者とは部隊結成前からの付き合いで、実のところリーシャがその専門家を知ったのもカイトを介しての事だった。地球にも幾つか持ち帰って万が一に備えており、今回は久しぶりにお世話になる事になったのだった。


「えっと……そう言えば、あいつの店に行くのは久しぶりか……どこだっけ……」


 よく考えれば帰還後は一度も店には行っていなかったかも。カイトは帰還して以降にここまで酷い自身の魔眼の暴走が無かった事から、それを思い出す。

 と言っても勿論、向こうと会っていないわけではない。西町の酒場の常連――と言ってもバーの運営をしている時だが――でもある彼とは時折顔を合わせており、今でもマクスウェル各所のバーで時折顔をあわせて月に数回は飲み交わしている。時には向こうが冒険部のバーに来て飲む事もある。逆もまた然り。気の合う友人と言っても良かった。


「確か北町と東町の境目、って言ってたな……」


 カイトは記憶を頼りに、とりあえず北町と東町の境目にあるファッション街を目指す事にする。店の名前等は聞いていたが、詳しい話は聞いていない。カイト向けの商品を卸している店ではなかったからだ。


「えーっと……やべ。完全にお上りさん状態だ……」


 東町は艶やかな街。北町は高級住宅街だ。その境目には多種多様なファッションブランドが軒を連ねる一種の専門店街が出来上がっていた。更にはそのファッションブランド目当ての人向けの飲食店もあり、地球のショッピングモールに似た区画が出来上がっていた。

 そこで周囲をキョロキョロと見回しているのだ。完全に不慣れな都会で道に迷った田舎者である。とはいえ、実際に不慣れなのだから仕方がない。幾ら街の統治者だろうと、帰還してまだ一年も経過していないこの巨大な都市の全てを把握出来るわけがなかった。


「こういう場合は……あった。すいませーん」

「はい、如何なさいました?」


 こういうショッピングモールだ。であれば必然としてインフォメーションセンターが備わっていた。というより、このショッピングモールの素案を考えたのはカイト自身だ。

 故に設けさせていたし、今ではエネフィアにおいてはこのショッピングモールが全てのモデルケースになっている。なのでどのショッピングモールにもインフォメーションセンターは備わっていた。というわけで、困ったらそこに行くのが一番と判断したのであった。


「ミカヤ・ララツ氏の店はどこでしょうか?」

「ミカヤ・ララツ? はぁ……それでしたらここの道を真っ直ぐ行って、すぐの所です。ララツ氏の写真が店前に飾ってありますので、すぐに分かると思いますよ」


 カイトの問いかけた名はそれだけでインフォメーションセンターの受付が理解する程だった。が、それ故にこそ、この受付の女性は困惑気味だった。というわけで、彼女は困惑気味に告げるか告げまいか悩んでいた。


「ですが、その……えっと……」

「あはは。いえ、その疑問は分かります。医師からの紹介です」

「???」


 笑うカイトの返答はどうやら、受付の女性を更に困惑させるものだったらしい。どうやら時の流れの結果、彼の副業の方があまりに有名に成りすぎて、本業を知らない者まで出てきている様子だった。


「あの、医師からの紹介とは一体……不勉強で申し訳ありません」

「いえ、構いませんよ。デザイナーとしての彼があまりに有名ですからね。オレは彼の本業の方の客です」

「ミカヤさんの本業?」


 どうやら受付はあまりの事に思わず素を口にしてしまったらしい。まぁ、彼程の腕利きだ。本来頼むには相応の伝手が必要で、しかもこんな所に店を構えているなぞ誰も思わない。それに対して、副業はあまりに有名過ぎる。そちらでも超一流と言われる程で、故に本業が知られていないのも仕方がなかった。


「彼は魔具制作の専門家ですよ。それも身に着ける類の魔具。ヴィクトル商会も時折依頼しているでしょう? それは彼のその優れた腕を見込んでの事ですよ」

「そ、そうだったのですか……ありがとうございます」


 カイトの言葉に受付の女性が深々と頭を下げる。そうしてその彼女を尻目にカイトは礼を返して教えられた道を歩いていく。そうしてたどり着いた店では、多くのご婦人方でごった返していた。


「……」


 あー、納得。カイトは眼前の状況を見て、インフォメーションセンターの女性が困惑したのに納得してしまう。デザイナーとして有名と来て、女性で溢れかえっているのだ。ここは女性向けブランドの店だった。

 しかも大量生産品ではなく、大半がきちんと一からデザインされているそれなりには値の張る物ばかり。学生らしい若者も居るが、大半が社会人できちんとファッションにこだわりがあるだろう者しか見受けられなかった。


「……ここに入らないとダメなのか……皐月でも連れてこればよかったか……」


 そう思うと憂鬱だ。カイトはこの女性しか居ないテナントを見て、僅かな気後れを抱く。まだ弥生や最低でも皐月と一緒なら平然とカップルを偽装して入れるが、ここに男一人で入るのは中々に勇気が要った。


「……しゃーない。入ろう」


 とはいえ、このままここに立ち止まって居るわけにもいかない。そもそもすでにミカヤというらしいデザイナーのブランドを求めて来店する女性達の視線を一身に集めている。そして彼に頼まない事には魔眼を封ずる事も出来ないのだ。諦めるしかない。


「……」


 完全に女性向けの衣服しか取り扱わない店に明らかに冒険者らしい男が来店したのだ。カイトが入店するなり、一斉に先程よりはるかに多くの耳目を集める。

 しかも明らかに好意的ではない視線ばかりだ。当然だ。ここは女性向けの下着も取り扱っており、そんな所に彼女連れでもない男が入って不審に思われないわけがない。客層を考えても、冒険者が最も無縁な場所と言って過言ではなかった。


「え、えーっと……失礼」

「はい、どうされました?」


 そんな店内の雰囲気に気圧されながらも、カイトは覚悟を決めて店員の一人に声を掛ける。一方の店員は態度には出ていなかったが、非常に胡乱げかつ警戒している様子だった。


「ミカヤ……ララツ氏に会いに来た」

「オーナーに?」

「ああ。話は通っている筈だ。アポは取ってる……常連のカイトが来た、と言えばすぐに分かるだろう」

「はぁ……」


 訝しげに首を傾げた女性店員は警戒している様子だったが、流石にオーナーへの客となっては確認しないわけにはいかなかったらしい。ヘッドセットを使って事務所へ確認を取ってくれた。


「ふぅ……」


 これでなんとかなったか。向けられる視線に耐えながら、取り敢えずカイトは胸を撫で下ろす。が、その後の展開は彼の想定していないものだった。


「……申し訳ありません。本当にアポイントを取っているのですか?」

「は?」


 警戒を更に強めた女性店員の問いかけに、カイトは思わず目を丸くする。彼の治療だ。それはマクダウェル領内では全てにおいて優先される。

 更に言うとミカヤ本人から公的にカイトならノーアポオッケーという言質も貰っている為、本来はアポイント無しでも会える立場だ。領主という立場を鑑みても些か顔を顰められても、状況を鑑みればノーアポでも問題にはならない。


「い、いや。アポイントはきちんと取っている筈なんだが……」

「……少々、確認させて頂きます」


 どうやらカイトの表情から、この女性店員も彼が嘘を言っているとは思えなかったらしい。再度確認を取ってくれる事になった。が、結果はやはりアポが取られていない、という事だ。


「……むぅ」

「……あの、嘘を言ってるわけじゃない……ですよね?」

「ああ……仕方がない。何か会議とか入ってないと良いんだが……」


 女性店員の問いかけに答えながら、カイトは仕方がなしにスマホ型の通信機を取り出した。このままここで立ち止まってもにっちもさっちもいかない。なら、当人に直接話をしに行くだけだろう。


「あの、何を……」

「すまん。ちょっとまってくれ……あ、出た。おーい、ミカヤー」

『あらぁ! カイトじゃないの! どうしたのよ、こんな時間に。まさかまた誰かに振り回されたとかで飲みに行くぜ、かしら』


 数度のコール音の後、スマホから男性の陽気な声が響いてくる。口調は女性的だが、声はしっかりと男性だ。が、その声音にはどこか艷というものがあり、女性的でもあった。


「違う違う……というかその様子ならお前にも話通ってないのか」

『? どういう事?』

「はぁ……本業で仕事頼みに来た。リーシャの命令もとい診断書もあり。今、お前の店のレジ前」

『は? え、ちょっと待って。すぐ行くわ』


 どうやら案の定、ミカヤなる人物には話が通っていなかったらしい。かなり慌てた様子でドタバタと動く音がして、通話が途切れた。そんな音を聞いて、カイトが深くため息を吐いた。


「はぁ……」

「あのー……」

「ああ、ここで待つ様に言われた。気にしないでくれ」

「はぁ……」


 一体この冒険者は何者なんだろう。カイトの応対に当たっていた女性店員が困惑気味に一つ頷いた。そしてそれと共に、レジに設置されていた内線が鳴って、また別の店員が応対する。


「……オーナーがすぐに来るって。その人に絶対に無礼な事とか言わないで、って」

「え? じゃあ今の電話って……」

「みたい……じゃ」

「うん」


 どうやら事務所から指示が飛んだらしい。店員達が小声で少し話し合い、先程の店員が再びカイトの所へとやってきた。


「おまたせしました。オーナーがすぐに参りますので、もうしばらくお待ち下さい」

「ああ」


 これで少なくとも店員から警戒感満載の視線を向けられる事はない。それにカイトは安堵して、少し待つ事にする。そうして、数分。事務所に繋がる扉が開いて、場がざわめいた。


「ララツさんだ……」

「ミカヤ様だ……」

「本物……? 嘘!?」


 周囲のざわめきに満ちる黄色い声に、カイトは僅かに苦笑する。そうして現れたのは、一人の男性。背丈はカイトより少し高いぐらい。身体は彫刻の様に鍛えられ整っている。

 地球で言えばモデル体型と言って良い。顔立ちはかっこいいや可愛いというより、綺麗というのが一番適切だ。全てのパーツが黄金率にでも基づいているのかという程に整っていた。

 そんな彼は大きく胸元の空いたピッチリとした服を着こなしていて、衣服はモデルでなければ似合わない物だ。現に彼は男性向けブランドでモデルも兼任している。そんな彼はカイトの顔を見るなり、破顔した。


「あらぁ! 本当にカイトじゃない! って、貴方またやったの?」

「また言うなまた。やりたくてやったわけじゃねぇよ」


 カイトの右目に巻きつけられた魔封じの布を見て楽しげに笑うミカヤに、カイトは心底盛大にため息を吐いた。と、ミカヤは秘書も連れずに慌ててやってきた自身に困惑気味な女性店員達に笑ってわかりやすくカイトの立場を説明してやった。


「あぁ、ほら。この子が噂の弥生ちゃんと皐月ちゃんの彼氏」

「おいこら、皐月を入れるな。お前も噂の出処の一つか」

「あら、お似合いよー!」

「「「あー」」」


 あのお得意様の。カイトとじゃれ合うミカヤの言葉で、女性店員達はカイトの大凡を理解したらしい。ミカヤが冒険部のギルドホームに来た事はあるわけで、弥生らとも知り合いだった。

 またその縁で彼女と皐月はこの店にも足繁く通っており、それ故に女性店員達も弥生と皐月とは知り合いだったのである。こちらの世界では世界的なデザイナーとして知られているミカヤから、色々と教わっているらしかった。と、そんなミカヤは少しのじゃれ合いを終わらせると一転して苦笑した。


「にしても、何時も思うけど貴方はアポなしオッケーって言ってるのに、アポ取るなんて律儀ねー」

「親しき仲にも礼儀あり。一応はな。それに仕事頼みたいなら、アポの一つも取るだろ。まぁ、急になるのは悪いとは思うけどな」

「どーせ、私に取っても意味無いと思うけど……急は仕方がないわよ。本業の客は大半が急ぎばかり。副業優先しちゃ、本業何も出来なくなっちゃうわ。秘書の子には泣かれちゃうのだけどもね」


 カイトの謝罪にミカヤは気軽にウィンクして笑う。何度か言及されていたが、彼の本業は魔具の作製だ。デザイナーやモデルが副業なのである。単に魔具の作製の練習を兼ねている、というだけだ。そうして、カイトは彼に案内されてひとまず事務所へと通される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1562話『地球からのメッセージ』

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