第1549話 地球からのメッセージ ――寄り道――
地脈の上にて『時空石』らしき物質の入手に成功したカイト。彼は翌日の朝に『第三番洞窟』の前に設置された秘密基地を後にすると、マクスウェルに向けて帰還の途に着いていた。そんな道中、ティナより連絡が入りオーアの助力を借りてバナジウムを手に入れるべく動いていた瞬達にトラブルが起きた事を知る。というわけで、彼はその支援を行うべく僅かに寄り道をする事にしていた。
「というわけで、少し寄り道だ」
「ふーん」
速度を緩めたバイクの上、カイトはユリィへと森へ向かう事情を説明する。今回必要なのは木材。そして自分達のすぐ側には森がある。この程度の寄り道は寄り道にもならないだろう。というわけで、すぐに二人は森にたどり着いた。
「で、どの程度やられたって?」
「全損。大破轟沈レベル」
「それ、もう修繕の領域超えてない……?」
「車軸とかの金属パーツは生きてるんだとよ。後は幌とか」
ユリィのツッコミにカイトは僅かに困った様に笑いながら肩を竦める。聞いた時は彼自身笑ったものであるが、一応金属系のパーツは何とかなっているらしい。とはいえ、そもそも鉱山に行っているのでそちらにもし何かがあっても問題はなかった。残念な事に鉱山ではどうにもならない方が壊れたらしかった。
「殆ど意味ないね」
「まな。ま、そこらは別になんとでもなるといえばなんとでもなるが……」
「ついでだから、と」
「そ、ついでだから……こいつらみたいにな」
カイトはユリィの言葉に応じながら、小型のナイフを取り出した。どうやら森に入ると同時に魔物の群れに遭遇してしまったらしい。彼らの前には狼型の魔物の群れが居て、こちらを威嚇していた。
「ユリィ」
「みなまで言うな。何年相棒やってると思ってんのさ」
「オーライ」
ユリィの言葉にカイトは笑うと、そのまま彼女をその場に残して特に気にせず先に進む。見つかった以上、そして木を伐採せねばならない以上、戦わずに事を済ませる事は不可能だ。ということで僅かに先に進んだ所で、一番近くに居た狼型の魔物が彼へと飛びかかった。
「っと」
飛びかかってきた狼型の魔物の牙に向けて、カイトはナイフを突き出して防御する。そんな彼の背後から、また別の一体が襲いかかった。
「おらよ!」
背後から襲いかかってきた一体に対して、カイトは空いていた左手を背後に回して魔力の放出で迎撃する。そうして更に目の前の一体に対しては、力を込める事で大きく吹き飛ばした。
「さて……」
前後から襲いかかってきた二体を手早く片付けたカイトは、二体目のすぐ後に左右から攻撃を仕掛けようとした二体の狼型の魔物をその気配だけでしっかりと確認する。
そうして、彼は僅かに先行していた左側の魔物に向けて裏拳を叩き込み、その勢いを利用して背後になったもう一体へと後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「おーい、まだかー?」
「もうちょっと待ってどうぞー」
「あいよー」
四体目を倒したタイミングで問いかけたカイトに、ユリィは気軽に応ずる。何をしているか、というのはカイトはわかっている。というわけで、彼は特に気にする事もなく次の狼型の魔物に対応する事にした。
「ふんっ!」
前後左右四体同時に襲いかかってきた狼型の魔物達に対して、カイトは一つ気合を入れて魔力を放出して吹き飛ばす。森の中でなければ魔力の放出で消滅させても良かったが、木々を大きく傷付ける可能性があったので単に勢いよく吹き飛ばしただけだ。と、そのタイミングでユリィが声を掛けた。
「終わったよー」
「あいよー」
軽いユリィに対して、カイトは杖を取り出してこちらもまた軽い感じで地面を軽く小突いた。すると地面から丁度狼型の魔物に直撃する様に魔力の閃光が迸り、狼型の魔物達を完全に消し飛ばした。
カイトは自身を囮として狼型の魔物を集めると、ユリィに頼んで魔糸で拘束してもらっていたのである。下手に動き回られると木々――主に根っこ――を傷付ける。彼は魔術は得意ではない――ティナら専門職を基準としてだが――のだ。なので木々に傷無く片付けるべく、動かない様にしたのである。このやり方だと何体か仕留めきれないが、森の方が大事なので諦めるしかなかった。
「というわけで、木々を伐採する必要があるのですが」
「カイトだと楽だよねー。のこぎり要らず」
「まな」
大型化したユリィの言葉に応じながら、カイトは手頃な木を見付けると腰だめに刀を構える。流石に魔力ありでの居合斬りだ。この程度の木なら真っ二つに出来て当然だった。というわけで、彼はあっという間に一本目の木を切り倒す。
「はい、一本目」
「じゃあ、こっちで枝とか全部落としちゃうねー」
「おーう、頼むわー」
木を倒しただけではまだ枝や葉が着いたままだ。更には中には虫も住んでいる事だろう。そういった自然に生きる生き物は自然に還すつもりだった。というわけで、その作業を彼女に任せる間カイトは更に必要な本数を切り落とす事にして、およそ三十分程度で必要本数を回収する事になるのだった。
さて、カイトとユリィが瞬達遠征隊の荷馬車の修繕に必要な木材を回収しておよそ半日。おおよそ夕刻になった頃合いだ。二人は何とか瞬らがやって来ていた鉱山付近にまでたどり着いていた。
「さて……ここらへんの筈なんだが……こちらカイト。先輩。聞こえていれば応答してくれ」
『……カイトか?』
「ああ。繋がったか。少なくともこれが繋がるぐらいの距離ではあるか」
カイトの求めに応じた瞬の声を聞いて、カイトは短距離で使う通信機の範囲内に彼らが居る事を把握する。今彼が使ったのは、各通信機同士をリンクさせて通信を行う通信機だ。敢えて言えば手持ち式の無線に近い。半径数キロの範囲内に彼らは居るのだろう。
「今近くに居る。そちらはどこに居る?」
『こっちは……すまん。目印になりそうな物は特に見当たらない。が、少なくともお前の姿は見えないから、近くに居るとは思えん。結界を展開して……るがお前ならわかるか』
「まぁな……さて、どうするかね」
カイトは合流の為にどうするべきかを考える。ここは荒野。適当に動き回れば遠征隊を見付けられなくもないだろうが、手間は手間だ。何か手を考えた方が良いだろう。
「使い魔でも出すか。あ、ルゥに頼めば早いか」
「オーアに頼めばー? どうせハンマー持ってきてるでしょ?」
「あー。それが一番か。先輩。オーアに代わってくれ」
『わかった』
『なんだー?』
カイトの依頼を受けて、通信を受けていた相手がオーアへと代わる。それに、カイトは手っ取り早い方法を告げた。
「近くまで来てな。が、場所が分かりそうにない。で、ハンマーでかくして」
『ああ、そういうことね。あいよー』
カイトの指示を受けて、オーアが結界の外に出る。そうして、彼女が何時ものスレッジハンマーを巨大化させていく。
「おー。見えた見えた」
『こっちも見えたよ。どうやら少し遠かったみたいだね』
「らしいな」
カイトは魔力で視力をブーストしながら、スレッジハンマーの柄の上で手を振るオーアに対して手を振り返す。そうして、それを目印にしてカイトは再びバイクを走らせて、彼女と合流した。
「おーう。サンキュー」
「あいよー……っととと。あ、これちょっと重心崩れた!」
どうやら小型化させていく最中にバランスを崩したらしい。ハンマーが轟音を上げて地面に倒れ込んだ。それにカイトは僅かに肩を竦めながら、飛び降りていたオーアを抱きとめる。
「おいおい……あぶねぇな」
「いやー、ごめんごめん。やっぱでかいと扱い難しくてさー」
「ま、慣れてるけどな……」
照れくさそうに頭を掻くオーアを下ろしながら、カイトはため息を吐いて倒れた巨大なハンマーを見る。自身の十倍はあろうかという巨大なハンマーだ。こんなものに殴られれば、大型魔導鎧であれ巨人種であれひとたまりもないだろう。
「相変わらずでかいな、お前のハンマー」
「これぐらい無いと大型魔導鎧の鍛錬とか出来なくてさー」
「それを生身でやるの、お前ぐらいなもんだろ」
「親父も爺さんもやってたよ。ウチの伝統」
カイトの言葉にオーアはスレッジハンマーを小型化させて背負いながら笑う。ここら、どうしても種族として見ても小柄な彼女の体躯がある。大型化するとどうしても重心が取りにくいらしい。といっても、これでも三百年前カイトが出会った当時よりは遥かにマシだった。
なお、彼女の父と祖父はドワーフとして見ても大柄な体躯だったので、大型化しても普通に振るえるというあり得ない芸当を披露していたそうである。そんな話をしながら、カイトは結界の中へと入る。
「ああ、カイト」
「先輩……全員、無事か」
「ああ」
カイトは瞬の返答を聞きながら、ここに遠征に来ていた面子の様子を見る。やはり冒険部でも主力をここに割り振っていたからか、全体的に怪我を負っている様子はなかった。と、そんな風に全員の様子を見て回ったからだろう。ルーファウスが目を丸くしていた事に気が付いた。
「ん? どうした?」
「い、いや……いや、あの先ほどの巨大なハンマーを見て、な」
「ああ、あれか」
「ん? なんだい。何か不思議か?」
驚きを浮かべるルーファウスに対して、オーアが特に疑問も無く問いかける。それに、ルーファウスがおずおずという具合で問いかけた。
「いや……あの様に大きくて使えるのか、と……いや、先程大型化しているのを見ているので決して疑っているわけではないが……」
「そりゃ私のだしね。実際、細かい敵を倒すのには向かないけど、でかい敵倒すにはあれが結構使い勝手よくてさー」
「そりゃそうだろ……」
あんな大きなハンマーだ。そもそもまともに振るえるかどうかさえ定かではない。いや、そんな事を言ってしまえば一太刀で一千の兵士を吹き飛ばすという対軍刀とも言われる大剣を使う人物が居る以上、言うべきではないかもしれない。少なくともあれに比べれば、あのスレッジハンマーはまだ常識的だろう。と、そんな事を思って気を取り直したカイトは改めて状況を確認する。
「ま、そりゃどうでも良いさ。で、どれがどうなったって?」
「あ、ああ……っと」
ルーファウスはカイトの言葉を聞いて、座っていた何かから腰を上げる。そしてそれに合わせたかの様に、他の遠征隊の面子も腰を上げた。
「……こりゃひどい」
どうやら遠征隊が腰掛けていたのが、荷馬車の残骸だったらしい。見るも無惨というのが適切な言葉だった。そんな様子を見て思わず苦笑いを浮かべたカイトに、オーアが教えてくれた。
「上でバトってる時にワーム種に襲われちまってね。どうにも寝てる所にあたしらが上に通りかかっちまったらしい。流石に寝てたら幾ら何でも気付けないからねぇ」
「あー……あの大穴はそれかぁ……」
「そういう事。あ、遺骸はもう魔素化しちまってるから無いよ」
「ふーん……」
納得した様に遠征隊が野営地として使っている場所のすぐ側にあった大穴にカイトは納得する。ユリィが興味深げに覗き込んでいたので彼も気が付いていたが、どうやらそういう事情らしい。
なお、魔物そのものについてはオーアがもぐら叩きの様にして一発で叩きのめした――先程ルーファウスが見たと言ったのはこれ――らしい。戦闘についても急な出現に驚いた地竜を宥める方が難しかった、との事でさほど苦労はしなかったそうだ。
「で、大将。木材は?」
「持ってきてるよ」
オーアの問いかけを受けて、カイトは確保しておいた木材を異空間から取り出した。なお、何時もは総大将と言っているのにここで大将と言っていたのは、ルーファウスら知らない面子が居るからだ。
あまり変わった言い方だと彼女ら側が言いにくいという事で、基本的に総大将と言っている面子は公では大将と言っていた。こうすれば冒険部の長だから大将と呼んでいるだろう、という言い訳が通用するとの事だった。
「あんま、木工は得意じゃないんだがねー」
「やるしかないんだから、やるしかない。ルーファウス。軍で工兵の練習は?」
「学んでいる。っと! い、いや、実はその……あまり手先が得意ではないのであまり信頼しないで貰えると有り難い」
「お、おう」
どうやら相当苦手という所なのだろう。ルーファウスはカイトの問いかけに対して慌てて首を振っていた。それに、カイトが思わず目を丸くしていた。とはいえ、やったことがないよりマシはマシだ。というわけで、カイトは自分とオーア、ルーファウスの三人を中心として荷馬車の修復に取り掛かる事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1550話『地球からのメッセージ』




