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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1548話 地球からのメッセージ ――支援――

 奇しくも二つの場所でほぼ同時に見付かった『時空石』らしき物質。それを確保したカイトとティナはマクスウェルに帰還し、それが『時空石』である事を確認するべく実験を行う事にしていた。そんな実験はカイト主導の下で万全を期して行われる事になっていた。

 というわけで、二日早くカイトよりマクスウェルへと帰還したティナは帰還したその準備を行う傍ら、リルの所を訪れていた。


「あら……見付かったの?」

「はい。と言ってもこれだけ探し回って、あまつさえ時乃様のお力をお借りして二つという所ですが……」


 驚いた様子のリルの問いかけに、ティナは状況を報告する。今回調べるのは『時空石』。時空間に影響を与える存在だ。その試験である以上、最高の研究者の一人にして現状己の師にも近い彼女に支援を申し出るのは不思議の無い事であった。そして、一方のリルにしてみても『時空石』とは興味深い物質だ。快く応じてくれた。


「良いわ。私としても『時空石』は詳しく見たことのない物質だったし……その調査をするというのなら、喜んで手伝ってあげましょう」

「ありがとうございます。明日にはあれが帰還しますので、その際にまた人を遣りましょう」

「いえ、その必要はないわ。どうせ街に彼が入ってくればわかるのだし、ならわざわざ人を待つ必要も無い。こちらから向かわせて頂くわ」


 ティナの申し出に対して、リルは軽く笑ってそう明言する。確かに道理としてはティナの申し出が正しいわけであるが、効率で言えば彼女の申し出の方が遥かに効率的だ。

 なお、どうやって彼女がカイトの帰還を察知するのかと言うと、街の四方にある出入り口には使い魔を配置しているらしかった。それにカイトの帰還を報告させるのである。


「かしこまりました。では、お待ちしております」


 リルの言葉に頷くと、ティナは再び自身の研究室へと戻る事にする。回収したドローンはそこに設置されていた。と言っても、やはり未知の素材をカイトも居ない状況で封を開くつもりはない。なのでまだ魔術的に密閉されたままだった。

 とはいえ、全てがそのままかというとそうでもなく、細長い胴体の半分が開いていた。こちらには回収した『飛空石』のサンプルが入っており、そちらについては別に出した所で問題が無いのですでに取り出していた。と、そんなドローンの前を見て、ティナが呆れ返った。


「……何しとるんじゃ、お主」

「いやー。実は一度やってみたかったのよー。だってカイトに浮かせてー、ってお願いしても駄目ーって言うし」


 ふわふわと浮かびながら灯里が楽しげに一回転する。何度も言われているが、『飛空石』とは重力を低減させる力を持つ。それを媒体に使えば無重力状態を使う事も難しくはない。

 それと同じ事を純粋科学の側面から行っていたのが、彼女である。興味があるのは当然だろうし、そもそも『飛空石』の研究には彼女の助力も受けていた。ティナが呼んでいても不思議はなかった。


「うわわわわ! すっごい! こんななんだー!」


 無重力の状態であるが故、一度回転すれば後はくるくると回転する灯里がその状況を楽しむ。どうやら童心に帰っているらしい。

 なお、実は彼女にも『時空石』の存在は教えている。天桜学園の技術班において総トップとなるのは彼女だ。表向きはティナも彼女の下に入っている。というわけでブラックボックス化される予定のこれについても教えていた。

 更には現状、彼女は半ば<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>技術班一員とも言って良い。カイトも日本においても国家機密に関わっていた彼女になら問題はないだろう、と判断して語っていたのである。そうしておけば、ブラックボックスに何かがあった時にも対処が容易であった事も大きかった。

 と、まぁそんなわけであるが、今の彼女は無重力状態でくるくると回るだけである。というわけで、見事に後頭部を机にぶつけていた。


「あいたぁ! あいたたた……」

「はぁ……お主飛空術は使えんじゃろう。そうなるのが当然じゃ」


 ぶつかった衝撃で地面へと落下した灯里から、ティナは『飛空石』を回収する。それに合わせて灯里が重力に従って地面へと落下した。が、地面への衝突の寸前にティナがコントロールしてゆっくりと地面へと下ろしてやった。


「いやー。楽しいのね、無重力って」

「お主ら血がつながらんでも本当に姉弟じゃのう……」


 笑う灯里を見ながら、ティナはため息を吐く。カイトが飛空術を使いこなした時、こんな風に羽目を外していた事を思い出したらしい。羽目を外す姿はカイトも灯里もそっくりだったとは彼女の言葉である。と、そんな彼女であるがそのまま灯里へと問いかけた。


「で? 何か用事があって来たんじゃろう?」

「あ、うんうん。通信機を開発するのに必要な素材でティナちゃんが出てってる間に集まったののリスト化出来たから持ってきたよー」

「おぉ、そうか。すまんな」


 灯里の指さした机の上を見て、ティナが礼を告げる。カイトもティナも一週間マクスウェルを空けていたが、通信機開発の為に動いていたのは彼らだけではない。その間、冒険部でも素材集めに奔走しており、早い者だともう帰還していたりしていた。


「ふむ……おおよそ七割方帰還しておるか」

「そうね。まぁ、基本的に素材を錬金術っていうチートで集めちゃえるのが楽というか……」

「チート言うな、チート……あれも意外と制限が多いし、困難じゃぞ。錬金術で金を作るのは難しいしのう。いや、そもそも金の錬金は重罪なんで出来んのじゃが」

「それでも地球からすればチートも良い所でしょ」

「ま、そうじゃがのう」


 灯里のツッコミにティナも僅かに苦笑に近い笑いを浮かべながら同意する。やはり地球とエネフィアでは精錬の技術に関しても差がある。例えばチタン合金一つにしても、地球の方が遥かに種類が多い。いくら魔術があるからといっても、物質そのものの物理的特性は変わらない。地球ではその物理的特性をしっかり調べられているからだ。


「ふむ……とりあえずチタンやニッケルは手に入っておるな。これでガワは何とかなろう」

「ガワはね。基本チタン系素材を使ってるらしいし」

「チタンは腐食性とかに優れておるからな。こちらの世界でも手に入るだろう事を考えれば、正しい判断じゃ」


 素材の差がどういう影響を生むか分からない以上、通信機の素材には地球で使われた素材を使うべきと判断されていた。というわけで現状のエネフィアで手に入れられない素材については、錬金術で手に入れる事にしていた。これはスカサハの提案で、彼女が来た時にもその旨はしっかり明言されていた。そのためには、各種の鉱石が必要らしかった。

 まぁ別に鉄程度なら合金にするにしてもインゴットでも問題はないが、多くの金属では合金にする際には鉱石の方が良いらしい。更には炭素の濃度を変えるにしても、鉱石の方が精錬の際に一手間加えるだけで良いのでインゴットに添加するより楽との事であった。と、そんなわけで報告書を見ていたティナであるが、おおよそ重要な素材は集まっていたので満足げに頷いた。


「うむ。後必須なのは……バナジウムぐらいかのう」

「あー……バナジウムは色々と触媒にも使うものね」

「一部にバナジウムの合金を使っておるらしいからのう」


 バナジウム。元素記号はV。原子番号は23。存在としては地球上のどこにでもある物質だそうだが、資源として使えるとなると場所が限られている。調べた所、これはどうやらエネフィアでも同じらしい。

 というわけで現状バナジウムはエネフィアでは殆ど使われておらず、注目もされていなかった。というより、おそらく殆ど知られていないと考えても良い。

 オーアに聞けば流石にこれはドワーフ達も保有していないとの事で、仕方がなく彼女に助力を依頼して似たような鉱石がある洞窟へと向かっていた。これを率いているのが、瞬だった。


「にしても、バナジウム鉱石があって良かったわねー」

「無いと超重質油から精錬せねばならんからのう……油田、マクダウェル領にあることはあるが……採掘はしたくないのう」

「えー。カイトに言って石油王目指そ?」

「べっつにエネフィアで石油を使う意味なぞ殆どあるまい。儲けもでまいよ」


 重要な事はすでに話が終わっている。というわけで、二人は益体もない事を話し合う。と、そんな事を話していると、通信機に着信が入った。


「何じゃー」

『ああ、ティナ。良い所に』

「む? オーアか。どうした?」


 どうやら噂をすれば影が差すという所だったらしい。通信機のモニターに映ったのはオーアの姿だった。


『総大将、まだ戻ってない?』

「カイトか。カイトならまだ戻っとらんぞー」

『うあっちゃー。マジか』


 ティナの問いかけにオーアが苦い顔を浮かべる。どうやら、何か問題が起きていたのだろう。


「なんかあったか?」

『ああ、うん。実は帰還の最中に荷馬車が一台やられちまってね。下からで真っ二つにやられちゃってね。車軸とかの重要なパーツは私が居るから何とかなるんだけど、木材の方の修理厳しくてさ。立ち往生してる、ってわけ』

「む……」


 やはり外だ。往々にしてこういう事は起こり得る。そして厄介だったのは、現在彼女らが居る場所だった。どうやら荒野の中に居るらしく、木材が手に入らないのだ。

 となるとどこかから手に入れるしかないのだが、逆にこちらから送らせる方が早い場合もある。更には場合に応じては飛空艇を出しても良いだろう。どうするかは悩みどころだ。というわけで、ティナは一度モニターに地図を表示させた。


「えっと、今お主らがおるのはマクスウェルから北東300キロ程度の所じゃったな」

『ああ。ここに使われてない鉱山があるからね。そこで見た筈、ってわけだからね』

「そういえば、結果としてはどうじゃったんじゃ?」

『多分、それらしい鉱石は見付かってる。これで良いんだよね?』


 ティナの問いかけを受けて、オーアが赤みがかった鉱石をカメラへと提示する。その形状は六角形に近く、特徴的な見た目と言えた。そしてこれこそがバナジウム鉱石の一つ、褐鉛鉱(かつえんこう)の特徴だった。


「おぉ、多分それじゃ。余も実物は見たことはないが……資料に記されておる形状に一致しておる。褐鉛鉱、バナジン鉛鉱ともバナダイトとも言われる鉱石じゃな」

『こんなのが、ねぇ……精錬しようとした事はあったけど……ま、そりゃどうでも良いか。とりあえずこれを持って帰れば良いんだね?』

「うむ。頼む」

『で、その為にも馬車を何とかしてもらわないと駄目なんだけど』

「それな」


 オーアの指摘で、ティナは改めてどうするかを考え直す。幸いにして褐鉛鉱が見つかったのでバナジウムは何とかなるだろうが、それをマクスウェルに持ち帰って錬金術で精錬しなければ意味がない。その持ち帰りを何とかする必要があった。


「ふむ……」


 荷馬車の素材を表示させ、ティナはどうするかを考える。無論、手っ取り早いのはマクスウェルから天竜の部隊を出して修理用の部材を運ばせる事だ。

 が、それでも今から素材の手配や天竜の出立の準備をしていれば出立は明日になるだろう。場合によっては明後日もあり得る。と、そんな風に色々な資料を見ていた彼女であるが、ふと何かを思いついたらしい。


「む。ここなら今頃……少し待て」

『あいよ』

「カイト。聞こえておるか?」

『ああ、なんだ?』


 どうやらティナは何らかの目的からカイトへと連絡を入れる事にしたらしい。というわけで、連絡を受け取った彼へとティナは現状の問題を報告する。


『なるほどな。それで、オレになんで連絡を?』

「うむ。お主の移動速度を計算して現在位置を推測すると、もう少しで森に差し掛からんか?」

『ああ。今丁度、森の付近だ。横目に見ながら進んでる、って所』

「む。少し予定より早いのう」

『エンカウントが想定より無くてな。予定より少し早い』


 ここらの帰り道についてはどうしても周囲の影響が出てしまうのがエネフィアだ。故にカイトの帰還の予定も少しの差が出ている。どうやら今回はそれが上方修正で良かったという所なのだろう。


「っと、それなら一度森に立ち寄り、修理の木材を幾つか手に入れられんか? それでそのまま進めば、今日の夜にはオーアらの所に辿り着けよう」

『……そうだな。少し寄り道になるが……今のペースだと結局の帰還予定はさほどズレんか』

「うむ。どうせお主が早く帰り着いた所で、試験の用意が整わん。多少遅れた所で問題はない」

『それもそうか。わかった。こっちで一旦オーアと合流する』

「頼む」


 ティナの指摘を聞いて、どうやらカイトもそれで納得したらしい。少し速度を落として森へ向かう事にしたようだ。そうして彼との通信を切って、ティナは再びオーアへと向き直る。


「と、いうわけでカイトが夜には到着しよう」

『そうか。それなら助かるよ。木材が無い事にはどうしようも出来ないからね。いっそ、私が取りに行こうかなー、とか思ってたけど……それならそれで頼むよ』

「うむ。では、そちらも気を付けて帰れ」

『あいよ』


 ひとまずこれで必要な事は終了だ。故にティナはオーアとの通信を終わらせると、再び灯里とともに『時空石』の試験に向けた準備に勤しむ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1549話『地球からのメッセージ』

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