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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1542話 地球からのメッセージ ――地脈の上で――

 地球からもたらされた通信機の設計図。その開発に必要な素材の収集に冒険部が動く傍ら、カイトもまたその一つとなる『時空石』を求めて自分の領地の東側にある『第三番洞窟』と呼ばれる洞窟へとやって来ていた。

 そんな彼は『第三番洞窟』の最奥から繋がる地脈にまで足を伸ばすと、持ってきた準備の大半を地脈の側に設置された休憩地点に置いて二つの鎖と緋緋色金(ヒヒイロカネ)製ピッケル、ティナによって調整された特殊な魔道具を手に休憩地点を後にしていた。


「よし……ユリィ。準備は?」

「おっけー。と言うのは良いんだけど、私が活躍しない方が良いんだけどねー」

「ま、そりゃそうだ。が、万が一が起きるという前提で話を進めるのが、安全管理ってもんだろう」


 ユリィの至極最もな意見に対して、カイトもまた頷いた。一応ユリィを連れてきてはいるものの、今回彼女はカイトが落ちない限りは彼の服の中だ。

 そもそもどう考えても彼女まで大型化して活動出来る様な場所ではないし、浮かんでいてもし万が一彼女が地脈から吹く魔力の風に煽られて地脈に落ちては本末転倒だ。なので落ちない様にカイトの服の中に潜んでいるのが最適だった。


「そだけどねー……で、カイト。きちんと鎖は接続できてる?」

「……ああ。問題無い」


 ユリィの問いかけに、カイトは左右の腰に取り付けた専用のケースをしっかりと確認して頷いた。これの中におよそ30メートルの鎖が収められていた。材質は内部の魔力を漏らさない様な構造で、引火の危険性は極微小だ。内部の空間が僅かに歪んでおり、腰に取り付けられるサイズにも関わらずこれだけの長さの鎖を収められた。この地脈付近で使える数少ない魔道具の一つだった。

 これが外れれば眼の前で流れる魔力の奔流に真っ逆さま。面倒な事になる。というわけで、鎖がしっかりと自身と固定されている事を確認したカイトは右腰に取り付けられた鎖を手に取ると、それへと魔力を通した。


「さて……」


 僅かな光を宿した鎖を手に、カイトは地脈の流れる流路を観察する。地脈の流れている穴の横幅はおよそ一キロ。深さがどれだけかは、カイトにも分からない。

 なお、この横幅や深さは常に一定しているわけではなく、所々で変わっている。ここでは単にこの大きさというだけで、狭い所だとここの半分程度だったり、逆に広ければ数十キロにも及ぶ湖の様な場所もあるらしい。


(鎖の長さはおよそ30メートル。探査機の有効検出距離は100メートル、か)


 長い仕事になりそうだ。元々わかっていた事であるが、カイトは改めてそれを実感する。そうして、彼は右腰に繋がる鎖を天井の手頃な所へ向けて勢いよく放り投げる。


「ここだ」


 鎖の先端に取り付けられた杭が天井に接触する瞬間。カイトは鎖を操って更に勢いを付けて杭を天井へと深々と打ち込んで、杭の内部に仕込まれていた返しを起動させる。


「……よし」


 数度ぐっぐっ、と鎖を引っ張ってしっかりと天井に食い込んでいる事を確認すると、カイトは一つ頷いてユリィへと頷きを送る。


「行くぞ」

「うん」


 カイトの声掛けに合わせ、ユリィがしっかりと彼の服を握りしめる。そうして、彼はゆっくりと崖から飛び降りた。


「……ふぅ」


 やはりこの瞬間が一番緊張するな。僅かに振り子の様にして地脈の真上まで移動したカイトは、外れる事なく自らの体重を支えてくれている事に安堵を滲ませる。

 この瞬間だけは、どうしても二つ目の鎖を使えない。いくら豪胆な彼でも緊張は避けられなかった。とはいえ、ここまでくればひとまずは不注意な動きをしなければ安心は安心だ。故に彼はゆっくりと鎖を登っていく。


「よし」


 地脈の流れる川の天井にまで到達したカイトは、自らが投げた杭の付近へと魔力を通し、構造の状況を確認する。そうして一番しっかりとしている所を見定めると、そこに左腰に取り付けられた鎖の先にある杭を当てて、深く突き刺して外れない様に返しを展開する。これで、どちらかが外れても問題はない。


「とりあえずこれで第一段階終了?」

「とりあえず、な。さて、じゃあ、本格的な調査だ」


 カイトはユリィの問いかけに一つ頷くと、鎖から手を放して宙ぶらりんになる。そうして、鎖を入れているケースとはまた別の所に取り付けた作業用の小物入れの一つから銃の様な魔道具を取り出した。

 地中に埋まっている物を探す為の魔道具を改良したもので、原理的にはソナーと一緒だ。ただ放つのが音波ではなく僅かに時間経過をゆっくりにさせる力のある波動という所だ。

 もし想定通りここに『時空石』があれば、この力に反応してその時の進みが僅かに異なる事になるはずだ。これが加速するのか更に減速するのかは流石にティナにも分からないとの事であったが、少なくとも周囲とは違う反応になる筈だ、との推測であった。


「これを落とすと、最悪だな……」

「予備あるけどねー」

「ま、そうなんだがね……」


 ユリィの言葉に同意しながら、カイトは天井へと魔道具の先端を接触させて引き金を引く。基本的には押し続ける事で先端から波動が放たれ、側面に取り付けられたモニターに結果が表示される事になるらしい。検査結果そのものはリアルタイムで表示されるらしく、数秒もすればモニターに結果が反映された。と言っても結果は反応なし、という所であったが。


「ま、こうなるよな」

「初手で見付かるってそうなると普通にありそうだもんねー」

「じゃあ、がんばりますかね」

「頑張れー」


 兎にも角にも、ここでの作業はカイトしかやる事がない。ユリィの仕事は出来た時が困るのだ。なので彼女には適時激励でもしてもらった方が良かった。というわけで、カイトはただひたすらこれと同じ事を重ねる事になるのだった。




 さてカイトが作業を開始して、およそ三十分。気付けばひとまず一直線に端まで到達していた。


「とりあえずこれで何とか、かな……」

「大体片道三十分って所だねー」

「そんな所か」


 一キロ程度の横幅を鎖を使って移動していたのだ。いくら身体能力が並外れたカイトでも、一キロもの横幅を横断する事は容易ではない。それに所々で検査もしているのだ。逆にこの程度の時間で済んでいる事が凄い事だろう。


「えーっと、大体あの辺まで調査したから……とりあえず上流に向かって調査を進めるか」

「それが良いね。落ちた時に対応が楽になるから」

「だな」


 落ちた時の対処こそ違うが、基本的に地脈は川と同じだ。上流下流が存在している。なので上流に向かっていけば、必然として流された際に『第三番洞窟』に繋がる横穴を通り過ぎる事となる。

 もしもの時に流されても、リカバリは比較的容易だった。というわけで、二人は地脈の流れとは逆に向かって鎖を放り投げる。やることは最初から一緒だ。そうして再び調査を再開したカイトに対して、ユリィがふと口を開いた。


「にしても思うんだけどさ」

「んー?」

「時乃様に頼めば?」

「……あ」


 ユリィの指摘に、カイトが目を丸くする。そもそも『時空石』とは読んで字の如く、時空間に関連する素材だ。領分としては彼女か空間を司る空亜のどちらかだろう。そして現状、シーヴは横穴で待機中だし、


「おーい、時乃ー」

「なんじゃ、主よ」

「いや、聞いてたろ」

「まぁの」


 カイトの指摘に対して、彼の横をふわふわと浮かぶ時乃がころころと笑う。こんな彼女に関係があるだろう話題だ。彼女が聞いていない筈がなかった。


「『時空石』について何か知らね? 流石にここまでわかってりゃ、教えてくれても良いだろ」

「んー……どうするかのー」


 どうするか、と言うあたり教えてやっても良いのだろう。少し幼女の様にいたずらっぽくも、老女の様に老獪な笑みを浮かべていた。そもそもカイトが彼女に聞かなかった最大の理由は存在しているかどうかも分からない上、その性質を詳しく知っていなかったからだ。

 こういう時、大精霊達は意外と厳しい。存在している事やその性質を知っているのなら教えてくれるが、何も分からない状態で聞いても教えてはくれないのだ。そこらをカイトもわかっており、今なら大丈夫だろうと判断したのであった。


「ま、良いよ。確かにお主らの推測は正しい。このエネフィアという星において、お主らが『時空石』と呼ぶ物質が存在するのはお主らが推測した二箇所と言って良い。無論、このエネフィアにも存在しておるよ」

「そりゃ、助かった。ここまでやっておいて無駄ボーンとか嫌だからな」

「まぁの」


 そもそも『第三番洞窟』にたどり着くまでに二日。更に地脈までに片道二時間近くの時間を要している。それで無駄骨になるのはいくらなんでも精神的にきつすぎた。

 しかも、本当にあるかもわからないのだ。延々無駄な時間を使う可能性は無いではなかった。勿論、時間は有限なので見付からないなら見付からないである程度の時間の区切りは予定に入れていた。というわけで、カイトが改めて問いかける。


「それで、だ。その『時空石』はどの程度存在するものなんだ?」

「ふむ……そうじゃのう。極微量であれば、ここら一帯の土に含まれておるよ。なので究極的には、ここらの岩石を集めて精錬すれば『時空石』は作り出せる。無論、費用対効果の兼ね合いから現代文明では不可能じゃろう」

「ちなみに、その現代文明っていう言葉が指す現代文明についておせーて?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべながら告げた時乃を見て、カイトは絶対に何か裏があると理解していた。そしてこれは案の定と言うべき内容だった。


「現在エネフィアが属する世界に現存する全ての文明」

「でしょーね。おおよそ費用対効果は見合わない、と」

「ま、そう言うて良かろ。技術的に不可能ではないのと、費用に見合う対価が得られるかはまた話が別じゃ」

「あいよ、諦めま」


 精錬出来るのであればここらの石を何度かに分けて回収してしまえばそれで終わりだったのだが、どうやらそうは問屋がおろさないらしい。なのでカイトは諦めて再び『時空石』を探す事にする。とはいえ、このまま手探りでやったのでは時乃を呼んだ意味もない。


「で、その『時空石』とやらが生まれるのはどういう状況だ?」

「ふむ……まぁ、これは宝石等と一緒と言うしかあるまいな。主様ならばわかろうが、いくらこの世界の中と言えど本当に極限値を取った時、時の流れは全ての場所で一致はせん。こればかりはのう」

「その為のお前でもあるわけだしな」


 やはり世界は生きている。なのでどうしても様々な要因から時の流れが歪む事はあった。それは例えば認識の高速化等の魔術の影響から、重力の歪み等様々影響がある。一見すると時間に影響を与えない様な事象でも、本当に時乃の様な大精霊からすれば歪む要因になる事はあるのだ。ここらの詳しい話は誰でもなくカイトもよく理解していた。


「うむ。で、その一致せぬ時の流れであるが、主様の知る通り何かしらの根を中心として肥大化する。基本的にこれについては吾が修正するわけであるが、吾が対処する必要も無い程度であればそのまま放置するわけじゃ」

「大精霊達の修正は乱発するとそれはそれで法則が乱れるからな」

「うむ。ま、普通は周囲の変化によりこういう事には成り得ぬが……どうしてもこういった地脈の側等周囲の環境が数億年単位で変わらぬ場所では、時の歪みが流れる事もなく物質に固着する事がある。そうしてその偶然に出来た物が、『時空石』というわけじゃ」


 カイトの指摘に同意した時乃は改めて『時空石』が生まれ得る場所についてを言及する。ここらはティナ達の推測通りでもあったし、彼としても納得の出来る話だ。


「ということは、見つける事は出来そうか?」

「まぁのう……とはいえ、そう多くはない。先にも言うたが、宝石と一緒じゃ。レアリティで言えば最上位。希少性であればレッドベリルと同程度かそれ以上じゃろう。実用に耐えうるのであれば、遥かに上回ると言っても過言ではなかろうな」

「わーお、地球じゃ最も希少価値の高い宝石より貴重か……あの姉貴。それを媒体に使ってんのかよ……」


 これはこんな当てずっぽうにも等しい調査ではどう考えても見付からないな。カイトは時乃の言葉でそう理解する。レッドベリルとは俗には赤いエメラルドとも言われ、一説にはダイヤモンドより貴重な宝石と言われる宝石だ。その希少性は宝石の中でも有数と言わざるを得ない。それと同程度かそれ以上、という事であればまず見付からないだろう。


「ふむ。とりあえず今日は戻れ。流石にこのまま当てずっぽうに探しても見付かるまい。無論、ティナの側で運良く見付かる可能性はあるが……そこらは運としか言えまい。少々吾の加護を与えてやろう」

「すまん」


 どうやら大精霊が手を貸さねば見付からない領域らしい。こんな魔道具(おもちゃ)で何とかなる領域でさえなかった。というわけで、カイトはひとまず時乃の指示に従って、『第三番洞窟』を後にする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1543話『地球からのメッセージ』

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