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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1536話 地球からのメッセージ ――行動開始――

 地球からのメッセージに記されていた通信機の設計図。その重要部品の素材となる『時空石』の調査を行っていたカイトは、リルより異世界で手に入れたという『時空石』の話を聞く事になっていた。

 そんな彼女の助言と推測を受け、ひとまず存在している可能性の高い場所の目処を付けた彼はその調査に向けて各所への連絡を取っていた。


『ふむ……なるほど。それは見付からぬのも無理はないか』

「はい。流石にどちらも現代の文明では決して手出し出来る領域ではありません。旧文明もおそらくボーリング調査の折りに偶然見付けたか、地脈の噴出により偶然表出した物を見付けたのではないか、というのがリル殿による推測です」


 なるほど、と納得した皇帝レオンハルトに対してカイトもまた頷いた。連絡の一環で彼へも報告していたのである。そうしてそんな返答をしたカイトへと皇帝レオンハルトが問いかけた。


『妥当か。流石に俺ももしその両者に調査を、と言われたとて普通は許可は下ろすまい。それで、公よ。作る為にはそこに行かねばならないのだろう。どうするつもりなのだ?』

「地脈については、私が対処しようと思っております。ティナには『飛空石』の地層の調査を」

『ふむ……確かに魔帝殿と地脈は相性が悪いか』


 カイトの報告に皇帝レオンハルトは道理だ、と頷いた。何度と無く言われているが、地脈は火薬庫だ。魔術師であるティナにとっては、ある意味魔封じの洞窟より相性の悪い場所と言える。それに対してカイトは刀一つで何とか出来る。

 しかし一方で、地下数十キロになるかもしれない地層の調査は近接戦闘を主とするカイトには難しい。が、ここらは魔術と魔道具の開発が出来るティナの得意とする分野だ。正しい判断だろう。


「ええ。それに今回の内容から考えれば、飛空艇の艦隊を動かした上で高度なボーリング調査もせねばなりません。流石に私より彼女の分野と」

『ふむ……まぁ、軍による地質調査の一環としておけば道理も損なわれんか。わかった。では、公による地脈を封じている洞窟への立ち入りの許可証は出しておこう』

「ありがとうございます」


 皇帝レオンハルトの許可に、カイトが頭を下げる。当然だが地脈に入るのだ。下手をすると大災害だ。故に立ち入りにはその地方を治めている領主だけでなく、国の最高権限による許可も必要だった。これは地球でも一緒だ。というわけで、皇帝レオンハルトの許可を得たカイトは更に少しの話し合いをした後、通信を切断する。


「ふぅ……これで何とか、地脈に通ずる洞窟に立ち入る事が出来るか……」


 頭を上げたカイトは一つ安堵のため息を吐いて、ほっと胸を撫で下ろす。場所についてはもはや笑うしかないが、それでも行けるのであれば何とかは出来るかもしれない。可能性があるだけ十分マシと言えた。と、そんな彼へと椿が問いかけた。


「あの……御主人様? 本当に行かれるのですか?」

「仕方がない。あそこにある可能性がある、となるともう行くしか無い」

「は、はぁ……」


 まぁ、そう言いたくなるのも無理はないか。カイトは滅多に苦言を呈さない椿が苦言を呈するという事態に、思わず笑うしかなかった。


「お前の懸念はわかる。が……実はあそこに魔物は生まれないんだ」

「そうなのですか?」

「ああ。魔物が生まれる要因は幾つかあるが……さて、ここで一つ面白い事を問いかけてみようか」

「はぁ……」


 唐突に楽しげに語りだしたカイトに、椿が小首をかしげる。そうしてそんな彼女へとカイトが問いかけたのは、ある意味では至極当然の内容だった。


「まず疑問なのだが、自然界に居る魔物。これは通常、人類を見かけない限りどういう生態を有する? ああ、この場合は基本的な魔物……ゴブリン種やウルフ種を考えてくれ」

「はぁ……その場合は基本的に巣に篭もりそれぞれの生態系に沿った生活をしているかと」

「そうだ。基本的に奴らは類似する生命体に似た生態系を持つ。故に、通常はその似た生命体に似た生活リズムを持って活動する」


 椿の返答はエネフィアでは一般的に知られている事だし、地球でも裏に関わる者であれば当然として知っている事だ。何か不思議な事はなかった。それ故、カイトもまた頷いた。そうして、彼はその上でと続ける。


「つまり、奴らは自然界においては魔物というよりも動物に近い。わかるか? 奴らは無闇に自然は破壊しないのさ」

「はぁ……」


 確かに、言われれば椿にも納得は出来る。例えばウルフ系の魔物であれば草原で生きているわけであるが、それらが草原を破壊したという事は二人共聞いた事がない。魔物が敵対するのは大半は人や食料と見做している動物だけだ。


「わからないか? 奴らも地脈には滅多な事では近寄らないのさ。無論、ゼロではないが……少なくとも地脈の中には出現しない。いや、より正確には出現出来うる土壌がない、と言うべきかもしれんがな」

「出現出来る土壌がない、ですか?」

「わからないか? 地脈というのは莫大な魔力の奔流。そして、魔物……いや、魔物を構成する物質は何だ?」


 椿の疑問を受け、カイトは改めて常識的な内容を問いかける。それに、彼女は当たり前故に一切迷う事なく答えた。


「魔素の筈です」

「そうだ。魔素だ。魔力の奔流は魔素の奔流。地脈とは莫大な魔素の流れとも言える。そして敢えて言えば、魔物とはコアという磁石の中心に魔素が集まっているだけのものだ」

「まさか……消失してしまうのですか?」

「その通り。奴らにとって地脈の中は、その磁石の引力を遥かに上回る激流だ。並の魔物なら、有無も無く飲まれて消えちまうのさ」


 椿が導き出した結論に、カイトは笑って頷いた。魔物は魔素で出来ている。それ故、よほど強大な力か確固とした自我を持たなければ、自分自身を構成している魔素が地脈の中に散ってしまうらしい。もし抗えた所で、出ようと魔術を安易に使えば周囲の魔素に引火して大爆発。どちらにせよ命はない。


「これで、わかったろう? もし魔物を生む魔力の淀みがあったとて生まれる前に押し流される。よしんば生まれて叩き落とされたとて、並の魔物は耐えられない、ってわけだ」

「要らぬ心配、失礼致しました」

「いや、普通は知らん。というか、知ってるオレがおかしいだけだ」


 椿の言外の称賛にカイトは肩を竦める。これでも何度か地脈には落ちている。そこで大精霊達から聞いていたそうである。


「まぁ、地脈に落ちても大丈夫なのは星側が保護する神族や、自らの自意識だけで肉体の構築が可能となった者ぐらいなものだろうさ。魔物でもオレが守護を与えている伊勢や日向だと大丈夫だろうが……そのぐらいじゃないと無理だと考えて良い」


 椿にカイトは改めて安全性を説くと、そのまま立ち上がる。許可が下りたのなら下りたでまた色々と手はずを整える必要があった。なにせまだ通信機の件については公表さえしていない。その公表の手はずを整えたり、と必要な事は多かった。というわけで、彼は公爵邸を後にして色々と支度に向かう事にするのだった。



 さて、皇帝レオンハルトからの許可から更に数日。この頃になりようやく一通りの許可が下りた為、通信機の件については公表となった。


「というわけで、これより上層部を中心として通信機の開発に取り掛かる。また、今回の活動は学園からの依頼の形式を取る事となっている。故に志願者多数だった場合、志願者の中から抽選を行う。詳細については掲示板に依頼書を別途貼り付けておく。そちらを確認する様に」


 カイトは冒険部一同に向けて、通信機の開発とそれに関わる活動の通達を出す。基本的に、今回の行動も以前の湖底の遺跡における遺跡調査と同じく天桜学園からの依頼の形を取る事になっていた。というわけで、通達を出したカイトは改めて執務室に戻ると、全体的な行動に向けての策定に入っていた。


「さて……どうするかね」


 考えるべきなのは、現状ソラが居ないという事だ。基本的にカイトは自身が遠征に赴く事になった場合、冒険部は桜・ソラの二名に内政を任せて、瞬・翔の二名に遠征を任せている。

 なんだかんだとソラは内政面の性能は高い。それも純粋な内政面に長けた桜とは逆に、外側、例えば商家とのやり取り等に長けていた。ここらはカイトは父・星矢の血を引いていたと考えていた。が、それが居ない事を含めて人員を考える必要があった。


「先輩。ひとまず遠征隊の編成は先輩にまかせても?」

「ああ。お前とユスティーナは確か極秘で何かを取りに行くのだったな?」

「ええ。皇国からの命令で、該当の場所にはオレ一人で行く様に、という指示が出ています。この素材については伏す様にも指示が」


 瞬の問いかけにカイトは一つ頷いて、改めて事情を説明する。これについては教国からも同様の指示がルーファウスとアリスに届いており、カイトの活動内容については調べる必要無しとの命令が届いている。なので今回のカイトが探す素材はブラックボックスにするべきだ、と判断されたと全員が考えていた。


「わかった。人員の細かな内訳についてはこちらでやっておこう」

「頼みます。オレはとりあえず今の内に外とのやり取りをやっておきます」

「頼む。そこらはあまり得意ではないからな……」


 カイトの言葉に瞬は僅かな苦笑を滲ませつつ、遠征に向けた書類を作っていた。なんだかんだとやる必要のある事は多かった。


「桜、瑞樹。悪いが、残留を頼めるか? ソラも居ないからなぁ……上層部の残留が少し厳しい」

「私は構いませんが……瑞樹ちゃんも、ですか?」


 僅かに苦い顔のカイトの依頼に、桜が首を傾げる。瑞樹が率いるのは竜騎士部隊。冒険部でも有数の戦力だ。そして同時に、有数の積載量と機動力を保有してもいる。残す道理は見受けられなかった。


「ああ……瑞樹。何人かと共に何時でも出れる様にしつつ、即応部隊として動いてくれ。今回は行動範囲がかなり広い。積載量に優れた地竜達には素材の運送を頼む事になるが、機動力の高い面子には荷馬車の守りを任せたい。それに合わせたチーム構成を頼む」

「わかりましたわ」


 カイトの指示を受け、瑞樹がそれに向けての手配に取り掛かる事にする。基本的に天竜・地竜による竜騎士部隊は彼女が総隊長だ。なのでその手配は彼女が行う事になっていた。なお、彼女更に下には天竜を率いるリーダー、地竜を率いるリーダーが居る。


「で……アル、リィル。二人は確か軍務だったか?」

「あ、うん。まぁ、何時もと同じ飛空艇からの降下訓練とか、連携の練習って所だからそうは長くならないよ」


 カイトの問いかけにアルが頷いた。これはもちろん、嘘だ。彼らにはティナの補佐をしてもらう必要がある。が、それと共に連携の訓練をしておこう、というのも事実だ。彼らは本来は軍人で、カイトの補佐として出向しているに過ぎない。

 カイトが公職に復帰した際には原隊復帰する事が確定しているのだ。その際に困らない様に、適時必要な練習は行っていた。それはルーファウス達も知っているし、当然だとも考えていた。それを体の良い偽装としたわけであった。


「そうか。まぁ、今回は学園側の依頼だから問題はない……で、ルーファウスとアリスは協力してくれるんだったか?」

「俺達は元々、その為に教皇猊下よりこちらに来る様に言われているからな。これは本来の俺達の任務とも言える。存分にこき使ってくれ」


 カイトの確認にルーファウスが頷いた。これについても道理といえば道理だ。そもそも二人が出向している表向きの理由は冒険部への助力だ。これはそれに従った物でもあるし、逆にそれ故にルーファウスからしてみればスパイ地味た行為をしないで良いので楽でさえあった。


「そうか……なら、ルーファウスは先輩の補佐を。アリスには桜の補佐を頼む」

「別なのか?」

「問題か?」

「いや、問題ではないが……」


 やはり大抵の場合では一緒に任務に出ていたし、まだ見習いのアリスを一人にさせる事は不安といえば不安だったのだろう。カイトの問いかけにルーファウスは僅かに顔を顰めていた。それに、カイトが苦笑する。


「まぁ、今回の任務で向かう所は流石にアリスだと足手まといになる可能性が高い。が、一緒にしてお前程の腕前を遊ばせるのもな」

「……それもそうか。いや、失礼した」

「納得してもらえれば幸いだ」


 今の所、瞬とルーファウスには素材の収集において最も危険となり得る場所に向かってもらう事にしていた。そこにアリスが加われば明らかに不相応だろう。それ故のカイトの判断にルーファウスが頭を下げる。そうして、彼の納得が得られた事でカイトは更に遠征の手配を進める事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1537話『地球からのメッセージ』

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