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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1533話 地球からのメッセージ ――夜会――

 地球より送られてきた封筒の中に入れられていた数枚の書類と一つのUSBメモリ。書類の幾つかは現在の地球の状況を伝える物であったのだが、残る書類についてはカイトの想像を超える内容となっていた。

 それは地球の特性である科学技術が優れているという部分を応用して、時の流れの歪みに対応しながら通信を可能とする非常に革新的な通信機の設計図と仕様書だった。そうして、それらの話を会議に遅れてやってきた瞬らに話をし終えた所で、皇帝レオンハルトとの通信の時間となっていた。


『なんと……貴公より地球にも師が二人居るとは聞いてはいたが……まさか、それほどだったとは』

「前に私が述べました、彼女はティステニアをも上回るという言葉。あれは嘘偽りではございません。無論、謙遜でも師を持ち上げての言葉でもありません」

『……すまぬな。俺はどこかで師を持ち上げているだけと思っていたが……やはり勇者の師という所か。それが事実と思わなかった』

「いえ、仕方がない事かと思われます。ティナでさえ、私の言葉を聞いた時には素直には信じられなかった程。それほどなのです」


 皇帝レオンハルトの謝罪に、カイトは首を振る。カイトの師、スカサハ。その実力を聞いて素直に信じられないのは仕方がない事だ。なにせカイト自身、彼女の強さには呆れ返るしかなかったほどだ。


『そうか……いや、すまんな。話が脱線した。それで、通信機という事であったか。ふむ……』


 皇帝レオンハルトは改めて、カイトから為された報告の内容を噛み砕く。そうして、しばらくの後に一つカイトへと問いかけた。


『マクダウェル公。公に一つ、聞きたい』

「は、なんでしょう」

『……もしここで余がこの開発をならぬ、と言った場合、どの様な想定をするべきだ?』

「……外交上難しい問題とならざるを得ないでしょう」

『……やはり、か』


 カイトの言葉に皇帝レオンハルトは深くため息を吐いた。そしてそれ故、面倒ではあるがこうするしかなかった。


『……公よ。すまないが、この事は一度夜会にて話し合いたい。申し訳ないが、公にも皇都への集合を命ずる』

「は……それが正しい結論かと思われます。表向きの事情なぞこの時点でどうにでも出来ます。私も即座に参りましょう」

『うむ。俺はこれより、全ての公爵と大公には即座の招集を命じよう。明日の夜には全員が揃う様に手はずを整える。公も遅れず、参加する様に』


 いくらなんでもこの案件は大きすぎる。それ故、皇帝レオンハルトは公爵と大公達全てを集める夜会を開く事にしたようだ。そしてこれについてはカイトも全面的な賛同を示すしかない。この程度の推論が出来ないわけがないので結論は一つしかないが、それでも意見の統一が必要な案件だった。


「かしこまりました」


 カイトは皇帝レオンハルトの命令に頭を下げて了承を示す。そうして、皇帝レオンハルトとの通話が終了した。


「桜。オレはこれからすぐに皇都に発つ。冒険部側の通達は任せて良いか?」

「わかりました。どの程度を明かして良いですか?」

「通信機についてはまだ伏しておいてくれ。それ以外については灯里さんと一緒にリスト化と対象者への通達を進めて良い。これについてはオレの裁量で良いと皇帝陛下からのお言葉がある」


 桜の問いかけにカイトは手早く指示を残す。皇帝レオンハルトによる緊急の招集だ。これは如何なる事情にも優先される。唯一、これを断る事が出来るのは他国が絡んだ場合だけだ。

 この場合だけは、外交上の問題になるとして公務が優先される。が、それ以外の場合には彼からの招集が全てにおいて優先された。喩え身内の冠婚葬祭だろうと、である。それが貴族という者の立場だった。

 故に届いた時点で全ての公爵と大公達が皇都に集合するべく動くだろう。どれだけ遅くとも明日の朝には到着しているはずだ。カイトも即座に動く必要があった。と、そんな彼へと今度は瞬が問いかけた。


「カイト。内々についてはどうする?」

「そちらについては普通に動いて構わん。が、内々で良いので近々上層部として少し動くかもしれない、とだけは通達しておいてくれ」

「わかった。俺たちは基本は遠征には出ず、他は通常業務という所で良いか?」

「そうしてくれ。もし遠征に出る場合でも、あまり上層部の面子は動かさない方向で頼む」

「わかった」


 瞬の重ねての問いかけにカイトは更に詳細な指示を残しておく。現状、一応は皇帝レオンハルトもカイトも通信機の製造で一致している。が、まだ決定ではない。なので通達はしないが、もし作るとなるとそれは上層部が中心として動くのが筋だろう。


「瑞樹。竜騎士部隊には一応鉱石等の運送が必要になるかもしれん。馬車の確認をしておいてくれ」

「わかりましたわ。となると、地竜の方が?」

「いや、そこらはまだ詳細はわからん。なので両方頼む」

「わかりました」


 カイトは最後に瑞樹への指示を残すと、これで冒険部としての指示を終わらせる。それが終われば次は公爵家としての指示だ。


「クズハ。ひとまずお前に統率を任せる。アウラ、この案件は明らかにお前の領分だ。ティナの補佐を頼んで良いか?」

「ん」

「頼む。もし何かがあれば、即座にオレに連絡を」


 カイトはクズハとアウラへと手短に指示を残しておく。そして公爵家側はこれで良い。彼女らの統治能力は冒険部を遥かに上回っているし、その補佐の人材も育っている。カイトが居ないでも回るのだ。なら、これで十分だった。


「良し。では、後は任せる」


 カイトは一通りの指示を出し終えると、手早く立ち上がる。今すぐ出ねばならないが、そのためにも色々とせねばならない事は多かった。まず何より外に出る以上は着替えは必要だし、飛空艇の用意も必要だ。

 今回は偽装として皇帝レオンハルトよりの呼び出しを受けた冒険部のカイトとして皇都に向かうので申請は必要無いが、それ故に公爵家で飛空艇を用意する必要があった。出れるのはどれだけ急いでも夕方だろう。そうして、カイトは大急ぎで皇都に向かう用意を始め、その一方で冒険部の面々は彼らの帰りを待つ天桜の者達への通達を行うべくギルドホームへと戻り、更にカイトの指示に沿って行動を開始する事にするのだった。




 皇帝レオンハルトより緊急での招集が行われて翌日の夜。公爵以上の貴族全員が皇城の秘密の部屋に集められていた。


「それで、マクダウェル公。今回はどの様な事をなさったんです?」

「おいおい、リデル公。そう何度も何度もオレがしでかした様に言わないでくれよ」

「あら……貴公の帰還以降、夜会の内容は五回に四回は貴公が何かをして出た影響等の話し合いでしたが……」


 カイトの苦言にも似た言葉に、リデル公イリスが笑って首を傾げる。それに、カイトは肩を竦めた。


「盛り過ぎだ。せめて半分だ……まぁ、そういっても。ウチが発端である事には間違いない。今回もウチからの要請に近い事は事実だ」

「ほら、やっぱり」

「あはは。だが、オレの報告を受けた陛下がこの夜会の招集を決めたのは事実だ。なのでオレが何かをやらかしたわけではない。それもまた事実」


 僅かな間、カイトは自身と共に皇国の顔となる公爵達との会話を行う事にする。そうしてそんな会話をしていると、部屋の扉が開いて皇帝レオンハルトが二人の大公と共に入ってきた。


「うむ。全員揃っているな。ああ、今回は少々特殊な事情により、時間が惜しい。逐一の起立はするな」


 自身の入室と共に立ち上がろうとした公爵達に対して、皇帝レオンハルトは手でそれを制して僅かに急ぎ足で自席に向かう。そうして彼が腰掛けた所で、大公二人もまた腰掛けた。そうしてそれを受けて、アストレア公フィリップが問いかけた。


「それで、陛下。この度はどの様な事態が? 先にマクダウェル公は自身が報告した内容を受け、と仰っておいででしたが……」

「それは間違いではない。此度の招集はマクダウェル公よりの報告を受け、緊急で招集した……マクダウェル公。皆に事情の説明と、状況の説明を頼む」

「は」


 皇帝レオンハルトの命を受け、カイトは公爵達に向けて昨日の朝起きた事を語る。それを聞いて、流石に全員驚きが隠せなかったようだ。


「地球から……」

「ふむ……あちらもあちらで動いている可能性についてはマクダウェル公より報告を受けていたが、まさかそこまでとは……」


 どうやら公爵達にしても些か地球の技術力を侮っていたと言わざるを得ないのだろう。これはカイトとしてもそうだったし、そもそもでスカサハという変数があるのだから仕方がないとも言える。と、いうわけでやはり信じられないのかアベルが問いかける。


「それで、何度か公が言っていたその、スカサハだったか? 彼女の腕なら可能というのは事実か?」

「ああ、あの姉貴なら可能だろう。武術じゃオレ以上、魔術じゃティナと日常的に討論出来るってガチチートだ。オレもスペックで勝ててなければ、あの姉貴にゃどうあがいても勝てねぇな。ぶっちゃければあの姉貴に勝てるのはおそらくオレ、ティナ、イクスフォス陛下の妹君ぐらいなものだ。それだって真正面からはやりたくない。てーか、一度やってマジ痛い目みたからオレはヤダ」

「お主にそう言わせる程か」


 やはりこの場で誰よりもカイトの事を知っているからだろう。彼の言葉に嘘が無い事をハイゼンベルグ公ジェイクは理解したようだ。


「あっはははは……マジ、あの姉貴はヤバい。クオンとだけは会わせたくない」


 はぁ。カイトは深い溜息を吐く。今度の邪神との戦いにおいては当然、彼女ら二人も参戦予定だ。というより、彼女ら程のスペックの持ち主を遊ばせておく理由はないし、性質上呼ばなくてもやってくるだろう。それ故にそれを思い起こすだけで頭が痛かった。


「マクダウェル公よ。話がずれているぞ」

「っと……失礼致しました。とはいえ、そういう事でこの通信機の性能については間違いなく仕様書通りに動くと保証する。ティナが認める魔術師だ」

「ふむ……」


 皇帝レオンハルトの苦言を受けたカイトが話を元に戻す。そうして、全員が認識を一致させた。


「……陛下。おそらく、この様にお考えでは? もしこの案件を動かさねば最悪は外交問題になる、と」

「うむ……そうなのだ。それ故、貴公らには集まってもらった」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの問いかけに皇帝レオンハルトが苦い顔で頷いた。そうして、彼が詳細を語り始める。


「まず、天桜学園については我が皇国が保護する事、そして勇者の名を出して保護を明言している。人道的な側面より、まず非難を受けよう。更に言うと、大陸間会議での結論……帰還を目指す事を支援する、という結論とも反する」

「うむ」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に皇帝レオンハルトが頷いた。これが第一の理由だ。そして問題はまだあった。


「次に、おそらく相手……日本も国としての対応を話し合うべく事に臨むつもりであろうな。それは当然、こちらも理解しているものとして考えている。おそらく、ゆくは幾つかの国を交えて話をしているのだろう」

「……」


 というより、したんだろうな。カイトは己の分身である使い魔が行っただろう内容を想像する。こういった時、彼は実は意外と他国の面子等を慮る。であれば、使い魔はアメリカとイギリスの顔を立てて動いていると考えられた。そうしてそんな考えを張り巡らせるカイトの一方、皇帝レオンハルトは更に続けた。


「であれば、おそらく遠からずこの他国も話し合いに加わろう。その予定を立てている相手が居る以上、こちらもそれに向けた体制を整えねば侮られる。それ相応に見せねばなるまい」

「最悪は、届かなかったとして無視でも良いのでしょうが……」

「それも通用はせんだろう」


 ハイゼンベルグ公ジェイクがため息を吐く。なにせカイトがすでに地球の英雄達は単独での移動が出来る事を示している。そして次の戦いにおいて彼らの力を借り受ける事もすでに決定済みだ。最悪は彼らが出てきて持ってこられれば終わりだ。届かなかった、という言い訳も通用しない。会談を受けるか否か、の二択しかない。そして更に悪いのは、カイトの名まである。というわけで、結論としてはこれしかなかった。


「……では、通信機の製造については許可を下す。が、起動に関しては俺の許可を以ってとする。また、製造に際しては必ず皇国からの調査員の立ち会いを必須とし、以後の使用に関しても監視の上でとする」


 少しの議論の後、皇帝レオンハルトが眉の根を付けながらそう明言する。そうして、カイトは通信機製造の許可と共にマクスウェルへと帰還することにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1534話『地球からのメッセージ』

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