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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1532話 地球からのメッセージ ――開封――

 ヴァールハイトの負の遺産となる『天使の子供達エンジェリック・チルドレン』。その対処についての会議を公爵邸にて行い、ティナらと共にギルドホームへと帰還したカイトを出迎えたのは人だかりだった。そんな中から現れた桜が持っていたのは、なんと地球から届いたという封筒だった。

 これについては即座にティナに確認を取って貰い本物と判断される事となる。そうして、ひとまず皇帝レオンハルトの予定の確保に成功した彼は中身を確認するべく封筒の封を開いていた。


「やはり、これは入っていたか」


 封を開いたカイトが一番最初に取り出したのは、USBメモリだ。封筒を手に持った際に何か小さな棒状の物が入っている事に彼は気付いていた。そこから、地球からのメッセージである事を考えればこれだろう、と判断していたのである。が、中身はこれだけではなかった。


「後は……書類か。これだけか」

「え、えらく少ないですね……」

「全部、USBに入れてる、って事でしょうね」


 これで終わり、と言ったカイトに呆気に取られた桜に向けて、灯里――彼女は公爵邸地下の研究室に居た為、カイトが来た時点で合流した――が大凡の推測を語る。


「ティナ」

「ほいよ。確かに、受け取った」


 USBメモリを投げ渡したカイトからUSBメモリを受け取ったティナが早速据え付けられていたパソコンにセットする。


「ま、ウィルスチェック等がある故、しばし待て。その間に書類でも読んでおくと良い」

「あいよ」


 ティナの助言に従って、カイトは入っていた書類を読んで見る事にする。


「ふむ……これはオレ達が送ったメッセージの後、大凡地球で何があったかという概略を示したものか」


 結論から言えばそれだった。カイト達がメッセージを送った後にエネフィアで動きがあった様に、地球でもまた幾つもの動きが起きている。一枚目はそれを簡潔に記したものだった。どうやら、地球ではもうすでに一年が経過していたようだ。

 とはいえ、これについては実は特に大したことは言っていない。というのも、ここで書かれている事は敢えて言えば普通に日本のマスコミが語っている程度の事だ。世界の裏まで知るカイトからしてみれば、特別興味の無い話としか言えなかった。が、そんな彼も少し興味を得る内容はあった。


「ふーん……まぁ、順当な結末かね……」


 思ったのはそれだ。やはり世界的なニュースの中にはアメリカの大統領選挙も含まれており、それによるとカイトが裏で懇意にしているジャックという男が史上最年少で大統領に就任したらしい。であれば、計画は順調に進んでいると考えて良いのだろう。カイトはそう判断する。


「ふむ……ということは、何時かはあいつとも話をする事になるか」


 ここに明記されている理由は考えるまでもない。やはりアメリカはいくら斜陽が囁かれようと、現代でも地球有数の大国、いや、超大国だ。今後、カイト達が地球へと帰還する上で必ずその存在は関わってくるだろうと推測された。

 確かに地球だけならあの国は引きこもってもいられるだろうが、もはや世界は異世界さえ巻き込んだものになっている。この時点で、アメリカ一国だけが引きこもっていられる状況ではなかった。あの国も今後は世界に大きく関わっていかねばならない、と覚悟を決めたと見て良いのだろう。


「……さて……」


 どうするかな。読み終えた一枚目の資料を桜へと回し、カイトは次の資料を読み始める一方でそう考える。実のところ、カイトは自身が地球でどんな活動をしていたのか、という事については皇国側に詳細は報告していない。一応、向こうに異族が居る事を確認し、その統率の一端を担っている事は明言している。が、それだけだ。

 そもそも今回の転移は事故だ。カイトが意図したものとは違う。なのでどうしても、自身が抱える状況から皇国に伝えると日本に不利益となると判断した事については黙したのである。

 ここらは、どうしても二つの国に跨って活動せねばならなかったという彼のどうしようもない立場がある。こればかりは仕方がない事だった。と、そんな彼であるが、ふと視線を落とした書類に書かれていた文字を見て僅かに顔を顰めた。


「……これは……」

「どうしたんですか?」

「まぁ、当然といえば当然、という話ではあるんだがな……」


 桜の問いかけにカイトはため息を吐く。一年がすでに経過しているというのだ。そして天桜学園には500人が在籍している。であれば、単純計算でその両親だけを計算すれば1000人が居るわけで、その更に倍の数の祖父母が居るわけだ。必然として、事故や病気により亡くなっている者が居ても不思議はなかった。そして、その逆もまた然りであった。


「ふむ……ああ、その代わりこちらは朗報だな。どうやら二枚目と三枚目は朗報と訃報という所だろう。敢えて二枚目と三枚目は冠婚葬祭についてのリスト、という所か。魅衣、喜べ。お前、これでおばさんだそうだぜ?」

「うそっ!」


 少し冗談めかしたカイトの言葉に、魅衣が目を見開いた。おばさん、と言われた魅衣であるが、その理由を理解出来ていたのか逆に嬉しそうでさえあった。そしてカイトもどこか嬉しそうだったのは、気の所為ではないのだろう。

 ずいぶんと前の事であるが、彼女の姉はあのビデオメッセージの時点で妊娠してお腹が大きくなっていた。あの時点で服装は秋。現在地球では春らしい。であれば、天桜学園が転移させられて一年が経過している計算だ。その前の時点で妊娠していたので、生まれていても当然だろう。


「灯里さん。悪いんだが、これについては後で学園側で関係者への通達をしてやってくれ。どちらも皇国が敢えて秘匿する必要もない情報だからな。こちらから掛け合うが、そこまで時間は必要無いだろう」

「あいよー。じゃあ、後で行ってくるから瑞樹ちゃんとレイアちゃん貸してー」

「わかりましたわ」


 灯里の何時も通りのうだー、とした言葉に瑞樹が若干苦笑混じりに頷いた。これは単なる身内の冠婚葬祭に関わる事だ。検閲も殆ど必要がない。というよりした所で意味がない。更に言うと人道的な側面からも教えないのは駄目だろう。


「任せる。ま、二枚目と三枚目はこの様子なら回し見る必要はないな」


 カイトはそういうと、二枚のリストを改めて封筒の中に仕舞っておく。これを回し見た所でだから何だ、としか言えない。そもそも魅衣の様に上層部の誰かに姪だか甥だかが生まれているのならまだしも、それ以外の面子について知っていた所で下手をすると殆ど関わりが無い可能性さえあるのだ。見た所で特に必要となる情報は無いと言って良いだろう。


「ふむ……じゃあ、四枚目」


 僅かに流れた微妙な雰囲気を打ち消す様な三枚目に全員が僅かに浮かれながらも、カイトは四枚目の書類に目を通す。が、これには流石に彼も真剣な目にならざるを得なかった。


「……」

「……お兄様。どうされました?」

「……ああ、悪い。ティナ、ウィルスチェックは終わってるか?」

「……む? ああ、うむ。すまぬ。終わっておるよ……どうやら、そちらにも関係するものじゃったか」


 どうやら、ティナはティナでウィルスチェックが終わったUSBメモリの中身を一足先に閲覧していたのだろう。そんな彼女の目は真剣そのものだった。


「どうやら、そういうわけらしい。魔女の少女に、姉貴の手が入れば不可能でもない」

「じゃろうな。この設計には大いにスカサハの手が加わっておる……はぁ。相も変わらずあの女傑は本当に余に匹敵するのう」


 カイトの僅かに呆れの乗った言葉に、ティナもまた呆れを乗せて応ずる。そうして、クズハが改めてカイトへと問いかけた。


「お兄様。ですから、何が?」

「設計図、という所か。こちらは紙媒体。万が一パソコンが使えなかった場合に備えて、という所か」

「うむ。こちらに詳細なデータは記されておった。それと、まぁ以前のメッセージの様に写真という所じゃのう」


 カイトの言葉にティナが同意して、各机に設置されたモニターに地球から送られてきた設計図を表示する。


「……これは……通信機、ですか?」

「うむ。かなり条件は厳しいが……それでも地球との間で通信を可能にしてしまおう、という装置じゃな」


 桜の問いかけに簡潔にティナが答える。ともかく、言ってしまえば仕様書によればこれは通信機らしい。原理的には不可能ではない。なにせカイトは時折、地球との間で連絡を取り合っている。

 これは彼の立場上仕方がない事だし、今後の戦いを考えれば必然とも言える。そしてその魔術を開発したのは、他ならぬスカサハその人だ。その彼女の助力があるのなら、不可能では無いだろう。


「ふむ……」


 そんなティナであるが、やはり事が事だからか真剣に仕様書と設計図を確認していた。


「出来そうか?」

「というより、余がおる事を前提として開発しておるのう。かなりの部分で高度な技術が使われておる。地球の技術水準を遥かに超えておるわ」

「あの人は……」


 ティナの明言にカイトはがっくりと肩を落とす。スカサハと言えば全て納得が出来るわけであるが、それ故にこそ彼もまた呆れるしか出来なかった。とはいえ、その御蔭で出来たものでもある。


「で、ティナ。詳細を教えてくれ」

「うむ……まぁ、まず結論から言えば。どうやらこの通信機にはある革新的な技術が使われておる」

「革新的な技術?」

「うむ……こればかりはおそらく地球故に可能じゃった理論、と言うべきじゃろうな」


 カイトの問いかけに頷いたティナはパソコンを操作して、その該当する部分を拡大する。


「この魔石に刻む予定となる刻印。これについて理論を読むと、面白い理論が組み込まれておる」

「ふむ……これは……」


 ティナの指し示した部分を見て、カイトは何が革新的だったか、というのを理解する。が、こんなものを出されて理解出来るのはカイト達ぐらいなものだ。故に瑞樹が問いかけた。


「あの……どういう事ですの?」

「ん? あ、ああ。悪い。さて、前にオレが語ったと思うが、二つの世界で流れる時の流れは違う。これは良いな?」


 カイトは改めて全員に前提条件を提示する。そしてこれは誰もが改めて言われるまでもなく、一致した認識だ。それ故の今のカイトであり、こちらの面子が居るのだ。当然の話だ。そしてその上で、と彼は語る。


「さて……これはその上で言えばこの二つの世界に流る時間の流れの速さを調整しようとしているんだ」

「……つまり、どういう事ですの?」

「そうだな……聞いた事はないか? ブラックホールの近くでは時間がゆっくりになる、って」

「まぁ、有名な話ですわね」

「そうだ。これは敢えて言えばそのブラックホールによる時の歪みを修正し、双方向でのリアルタイムでの通信を試みている。無論、この場合はブラックホールでさえ無いから、理論はぜんっぜん違うんだろうけどな。世界を出る瞬間さえ、信号の間延びが違ってくるだろう」

「それで変換なんて可能なんですの?」


 カイトの解説に瑞樹が首を傾げる。その顔は訝しげで、言外に出来るとは思わないという様子があった。これに対してカイトは半ば笑いながら頷いた。


「まぁ、無理だろうさ。それこそ幅が数千倍にもなれば、どうしようもない」

「が、のう……例えばさほど変わらない状態。そうじゃな。倍速……あやつの腕を見込めば十倍ぐらいまでであれば、対応できよう。先のは言ってみれば極論よ。極論でなければ、そうじゃな。わかりやすく言えば間延びした信号を縮める、もしくは逆に縮まった信号をゆっくりにする感じ、と言えばよかろう」


 所詮、電波で送られている信号は波形だ。ブラックホールの近辺ではその波形が伸びたり縮んだりするわけだ。原理的には、機械で処理する事でこれを本来あるべき形に修正してやる事は出来るだろう。このスカサハが送ってきた通信機とやらには、その時間の影響による信号の変換に対応出来る刻印が刻まれていたのである。


「はぁ……全く、とんでもをしてくれた……あったまいてぇ……」


 改めてスカサハのしでかした事を思い直したカイトが深い溜息を吐く。が、そもそもの原因は何か、と言われると実はカイトである。それを彼自身が理解していた。

 というのも、実はカイトは一度彼女と本気の殺し合いをした事がある。そこで、ある力を使ったのだ。彼女の真髄はその速さにこそあった。瞬のお師匠様のそのまたお師匠様だ。

 その実力は、ティステニアを上回るとカイトに断言させた程だった。そんな彼女との戦いにおいて、カイトは時乃の力を使ったのである。それを使わねば追いつけない程の速さだったのだ。

 そしてティナをして彼女は自身とも対等に話が出来る天才と言わしめる魔術師でもあるのだ。時乃の存在に勘付くには十分だったし、それを受けてカイトもまた存在を明かしていた。その理論を一部ここでは使っていた、もしくは使う事でエネフィアと地球の時の流れが同期されている事を理解したのだろう。


「……いや、それは後だ。ティナ、とりあえず陛下に状況の報告をする必要がある。合わせて、検閲官も情報の統制が取れる者にするべきだろう。取り急ぎ、その装置の概要をまとめてくれ」

「わかった」


 カイトの指示を受けて、ティナが早速この通信機の詳細を調べるべく行動に移る。いくら彼女だろうとそんなたった数分で設計図と仕様書を全て読める筈がない。ここから詳しく調べる必要があった。と、そうして作業に取り掛かったわけだが、そこに扉のノックする音が響いてきた。


「ご主人様ー。遅れていた方々がご到着しました」

「ああ、来たか」

「カイト、どうしたんだ? 急に帰還しろ、と聞いたんだが……」

「ああ、説明するから、とりあえず適当な所に腰掛けてくれ。それ以外の面子は一度休憩だ」


 カイトは瞬を筆頭に外に出ていた面子が来た事を受けて、桜達には一度休憩を取らせると共に彼らへの状況の説明を行う事にする。そうして、遅れていた面子への状況の説明が開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1533話『地球からのメッセージ』

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