表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1561/3945

第1530話 もう一つの遺言

 コナタ・カナタの処遇が決まり彼女が冒険部へ来て翌日。とりあえずカイトは上層部に向けて彼女の事を紹介する事になっていた。


「というわけで、この子にはオレの補佐をしてもらう事になる。まぁ、正確にはオレの補佐をする椿の補佐という所だな」

「はじめまして」

『よろしくね、皆さん』


 ぺこり、と何時もの調子で頭を下げたコナタに合わせて、鏡の中のカナタが優雅に頭を下げる。やはり当初は鏡を介して行われる会話には一同驚きを浮かべていたものの、彼女自身が旧文明の生き残りという事も相まってこういう事もあるのだろう、と受け入れていた。

 なお、カナタについては当然一同見ていたわけであるが、カイトなので何かこういう事もあるのだろう、と一緒に受け入れていた。


「さて……」


 ひとまずのコナタの紹介を終わらせたカイトはその後普通の業務に取り掛かる事にする。別に何かをしなければならないわけではないし、適時依頼があれば彼も外に出る。

 が、やはり彼はギルドマスター。彼が直々に動くに足ると判断された依頼の場合に動くのが適当だ。今の所、彼が急場で動かねばならない仕事はなかった。そしてこれは彼だけでなく、上層部全体がそうだ。

 腕を落とさない為、という事で討伐の依頼を受ける事はあっても、基本的にやはりギルドでの立場もあって一般からの依頼を受けて動く事は少なかった。

 というわけで、今日はソラを除いた大半がでかい依頼の後という事もあって執務室に控えていた。出ているのはオプロ遺跡での軍の調査に立ち会っているアル・リィルの両名に加え、冒険部を代表してシャルロット――これは表向きで内々には当時の文明を知る為――だろう。


「ふむ……椿。天桜からの先月の収支報告書は届いているか?」

「いえ、収穫祭での収支報告がありましたので、少々遅れとと連絡が」

「そうか……が、それにしては些か遅れている。別に期日が迫っているというわけではないが、こちらでの監査も必要だ。少しせっつかせておいてくれ」

「かしこまりました」


 とりあえず執務室に入っているのなら溜まっている書類仕事でも終わらせるか。カイトはおよそ一ヶ月に渡ったオプロ遺跡での調査任務の間に溜まった書類を終わらせるべくペンを走らせる。と、そんな事をしていると、部屋の扉がノックされた。そうして入ってきたのはアルだった。


「ただいまー。とりあえずこっち、終わったよー」

「ああ、アルか。軍の基地は良かったのか?」

「そっちは姉さんが報告に向かってるよ。僕はこっち……シャルちゃんは先にお風呂入るって」

「なるほどな。あいつも風呂好きだからな」


 アルから教えられたシャルロットの状況に、カイトが僅かに苦笑を浮かべる。やはり直轄の主はカイトだからだろう。アルはそれ故にこちらにも一応帰還の報告を、というわけだった。


「で、どうだった?」

「うん。一応大規模な調査隊が組まれたわけだけど……やっぱりもう何も無い、って。一応、あの後に見付かったのは、彼が残していた情報にあったゴーレムを格納していた格納庫ぐらいだよ。中身は言わずもがな、ほとんどすっからかん。残ってたのは破壊されて修理待ちか、経年劣化で動かなくなってた機体ぐらいだって」

「そうか……」


 最後の調査にてヴァールハイトの遺言とも思しきメッセージを受け取っていたカイト達であるが、そこには彼が意図的に情報を隠匿していた警備ゴーレムの格納庫の情報もあったらしい。

 やはりこれについては警備上の問題から地図に記される事はなく、また通常の手段ではたどり着ける事も出来なかった。これについては彼の死と共に遺されていたメッセージに行き方と必要な手段が記されており、それを頼りに軍が突入したらしい。


「っと、わかった。それについて報告書を書く必要もあるだろう。確かに帰還の報告は受け取った」

「うん。じゃあ、僕は軍に提出する資料を作るよ……もし何かあったらまた言ってね」

「ああ」


 カイトは自席に向かうアルの背を見送ると、再び書類仕事に戻る事にする。と、そうして暫くすると頬を上気させたシャルロットもやって来た。


「ふぅ……さっぱりした。下僕、湯上がりのワインは無い?」

「おいおい。朝っぱらから飲まないでくれ」

「冒険者は、こういうもの……でしょう?」


 カイトの僅かに楽しげな苦言に対して、シャルロットが少しだけ冗談めかして笑う。まぁ、確かにそうといえばそうだ。実際、こんな風にギルドの上層部の為に執務室が用意されていても、そこで書類仕事を何時間もしているギルドは非常に珍しい。

 普通はエルーシャの所の様にラン等の執務専門の者が居る為、その者達が実際に動く者達の為に書類仕事をしている。それこそオフなら朝から酒を飲んでいる冒険者が珍しいわけではなかった。実際、瞬が見た<<暁>>なぞその代表例だろう。

 とはいえ、だ。今回の場合はシャルロットがカイトに近寄ったのは敢えて言えば偽装だった。そうして彼の腰掛ける椅子の肘置きにもたれ掛かった彼女は、机の影からカイトにのみわかる様に一つの魔石を差し出した。


「……ヴァールハイトの遺言の原本よ。どうやらあの男。私だと知って、別途用意したみたいね」

「中身は?」

「……」


 シャルロットがカイトへと無言で中を見る様に促した。それに、カイトは魔石を専用の魔道具にセットしてヘッドセットとリンクさせる。


『……やぁ、これを聞いているのはカイトくんと女神様のどちらか、かな。まぁ、少なくとも二番目には君が聞く事は間違いないだろう。なにせこの媒体は我々の時代に使われていたもので、女神様かその関係者ぐらいでないと見付けられないだろうからね。となると、彼女が聞いて君が聞くか、君が見付けて君が聞くか、のどちらかだろう』


 流れていたのはヴァールハイトの声だ。どうやら、このメッセージはカイトが聞く事を想定して作られているようだ。


『まずは、改めて君に詫びておこう。色々と迷惑を掛けてすまなかったね。そして、カナタとコナタをよろしく頼むよ』


 まず語られたのは、娘を頼むという事とこの事件を起こした事への詫び。まぁ、全体に向けての遺言にも遺されていたが、それとは別にカイトに向けて改めて謝罪を、というわけだったのだろう。


『さて……それでわざわざ私が全体へのメッセージ以外にこれを遺したのは理由があってね。君なら、私の本意に沿って行動してくれるだろうから、君に向けて遺言を遺させてもらった』


 ヴァールハイトはそう言うと、一つ息を吐いた。そこには僅かな悲しみが乗っていたのは、勘違いではないだろう。


『君ならわかると思うが、私が出されたのは私が有用だから、というわけだ。所長曰く、私の様な者が冷凍刑を解除されている事は女王陛下も知らないという事だった。それで、まぁ……君ならわかるだろうが。私があそこで研究をしていた理由は実は二人の為でね』


 二人。これが誰を指すか、と言うのは改めて言われるまでもなくカナタとコナタの事だろう。とはいえ、これは中々に不思議な話と言える。

 カナタ曰く、『天使の子供達エンジェリック・チルドレン』については彼が捕らえられる前に完成していたそうだ。そしてそれ故、彼は捕らえられる事にしたらしい。

 娘の身の安全の確保を引き換えにして、だ。あのまま自分が居れば確実に娘にも危険が及ぶ。そう考えたのである。そしてあの当時、研究が完成していた事は誰にも知られていなかった。

 現にシャルロットさえ『天使の子供達エンジェリック・チルドレン』を知らなかったし、完成しているとは露とも思っていなかった。当然だ。研究していたのは彼一人。完成を知るのは彼と被験体であるカナタだけだろう。実は子供に対する人体実験等が知られる事になったのは、彼が意図的に露呈させたからだそうである。

 敢えて自分の口を物理的に封じ、カナタとコナタに黙する様に命ずる事で彼女らの身の安全と自由の確保を図ったのである。そしてこれは上手く行ったそうだ。

 世間は非道な父の人体実験を施された哀れな娘として、二人を保護した。完成体だとは誰も知らなかったそうだ。いや、それどころか『天使の子供達エンジェリック・チルドレン』の事さえ知らなかった。


『……実は、所長がカナタが『天使の子供達エンジェリック・チルドレン』の完成体……いや、『人造天使アーティフィカル・エンジェル』に似た存在である事を嗅ぎつけたらしくてね。彼女を人質にされたのさ……もう、この時点で君ならわかるかもしれない。ああ、だからといって、怒りに任せてこの媒体を握りつぶす、とかはやめてくれよ。もう私にはこのメッセージは作れないんだから』


 ヴァールハイトは僅かに苦笑気味にカイトへと告げる。それにカイトは苦笑しつつ、先を聞く事にした。無論、その意味も彼は理解していた。そうして、ヴァールハイトが一度沈黙した後、深く息を吐いて告げた。


『……私が犠牲にした子供の中でも、かなり完成体に近い領域での改造を強要されていてね。従わなければカナタを解剖して調査させて貰う、と言われたのさ。私を出した程だ。あの所長なら本当にやるだろう。従うしかなかった』


 流石にこの事については、ヴァールハイトも非常に沈痛そうな様子が声に乗っていた。どうやら、彼としてもこれについては本意ではなかったのだろう。

 いや、そうだろう。彼は致命的に狂っているわけではない。一部が狂っているだけだ。娘を助ける事が成功している以上、これ以上の非道に手を貸す理由なぞ何処にもなかった。それをしていたのだから、何らかの理由があると考えて間違いなかった。そうして、彼の依頼が語られる。


『……その子達を救ってくれ。都合の良い話だとは思う。そして難しい依頼だとも思う。私も改造が施された者達が何処に移送されたかは、教えられていなくてね。教えるつもりも無かっただろう。私はただ、施術のみを命ぜられただけでね。が、少なくとも生きていた事は事実だし、施術に成功した者については生きている事も保証しよう……意識や意思が残っているかは、分からないがね』


 僅かに酷薄に、ヴァールハイトはどういう事情で連れてこられたのかは知らない事を言外に告げる。所詮、彼は一研究員に過ぎないのだ。そういった事を教えられる道理はないだろう。


『が……もしまだどこかで眠らされているのなら、頼む。あの子達を保護してやってくれ。これについて、君がエンテシア皇国に伝えるか否かは君に任せる。私は君の事しか知らない。だが、君なら任せられると判断した。その君が良いと思ったのなら、教えて協力を依頼してくれ』


 ヴァールハイトは真摯にカイトへと願いかける。それに、カイトは深くため息を吐いた。


「……やっぱ、あんたは鬼子母神だ。お釈迦様の救いが与えられなかった、な」


 鬼子母神が他人の子を拐い食わせていた理由。それはそれしか知らなかったからだとカイトは考えていた。だから彼女はザクロを与えられて以降、その様な凶行は無くなった。

 無論、これは日本の俗説だ。が、この場合はそれで良いだろう。彼の場合はそのお釈迦様が居なかった。だから、自分で娘を救うしかなかった。それが喩え非道な行いであろうとも、だ。

 もしカナタが病気でさえなければ、彼は少し親馬鹿なだけの良き研究者になれただろう。カイトは、そう思った。と、そんなヴァールハイトの遺言はまだ続いていた。


『……まぁ、こんな難行を依頼するんだし、君達は冒険者だというのだろう? 勿論、依頼料は用意しているよ。あ、カナタとコナタじゃないからね? 報酬は、とある魔石。その鉱脈のある鉱山を教えよう』

「鉱山……?」


 何故そんなものを報酬に。カイトはヴァールハイトの言葉に首をかしげる。が、その名を聞いて、思わず目を見開く事になった。


『……数年前。まだ戦いが起こる前の事だ。我々の文明で『振動石(ヴァイヴ・ストーン)』と言われる石が見付かってね。君が言っていた、北の遺跡で見付かったという洗脳解除用の魔道具。あれのコアとなる部分だ。実はあの鉱脈を一つ、私も知っていてね。偶然、とあるマフィアとの仕事をしている時に見付けたものだ。当時はまだ正式名称さえ無い石だったこともあり、マフィア達は利用価値は無いと興味を示さなくてね。私も何かに使えるかも、とサンプルを少し持っていただけだ。あの後の事を考えても、採掘はされていないと思われる。その鉱脈の場所を記した資料をとある場所に隠した』

「……」


 これは、もしかすると。カイトはこの依頼を受ける利益を理解して、思わず前のめりになっていた。本当にもしかすると、この情報次第では今度の戦いを左右しかねない内容だった。そうして、更にヴァールハイトの話を聞く事にする。


『とある場所……それは君が依頼を達成したと判断した際、わかる様になっている。無論、嘘ではないよ。警備ゴーレムの一体に実は密かにサンプルは回収させていてね。胴体の中に仕込んでいる。そこに、一緒に報酬の受け渡し方法を含めて仕込んでおいた。それを確認してくれ……では、頼むよ』

「……」


 これは明らかに乗るべき話だろう。カイトは机をトントン、と叩いて横に椿を控えさせながら即座に動ける様に手配を始める。そうして終わったと見てヘッドセットを外そうとして、しかしまだ言葉は続いていた。


『さて……これで本題は終わりだ。ここから先は個人的な話だ。娘には幸運な事に遺言を残せたが、最後に得た友人である君に何も残さないのも不思議な話だろう。故に最後にファルシュとして、君にも私個人としてのメッセージを遺しておこう……達者でね。そして、今度こそ勝ってくれ。ああ、それと。もし機会があれば、ツィアートさんに迷惑を掛けたね、奥さんを大切に、と伝えておいてくれ。では、以上だ』

「……あいよ。ファルシュさん」


 最後に遺されていたファルシュとしての自身への遺言に、カイトが僅かに微笑みを浮かべる。そうして、カイトは一息吐いて一転して気を引き締めて、彼の遺した情報を確かめるべく即座に動く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1531話『繋がる兆し』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ