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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第72章 繋がる兆し編

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第1529話 何時もの日常

 ソラ達が出発してすぐ。カイトはそのまま飛空艇を見送っていた。と言っても、既にもうそれも終わった後だ。なので残っているのは見えなくなるまで見送るつもりなのだろう由利とナナミ、そしてカイトとティナぐらいなものだった。


「……行ったか」


 飛び去っていく飛空艇を見ながら、カイトが呟く。そんな彼に、ティナが問いかけた。


「何を思うておる?」

「……そうだな。どんな顔をして帰ってくる、か、という所だ。男子三日会わざれば刮目して見よ、って言うだろう?」


 ティナの問いかけにカイトは苦笑ながらにそう告げる。ここからソラは短くも長い旅に出る事になる。それを経た彼が何を得て、どんな事を考えているのか。それが彼の顔に出る事だろう。


「そうじゃのう……良き旅路である事を祈ろう」


 カイトと共に、ティナが去っていった飛空艇を見上げる。と、そんな二人の背後から声が掛けられた。


「カイト殿?」

「ん?」

「ああ、やはりカイト殿か。黒髪になられていたので驚いたが……ということはそちらはユスティーナ様か?」

「アコヤ殿?」


 振り向いたカイトの顔を見て一つ頷いた男性の顔に、カイトが目を見開いた。彼に声を掛けたのは、カイトが知る人物だった。が、それでも驚いていた理由は、彼はこの大陸には居ないはずの人物だったからだ。


「カイト殿がここに、という事は……大兄上は?」

「ブロンザイト殿でしたら、先ごろ……」

「……そうでしたか……」


 アコヤと呼ばれた人物がカイトの言葉に深い溜息を吐いた。その顔は非常に残念そうだった。と、そんな風に話を始めた事に、由利とナナミがいぶかしんだ。


「知り合いー?」

「……あ、ああ。ブロンザイト殿の弟君だ。ブロンザイト殿が長兄。彼が末弟だ。そして珠族の族長でもあらせられる」

「はじめまして。シソーラスとお呼びください」

「こっちの二人は……ソラの恋人です」

「そうでしたか……」


 カイトの紹介を受けたアコヤが頷いた。それに、由利とナナミも自己紹介を行った。そうしてそれが終わった所で、アコヤが残念そうにカイトへと話を始めた。


「……話は娘より伺いました。ひと目お会いしようと来たのですが……間に合いませんでしたか」

「……そうですね。たった今、発たれました」


 カイトはたった今飛び去った飛空艇を見上げる。まだ見える程の距離だ。が、流石に彼の為とはいえ引き返させるわけには、いかなかった。そうしてしばらくの沈黙が流れる。


「……ああ、ここで立ち話もなんですか。二人の事もあります。長旅の疲れもあるでしょうし……公爵邸へと参りましょう」

「……そうですね。兄に会えなかったのは無念ですが……そうさせて頂きます」


 カイトの申し出を受け、アコヤは一つ頷いた。そうして、カイトは彼を伴って公爵邸へと向かう事にするのだった。





 ソラが旅立って数日。アコヤはパールメリアとパールメルアの二人と少しの話を行うと、数日公爵邸にて厄介になり、そのまま自らの一族が拠点としている大陸へと戻っていった。妻も一族もあちらに居る。長居はしていられない、との事であった。

 今回は常に旅をする長兄が珍しくすぐに行ける所に滞在している、と聞いて取るものも取りあえずやって来たそうだ。それだって妻や一族の他の者よりの勧めがあっての事との事だ。その一方のカイトはというと、アコヤの見送りを済ませるとソラからの第一報を受け取っていた。


「ふむ……」


 ソラからの手紙には、ラグナ連邦に着いた事が書かれていた。基本的に彼には可能なら三日に一回、不可能なら一週間に一回手紙を書かせる様にしている。


「とりあえずはラグナ連邦に到着か。まぁ、いくらチャーターしたからと言っても通常の国際線か。今回はこれだけで当然か」


 基本的にカイトが乗るのはマクダウェル家が開発した飛空艇だ。なので速度についても一般に普及しているものとは段違いの性能を有しているわけであるが、それは当然マクダウェル家の物だ。

 ラグナ連邦との連絡船はもっと性能が低い。しかも大陸の東端から西端までの連絡船だ。必然として数日掛けての移動となっていた。チャーターした理由は積荷があるからだ。


「ふむ……とりあえず、向こうの検閲に立ち会った、と……となると、明日からは行動開始かな……」


 これから少しの時間を掛けて、ソラというかブロンザイトは流行の兆しが見えている地域に物資の輸送を行う事になる。その主導するのはブロンザイトで、ソラはその補佐をしつつその手腕を学ぶのが今回の目的だ。明日からが本格的なスタートと言って良いだろう。特に目立った内容は書かれていなかった。


「まぁ、そんな所か」


 カイトはソラの報告書を読み込むと、それを折りたたんで引き出しのファイルに仕舞っておく。


「ふぅ……」


 手紙を引き出しにしまうと、カイトは一つ息を吐いた。と、そんな彼へと偶然近くに居た瑞樹が問いかける。


「あら……? その小箱は? そんな物ありましたっけ?」

「ん? ああ、これか」


 瑞樹が興味を示したのは、カイトの机の片隅にいつの間にか置かれていた青い箱だ。外側からは資料の影になっていて見えない形になっており、今まで誰も気付かなかったのだろう。

 簡素な箱ではなくかなり品がよく、例えば宝石等を仕舞う様な箱に思えた。それ故に盗まれたりしない様に敢えて影に置いておいた、というわけなのだろう。


「ちょっと、ブロンザイト殿から預かったものでな。少し理由があってここに置いている。基本、ここに置いているから動かさないでくれ」

「はぁ……大事な物なんですの?」

「そうだな。大事な物と言って良いだろう」


 瑞樹の問いかけにカイトは一つ頷いた。そうして彼は箱の蓋をとんとん、と人差し指で軽く叩く。それに、瑞樹が首を傾げた。


「?」

「封印だよ。オレ以外が安易に開かない様にな。別にここの奴らを信じていないわけじゃないが……中が中なんでな。オレが居ない間に盗まれたりしない様にしておきたい。執務室に誰も居なくなる事も無いわけじゃないからな」

「はぁ……」


 どうやらよほど大切な物なのだろう。カイトはこれが盗まれたりしない様に厳重な警戒をしている様子だった。それなら引き出しや金庫にでも仕舞っておけと思わなくもない瑞樹であるが、カイトがその程度の事を考えつかないとは思えない。なので外に出しておかねばならない理由がある、という事なのだろう。


「で、どうしたんだ?」

「あ、はい。こちらを。以前のオプロ遺跡の調査任務での調査報告書が皇都の方で受領されたとの事で、依頼の達成報告が入っておりましたわよ」

「ああ、なるほど。受け取っていてくれたのか。助かった」


 カイトは瑞樹が持ってきた依頼の達成証明書を受け取って、封筒を開く。これで正式にオプロ遺跡の調査任務は完了した事になる。

 まぁ、幸いにしてあの遺跡は最後まで残っていたらしいので汚染の可能性は無かった。なので結果として本来の目的となる邪神の残党の捜索については、無駄に終わってしまった形だ。が、それを確かめる為の調査だ。無駄に終わった事を喜ぶべきだろう。


「ふむ……体裁としても問題はないな。良し。後は下で入金を確認してもらえば、問題無しと」


 カイトは瑞樹が持ってきた書類を確認すると、これについては第二執務室行きとする。後はこれを第二執務室の方でコピーしてユニオンが運営している銀行に入金を確認して貰えば、この案件については金銭の授受を含めて全て終了と言って良いだろう。


「さて……とりあえず足元については、何とかなりそうかね……」


 ふぅ、とカイトが一息吐く。現在調査の進捗状況はまだ全体の二割にも届いていない。一番最初に始まって一番最初に終わったのはカイト率いる冒険部だ。その次に始まったのは、最初に皇帝レオンハルトが根回しを行った<<(あかつき)>>。ここは人数が多いという利を活かしてマクダウェル領にある遺跡の中でも最大の物の再調査を行ってくれていた。

 他にも盗掘の怖れの少ないと判断されたギルドには調査を依頼しており、まだ半ばという所であるがひとまず今の所何か異変が起きていない事が報告されていた。この中の何割に敵が潜んでいるかは分からないが、少なくとも全てではないだろう。安心は出来そうだった。というわけで、とりあえずの安心が出来そうな事を受けてカイトは机を叩いて通信機を起動させる。


「ティナ。オレだ。今、少し大丈夫か?」

『うむ。良いぞ』

「ああ……カナタの武装については何とかなりそうか? 飛空艇を軍工廠に持ち込んだまでは聞いてるが、それ以降が気になってな」

『ああ、そういえばそこはまだ報告しておらんかったか。うむ。とりあえず一通り回収したわけじゃが……やはり余が思った通り、全体的に専門家ではない物によって開発された物と言わざるを得ん。とはいえ、それでも途轍もない逸品と言ってよかろうな』

「やはり、か……詳細を報告してくれ」


 あの<<堕天使の羽衣フォーリナー・アーマー>>の時点で素材が緋緋色金(ヒヒイロカネ)だったのだ。逸品である事には間違いないとはカイトも思っていたが、案の定専門家ではないのである程度の拙さは見えたものの一般的な水準は超えていたらしい。それなら、それ以外についてもその水準にあると考えていた。


『うむ。まず、あの飛空艇じゃが、あれは格納庫であると同時にもし破損した場合には修復する機能も備わっておる様子じゃな。敢えて言えばカナタ専用の移動基地と言ってよかろう。こんな物が数千年前にできていたとは……余も驚きと言うしかない』

「技術水準で言えば今の方が遥かに下。不思議もないだろ」


 僅かな驚きと多大な興味を覗かせたティナに、カイトはため息を吐いた。それに、ティナも同意する。


『そうじゃがな。ああ、それでついでになるが、基礎となった飛空艇についてはやはり現代の物より上と言って良い。これは流石にヴァールハイトの開発では無いじゃろう』

「そうか。それについても修繕と可能ならリバース・エンジニアリングを頼む」

『うむ。こちらでやっておこう。幸か不幸かウチの面子が揃っておって幸いと言えるじゃろう』


 カイトの要請にティナがはっきりと受諾を示す。カナタの鎧については当時の水準や当時の技術を知る意味程度の意味しか無かったが、こちらの飛空艇については非常に興味深い物があったらしい。

 特に飛翔機については現代の量産された飛空艇では難しい超高空への飛翔が可能等、ティナからしても色々と興味深い点がある。これについては是非とも解析するべきだろう、と考えられていた。

 更には相対位置の固定等、宇宙空間での活動をどういう理論で行っていたのかも、人工衛星の打ち上げを行っている現状では非常に有り難いデータだ。今回の収穫で最大の物はこの飛空艇と言っても良かっただろう。


「そうだな。それで、鎧についてはどうなっている?」

『おお、そう言えばそうじゃったな。これについてはやはりお主の見立て通り、魔導鎧と魔導殻の中間と言ってもよかろう。出力についてもそれ相応と言って良い。なかなかに面白い物はある、と言ってよかろう。が、この理論の見直しを行えばかなり取り回しはよくなろう』

「わかった。それについては頼む」


 ティナの報告にカイトは頷いて、それについてはまた別途公爵としての裁可が必要となる為、そちらに書類を回す様に指示を出す。そうしてそこらの指示が終わった所で次にカイトは少しの用事を任せていた椿に連絡を入れる事にした。


「ああ、椿。そちらはどうなっている?」

『はい。この通り、とりあえずの仕立ては終わっております』


 カイトの問いかけを受けた椿はカメラを横のメイド少女へと向ける。


『……ん』

「おぉ、似合ってるじゃん。それなら問題はないだろう」

『……』


 カイトの称賛にコナタはどこかぽやん、とした様子ながらも嬉しそうな様子だった。やはりコナタ・カナタを引き受けた以上困ったのはその取り扱いだ。彼女の身の保証はカイトが行っているし、かといって公爵邸に置いておくわけにもいかない。なので彼女については椿と同じくカイトの秘書として配属してもらう事にしたのである。


「それで、家事の方はどうだ?」

『一通り、出来るかと……ただ、その……』

「どうした?」

『……書類仕事は、その……避けられた方が良いかと』

「そうか。まぁ、気にしちゃいないさ。そもそもこの人事はあくまでも、彼女をオレの補佐として置いておく為の措置だ。現状だとまだ彼女の身分証を作れるわけでもなくてな」

『理解しております』


 笑いながら再度の事情説明に椿が腰を折る。コナタはまだしも、やはりどうしてもネックとなるのがカナタだ。彼女はコナタの安全を確保する為にも、ヴァールハイトによって作られた戦闘用の人格とする事となっている。

 なので今回の一件を受けての彼女の暴走を危惧する軍の手前、冒険部の冒険者として登録する事は出来なかったのだ。後々にはカイトが手を回すつもりだが、どうしてもすぐに、というわけにはいかなかった。その結果、妥協案としてカイトの秘書の一人とする事になったのである。立ち位置としては一葉達と似た様な所と考えて良いだろう。


「ま、ヴァールハイトさん曰く、家事は出来るという事だ。お前が忙しい時にでもお茶くみでもさせてやってくれ」

『かしこまりました』


 カイトの指示に椿が再度腰を折る。やはり冒険部の規模の拡大に伴って、彼女の仕事も増えている。どうしても彼女一人では無理な時もあった。

 そういう事を考えれば、彼女にとってもこれは幸いな事だったのだろう。敢えて言ってしまえば彼女の補佐官だ。本来椿が秘書である事を鑑みれば、彼女は秘書室の室長。カナタとコナタはその部下と言って良い。そうして、カイトは更にコナタの処遇の対処を行いながら、その日を過ごす事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1530話『もう一つの遺言』

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