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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1526話 オプロ遺跡 ――新たな一日を――

 オプロ遺跡で起きた事件からおよそ三日。その日の朝に、コナタは目を覚ました。


「……あ、起きたわね」

「……おはようございます」

「え、あ、はい。おはようございます」


 起きるなり普通に挨拶をしたコナタに一瞬呆気に取られたミースであるが、それに笑って挨拶を返す。そんなコナタであるが、そのまま周囲を見回していた。


「どうしたの?」

「鏡……どこかに無い?」

「あぁ、鏡ね……そこにあるわ」


 ミースはコナタの問いかけを受け、彼女の寝ていたベッドの横に置かれていた手鏡を指さした。それを受けて、彼女は手鏡を手に取った。


「……おはよう」

『ええ、おはよう。コナタ』

「へ?」


 唐突に響いたカナタの声に、ミースが再度呆気に取られる。無論、カナタの事は彼女も聞いている。が、それがこんな風に会話が出来るとは思っていなかったらしい。


『ふふ……私達は表裏一体。鏡を介せば普通に話せるの』

「父様が創った魔術」


 カナタの言葉に続けて、コナタが何時もの表情でヴァールハイトが創った魔術である事を明言する。この様子だと記憶の復元も上手くいったようだ。そうして少しの話し合いの後、ミースはカイトを呼びに行く事にした。


「ふーん……そういう感じなわけか」

『そういう事。逆も勿論、出来るわ』


 目覚めたカナタとコナタの二人から大凡の事情を聞いていたカイトが大凡に納得する。やはり色々と稀有な状態にあるのがこの二人だ。肉体としても精神としてもかなり稀有らしい。

 多重人格とも少し違う、何か不思議な感じになっているらしい。と、そんなわけである程度の自分達について語ったカナタは、論より証拠とコナタと入れ替わる。


「こんな感じ」

『……』

「なるほど。にしても、これはある意味凄いな」


 カナタと入れ替わったコナタであるが、コナタの行動はどういうわけか鏡の中で確認出来た。確かに動くことこそ出来はしないのだが、微妙な表情の変化がそこにはあった。単に鏡に映るだけではなく、この魔術を使っている間は鏡に映る自身も変化するのだろう。


「朝の支度とか、苦労しないのか?」

「カナタが教えてくれる」

『私はやらないわ』


 どうやら相手の顔は鏡の中からでも確認出来るらしい。コナタの顔をカナタが見て、それで異変をチェックして報告してくれているという事なのだろう。彼女らならでは、と言えた。


「なるほどね……」


 この様子を見れば、コナタが鏡を見る度に違和感を覚えていたのも納得が出来るというものだ。そもそも彼女には自分の顔を自分で見るという習慣があまり無いのだ。

 いや、カナタの顔は自分の顔なので見ている事には変わりないのだろうが、それでも微細な表情は違う。カイト達からすれば自然でも彼女らからすれば見慣れない光景があれば、違和感を感じて当然だろう。


「まぁ、それならそれで良いだろう。で、改めて一応二人に聞いておくが、オレの所で良いんだな?」

『ええ、勿論』

「ん」


 カイトの問いかけにカナタが明言し、コナタがそれに同意する様に頷いた。これについては一度起きた際にヴァールハイトの遺言として伝えており、それに従う事で二人で合意したとの事だ。


「カナタが戦いたがってる」

『そうね……私はあいつらと戦う為に力を蓄えた。なら、それを存分に振るわせて頂戴』

「はぁ……まぁ、ウチの面子と同年代って事だから止める道理はないか」


 やはり病という事もあり、高校生には見えにくい容姿だ。カイトとしては何か釈然としないものがあるが、年齢を偽る様な事は無いだろう。意味もないからだ。

 そして彼女が何度と無く明言していたが、父の追手と戦うべく何度と無く戦ってきた事だろう。天桜学園の生徒以上に、十分に戦いの現実を直視出来る戦士と断言して良い。カイトという優れた指揮官の下でなら、並の戦士以上に活躍してくれるはずだ。


「わかった。とりあえずカナタについてはオレの指揮下に入ってもらう。所属はウチ……冒険部扱いだ。が、非公式には一葉達と同じくオレの側近としての立ち位置だ」

『あら……光栄ね』


 カイトの指示にカナタが何時もの笑みを浮かべる。とはいえ、彼女ほどの実力だ。一葉達やホタルの足手まといにはならないだろう。順当な判断と言っても良かった。


「さて……で、二人共。こっちの二人が伝言を預かっているそうだ」


 カイトはそう言うと、シャルロットとティナの二人を指し示す。それに、コナタもカナタも複雑な表情を見せた。


『伝言……ね。遺言、ではないかしら』

「そう、言っても良いわ。貴方達のお父様から、それぞれ一つずつ遺言を預かってるわ」

「まず、コナタ。お主には母の海を見てきてくれ、だそうじゃ」

「海……うん」


 ティナから父の遺言を受け取って、コナタが一つ頷いた。そうしてそちらを伝え終わった後、コナタとカナタが入れ替わる。


「……」

「カナタには健やかに育て、だそうよ」

「……そう。外道なお父様らしくない遺言ね」


 シャルロットからヴァールハイトの遺言を聞いて、カナタが僅かに視線を逸らす。その眼に光る物があったのは、おそらく気の所為ではないだろう。そうして、彼女が小さく呟いた。


「……バカ。だから、お父様はバカ親なのよ」


 カナタのつぶやきは、どこか寂しげだった。なんだかんだ言いながらも、彼女もまた父親として慕っていたのは事実なのだろう。そうして、しばらくの間一同はカナタとコナタの二人が感情の整理が出来るまでを待つ事にするのだった。




 さて、カナタとコナタがヴァールハイトの遺言を受け取って更に一日。カイトは久方ぶりにマクスウェルへと帰還していた。が、帰ったのは彼とティナ、更にはカナタだけだ。というのも、この帰還にはとある理由があったからだ。


「……私達の文明も大概、馬鹿げたものを造ったとは思ったけども。負けず劣らず馬鹿げた物を造ったものね」

「どやぁ」


 魔導機を見て呆れ果てるカナタの言葉に、ティナがご満悦で胸を張る。まぁ、そういうわけだ。少しの理由があり魔導機が必要となり、マクスウェル近郊にある軍基地に来る必要があったのである。で、その魔導機が必要になった理由とは。


「今回お主にはカナタの兵装を回収して貰う。とりあえず上がれば回収は出来るんじゃな?」

「ええ、出来るわ」

「うむ。まぁ、流石にあの高度にあって何かが起きるとは思えんがのう。それでも精密検査はしておくべきじゃろう」


 カナタの明言に頷いたティナは専用の外装を施されたカイト専用の魔導機を見上げる。以前衛星を打ち上げて色々と鑑みられた結果、更に飛翔機を増設するべき、となったらしい。

 肩の部分に大型の飛翔機が増設されていた。その代りとして幾つかの兵装が装着出来なくなったが、これはあくまでも移動用として考えられているとの事であった。


「あれ以外にも幾つか兵装がある、ねぇ……ある意味本当にバカ親な事で」

「そうね。私も同意するわ」


 呆れた様なカイトの言葉に、カナタもまた同じ様な笑みを浮かべて同意する。昨日あの後色々と聞いた事なのであるが、どうやらカナタの為に造られた兵装はあの一つだけでは無かったらしい。

 ホタルと同じ様に幾つもの状況に対応出来る特殊兵装を開発して、彼女がどんな状況でも戦える様にしていたとの事であった。で、それはどうやらこれまたヴァールハイトが開発した格納庫に入れられ、今もまだそのままだという事であった。


「ま、そりゃ良いわ。生物学系の科学者であったアヤツであるが、それ故に色々と設計に甘い所があった。ここら、やはりアヤツは専門家ではなかったという所があろう。改良の余地が多い。折角こちら陣営に加わって今後活躍してもらう以上、回収して改良しておかぬ手は無い」

「りょーかい。回収してきま」


 ティナの改めての解説に、カイトが了承を示す。これはヴァールハイト自身が言っていた事だが、やはり彼の専門は薬学と生物学系だ。数日前にカナタが装備していた兵装はまだまだ構造等に甘い所が多く、改良の余地有り、と判断されたそうだ。というわけで、回収して改修を加える事になったらしい。そうしてカイトはカナタと共に魔導機のコクピットに乗り込んだ。


「さて……アイギス。状況は?」

「イエス。各部異常なし。以前の戦闘で破損した部位も修復が終わっています」

「りょーかい。今回も今回で宇宙空間への移動だが、問題は?」

「ノー。何時でもどうぞー」


 カイトの問いかけにアイギスは何時も通りの様子で返事をする。適時宇宙へ上がって静止軌道上に衛星を浮かべていたが、その際には魔導機を常用していた。

 地球のスペースシャトルとは違い魔導機は使い回せる。しかも大気圏の突入に使うのは魔術的な障壁だ。費用については気にせずに打ち上げられる。なので、ここ数ヶ月に渡って数十度打ち上げていた。それと同じ事をするだけだ。彼女にとってはもう慣れた作業と言えた。


「良し……カナタ。そこでじっとしていてくれよ」

「ええ」


 コクピットの端っこで座るカナタにカイトが告げる。そうして、カイトは何時もと同じ様に宇宙空間への移動を行った。


「さて……アイギス。現在の高度は?」

「現在の高度はおよそ地上より百キロ……この高度で良いんですか?」

「ええ、大丈夫よ。基本はこの百キロ上に浮かべていて、私がこの高度にまで飛翔した時にはこちらに来る様に設定しているの。あまり高いと逆に静止軌道になってしまうし……そうなると、移動させるのに時間が掛かってしまうもの」


 まぁ、分からないではない。地球では静止衛星を設置する上で静止軌道に置く事が重要とされるわけであるが、エネフィアでは実は静止衛星に置く必要はない、とティナが結論付けていた。魔術を使用すれば重力の影響をキャンセルしたり、相対位置の固定を行う事が出来るからだ。

 特にこの後者となる相対位置の固定が非常に有り難く、魔力を安定供給可能な小型魔導炉と静止衛星とのリンクが可能な施設さえ開発できれば、それだけで静止衛星となる。

 なのでカナタの特殊兵装の格納庫もこれだけの低高度での維持が可能――こちらの場合は格納庫が巨大な為、施設が必要無いらしい――だという事だった。


「りょーかい。じゃあ、ちょっと外に出るか」

「この高度だとちょっと寒いぐらいですねー」

「ちょっとで済まんわ……一応、遮蔽はしておけよー」

「イエス!」


 カイトはアイギスの声を背に聞きながら、カナタを伴ってコクピットから外に出る。そうして外に出てホタルが動かした魔導機の手の上に乗ると、カナタが僅かに意識を集中させる。


「……これで、移動してくる筈よ。でも、少し時間が掛かるわ」

「前、あれだけすぐに来たじゃねぇか」

「あれだけの時間を移動していたのは、何故だと思って?」


 カイトの言葉にカナタが笑う。それに、カイトも納得するしかなかった。あれはわざわざ被害の出ない所に移動して思う存分戦う事だけが目的では無かったようだ。

 そうして、しばらく。少しだけカイトも目を見開く事になった。というのも、現れたのは格納庫というより飛空艇だったからだ。大きさとしては現代に当て嵌めれば中型程度。当時の技術水準を考えれば不思議はない大きさだ。が、それでもこの高度まで持ってきて色々と行えるのは凄いと言うしかなかった。


「……こりゃまた。凄いものを造ったもんだ……費用はどこから出てた事やら」

「知らないわ。お父様、色々と非合法な組織と関わりがあったらしいし。実際、スポンサーの中には軍も居たそうよ」


 カイトの疑問にカナタは呆れながら当時の事を語る。あれだけの研究者だ。軍とて秘密裏に接触していても不思議はない。そしてだからこそ、研究所の所長も彼を出所させるという決断を下したのだろう。有用とわかっていたから、だ。


「そうか……こいつ、下に降下させられるか?」

「ええ……この高度への移動も余裕よ。お父様が自慢げに語っていた事を覚えているわ」

「良し。頼む」

「ええ」


 カイトの依頼を受けて、カナタが浮かび上がって飛空艇へと移動していく。カナタによる遠隔操作でも移動は出来るらしいが、安全面を考慮してコクピットからでないと降下はさせられないとの話だった。そうして、カイトはヴァールハイトが改造した飛空艇と共にマクスウェルへと帰還して、カナタの為に作られた兵装を改修する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1527話『閑話』

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