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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1525話 オプロ遺跡 ――朝日と共に――

 カナタとカイトの戦い。それはカイトが圧倒的な強さを見せつける事で、終わりを迎える事となる。そうして朝日と共にゆっくりと降下した二人を出迎えたのは、ティナとシャルロットの二人だった。


「こりゃ、また……歴史的な遺跡にはあるまじき残骸の山だな」

「しゃーないじゃろ。あそこまで大量のゴーレムが出たんじゃ。こうもなろう」

「そか」


 カイトはティナの報告にわずかに笑いながら一つ頷いた。一体どこにこれだけの数を収容していたのやら、と言いたくなるほどの数のゴーレムの残骸が周囲には散らばっていた。

 が、こちらも幸いにして近衛兵団が増援として来ていたり、飛空艇の艦隊が居た事もある。何より、ヴァールハイト自身が死者は出さない様にしていた。被害はそこそこという程度で抑えられたようだ。と、そんな彼にシャルロットが問いかけた。


「その子は?」

「寝てる。遊び疲れたって所だ……他の面子は?」

「そっちも、寝てるわ。大体2時間ぐらい掛かったもの」

「そうか……なら、寝かせておいてやるか」


 確かにゴーレム達はカイト達からすれば雑魚と言うしかないが、それでも冒険部のギルドメンバー達や近衛兵達からすれば一体一体が強敵と言わざるを得ないだろう。最後の一機を倒すまで時間が掛かったのも仕方がない。

 無論、途中からは二人も手を貸したし、ユリィとホタル達も手を貸した。それでもそれだけ掛かった、というわけだろう。そうして、カイトはそこらの諸々の確認事項に確認(重複)を取ると、最後に最も重要な事を問いかける事にした。


「……ヴァールハイトは?」

「……」

「……」


 カイトの視線を受けたティナがまずは首を振り、次に視線を受けたシャルロットが首を振る。そうして、ティナが教えてくれた。


「どうやらアヤツの本体はあのゴーレムの中に収められておった様子じゃ。更に片方はどうやら、あやつ自身を生体パーツとして使用しておった様子でのう」

「あれを」

「あれは……」


 シャルロットの指さした先を見て、カイトは僅かに目を見開いた。そこにあったのは、破壊された巨大なゴーレムの残骸だ。そしてその一つに、何度も映像として見ていたヴァールハイトの姿があった。


「即死は免れた、そうよ。無論、あの傷だと専門の医者の手を借りるか最高級の回復薬……『霊薬』クラスの物を使わなければ助かる見込みは無かったでしょうけど」

「……」


 シャルロットの言葉を聞きながら、カイトは一度彼女へカナタを預けるとゆっくりと浮かび上がる。そうして、ヴァールハイトの遺体の前へと移動するとそこで立ち止まった。


「……安らかな顔だな」

『そうね……少なくとも、満足して死ねたのでしょう』

「……そうか」


 ヴァールハイトがどれだけの大罪人であろうと、それで彼と過ごした日々が消えるわけではない。あの最後とて幾つもの思惑があっただろうが、同時にこれからの人類を憂いてのものでもあったことは事実だろう。故に、カイトは誰もが眠りに落ちた今を見計らって、僅かに黙祷を捧げる。


「……確かに、貴方の娘はお預かりしました。後は、ご安心を」


 小さく、カイトは大罪人ヴァールハイトではなくファルシュへと言葉を送る。と、そんな彼へと背後から声が掛けられた。


「……ああ、君か」

「ツィアートさん?」

「ああ……隣、失礼するよ」


 カイトに背後から声を掛けたのは、ツィアートだ。そんな彼は苦笑気味にカイトの横に立つと、僅かに黙祷を捧げる。


「立場上、そして彼のしでかした事を考えればこんな夜明けぐらいしか出来ないと思ったのだがね……君も同じ考えだったか」

「……まぁ、そんな所です」


 苦笑気味に口を開いたツィアートに対して、カイトは敢えて否定も肯定もしなかった。やはりこの調査隊の中で誰が一番ヴァールハイトと親しくしていたか、というとそれは言うまでもなくカイトとツィアートだろう。

 カイトは調査任務の後半では必要に駆られて単独行動を取ったが、ツィアートはその間もヴァールハイトと当時の事を話しながら色々とやっていたようだ。ここらはやはり人工知能の利点を活かして、という所なのだろう。


「そういえば……コナタについてはどうなるのだね」

「彼女ですか? 彼女は一時、マクダウェル公爵家での預かりとなります」

「そうなのか?」

「ええ……元々これが決定でしたし……それに何より、彼自身が今回の事件の全ての首謀者としての責を引っ被った。皇国の結論としては、あくまでも彼女……カナタは戦闘兵器として彼に造られた存在となります。コナタちゃんには、一切の責は及ばない。あくまでも彼女は父親の研究の犠牲者として扱われます」


 カイトは僅かに悲しげに、カナタの処遇を語る。これがカナタの決定でもあったし、彼女が今後生きていく上での必須条件でもあった。

 それ故にカイトは二人の保護を自身が行う事にしていた。そしてティナとシャルロットも同じ意見で、その手配を整えてくれていた。そんな彼の言葉を聞いて、ツィアートが口を開いた。


「そうか……彼から聞いていたが、彼女の保護は君に任せたい、ということだった」

「そうなんですか?」

「これでも、そこそこ腹を割った話が出来ていたとは思っていてね。昨日の時点で実は彼が偽名だという事も知っていたんだ。明日の朝……つまりは今か。そこまで待ってくれ、と言われたので黙っていたがね。まさか、こんな事をするとは……流石に少し想定を超えていたよ」

「はぁ……」


 嘘を言っている気配はなかった。なら、ツィアートは本当にヴァールハイトから本当の名を教えられていたのだろう。なお、後にツィアートからコナタの状況を伺う手紙を受け取った際、この時にコナタの保護を彼が申し出たとの事であった。それに対して、ヴァールハイトが少しの理由があってカイトに任せたい、と言ったとの事であった。


「彼が何者なのか、どんな研究をしていたのか、というのは私も知らないが……おそらく、まっとうな研究ではなかったのだろうね」

「わかるのですか?」

「同じ学者としての勘、だよ。学者にあるまじき事だとは思うがね……が、彼には得も言われぬ狂気というものが最初から滲んでいた。なんというのかな。私とも君達の所の研究者達とも違う……そう、何か根本的な部分の異質感があった」


 自分が感じていた所感を語るツィアートの顔には、どこか確信があった。学者だからわかる何かがあった、という事なのだろう。

 ここらの事はティナでも長く付き合えばわかったのかもしれないが、彼女は後方支援として背後に控えてあまりヴァールハイトと関わる事がなかった。分からなくても仕方がない。


「あはは……なら、言えと思ったかね?」

「いえ、別に。勘、と言ったという事は真実を確かめるべく動いていたんでしょう?」

「……まぁ、そんな所だと言っておこう」


 カイトの言葉をツィアートは敢えて否定も肯定もしなかった。もしかしたら、確かめて話がこじれて当時の情報を知れなくなるよりは。そう考えていたのかもしれないが、それは彼にしかわからない事だった。

 そうして、少しの間会話を交わした後、カイトは改めて冒険部の拠点へと戻り、ツィアートもまた自分が率いていた大学の拠点へと戻る事にするのだった。




 さて、ヴァールハイトが引き起こした事件から二日後。カイトは改めて皇国上層部との間での会議を行っていた。


『そうか……ならば、問題はあるまい。無論、遺跡そのものの事を考えれば問題があるとしか言えんが……』

「ええ……とはいえ、遺跡内部に残されていた情報という意味では問題は無いと断言して良いでしょう」


 皇帝レオンハルトの言葉に、カイトもまた頷いた。ひとまずの事後処理を終えた翌日。調査隊は予てより計画されていたアンテナの設置作業を終えていた。そうして今日になりサーバールームに入ったのだが、そこにはヴァールハイトからのメッセージが遺されていたのである。


『まずは、一応の義理として詫びておこう。この様な事をしてすまなかったね』


 そんな彼らしいといえば彼らしい言葉から始まったメッセージの中身は、敢えて言ってしまえば人論に反した研究については封印した、という所だった。いくら狂った研究をしていたと言っても、彼もまたこれが狂った研究だったと分かっていたらしい。

 なので神話大戦が終わった段階で自らの研究については完全に破棄しており、それに関する資料はカナタの調整に関わる事以外は全て失われていたそうだ。

 そもそも、彼の研究の根本はカナタを救う為にあった。それだけは最初から最後まで一貫している。決して『人造天使製造アーティフィカル・エンジェル』計画を完成させる為ではない。


『で、公よ。彼女についての処遇は自身で預かる、と』

「はい……『人造天使製造アーティフィカル・エンジェル』計画に関する全ての資料が失われた今、彼女だけが唯一の成果と言っても過言ではありません。何時、誰が彼女を狙うかもわかりません。そして万が一の暴走があり得た場合、抑えきれるのは私ぐらいのものでしょう」

『……そうだな。あれだけの力だ。公以外には如何ともし難いものがあるだろう』


 皇帝レオンハルトはカイトの本意に気付いていた。そして彼とてカイトの来歴は聞き及んでいる。カナタを皇国が保護する、と言うのは出来ればしたい所であったが、ここはカイトの顔を立てる事にした。

 カイトの本意。それは皇国にさえ手出しはさせない、という意思だ。カナタの肉体はもし量産できれば、おそらく国家としてはとんでもない軍事力となるだろう。が、そのためには彼女の身体をくまなく調べねばならなかった。

 それを、カイトは否定したのだ。当たり前だ。彼の来歴の中には少年兵達に人体実験を行っていた研究所の所属がある。それを目の当たりにした彼が、人体実験される怖れがある彼女を預けるわけがなかった。ある意味、これは皇国を信用していないとも取れる行動だ。

 そして、それが正しい。カイトが仕えているのは皇国ではない。彼は皇帝レオンハルトに仕えている。両者は別物だ。その皇帝レオンハルトでさえ、皇国の全てを知っているわけではない。カイトの判断は人道の面で、そして勇者カイトとして正しいものと彼も判断した。


「はい……故に、彼女は当家での預かりとすべきかと判断いたしました」

『わかった。公の判断を余も支持しよう』

「ありがとうございます」


 全てを見通した上での皇帝レオンハルトの判断に、カイトが頭を下げる。これで、カナタの保護は確定したと言っても過言ではない。と、そんな話し合いが終わった所で、皇帝レオンハルトが改めて問いかけた。


『それで、そのカナタという少女はどうしている?』

「まだ眠っております」

『まだか? 確か事件は二日前だったと思うのだが……肉体に変調が出ているのか?』

「いえ……失礼しました。言葉が足りませんでした。昨日の朝、一度目覚めております。が、その際、記憶を失っているコナタへとバックアップを通じて記憶の修繕を行う、という事です」


 皇帝レオンハルトの問いかけにカイトは昨日の朝頃に一度起きたカナタが述べていた事を掻い摘んで報告する。やはりカナタが目覚めたから、とコナタがすぐに記憶を取り戻せるわけではないらしい。

 とはいえ、そこまで難しい話しでもなく、一日二日寝ていれば治るという事だった。ここらは彼女らの特異性故に出来る便利な所、という所らしい。どちらかの記憶が失われてもどちらかで保有している為、それをバックアップの様に使う事が出来るとの事だった。


『そうか。まぁ、そこらについては公の方がよく把握しているだろう。それについては公の采配に任せる』

「は……それで、陛下。他の所の調査についてはどうなっておりますでしょう」

『うむ。やはり懸念した通り、という所か。幾つかの遺跡で封印されていた区画が見付かった、との事だった。各所で封印が弱まっているのだろう』

「やはり……陛下。もし必要とありましたら、是非とも我々にお声掛けください。皇国の大事。我らも協力は惜しみません」

『すまぬな』


 カイトの明言に皇帝レオンハルトも一つ頷いて感謝を示す。そうして、この日は種々の話し合いを行って終わる事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1526話『オプロ遺跡』

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