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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1523話 オプロ遺跡 ――対ヴァールハイト・2――

 ティナとヴァールハイトの戦いが起きていた丁度その頃。シャルロットもまたゴーレムとの戦いを行っていた。


『流石に、このゴーレムでもあの当時単体戦闘能力では最強と言われた女神様には分が悪いか』

「……」


 ぶぅん、と振るわれたゴーレムの拳に対して、シャルロットは避ける動作さえ見せなかった。彼女は今、彼女がかつて死神と呼ばれた所以となる漆黒のローブを身に纏っていた。それは攻撃の大半を無効化してみせ、如何に強大な力を得たゴーレムだろうと近寄らせない。


「……その程度では無いのでしょう? せめてもの慈悲……いえ、私のワガママ。全てを見せてみせなさい」


 無意味な攻撃を繰り返すヴァールハイトに向けて、シャルロットが僅かな悲しみと共に告げる。喩えどんな背景があろうと、このゴーレムは自分達の文明の最後に生み出された最高傑作の一つだ。その全てを見届けねばならない、という心情が彼女にはあった。そんな彼女に対して、ゴーレムが動きを止めた。


『……わかりました。が、後悔はしないでくださいよ』


 おそらく、ヴァールハイトもシャルロットの心情を理解したのだろう。この戦いの敗北なぞわかりきっている。なら、遠慮なく全てをさらけ出す事にためらいは無かった。そうして、ティナとの戦いでは掛けられていた各種のリミッターが解除され、魔導炉の出力が暴走にも等しいほどに増していく。


「……そう。それで良いわ」


 神々しいほどに強大な力を帯び、各所に魔力の閃光を浮かび上がらせたゴーレムにシャルロットは一つの微笑みを浮かべる。確かに、このゴーレムの生まれを認める事は、死という正反対の立場から生命を礼賛する神である彼女には出来ない。が、それでも。このゴーレムを生み出すのに掛けられた必死さを否定する事は、彼女もまた同じ時代に生きた者として出来なかった。


『……一度限り、これで出し惜しみなしの状態です。不遜ではありますが、神をも超えた力を持つと我ら研究者一同自負しておりました』

「不遜ね……それ故、教えてあげましょう。本当の神の力を」


 『機械神(デウス・マキナ)』。それに相応しい神々しさを纏ったゴーレムに相対し、シャルロットは己の象徴たる大鎌を構える。そして、直後。神と機械の神の衝突が起きた。


「っ……やはり、有しているというわけね」


 シャルロットは自らの身を襲う神の力の奔流に顔を顰める。どの神か、というのは分からない。もしかしたら彼女さえ知らない、更に古い時代の神の可能性もある。

 なにせ人類が生まれてより今まで幾万年が経過している。その間に彼女らさえ知らない古代に文明があったとて不思議はない。現に地球では現代の文明がもはや笑い話としてしか述べないアトランティスやムーといった超古代の文明が存在していた。

 それと同じでエネフィアでもまだ知られていないだけで超古代の文明があったとて不思議はない。その神の血が顕在化していたとて不思議がないのが、モザイク症候群の患者達だ。

 そしてそうなれば、彼女の漆黒の衣も意味がない。あれとて当然だが何でもかんでも防げるわけではない。神の力次第なら普通に切り裂かれる。例えばシャムロックの太陽神の力。あれなら普通に切り裂ける。行けると過信して痛い目を見るより、と彼女は衣を消失させる。


「っ」


 衝突の直後。ゴーレムが消える。転移術だ。それにシャルロットはなるほど、と理解する。確かに転移術には一瞬だけだが障壁が無効化されてしまうというデメリットがある。が、これはゴーレム。障壁が消えたとてその身にはティナでさえ破壊が困難だった強固な装甲が存在している。問題なく使えるのだ。


『呆けておいでか、女神』

「いいえ、感心しているだけよ」


 自らの頭上に転移したヴァールハイトの問いかけに、シャルロットは首を振る。そんな彼女は僅かに横に移動して振り下ろされるゴーレムの拳を回避すると、その装甲の一部に大鎌の先端を引っ掛けて自らに勢いを付ける。そうして彼女はその勢いを利用して魔術を併用して器用にゴーレムの頭上に回り込むと、そのまま踵落としを叩き込む。


『むっ……が、しかし!』


 踵落としを叩き込まれたゴーレムは飛翔機の出力を上げて落下に抵抗すると、そのままシャルロットの力を押し切って彼女ごと一気に急浮上する。


「っ!」


 どうやら単純な力だけなら自らを上回るらしい。シャルロットは押し上げられた自らを鑑みて、そう判断する。が、やはりどうしてもゴーレムという条件がある。速度なら彼女の方が遥かに上と言って良いだろう。故に彼女はその速度を活かす事にする。


「ふぅ……はっ!」


 一つ深呼吸をして急上昇するゴーレムを蹴ってその場を離脱したシャルロットは、上昇するゴーレムに向けて大鎌を振るい斬撃を放つ。それに対して、ゴーレムは急停止。背面の一部が開いて中に格納されていた砲口を覗かせた。


「ハリネズミ……かしら」


 背面から覗いた砲口の数は小型の物が数十個。もし彼女がレガドのボスを覚えていれば、側面に配置されていた小型の魔導砲を思い出せただろう。とはいえ、このゴーレムの出力を鑑みれば一つ一つは油断ならない攻撃力を有していると考えて良いだろう。

 そしてそれ故、シャルロットの放った斬撃は魔弾の集中砲火を受けて消失する。と、そうして相殺を見て砲撃を止めたゴーレムが空中で半回転し、彼女へと正面を向けた。


「あら……」


 シャルロットが僅かに目を見開く。正面を向いたゴーレムの両手の手首が変形し、こちらに砲口を向けていたのである。そうして、二つの砲口から魔力の光条が放たれる。それに、彼女は大鎌を回転させて相殺させる。


「……」


 砲撃が終わると同時。ゴーレムの姿が消えていた。どうやらこれを隠れ蓑にしてどこかに移動したのだろう。そんな状況に、シャルロットは一度だけ呼吸を整えて目を閉じて耳を澄ませる。


「月光よ」


 今は夜。自身の時間。故にシャルロットはただ手を天へと掲げる。すると、それだけで月光が力を得てどこかに居たゴーレムの姿を照らし出した。


『む』

「残念ね。今は、私の時間よ……それと、その行動はあまりに見え透いてるわ」


 背後で響いた轟音に、シャルロットがため息を吐く。これは言ってしまえば自動防御の様なものだ。ある程度の範囲に近付いた敵対者を自動で攻撃する神の力とでも言えば良い。それに撃たれたゴーレムは勢いよく落下していき、地面へと激突した。


「……」


 まぁ、当然といえば当然だったのだろう。ゴーレムの動きはあくまでもヴァールハイトによって指示が為されている。なのでどれだけ優れた性能を有していても、所詮は研究者たる彼が考えた行動しか出来ない。確かに性能には目を見張る物があるが、だからといってそれで十分かというとそうではないのだ。戦士と研究者ではどうしても越えられない壁が存在してしまうのである。故に、シャルロットは問いかけた。


「一つ、聞いておいてあげるわ。その操作はどうするつもりだったの?」

『……これはデータの収集が終わっていないのですよ。これはまだ完璧ではない。確かにスペックシートでは完璧に仕上がっています。が、このスペックを完璧に活かす為の最も重要な、心臓部がまだ完成していなかった』


 シャルロットの問いかけにヴァールハイトは僅かに苦笑を浮かべる。確かに考えればわかろうものではある。これは最後の戦いにも参戦していなかったのだ。

 であれば、重要な何かがまだ未完成と考えるのが妥当だろう。更にはこれだけの性能を有していながら、彼はここでこれを使う事を決めた。神話の戦いが控えているにも関わらず、だ。未完成な部分は他にもあったのだと思われた。


『この性能を活かし切る制御システム。対汚染システムも完成度は9割。決して、最後の総力戦に出せるわけではなかった。それ以上に、これを奴らに奪われる方が危険だった。故に、幾つかの試作機を出せるだけ送った……そういうわけですよ』

「そう……あの巨大ゴーレム達の中にも、というわけ」

『……ええ。大半は』


 大凡の内容を理解したシャルロットの沈痛な言葉に、ヴァールハイトもまたはっきりと同意する。が、そんな彼はその後はっきりと明言した。


『ああ、ですが勘違いはしないでください。確かに『機械神(デウス・マキナ)』の開発には非合法かつ非人道的な事はしましたが……最終決戦に送ったゴーレムのコアは全て、最後の戦いが起きると知って、志願した者達だけです。彼らの意思があれば、汚染にも対処出来ると判断されました』

「三位一体が合致した、というわけね」

『はい……彼らの肉体の代替となるゴーレム。我ら技術者が魂心の魔導炉。そして、自らの肉体さえ捨てる決断さえした最優の操縦者。この三つが全て合致したからこそ、最終決戦に耐えうるだけのゴーレムが出来た』


 ヴァールハイトの答えを聞いて、シャルロットは浮かべた同情を不要なものだった、と切り捨てる。戦士が仲間の為、自らを犠牲にしてまで戦い抜く覚悟を決めたのだ。それが決して一度きりの自爆めいた行動であろうと、それを傍目に見ているだけの自分が憐れむ事が許されて良いわけがなかった。


「……そう。なら、失礼したわね」

『嘘とは思わないのですか?』

「ええ……あれだけの戦いが出来たのなら、間違いなく操縦者も同意の上でしょう」

『そうですか……』


 はっきりとしたシャルロットの頷きに、ヴァールハイトは僅かな安堵を得る。無論、彼は嘘を言っていない。何機送ったかは当時を生きた二人にしか分からない。が、それでもそう言い切れるだけの数は用意されていたのだろう。そうして、であれば、とシャルロットは大鎌を回して見得を切る。


「来なさい。それが数多の命を吸い取って、そして数多の技術の上にできている『機械神(デウス・マキナ)』……いえ、『鬼傀神(デウス・マキナ)』だというのなら。本物の神がその傲慢さを叩き潰し、そして安心と安寧をあげましょう」


 死神として、シャルロットが傲然と裁きの時を明言する。それに、ヴァールハイトが笑みを深める。そうして彼はこれが最後、と口を開いた。


『……女神よ。一つ、頼まれて貰いたい』

「何?」

『私を地獄に送ってくれ。天国行きの方が地獄なんだ』

「……良いでしょう。貴方の罪、地獄送りに相応しい。迷わず、逝かせてあげる」


 少しだけ何時もの冗談めかした顔を覗かせたヴァールハイトに、シャルロットも会話の終わりを宣言する。そうして、ゆっくりと地面に落ちたゴーレムが起き上がった。


「……」


 起き上がると同時。ゴーレムの姿が残像を残してかき消える。それに対して、シャルロットは大鎌を大上段に構える様にして後ろに回す。

 そうして、次の瞬間。ゴーレムの巨腕が彼女を頭上から叩き潰さんと振り下ろされ、しかしそれは彼女の大鎌に引っ掛けられる様にして振り回され、その巨体ごと地面へと叩きつけられた。


『この程度では!』

「わかっているわ」


 この程度では傷一つ付かない。そう言外に述べてゴーレムを起き上がらせるヴァールハイトに対して、シャルロットはゴーレムの背後に回り込む。それを受けて、ゴーレムが身を捩り裏拳を繰り出した。


『……む?』


 すかっ。まるですっぽ抜ける様にゴーレムの巨腕が吹き飛んでいく。そうして数秒の後、轟音と土煙を上げて吹き飛んだ巨腕の先が地面に突き刺さった。


『一体……どうやって?』

「別に。貴方こそ私が誰か、忘れていないかしら」

『月の女神ムーンレイ……それ以外に何が?』

「あら……不勉強ね」

『? っ!?』


 シャルロットの笑みを見て僅かな逡巡を行ったヴァールハイトであるが、ようやく気がついたらしい。そう、彼女は月の女神であると同時に死神だ。兄にして生命を司る太陽神と対となる、死を司る月の神。それも最高位の神だ。その力は、神にさえ通用してしまうのだ。


「確かに、それは擬似的とはいえ世界とも見做されるほど。でも、それはやはり道理にそぐわない……不合理な世界を正すのは神の役目。神を創り出してしまった事が、貴方の敗因と言っても良いわ」

「ははは……これは相性が……悪かったか」


 細切れに切り裂かれたゴーレムの身体を自らの眼で見ながら、ヴァールハイトが苦笑する。それに、シャルロットが僅かな嘆きを浮かべた。


「……やはり、そこに居たのね。私の目に、もう一つ光が見えたのだけど……納得したわ」

「……即死は、免れてまして。まぁ、死んでいた方がマシ、なのかもしれませんがね」


 シャルロットの視線の先には、半ばが消失したヴァールハイトの実体があった。そう。実のところ彼は即死したわけではなかった。何とか命は繋いでいたのである。が、ここに残っていたのは彼とコナタ・カナタの二人だけ。そしてカナタはコナタと共に事態を受け、シェルターに隔離された。治療は出来なかった。

 故に人工知能の操るゴーレムに何とか回収された彼は、生命維持装置も兼ね備えているこのゴーレムに収容される事になったのである。後は人工知能により冷凍保存処理が施され、来るべき時に備えて眠っていたのであった。が、その生命維持装置もゴーレムの大破に合わせて遠からず機能を停止するだろう。


「……死神の慈悲よ。最後に、言い残す事は?」

「……では、貴方にはカナタへの言伝を」

「良いわ」

「……健やかに、育ってくれ。そう、頼みます」

「……確かに、受け取ったわ」

「……ありがとう……ございます……」


 その意図を理解して微笑んだシャルロットの返答に安堵した様に、ヴァールハイトが深く息を吐いた。そうして、彼はそれを最後に数千年を生きたマッド・サイエンティストは己をコピーした人工知能の停止と時同じく、完全に息を引き取る事になるのだった。

お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1524話『オプロ遺跡』

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