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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1523話 オプロ遺跡 ――対ヴァールハイト・1――

 ヴァールハイトによる演説の後。僅かな問答を交わしあったカイト達はその後、戦いを再開させる事となっていた。そうして再び超高空での激闘を再開させたカイトとユリィのコンビとカナタに対して、ティナとシャルロットの二人はその場に留まっていた。


「……」


 ティナは上空で始まった剣戟の音を聞きながら、わずかに呼吸を整える。シャルロット、すなわち一つの神話の頂点に位置する者でさえ手こずる様なゴーレムだというのだ。勝てないとは思わないが、少なくとも楽勝を得られるという事もあり得ないと判断していた。


「……」

「……」


 シャルロットとティナはどちらともなく頷いた。そんな敵だ。間違いなくここでそのまま戦う事が良いとは思えなかったし、現にシャルロットはここに集まるまでどこかで戦っていた。

 しかも、更に気になる事がある。それはこのゴーレムの暴走によりこの遺跡の少し離れた所が消滅した、という事実だ。これを流石に無視する事は出来ない。一応気を付けて戦うつもりではあるが、万が一は起こり得る。であれば、だ。答えは一つしかなかった。


「はぁ!」


 気合一閃。ティナは杖を振るって何らかの現象を引き起こす。何を引き起こしたかは定かではないが、それは横合いに巨大ゴーレムの一体を打ち据えるとその身を大きく吹き飛ばした。


「ぬかるでないぞ」

「……ええ」


 ふっと消えたティナの残した言葉に対して、シャルロットは僅かに笑みを浮かべる。確かに、このゴーレムは強い。が、それは決してカナタほどではないし、よもや彼女ほどでもない。カナタの底がどの程度かはまだ誰にも分からないが、少なくともこのゴーレムはそれほどではないだろう事だけは事実だ。であれば、負けるとは思えなかった。そうして、シャルロットは大鎌を引っ掛ける様にしてこちらもまたゴーレムを吹き飛ばした。


「ふむ……」


 ティナが吹き飛ばした巨大ゴーレムの吹き飛んだ先。大凡オプロ遺跡から一キロ東という所。相変わらず超音速で吹き飛ばされるゴーレムの進路上にティナは浮遊していた。そんな彼女の持つ杖の先端には魔力の球が出来上がっており、高速で飛来するゴーレムへと狙い定めていた。


「……」


 この程度で終わるとはティナは思わない。が、こういった牽制は必要な事でもある。故に彼女は容赦なく魔弾を放つ。それに対して、ゴーレムは各所に取り付けられた飛翔機を吹かして急停止。魔力を込めた両手を交差させて斬撃を放ち、魔弾を消滅させる。


『む』


 ゴーレムを操るヴァールハイトが僅かな驚きを露わにする。魔弾の消失と同時、ティナが消えて背後に回り込んでいたのだ。そうして、がぁん、という轟音が鳴り響いてゴーレムが地面へとめり込んだ。


「速攻で片を付けてやろう」


 地面にめり込んだゴーレムの背に向けて、ティナが杖の頭を向ける。それに合わせて無数の魔法陣が周囲に生み出された。このゴーレムの中にはコアがある。それをそのままにしておくのは、同じ研究者として断じて看過出来る事ではなかった。故に一切合切、それこそこのゴーレムの躯体ごと葬り去るつもりで力を込めていた。


「一切合切残さず逝くが良い!」


 せめてもの慈悲のつもりで、ティナは一斉に魔術を起動させる。その数、およそ数十。並の魔物であれば一瞬で消し炭も残らない領域だ。そうして、土煙が舞い上がった。


「終わらぬ、か」


 ティナは土煙を斬り裂いて己の背後に回り込んだゴーレムの気配に気がついていた。おそらく、このゴーレムの出力と強度は神々を軽く凌駕しているだろう。その理由は既にヴァールハイトが語っている。故に、彼女はこの結末を当然と受け入れた。


『さて。これはどうかな?』

「……」


 背後から迫り来る巨大なゴーレムの拳に対して、ティナは身じろぎ一つ見せる事はなかった。そうして、次の瞬間。空間さええぐり取る様な一撃が彼女の居た場所をえぐり取る。


『!?』

「はっ……最高傑作のう。いや、笑わぬ。これは確かに一つの文明の最高傑作と言ってもよかろう」


 素直に、ティナはこのゴーレムの性能を称賛する。おそらく現代文明がどれだけ財を、技術を、人材を尽くしたとてこのゴーレムを上回る性能を持つゴーレムは作れまい。例えるのならクオン達が拠点とする<<熾天の玉座(してんのぎょくざ)>>。あれのゴーレム版だ。

 現状ではティナでさえ解析に年単位を要するだろう。以前にあれの技術を一部コピーしてみせた彼女であるが、それだって実は足掛け十年以上もの月日を要している。このゴーレムの技術の再現ともなればどれほどの時間を要するか、想像も出来なかった。


『……それが、君の真の姿というわけか』

「まぁ、センサーでは気付けんかったじゃろうがな」


 真の姿を露わにしたティナは、浮遊しながらヴァールハイトの問いかけに頷いた。確かにあのゴーレムは速いし、力も強い。が、それでも。かつては世界最強と謳われた彼女に及ぶわけがなかった。そうして、そんな彼女は自らの後ろに回り込んでいたゴーレムの更に背後に回り込んで、魔力による強烈な一撃を叩き込む。


「ふんっ!」


 ごぅ、という音と共にゴーレムの姿が閃光の中に消える。


「ふむ……」


 ゴーレムが閃光に消えた後。ティナはこれでどうだろうか、と高速化した意識の中で考える。実の所、今まで強力な一撃は同じ場所を狙い定めて打ち込んでいた。

 あのゴーレムの素材が何かは流石に見ただけでは彼女にも分からなかったが、少なくとも魔法銀(ミスリル)の様な強度の低い魔金属とは思えない。であれば、力技で破壊するのは如何に彼女と言えども一苦労と言わざるを得ない。なら、技の一つも凝らそうものだ。が、結果は芳しくない様子だった。


『恐ろしいね……このゴーレムの素材はアダマンとオリハルの合金なのだが……神々でさえ一撃では破壊出来ない、という試算が出ていたのだがね。君の一撃はおそらく、それでも一撃で吹き飛んだ可能性が高い』

「……」


 これで、無理か。砕けた地面の中から現れたゴーレムを見て、ティナは眉根を付けて顔を顰める。ヴァールハイトがおそらく、と言ったのは彼女の一撃はゴーレムに搭載されている計測器の上限を突破していたからだ。いくら古代文明の優れた計測器だろうと、なかなかに本気の彼女の一撃を測定する事は不可能だったようだ。


(アヤツの語った理論から推測し、擬似的に内部に異界化が生じておるとは推測したが……この様子であれば真実、異界化を外側から破壊するに等しいだけの破壊力が必要となろうな。その要する出力は練度にもよるが、緋緋色金(ヒヒイロカネ)を破砕するにも等しかろう)


 傷一つ無いゴーレムを見ながら、ティナはこのゴーレムを破壊するのに必要となるだろう出力を算出する。そうして出た答えは、生半可な一撃では不可能という答えだ。

 が、だから不可能か、というとそうではない。流石の彼女も世界一つを破壊する事は不可能だが、この場合相手は異界化。擬似的に世界を創造しているに過ぎない。理論があっての事だ。

 であれば、彼女でも十分に破壊は可能だった。無論、それでも状況を考えれば力技は難しいと言わざるを得ない。というより、異界化を力技なぞ不可能に近い。そして異界化ではないからこそ、何時もと同じ方法では対策は出来ない。故に彼女は意識を高速化して一度現状を見直す事にした。


(これが普通であれば、異界化の内部に潜り込んで内側から侵食すれば楽に終わるんじゃがのう……今回は流石に内部に潜り込む事は難しい)


 異界化とは言ってしまえば、自分の都合の良い空間を創り上げる魔法一歩手前の魔術だ。わかりやすく言うと、実空間では魔法を使える領域には無い者が空間を隔離して魔法を使う様な感じだ。

 そしてこの認識にカナタの状況を当てはめると、彼女は体内をこの異界化する事にしたというわけだ。無論、厳密に言えば彼女と異界化とは違う。彼女の場合は擬似的な世界の構築だ。

 とはいえ、発生している場所が体内や機体内部という物理的に侵入が出来ない場所となっている。故に、内部からの侵食は不可能と言わざるを得ない。


(モザイク症候群……じゃったか。そう呼ばれた病は基本的に人類が発生よりその身に蓄えてきた無数の因子が顕在化する病。そして世界とは無数の因子や生命を内包しておる。確かに、そういう意味で言えば細胞一つ一つを命と見立て、更には多数の因子が顕在化するという症例を合わせれば世界の概念に等しいと見て良い。無論、それで出来るわけではないが……)


 おそらくこの隙間を埋める理論がどこかにあったのだろう。それを見つけ出す事はティナには――と言うより多くの学者にも――難しいが、もし数多の人体実験を行えるのであれば不可能とは言い切れない。そして出来たから、カナタが居るわけだ。


「ふむ」


 どうするべきか。起き上がり、こちらに向けて飛翔機を吹かして飛翔するゴーレムを見ながら、ティナは考える。ゴーレムは音の壁を突き破ってこちらに突進している。この巨大さを考えれば、驚異的な性能と言わざるを得ない。

 だが所詮、これはゴーレム。素体が万全の状態でヴァールハイトが改造を施したのならまだしも、それをコアにしただけの機械の身体だ。カナタほどの戦闘能力はとてもではないが発揮出来ない。

 先にも言ったがたしかにこのゴーレムは驚異的な性能と言わざるを得ないが、それだけと言ってしまえばそれだけだ。破壊は難しくとも、負ける事は無い。


「コアの場所は……」


 ティナは魔力の流れを視る為の魔眼を起動させてゴーレムを見る。すると、魔力の流れに幾つかの中心があることが見て取れた。


(人体で言えば肺の部分にある二つは魔導炉と考えられる。であれば……)


 胸の上の部分にあるこれがコアか。ティナは魔力の流れからそう理解する。が、そうして流れを視る彼女であるが、同時に僅かな違和感を得た。


(……む?)


 巨大な魔力の中心は三つ。そしてこれはゴーレム。アンドロイドに例えれば魔導炉は動力炉で、コアは人工知能と言って良い。であれば、魔力の流れは基本的には魔導炉より作られた魔力が一度コアへ向かい、そこから各所へ流れる事になる筈だった。

 が、このゴーレムは奇妙な事にコアに別の所から魔力の流れがあったのだ。いや、これだけなら別に不思議はない。各所から上げられる報告がコアに寄せられていると考えれば不思議はない。が、この流れはそれとは別の妙な感じがあった。


(いや、不思議はあるまいか。コアに意識は無い。そして暴走の兆候もない。外側からの指令を受けて動く形じゃ。であれば、そこからコアに指示が飛んでおる、という所であろうな)


 であれば、それが蟻の一穴になる。ティナは僅かにほくそ笑む。これがカナタであれば完全に内部も異界化したのであろうが、外部から指示を受け入れるゴーレムであるという一点がそれに亀裂を入れていた。

 ゴーレムである以上、どうしても何処からか外側からの指令が入らねばならないのだ。そこだけは、外と内側が繋がっている。とはいえ、やはりそれでも強固な装甲の内側だ。破壊はなかなかに難しい。が、攻略法が見付かったのと何も無いのは話が別だ。


「……ふぅ」


 ティナは呼吸を整え、真正面から迫り来るゴーレムを見据える。そうして両者の距離が限りなく近付いた瞬間、転移術で消えてゴーレムの背後に回り込んだ。


『飛翔機へのゼロ距離! だが、いくら杖を接触させようと壊れんよ!』


 ゼロ距離から放たれた魔力の砲撃に対して、ヴァールハイトが笑う。そしてこれは彼の言う通りで、いくら背後から飛翔機狙いだろうと壊れる事はなかった。そうして、ゴーレムが急旋回して裏拳を振るう。


「っ」


 振るわれた裏拳に対して、ティナは背後に飛んで回避する。そうしておまけとばかりに杖を前に突き出して魔弾を放ち、更にその反動で距離を取る。


『見事! だが、その程度ではね!』


 高速で遠ざかるティナに向けて、ゴーレムが飛翔機の出力を増大させて追いすがる。そうして、夜空に黄金の光と虹が幾度となく交差して、閃光が生まれる。


『ふむ……』


 そんな最中。ヴァールハイトは僅かな違和感を感じていた。確かにティナは一流の戦士でもあるだろう。その彼女が先程から一本調子に戦っているのだ。違和感を感じずにはいられなかった。

 これに気付いたのは、カナタを観察していた彼だからと言えるだろう。彼は研究者であって戦士ではない。もし彼が存命だったとして、その戦闘力は冒険部の平均値を大きく下回る。だが、優れた戦士の戦いを見てきたが故に、違和感を感じる事は出来たのだ。


(どうやって、君はこの『機械神(デウス・マキナ)』を破壊する?)


 ヴァールハイトは魔力を纏わせた拳を振るいながら、ティナの考えを考察する。彼の操るこのゴーレムの戦闘力の高さは製作者の一人である彼が誰よりも知っている。故に破壊は容易ではないと自負している。が、ティナがどうにかして破壊しようとしている事はわかる。と、そんな考えの最中。唐突に自身に異変が起きた事を理解した。


『な……に……?』


 がくん。今まで高速で動いていたゴーレムの動きが唐突に鈍くなる。まるで錆びついた様に動きが鈍くなったのだ。が、これは可怪しい。このゴーレムの装甲は魔金属。魔力さえ通っていれば錆びる事はない。そして現に錆びていない。

 そうして動きが鈍ったゴーレムはゆっくりと落下していき、地面に激突した。が、やはり装甲は強固なままで、傷一つ付く事はなかった。


『何……が……いや……そう……か……』


 自身の思考に生じた違和感を理解して、ヴァールハイトは何が起きているかを理解する。


『……聞か……せてくれ……どう……やったんだ……い……?』

「……これじゃ。これを、内部で自爆させた」


 途切れ途切れのヴァールハイトの問いかけに、ティナは小さな、それこそ爪よりも更に小さな何かを見せる。それを受け、ヴァールハイトはゴーレムの望遠装置を起動させた。


『……それは……凄いな……超小型の……ゴーレム……か……我々だって……そのサイズを作る事は……殆ど出来てないのに……小型のゴーレム技術だと……我々を超えてる……じゃないか……』


 ティナの手のひらの上に乗っていたのは、本当に数ミリという程度しかない小型のゴーレムだ。確かにゴーレムは巨大で、装甲は強固だ。が、それでもゴーレムだ。どうしても駆動部には隙間が出来るし、内部にも隙間を作らないと刻印を刻み込む事が出来なくなる。

 この超小型のゴーレムなら、内部への侵入も可能だろう。ティナはあのゼロ距離攻撃の瞬間、攻撃に合わせてこのゴーレムを放っていたのである。どんな強固な存在だろうと、内部からの攻撃には弱いものだ。後はそれが内部の指令を送っている場所にたどり着くまで適度に攻撃をして、時間を稼げば良かった。


「……敢えてファルシュ・カリタスという男に、一つ聞いておいてやろう。言い残す事はあるか?」

『……あはは。君達は……優しいね……うん……じゃあ、君にも一つ……コナタに……母様の海を見てきてくれって……それで頼むよ』

「……よかろう。確かに、受け取った」

『……ありが……と……う……』


 ヴァールハイトはティナの言葉に僅かに笑った様に最後の言葉を残す。そしてそれがまるで最後の力を振り絞ったかの様に、人工知能の指示を受けられなくなったゴーレムは完全に機能を停止する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1524話『オプロ遺跡』

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