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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1522話 オプロ遺跡 ――開戦――

 ヴァールハイトの口から語られた『天使の子供達エンジェリック・チルドレン計画』の真相。それは神の使いを創る計画ではなく、結果として神を創り上げるというとんでもない結果を出したものとなっていた。そうして、話し合いが決裂した直後。ティナは中央建屋の外に出てカイトとの合流を目指すべく状況の確認を行っていた。


「カイトは……ちっ。念話は通じんか」


 どうやら外での戦いはまだ続いているらしい。警備ゴーレムが確認されなかったのは持ち去られたのではなく、この戦いに備えて撤退させられていたのだろうと考えられた。

 ティナとしてはこちらの支援にもできれば入りたい所であったが、流石に現状ではカイトが危険と判断していた。しかも悪い事に、カナタが自らの周辺に念話を封ずる力を展開している様子だった。

 わかった上で、という事なのだろう。と、そんなわけでカイトを探すべく立ち止まっていた彼女だが、同時にシャルロットの姿も見えない事に気がついた。


「シャル! 何を遊んでおる! この程度の雑魚、どうという事もあるまい!」

『じゃあ、戦ってから言いなさいな! あのクソ所長! もし冥界で見かけたらぶん殴ってやるわ!』

「?」


 苛立ちの滲んだシャルロットの返答に、無差別に襲いかかるゴーレムを破壊しながらティナが首を傾げる。と、そんな彼女は超速で何かが近付いてくる事を知覚する。


「!?」


 何かが超速で近付いている事を知覚したティナは、即座に転移術でその場から離脱する。そうしてその瞬間。彼女が居た場所に20メートル級の巨大なゴーレムが現れた。


『やぁ、ティナちゃん。先程ぶりだね』

「この声は……ヴァールハイトか! お主が操っておるのか!?」

『うむ。さて……これで必要な役者は揃ったと考えても良いかな』


 ずしん、と音を立てて地面に着地した巨大なゴーレムは一つ頷くとティナに背を向ける。そうして巨大ゴーレムが中央建屋にたどり着くと同時。高空からもう一機の同タイプのゴーレムが飛来した。


「ちっ……どれだけの資材と時間をつぎ込んだのやら」


 飛来したもう一機のゴーレムと同じ方向から、シャルロットが飛来してティナの横に浮遊する。その顔には珍しく苛立ちが滲んでおり、苦戦していた様子であった。


「お主がゴーレム相手に苦戦とは……珍しい事もあるものじゃのう」

「おそらくあの男……あの子に施したと似た施術をあのゴーレムにも施したのよ」

「なるほど……」


 シャルロットの言葉に、ティナは出来ないとは思わなかった。おそらくこのゴーレムそのものの製造はヴァールハイトが主導したわけではないだろう。如何に彼とてそこまでぶっ飛んだ天才ではないはずだ。が、ここには彼を十全にサポート出来る体制が整っていたと考えて無理はない。

 なにせ『天使の子供達エンジェリック・チルドレン』計画を主導し、そして完成まで漕ぎ着けられている。無論、これには彼の理論に則ればモザイク症候群の患者が必要となるだろう。普通は完成は出来ないと思われる。

 が、この研究所の事を考えれば、出来ないとは思えない。ここは中央の目の届かぬ僻地。情報網の寸断がされたという状況。中央の目に隠れて密かに集める事は、不可能ではない。


『ふむ……その通り。私はこのゴーレム……『機械神(デウスマキナ)』製造計画で作られた特殊なゴーレムにはカナタの理論を流用したシステムを搭載していてね。まぁ、『コア』に多大な負担を掛けてしまうので使い捨てになってしまうのが難点だった。ま、今回は一度きりなので問題はない』

「『コア』、のう……」


 おそらくは、そういう事なのだろう。ティナはカイトが戦ったあの特殊なゴーレム、そしてシャルロットの言葉を認めたヴァールハイトの態度からそう理解する。おそらく、あの特殊なゴーレムはこの雛形という所だったのだろう。


「どうやら、余とお主は研究者としては相容れん様子じゃのう」

『ふむ……まぁ、それは同意するしかないだろう。私はなにせ他者からの理解は得られなかったし、得ようとも考えなかったからね。まぁ、それはどうでも良いかな。さて……このゴーレムは私……いや、当時の研究者達謹製の切り札だ。あの時、古き龍達が女王の懇願を受けて参戦しなければ動かす事もあったのだろうが……哀れにもその機会もなく地下で眠り続けたこの二体。性能は保証するよ』

「哀れ、のう」


 ヴァールハイトの言葉にティナは鼻白らむ。動かされなかった事が哀れと考えるべきか、それともコアの意思に反して戦わされる事の無かった事を喜ぶべきか。それは判断の分かれる所だった。


「シャル……片方はお主が当時の者としてのけじめをつけよ。もう一機は余が直々に始末を付ける」

「もとより、そのつもりよ」


 どうやらシャルロットも腹に据えかねる物があったらしい。ティナの言葉に一切の迷いなく賛同を示して大鎌を構える。と、そんな所に緩やかに、そして優雅にカナタが舞い降りた。


「ふぅ……あら、お父様。宴も酣という所かしら」

『ああ、カナタ。おかえり……どうだね、ご主人様の感想は』

「あぁ、素晴らしいわ。あれほどの強き人は初めて……この研究所を守る何人もの英雄達と矛を交えたけれど、あそこまでの英雄(化物)は見たことがないわ。あの大剣士より、あの二人の英雄より、あの寡黙な麗人より……誰よりも強い。いいえ、全員を合わせたよりずっと、ずっと強いわ」

『それは良かった』


 ヴァールハイトの操る巨大ゴーレムの片方に着地したカナタは優雅で妖艶な、そして何より淫靡で獰猛な笑みを浮かべていた。と、そこにこちらは静かに、ユリィを肩に乗せたカイトが舞い降りる。


「カイト」

「良い。大体は察している」

「……そうか」


 自身の告げようとした事を遮ったカイトの言葉に、ティナは口を閉ざす。やはり彼もカナタがまだ本気でない事を理解していたようだ。が、そんな彼もカナタが舞い降りた二体の巨大なゴーレムは分からなかった。


「それより、あの二体は?」

「お主が地下で見たゴーレムの完成形、とでも言っておこうかのう」

「なるほど。それで似てるわけか。始末は?」

「余とシャルでやる」

「あいよ」


 なら、問題はないな。カイトはそう判断して、この二体については一切の無視を決定する。そうして、両者の間で魔力が高まっていく。が、その機先を制する様に、中央建屋が起動した。


『あ、あー……やぁ、皆。久しぶりかな。まぁ、はじめましての方の方が多い様な気もするけど……冒険部や学生さん達は久しぶり、で良いだろうね』

「? どういうつもりだ?」


 唐突に中央建屋の上部に現れたヴァールハイトの映像に、カイトは意図が理解出来ず首を傾げる。そしてそれに合わせるかの様に周辺で起きていた戦いは中断しており、全員が映像を見れる様にしているかの様であった。


『ん? 当然だけど君やその横の彼女らはともかく、大半の子達は何が起きているか分からないと思ってね。事情を教えてあげようと思ったのさ。勿論、言う必要の無い事は言わない。ただ、必要な事だけは教えてあげよう、というだけさ』


 カイトの問いかけにヴァールハイトは相も変わらずの笑みを浮かべたまま、理由を明言する。そうして、彼は何時もの調子で話し始めた。


『さて……まぁ、もう君達の主にはさっき教えたのだけれど。実はファルシュという名前は偽名でね。私の名は、ヴァールハイト・カリタス。経歴は君達に語った通り、ここの研究者だ。そしてこれもまた君達に語った通り、この施設の全システムは私がコントロールしている。なので改めて言うまでもなく、今君たちを襲っているのは私と思ってくれて構わないよ』


 ヴァールハイトは周囲を取り囲む全員に向けて、改めてはっきりとこれが自分の指示である事を明言する。そうして、彼は改めてはっきりとこの事件の理由を語った。


『さて……それでその理由だが。君達がこれからかの神話の戦いに挑もうというのは私も聞いた。それに対して私も協力しよう、という気持ちに嘘はない……が、何事にも対価は必要だろう。無条件に君達に協力するのはあまりに頂けない。この数日、君達を見て心については問題がないと判断した。故に、今回のこの事件を起こさせて貰った』


 精神の次は力。ある意味当然といえば当然の話だ。そう全員が納得するしかなかった言葉を敢えて告げたヴァールハイトは、そんな全員をカメラで見てそのまま更に続ける。


『それで敢えて君達に言わなかった理由は簡単だ。かつての戦争ではかの邪神は当然だが、こちらに一切の通告もなく軍事行動を行った。故に君達にも何も告げなかった。これは戦争を想定した試験、と考えて貰って間違いはない』


 あまりに当たり前。これを聞いた全員は曲がりなりにも戦闘に関わる者だからこそ、このヴァールハイトの言葉が道理だと理解せざるを得なかった。そうしてそこらの理解が得られたと判断した彼は、最後に告げるべき事を告げる。


『が、先にも言った通りこれは試験。故に君達には勝利条件を設定させて貰った……この子は私の娘にして、私の最高傑作だ』

「……」


 この場全ての者の視線を一身に受けて、カナタが優雅に一礼する。それは淑女の仕草。まるで荒々しいにも関わらず、見る者を見惚れさせる様な優雅さがそこにはあった。それにヴァールハイトは上機嫌に一つ頷いて、更に続けた。


『君達の勝利条件は二つ。この二つを満たしてもらえれば、君達の勝利だ。何、さして難しい話ではない。まず、第一。彼女への勝利。と言っても、これについては既に君達のギルドマスターの事を彼女が気に入ってね。手出しは無用とさせて貰うよ。まぁ、その為のこのゴーレムでもある』


 ヴァールハイトは自らが操る二機のゴーレムを指さした。それはカナタとは違い無骨に、そしてただ沈黙するだけだ。


『この二体のゴーレムの撃破。方法は問わない。が、この二体は我々の文明の最後に完成した最高傑作と言って良い。生半可な戦力では勝てない事だけは明言させて貰おう。無論、他のゴーレム達に邪魔はさせる。あぁ、死にはしないよ。一ヶ月ぐらいベッドで眠る事になるぐらいでね。では、頑張ってくれたまえ』


 ヴァールハイトは言うだけ言うと、映像を消失させる。そしてそれに合わせて停止していたゴーレム達が再起動して交戦が再開される。それを下に見ながら、カイト達は複雑な顔だった。というのも、このヴァールハイトの真意に気付いていたからだ。


「……親としての愛は事実、というわけか」

『ふむ……まぁ、それも真実である事は事実だよ』


 カイトの言葉を認めたヴァールハイトは改めてはっきりとその真意を語りだす。


『これからカナタは君達と共に戦っていく事になる。私と彼女の敵は君達ではないのだからね。その彼女が戦いにくい状況を作っては、本末転倒だ。改めて言うが、彼女は私の最高傑作。それが十全に機能を発揮出来ない状況を他ならぬ私が作るのは何より研究者として失格だ』

「……そうか」


 ヴァールハイトの返答にカイトは納得し、これ以上の問答は無用と判断する。彼がカナタを娘であり兵器であるという認識を改める事はないだろう。これについてはもうカイトも諦めた。なら、もう語り合う事は無くなった。そうして、カイトは左右のティナとシャルロットと頷きあう。


『うむ。では、再開と行こうじゃないか。カナタ、存分に楽しんでおいで』

「ええ、お父様……そちらも最期まで、存分に」

『うむ』


 ふわり、と再び舞い上がったカナタとヴァールハイトが言葉を交わし合う。そしてそれに合わせてカイトもまた虚空を蹴ってカナタを追走する。そうして、戦いは再開される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1523話『オプロ遺跡』

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