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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1516話 オプロ遺跡 ――遺跡の闇――

 皇国の東にあるオプロ遺跡。その調査任務を請け負っていたカイト達はファルシュやコナタというイレギュラーがありつつも、調査を何とか進めていた。そんな中、調査任務もあと僅かとなった事を受けてカイトは遺跡の最深部、最も重要な研究が行われていたという最下層へと足を踏み入れていた。

 そんな彼を出迎えたのは、レガドの地下遺跡に居たと同型のゴーレム達だ。そんなゴーレム達を蹴散らしつつ更に奥へと進み、カイトは最深部の最深部に繋がると推測されるエレベーターに乗り込んでいた。


「……随分と深いな」


 ただ静かに下へと下りていくエレベーターの中。カイトはそう呟いた。地球のエレベーターとどれぐらいの差があるかはわからないが、少なくともビルにして十数階程の長さは乗っていた。


「こうやってのんきに乗ってるだけ、ってのも辛いねー」

「まぁ、このまま封殺という事を考えてなけりゃ良いんだがね」

「どっちにせよそれでも私達には無意味でしょ。第一、分からないはずもないし」

「ま、そうなんだがね」


 ユリィの言葉に同意しつつ、カイトはのんきに待つ事にする。と、そんな話をしていると唐突にエレベーターが停止した。が、扉は開かない。ただ動かなくなっただけだ。


「……罠、というわけじゃないんだろうな。この程度で封殺出来ると思ったら大間違いだし」

「まぁ、結論としちゃ罠で良いんだろうけどね。がこん、がこん、って音してるもん」


 動かなくなったエレベーターの中で、カイト達は何かが動いている音を聞いていた。ここで止まった所でカイト達には無意味だ。この程度のエレベーターの強度なら問答無用に打ち破れる。

 そしてここまで攻め込めるだろう戦士なら、全員が出来るだろう。なら、ここでエレベーターを止めておく意味はない。ただ施設を破壊されるだけになるだけだ。というわけで、カイト達はさらなる動きを待つ事にする。そうして、少し待つと再びエレベーターが動き出した。


「ん?」


 再びエレベーターが動いたと同時だ。唐突に外から明かりが漏れ込んできた。そうして少し動いて、カイトには理由がわかった。


「ガラス張りのエレベーター、か……はっ。こりゃご丁寧に」


 どうやら侵入者は自動的に侵入者用のエリアに連れて行かれる事になるらしい。動いていたのは更に下に続く天井というか床というわけなのだろう。そしてそれによって、何故ここに移送される事になるのかも理解出来た。


「うーん……なんとなく性能はレガドの巨大ゴーレム以上にはありそうだねー」

「あるだろうな、多分」


 ガラス張りの先に見えるのは、巨大な地下空洞を活用したらしい実験場だ。そしてその中心には一体の巨大なゴーレムが佇んでいた。レガドの最下層で見た巨大ゴーレム並の大きさだろう。

 しかもどうやら、整備も完璧らしい。上で見たゴーレム達よりも遥かに綺麗だった。今はまだ動いていないが、時代等を考えればユリィの言う通りレガドで見た巨大な人型ゴーレムよりも遥かに強いだろう。


「マスター。どうされますか?」

「まぁ、撃破しない事には先には進めんだろうしな。撃破はするしかないだろう」


 この巨大なゴーレムがもし外に出れば非常に面倒な事になる。なら、折角この安全かつ満足に戦える空間を用意してくれているのだ。それを活用しない手はないだろう。


「ホタル、手出しは必要無い。あの程度の雑魚に手こずるオレでも無し。ユリィが万が一の為に居れば十分だ。記録を優先しろ。ティナにお土産持っていってあげないとな」

「了解」


 カイトの指示とその理由にホタルが頷いた。あのゴーレムはおそらくレガドの巨大ゴーレムより遥かに強いだろう。が、それでもカイトには迷いが無かった。

 そして同時に、この程度で何とかなる戦闘力でもない。故にホタルはこの主のワガママを良しとする事にした。そうしてそんな会話から数十秒後。三人を乗せたエレベータが最下層にたどり着いた。


「おいおい……流石に自信過剰と言わせてもらうぜ」


 侵入者が最下層にたどり着くまで動きを見せなかった巨大ゴーレムに、カイトは思わず笑みを浮かべる。が、その次の瞬間。巨大ゴーレムは単純な動きしか出来ない筈のゴーレムに見合わぬ俊敏さを見せて彼の眼の前に迫っていた。確かに、この速度なら自信過剰になっても無理はない。カイトはそう思う。


「……で?」


 そんな俊敏性を見せたゴーレムに対して、カイトはその背後に回り込んでいた。確かに、この巨大なゴーレムは現代の技術水準に照らし合わせればもはや最高傑作と言えるだけの技術が使われている。が、それは世界最強を謳われるカイトにとって見れば造作もないレベルでしかなかった。


「ほぅ」


 と、そんなカイトであるが、その次の瞬間には自らの背後に回り込んでいた巨大ゴーレムに対して思わず片眉を上げるしかなかった。

 間違いなく現代のゴーレム達なら数百体が取り囲んでも相手にならないだけの技術力が、この一体に対して注ぎ込まれているだろう。この研究所の自信作と断じて良いだけの技術があった。そうして、次の瞬間。彼の背後に巨大ゴーレムのその巨体に見合った巨大な腕が襲いかかった。


「……」


 巨大な腕の一撃であるが、カイトは特に驚きも迷いもなく転移術で回避していた。確かにこの巨大なゴーレムの速度は現代のゴーレムとは比較にならず、転移術にはその転移の兆候が見切られると拙いという弱点がある。が。それでも彼ほどの実力者であれば問題にならないと判断出来た。


(さて、どうしようかな)


 確かにこのゴーレムの技術力は現代の技術に照らし合わせれば月とスッポンと言うしかない。ホタルを除けば最高峰だろう。が、それでも現代のランクS級の冒険者達からすれば楽な相手と言うしかない。そして心技体整いつつあるカイトからすれば、一切の問題にならない領域だった。


(まぁ、何時もならティナへの土産に無傷の鹵獲でも考えるわけだが……そのためにホタルに頼んでおいたんだし。今回ばかりはソラ達の安全を優先しておくか)


 己が後ろに回り込んだ事をセンサーで感知しているらしい巨大ゴーレムに対して、カイトは一瞬で判断を下す。そうして巨大ゴーレムが振り向いた瞬間には既に彼はその場を離れており、神陰流の<<(まろばし)>>を応用して見抜いていたこの巨大ゴーレムの心臓部の眼の前に立っていた。


「中々に良い速度だな」


 己の背後に回り込んだカイトに対して、巨大ゴーレムは即座に振り向いていた。そうして、次の瞬間には彼に向けて横薙ぎに右手による殴打を放っていた。


「……」


 そんな超音速の殴打に対して、カイトはふわりと軽く跳んで回避する。そうして巨大な右腕が通り過ぎた直後に彼は地面に着地して優雅な笑みを浮かべた。


「オレは、貴様らが奉じた女神シャルロットの神使にして世界最強……彼女の嘆きを蹴っ飛ばした男。この程度じゃあな」


 カイトのつぶやきに対して、巨大ゴーレムがどう判断したかは分からない。が、少なくとも機械に近いと言われるゴーレムというだけはあっただろう。カイトにこの攻撃は無意味だと判断した巨大ゴーレムはそのままその巨体で突っ込んできた。

 数十トンもあるだろう金属体による超音速のタックルだ。普通に考えれば普通の生命体であれば致命傷となり得る一撃である。現にそのタックルの初動でソニックブームが生まれ、破壊が巻き起こされていた。


「ふむ……この程度じゃ無駄とはわからんか?」


 まるで一本調子に突っ込んできたゴーレムに対して、カイトは無意味とわかりつつもそう問いかける。が、ここで彼は流石は旧文明と思い知らされる事になった。彼が跳んで回避した直後。巨大ゴーレムの背面の一部に魔術的な刻印が浮かんだのだ。


「む」


 何をするつもりなのかは、カイトにも分からない。が、この状況だ。大凡の推測は出来る。故に僅かな驚きを浮かべたカイトであったが、その次の瞬間。案の定無数の魔力による砲撃が開始された。


「なるほど、中々にやる」


 射掛けられる無数の砲撃を回避しながら、カイトはそう口にする。普通なら、今までのどこかで討伐されていても不思議はない。この砲撃にしても一撃一撃は現代の飛空艇の主砲の一撃には及ばないまでも、十分に冒険者にとっても驚異的と断じて良い領域だった。

 この巨大なゴーレムはレガドの巨大ゴーレムの後継機となるべく開発され、この場で最後の守りを託されたに相応しいだけの性能があったと言うしかないだろう。


「が……オレは世界最強。この程度で止められる存在とは思うなよ」


 ゴーレム心臓部を覆う強固な装甲に手を当てて、カイトはわずかに獰猛な笑みを浮かべる。無論、彼とて流石に自身を想定した装甲や性能を作れるわけがないと理解している。自身を想定しろ、というのが土台無理な話と理解しているからだ。

 そうして、その次の瞬間。轟音が迸って巨大なゴーレムのコアを彼の放った杭が貫いた。<<杭系(ステーク・シリーズ)>>の一撃で強固な装甲を使って、このゴーレムのコアを貫いたのである。


「おっみごとー。お疲れ様。ま、この程度でカイトに勝とうなんて馬鹿げてるよねー」

「……」

「……? どうしたの?」


 何時も通りとはいえそれ故冗談っぽく告げたユリィの返答に対して、カイトはしかめっ面だった。そんな自身に疑問を抱いたユリィの問いかけに、彼は一度目を閉じて深くため息を吐いた。


「……はぁ。想定しておくべきだったのかもしれんがな。些かコアは胸糞悪い話だったらしい」

「どういう事?」

「見ればわかる。まぁ、見んでも良いがな……」


 ユリィの重ねての問いかけに、カイトはコアのあった場所を見ながらしかめっ面で答える。そんな彼の言葉にユリィも一撃で破壊された巨大ゴーレムのコアを見ると、その理由が理解出来た。


「うっへぇ……それやるかな……」

「胸糞悪い……まぁ、想定出来た話ではあったがなぁ……」


 しかめっ面で舌を出したユリィに対して、カイトもまたしかめっ面だった。確かに、これならファルシュがここに入るのを推奨しないのも理解出来た。

 そこにあったのは、四肢が無い女性の遺体だ。その両手足のあった場所にはゴーレムのコネクタの様な物が接続されており、神経を直接繋いで操作しているのが理解出来た。

 四肢が戦闘で失われたのか研究の為に奪われたのかは理解出来ないが、少なくとも酸鼻を極める話ではあった。一撃で破壊出来たのは、カイトとしては悪い話ではなかっただろう。この光景を見ながら長々とした戦闘は如何に彼とてしたくなかった。


「はぁ……ホタル。まぁ、あまり推奨される話ではないんだろうが……あの中央の……人については滅却してやってくれ。些か残されていると精神的に良くない」

「……了解」


 己の指示に対するホタルの返答に僅かな間があったのは、おそらく気の所為ではないのだろう。カイトは無表情なホタルに対して、そう思う。

 彼とて一瞬はゴーレムのコアというべきか人というべきか悩んだのだ。仕方がない。そうして、次の瞬間。巨大ゴーレムの胴体に収められていた遺骸というべきか肉体というべきかのモノが消し飛んだ。


「滅却、終了しました」

「そうか。すまん」

「いえ」


 カイトの謝罪に対して、ホタルが首を振る。そうして、三人は最後のボスらしい巨大なゴーレムの襲撃を圧倒的な戦闘力で以って突破して更に奥へと進んでいく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1517話『オプロ遺跡』

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