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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1514話 オプロ遺跡 ――ファルシュの研究室――

ファルシュの娘コナタの保護から一日。休日を挟んで調査を再開したカイトは再度仕事として中央建屋の地下へと潜入していた。そうして当初の予定より遅れること数日で所長室の調査を開始したわけであるが、結果から言えば成果は上がらなかった。


「成果は無し、が成果かねぇ」

『だから、言っただろう? あの所長が重要な書類を忘れていく事はあり得ないし、些細でも研究に関係があると判断すれば自分で滅却するような人だ。あの所長が最後の最後に失敗、なんてあり得ないよ』

「あはは。それでも、それは知っている貴方だから言える事ですよ」

『まぁ、それはそうなんだけどねぇ……』


 カイトの指摘にファルシュも半ば呆れ混じりに同意する。これは確かに彼の言う通りで、カイト達はその所長とやらの事は知らない。なので調べるには調べるしかなかった。それにそれが仕事だ。見付からないと分かっていようと、どちらにせよ調査は必要だった。


「とはいえ、本当に出なかったという結論は得られました。それは必要な事かと」

『ま、それはそうだろうね。何も出ないと分かっていても、何も出ないのなら何も出ないという結果は残しておくべきだろうね』

「ええ……とりあえず今日はもう戻りますよ。現状、コナタちゃんの事もありますし……あちらの手配も色々と必要ですからね」

『うむ、頼んだよ』


 カイトの言葉にファルシュは頷き、それを受けてカイトは所長室を後にして外に出る事にする。そうして外に出たわけだが、カイトは書類を取りまとめつつ密かに繋いでいる皇国上層部と話し合いを行っていた。実は外に早目に出た理由はこの会議があるから、だった。


『ふむ……難しい問題ですな』

「ああ……やはり現状、遺跡の全システムは彼が保有していると考えて間違いない。が、知っての通り<<夢渡(ゆめわたり)>>で接触してまで情報を伝えたという事、そして彼女の存在を未だに伏しているという事はやはり解せないと言わざるを得ない」

『ふむ……』


 カイトの言葉に軍の高官達はどうするべきか、と頭を悩ませていた。彼らとて旧文明の遺産は欲しい。なのでそれに向けた準備は整えている。が、他方通信を介して侵食してくるのが敵だ。細心の注意を払う必要は考えられる。

 幸いこの遺跡は最後まで無事だった事が他ならぬシャルロットの口から語られているので、汚染されているという事はあり得ないだろうが、それでも何でもかんでも安心出来るというわけではない。何か手を考えなければならない事もまた事実だった。


『マクダウェル公。考えられる対策は何かありますか?』

「ふむ……まず第一にバックアップ。この場所についてだが、彼はこともなげにこちらに明かした。これについては間違いなく本物で、尚且バックアップが収められている部分に未知の端末が接続されているという事をレガドによって確認してもらった。無論、ここに彼が居るかどうかは最終的には彼を信じるか否か、になってしまうが」

『居たのならそれを破壊すれば終わり、と』

「最初から言っている様にな」


 軍高官の言葉に対して、カイトは頷いた。これについては最初から言っている事だ。もし万が一彼に敵意があったとて、このバックアップが入っているはずの場所にある彼の人格が入った記録媒体を破壊してしまえばそれで終わりだ。無論、カイトの言う通りここにファルシュが居るのなら、という話ではある。


「問題なのは彼が何を考えているのか、だろう。彼が何を考え何を企んで居るのか。それ次第で彼が敵なのか味方なのか、それとも敵でも味方でも無いのかが変わってくる」

『問題はそれをどうやって判断するか、ですか』

「そう、としか言えん。が、難しいな。彼の娘が言っていた通り、彼の性根としてはどちらかと言えば善良である事はオレも保証しよう。どんな研究をしていたかは今を以ってしても不明だが、彼は少なくとも……そうだな。外道の研究を行ってい事は無いだろう。彼の娘の言葉を借りれば、それが決して正しい方法でなくとも、だ」


 カナタは言っていた。性根が善良でもどうしても外道である者も居る、と。無論、カナタの言っている事を全て鵜呑みにしているわけではない。

 が、コナタに投薬が行われている事実はある。それが治療の為だという事は真実だろうが、もしカナタの言葉が本当で彼女が『エンジェリック計画』の完成体であるというのなら、ファルシュは娘を兵器として改造したという事でもある。善良であっても外道ではないとは言い切れなかった。


『……厄介な研究の可能性が高い、という事なのでしょうな』

「だろう。間違いなく、知られるとまずい類の研究をしていた可能性は非常に高い」


 カナタの発言を考えて、カイトは軍高官の指摘に同意する。これは確定だとカイトは読んでいた。今までの付き合いの中で彼は試しにファルシュから自身の行っていた研究を問いかけた事があるが、薬物投与による身体の増強に関する研究と言われた。まぁ、わかりやすく言えばドーピングだそうだ。


「おそらく彼は彼自身が言っていた様に下級の研究員ではないだろう。研究所でもかなり高位の研究者だと思われる。そうなると気になるのが……そんな彼が何故ここに残ったか、という所だ」

『ふむ……』


 カイトの指摘に軍高官達も頭を悩ませる。ここが、気になった。何故彼はここに残ったのか。研究の為、ひいてはコナタの為とは彼の言葉だったが、彼の腕を考えれば旧首都に戻ったとて一流の待遇を受けられただろう。ここに残る必要は無かったと考えられる。

 その彼が、敢えて物資の乏しい中でここに残った理由はなにか。残らざるを得なかった理由があるのなら、それは気になる事だった。そうして、一頻りの会議を終わらせたカイトは椅子に深く腰掛ける。


「……どうしたものかね」


 厄介だ。何が厄介かというと先に言った通り、遺跡の設備を全て彼に押さえられている事だ。こちらも迂闊には動けないのである。故にカイトは今でも迂闊に動く事はない。動けないからでもある。


「……今は、シャル達を待つしかないか」


 結局としては、そこにたどり着く。現状向こうが動きを見せていない事もまた事実だし、向こうが動きを見せるつもりもないのもまた事実だ。であれば、待つしかない。そうして、カイトはもどかしい思いをしながらも、しばらくは動けないまま調査を行う事になるのだった。




 さて、カイトが会議を終えた翌日。彼は今日も今日とて遺跡調査の仕事に取り掛かっていた。とはいえ、流石に調査もかなりの日数を行っている。なので調査も既に折り返しを向かえており、今日は地下区画も更に下層に手を出す事になっていた。


『第四階層以下ねぇ……一応何時も監視カメラを通して見ているのでいまいち感慨は無いが……改めて意識してみると久しぶりの気がするねぇ』

「毎日ここまで来るのは面倒じゃないんですか?」

『面倒は面倒だったよ。でも仕事上、ここに割り当てられた以上は仕方がなくてね。まぁ、仕方がないさ』


 カイトのどこか冗談めかした軽口にファルシュもまた笑いながら肩を竦めた。どうやら彼の研究室はここにあるらしい。今までは表向き下層にあるという事で彼の研究室に手は出さなかったが、彼の思惑を知る為にも入ってみる事にした方が良いだろう、と皇国上層部との相談で結論が出たのである。

 と、そんなわけでカイトが彼に彼の研究室に立ち入る事を要請してみたが、特に事もなげに立ち入りを許可してくれた。ここらが、彼が敵か味方か判断するのを妨げていた。隠したりそんな素振りを見せれば怪しいと思えるが、彼はコナタの事以外大して隠す素振りを見せないのである。


『さて……ああ、そこの扉が私の研究室だ。散らかっているのは許してくれよ。コナタが片付けてくれていたんだがねぇ……流石に地震とかで色々と落ちてしまっているからね』

「あはは……では、失礼します」

『うむ』


 カイトの言葉にファルシュが一つ頷くと、自身の研究室の扉を開く。中はやはり生物系の研究をしていた研究室、という所で特殊な溶液の入ったカプセルがあった。


「……こ、これはまた散らかってるねー……」

『じ、地震で崩れたって言っただろう?』


 ユリィの小声での一言にファルシュが恥ずかしげにそっぽを向く。確かに部屋は散らかっていたが、決して地震で崩れたの一言で良い様な散らかり方ではなかった。そこらに書類の残骸が散らばっていたし、どうやらここで食事を食べた事も何度もあるらしく金属製の皿が置いてあったりもしていた。


『……ま、まぁそれは良いか。とりあえず調べるのならどうぞ。身体能力を強化する為の薬を開発していただけだから、その研究記録しか無いけども……何か役に立てば幸いだよ。何より、ここが一番資料が残っているだろうからね。何か分からない事があったら、ぜひ聞いてくれ』

「ありがとうございます」


 カイトはファルシュの申し出を有り難く受け入れて、早速調査を開始する事にする。が、その調査も開始した所で一つの結論を下す事になった。


「……良し。これは先に掃除が先だ」

『……あ、あははは……うん。ごめんなさい……』


 カイトの結論にファルシュが項垂れつつ頭を下げる。確かに、彼の研究室には一番資料が残っていた。残っていたが、何よりここは散らかりすぎた。何がなんだか分からない。なので資料については持ち帰る事にして、ひとまず精査を後回しに部屋を片付ける事にしようと判断されたのである。


『え、えーっと……あ、そうだ。警備のゴーレム達も動員するから少し待ってくれ。うん、そうしよう。小間使いに使っていたシステムがあるから、それを使えばなんとでもなるはずだ』

「お願いします」


 おそらく実体を持っていれば真っ赤になっていただろうファルシュは早口にそう決めると早速作業に取り掛かる。そうしてカイト達は警備ゴーレム達を加えて掃除をしていくわけであるが、そんな中。皐月が声を上げた。


「カイトー」

「んだー」

「こんなの出て来たけど、これなんだっけー?」


 皐月が手にしていたのは、板状の何かだ。それを見て、カイトが首を傾げた。


「それは……カードキーか?」

『え? あぁ! そんな所にあったのか! いやぁ、どこにあったか分からなくてねぇ! まぁ、この人工知能があるから良いか、と思ってたんだけど……いやぁ、どこにあったんだい?』


 訝しんだ様子のカイトの声にカメラを向けたファルシュが笑いながら皐月へと問いかける。それに、皐月が先程まで掃除していた所にあった書類の一冊を指さした。


「あそこに挟んでありましたけど……」

『あぁ、そうだったそうだった! 確か栞代わりに使ったんだった! で、その後に確かコナタの呼び出しがあってご飯で、その後村から人が来て……あー! 思い出したよ! いやぁ、無くしてどこに行ったかなー、って思ってたんだ!』

「か、監視カメラの映像とか見ないんですか……? というか、人工知能なのに思い出したって……」

『いや、だってこの私が居ればいちいち確認する必要なんて無いだろう? 私が鍵を開ければそれで良いんだし』


 カイトの問いかけに、ファルシュは笑いながらなんで、とでも言いそうな顔で問いかける。どうやら、人工知能かつ監視カメラの映像を確認出来る様になっても彼は彼という所なのだろう。人工知能なのにズボラだった。


『まぁ、何かがあれば使えるだろうね。と言っても、この研究所に限るけど……ああ、今の私には必要のないものだから、それは君達にあげるよ』

「はぁ……」


 確かに今のファルシュにこのカードキーは必要がないだろう。彼はそもそも実体を持たないし、統括システムを管理出来る彼に鍵なぞ必要がない。そしてその彼に協力を貰っているカイト達にも特には必要のないものだ。

 なのでカイトもこれは資料として貰っておく事にする。と、そんなわけで掃除をする事数時間。昼ごはんを挟んで続けられた作業は、夕刻頃に終わりを迎える事となった。


「良し。こんな所かな」

『おー……ここが私の研究室とは……こんな広かったんだねぇ』


 資料等が完全に撤去された自分の研究室を見たファルシュが感慨深げに何度となく頷く。やはり散らかっていた物を全て撤去したからだろう。研究室に残っていたのはカプセル等の大型の物だけだ。故に研究室は非常にさっぱりかつ広く感じられた。


「でも本当に良かったんですか、これら研究資料を貰っても……」

『ああ。言っただろう? 研究とは世の中の役に立つ為に行うものだ。なら、私の得た結果や結論は今の人々が役立ててくれれば幸いだよ……まぁ、何の役に立つか、今も通用するかは分からないけどもね』


 カイトの問いかけにファルシュが笑いながら頷いて資料の回収を快諾する。そうして、カイト達は彼の研究室から得られるだけの資料を手に、地下を後にして戻る事にする。


『……まぁ、役に立つのが重要だと思うのだけどもね』


 カイト達が中央建屋を去った後。それを見送ったファルシュは電子の海の中でそう呟いた。


『悪いね……確かに研究が役に立つのは重要だと思うが……それでも、役に立ってはいけない研究もあるさ』


 ファルシュが見ていたのは、カイト達に貸し与えた警備ゴーレム達だ。無論、これらが何かを回収しているわけではない。が、それは今回収したわけではないわけではない。彼が目覚めてからカイト達が訪れるまでの間に彼は自身の研究室に警備ゴーレムを向かわせて、重要な研究資料については隠していたのである。


『……さて……コナタが何故あの状況かはわかったが……カナタが何故眠っているのかは気になる所だね。兎にも角にもカナタが目覚めない事には問題だ……もう少し、時間が必要かもしれないね』


 ファルシュは何時もと変わらない目で、そう呟く。が、その顔には僅かな狂気が滲んでいた。そうして、事態は更に進行していく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1515話『オプロ遺跡』

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