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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1513話 オプロ遺跡 ――不信――

 オプロ遺跡にてカイトによって保護された少女コナタ。彼女の保護から二日目の夜に、カイトは特殊な魔術により、夢の中でもう一人のコナタを名乗る少女カナタと出会う事となる。そんな彼女が告げたのは、自身が『エンジェリック計画』なる計画の完成体である事と、父であるファルシュの事を信頼するな、という事であった。そんな夢から一夜。朝になりカイトは普通に目を覚ました。


「ふむ……」


 やはり目を覚ましたとて夢の中の事を覚えているからだろう。カイトの顔は真剣だった。そんな彼の顔に、ティナが問いかける。


「ん? どうした?」

「いや、それが……」


 ティナの問いかけを受けたカイトは昨夜見た夢の事を告げる。そうして一通り語られて、同じように話を聞いていたシャルロットが目を見開いた。


「『エンジェリック計画』?」

「知ってるのか?」

「ええ……でもあり得ないわ。あれはルナリアが崩壊する十数年も前に破棄されたプロジェクトよ」


 カイトの問いかけにシャルロットははっきりとあり得ない事を明言する。それに、ティナが問いかけた。


「ふむ……どんな計画じゃったんじゃ?」

「正式名称は『人造天使アーティフィカル・エンジェル』製造計画。簡単に言えば、天の御使を作り出す計画……と言えば聞こえは良いけれど、人工的に神使に似た強大な力を持つ戦士を作るという計画よ」

「また無茶じゃのう」

「だから、破棄したんでしょう?」

「そりゃ、確かに」


 ティナはシャルロットの結論に毒気を抜かれつつも頷いた。無茶を実現しようとして、結局無茶がわかったから破棄されたのだ。計画が破棄されるには破棄されるだけの理由があった。


「結論として私が知る限りでは、理論的に完成して数人の被験体に施術を施したものの、身体の変質に耐え切れずに崩壊。結局机上の空論に過ぎないと判断された、という所ね」

「妥当じゃのう……そも神使とは神の御使。神の存在はどうしようと考えたんじゃ?」

「世界を神として見立て、らしいわ」

「まぁ、妥当といえば妥当かのう……」


 どうだろうか。ティナは頭で考察を行いながらもなんとかなる可能性はあると判断する。


「神が世界の末端であるのなら、その大元たる世界もまた神と見ても良いやもしれん。が、やはり無茶があるのう」


 末端と大元だ。言うまでもなく、その力の差は歴然だ。その末端さえ果てしない力を持つのに、その大元に接続しようというのだ。無茶も過ぎる。そして無茶も過ぎた結果は、必然として現れたわけであった。が、ここで一つ疑問が出た。それをカイトが指摘する。


「だが、彼女は確かに自分はあの計画に完成体と言っていたぞ? 嘘を言っている様にも見えなかったし……」

「今の話を聞いて、貴方はそれが可能と思う?」

「むぅ……」


 シャルロットの問いかけにカイトは道理を見て、眉の根を付ける。世界の強大さは他の誰でもなく、彼自身が一番知っている。理論的に可能ではあるだろうが、それが可能かと問われると彼も首をかしげるしか無かった。


「駄目だな。聞く限り、オレも可能とは思えん」

「じゃろうのう。可能となる道筋は余も幾つか思い浮かぶ。が、あまり推奨は出来ん。というより、公的な物として認められるとは到底思えん。実用化には些かでは済まぬ数の人体実験が不可欠になろう。素体も選り好みした上で、のう」

「でしょうね。私の記憶でも、当時の研究に携わった者たちの中にあの男は居なかったと記憶しているわ。そして勿論、そんな実験が施された事もないわ」

「ふむ……いたずら、なのかねぇ……」


 『人造天使アーティフィカル・エンジェル』。それを使って有り体な嘘を言った。現状ではそれが一番あり得る可能性だろう。カナタ自身も自身がコナタの裏返しと言っている。純粋無垢に対する妖艶で嘘を吐く女。それを演じているだけという可能性は確かにあった。


「とはいえ……あの男が気にするべき、という意見には私も同意よ。あの男……真っ当な性根ではなさそうね」


 あの人の良い笑みの裏に何かがある。シャルロットはなにか得も言われぬ何かを感じていた。そしてこれはカイトも同意する。


「少なくとも無条件に信頼して良い相手ではなくなった、か。間違いなくカナタという少女は実在する。これだけは事実だ。であれば、何故彼はそれを黙っているのか。そこの一つは間違いなく疑うに足りる」

「うむ……カイト。シャルをこちらで借りて良いか?」

「ん?」

「少々、シャルの記憶の復元を早めたい。レガドに向かおうかとのう」


 首を傾げたカイトに対して、ティナがその思惑を語る。確かにシャルロットはファルシュに対して何かを感じている様子だ。であれば、何か手がかりが掴めるかもしれなかった。


「そうか。わかった。こちらでの言い訳はこちらで考えておく」

「うむ。頼む。朝食を食べ次第、向こうに向かうつもりじゃ」

「よろしくね」


 カイトの応諾にティナとシャルロットが頷いた。兎にも角にも今はファルシュが何者なのか、を調べるべきだろう。どういうつもりかは不明だがカナタという情報提供者が居る以上、無条件に信頼するのは悪手と言える。調べるしかないだろう。そうして、朝食を食べてすぐに二人はレガドへと調査に赴く事にするのだった。




 さて、シャルロットとティナの両名がレガドへと経って少し。カイトはこの日からは普通に調査が入っている為、中央建屋に入っていた。そうして入るなり、即座にファルシュが姿を現した。

 調査の間はコナタの面倒はリーシャとミースに任せている為、邪魔にならないように建屋には入らせないようにしていた。なので出会う可能性は無いし、もし入る場合にはカイトへ必ず一報が入る。そこからファルシュにも連絡を入れられる、というわけであった。


『やぁ、カイトくん。おはよう』

「おはようございます、ファルシュさん」

『おや、今日は何時ものシャルロットちゃんは一緒じゃないのかね』


 やはり何時も一緒の女の子の姿が見えなければ気にもなるだろう。ファルシュがそう問いかける。それに、カイトは予め考えておいた言い訳を行う事にした。


「ええ。調査についても大分と進みましたし、見取り図を貰えたおかげで施設の通信機が設置されていた場所もわかりましたので……土砂の撤去が終わったので、そろそろ通信機を持ってこよう、となりまして」

『ああ、そういえばそんな話もしていたねぇ』


 カイトの言葉にファルシュがそういえば、と笑って頷いた。最初の頃に言われていたが、現在のこの施設では通信施設が全損している状態だ。そしてファルシュ自身も言っていたが、情報を提供しようにも膨大な量の情報量になっている為、カイト達が持ち込んだ通信機では時間が掛りすぎる、と判断されていた。

 ということでカイトはその話をシーラらに持ち込んだわけであるが、その結果規格に合致するアンテナを作ってしまおう、と皇国上層部で結論が下されていたらしい。湖底の遺跡でサルベージした研究資料の中に、このルナリア文明で一般的な通信機の規格があったそうだ。

 上層部としてもファルシュに騙されているという可能性はあったが、旧文明の研究所のデータという餌の前では些末なことと判断されたらしい。勿論、それ相応に用心はしろ、とは言われている。作業に必要な工兵に加えて増援も送ってくれるそうだ。


「ええ。それでそのアンテナを旧文明の規格に合わせる作業が終わったので彼女らには一度レガドに向かって貰って、というわけです」

『そうかい。どれぐらいで終わりそうかね』

「さぁ……一応規格に合致する、という事は分かっているそうなのですが……向こうで使い方の講習を受けたりしないとダメだそうで、早くとも週末になるのではないか、と」


 ファルシュの問いかけにカイトは肩を竦める。ここら、嘘は無い。事実冒険部からも灯里を筆頭にして数人講習に同行している。今後も調査に関わる事になる以上、同じ事をする事もあるかもしれない。聞いておく方が良いという判断だった。


『そうか。まぁ、それに輸送にも時間が掛かるし、設置だなんだとしていれば時間も掛かるか』

「ええ」

『さて、それで今日はどうするんだい?』

「とりあえず当初の予定通り、所長室に向かおうかと。もう隠す意味も無いでしょう?」

『そうだねぇ……元々私があそこに近づけたくない理由はコナタが居るというだけだからね』


 カイトからの相談にファルシュは笑って頷いた。現状、彼にはもうあの部屋にカイトが近付いて貰いたくない理由は無い。である以上、止める理由も無いのだろう。そうして、カイトは所長室に向かう事にする。


「全員、何か書類が無いか確認してくれ。まぁ、流石に退去の折りに全部回収されたとは思うが……」

『そうだねぇ。流石に何かあるとは思わないよ。なにせあの所長、口うるさい上に自分はしっかりしてくれるからねぇ。確実に不要な物はシュレッダーして出ていってる様な気がするよ』


 カイトの言葉に嫌そうにファルシュが笑う。どうやら、かなり生真面目な所長だったようだ。こう言われては結果の見えた作業となってしまうが、彼らには不要でも自分達には必要かもしれない。何かがあればめっけもんの心情で臨むべきだろう。

 というわけで、カイト達はいつぞやと同じく所長室の調査を開始する。と、そんな中で一番最初に成果を上げたのはやはりホタルだった。とはいえ、これは当然の話ではあった。


「マスター。例の小型魔導炉を発見しました」

「ああ、あったか。回収してくれ」

「了解」


 ホタルはいつぞやと同じく壁に手を突っ込むと、仕込まれていた小型の魔導炉を回収する。これについては後で解析に回して、魔導炉の開発に役立てるつもりだった。


「良し……さぁ、何か見付かると良いんだがな」


 カイトはとりあえずの収穫に安堵しつつも、次からが面倒だとため息を吐く。とはいえ、何もかもが無くなっていたわけではない。ファルシュは興味が無かったのでそのまま残されていたものもそこそこあった。例えば、どういう想いがあったのか所長の写真がそのまま残されていた。


「これが、所長ねぇ……」

『あー、そういえば一応流石に残しておいてあげるか、と残したままだったねぇ』

「お知り合い、と聞くまでもないでしょうね」

『流石にねぇ。私がここに来たのは間違いなく彼の采配だからねぇ。まぁ、苦手なんだけどね』


 どうやら本当に苦手らしい。カイトの問いかけにファルシュは苦い顔で顔を逸していた。おまけにカメラまで逸している所を見ると、あまり思い出したくないらしい。


『うむ。嫌な思い出を思い出す前にそんなものは伏せて置いておいてくれ』

「はい……」


 やれやれ、とカイトは苦笑しながら写真を伏せて机の上に置いておく。そうして、その一方でカイトは机の中を漁っていた。


「ユリィー。中どうだー?」

「だめー。完全に空ー」


 棚をひっくり返せど何も出てこない状況に、棚の中に潜って確認していたユリィが顔を覗かせて首を振る。どうやら全ての棚には紙片一つ残っていなかったらしい。


「はぁ……こりゃ、全滅かね」

『だから、言っただろう? あの所長、研究者としてはいまいちだったけど、所長としては中々の腕前でねぇ。廃棄書類は絶対に廃棄させるし、報告書の誤字脱字にもかなりうるさくてね。こっちも忙しいんだからそのぐらい……』


 どうやら言いたいことは山程あるらしい。しかも娘の前だから言えなかったのか、死人に口無しとばかりに言いたい放題に言っていた。


「あ、あはは……と、とはいえそんなのでも完璧に捨てて行ったわけでもない。何か残っていても不思議はないでしょう」

『あるかなぁ……あの所長、退去の折りも自分が一番最後とか書類も秘書に任せれば良いのに自分で廃棄する程几帳面だったからねぇ』


 どうやらファルシュとしては非常に可能性は低いと思っているらしい。心底嫌そうな顔だった。どうやら、コナタの事さえ無ければここにさえ来たくなかったのかもしれない。そうして、カイトは望みが薄いという所長室の調査を続ける事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1514話『オプロ遺跡』

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