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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1511話 オプロ遺跡 ――コナタ――

 旧文明の遺跡の中に一人生き残っていたコナタという少女。オプロ遺跡の研究者であったファルシュの娘である彼女の保護を行ったカイトはひとまず彼女の趣向等を把握する為、ファルシュとの相談の上で彼女の部屋へと立ち入る事にしていた。そうしてヘッドセットにリンクさせたファルシュの案内を受けながら、カイトは中央建屋の地下へと進んでいた。


『というわけでねぇ……やはり人が居なくなると研究室にも空きが出てね。いちいち外に出て自分の研究室に、というのも中々に面倒だからね。下の方で使わない研究室をゴーレム達に改良させて、居住区に改良したんだ』


 道中にて、ファルシュがカイトへとそう語る。住んでいるのだから宿舎に部屋があるのではないか、と思ったカイトであるが、そうではなかった。二人の部屋は中央建屋地下のファルシュが使っていたという研究室から少し離れた所にあった。

 少し離れた所なのは、インフラ系の設備がそちらの方が近いからだという事だ。ファルシュとしては研究室に近い方が良いのだろうが、コナタとしては逆にインフラ系の設備に近い方が良い。娘を溺愛するファルシュがそちらを取ったというのはカイトとしても疑念の余地はなかった。


『あ、一応しっかりと明言しておくけど、いくらバカ親を自認する私とて娘の部屋にはマイクもカメラも仕掛けていないよ? なので部屋で何が起きても私は分からないが……だからといって何もしないでくれよ』

「ユリィも医者も居ますよ……」


 おそらく映像として実体化していればジト目をしていただろうファルシュの言葉にカイトがため息を吐いた。流石にカイトも記憶喪失の女の子を良いように扱うつもりはない。というわけで、気を取り直した彼は近くに台所があると聞いてふとした疑問を問いかける事にした。


「ご飯等はどうしていたんですか?」

『それは勿論、近隣の村に買いに行ったよ。先の大戦……神話大戦では通信網が発達していた事もあって大都会程、ひどい被害を受けたからね。案外通信網がまばらだった地方の田舎村の方が被害が無かったのさ。更に言うと、そんな村に手を出すという戦略的な意味はないからね。まぁ、この研究所の近くには無かったんだが……更に東に行って海に近い所には漁村もあって、そこで食料の調達は出来たよ』

「そこまではどうやって?」

『飛空艇は使えなかったから、少し特殊なゴーレムを使ってね。四輪駆動のゴーレムなんだが……わかるかな?』

「……そうですね。地球にも似た物がありましたので、おそらくそれに類似するのだと」

『ほぅ、それは興味深いね』


 カイトの言葉にファルシュが興味深げに目を見開いた。おそらくこの四輪駆動のゴーレムというのは地球で言う所の自動車に似た物という所なのだろう。とはいえ、今はどうでも良い事だ。なのでファルシュはそのまま話を続けた。


『まぁ、そんな漁村だし、そもそも文明も崩壊して久しかったからね。色々と壊れた備品を修理する代わりに、私達に食料を定期的に供給してくれる事で合意していたよ』

「なるほど……貨幣経済も崩壊して久しいでしょうしね」

『まぁ、ねぇ……国がなくなるとどうしてもね。まぁ、幸いこの研究所には備品があったし、あの子意外と裁縫も得意でねぇ。服については何も問題はなかったよ』


 地下に取り付けられた監視カメラが僅かに動いて、カイトの前をリーシャ、ユリィと共に先を歩くコナタを中心に捉える。


『いやぁ、コナタは料理も出来て裁縫も得意と良いお嫁さんになれるだろうねぇ……あ、君にあげるわけじゃないからね』

「わかってますよ」


 ファルシュの言葉にカイトは笑う。と、そんな事をしながら歩いているとすぐに最奥に近い階層にたどり着いた。


「ここが、君の部屋らしい」

「……」


 コナタが扉の前に立つとぷしゅ、という音と共に扉が開いて中が見えるようになる。やはり長い間放置されていたのでホコリまみれではあったものの、近未来的な金属系の家具類はそのままだった。さらには素材の影響かシーツ等もかなり原型を留めており、元の様子が見て取れた。


「何か思い出せますか?」

「……」


 リーシャの問いかけにコナタは周囲を見回す。そうして、口を開いた。


「何か……懐かしい」

「ふむ……とりあえず君の部屋だという事なのだから、少し見て回ると良い。クローゼットとかもあるだろうから、オレはここで待っているよ」


 如何にカイトといえども少女の衣装ケースを覗くわけにはいかないだろう。なので扉の横で待機するカイトの言葉を受けて、リーシャとユリィがコナタの手伝いを開始する。

 そうしてウォークインクローゼットらしき扉を開くと、そこにはハンガーらしき物に掛かったコナタが着用していると同じ素材で出来た服が何着も掛かっていた。


「……同じ服」

「お気に入りだったのかな?」

「……多分。落ち着く」


 ユリィの問いかけにコナタが頷いた。どうやらやはり今彼女が着用している服は彼女のお気に入りだったという事なのだろう。似たようなデザインの服が幾つもあった。

 が、それを見てコナタは残念そうだった。というのも、やはり時の流れにはいくら最先端の技術だろうと逆らえず、風化してボロボロになってしまっていたからだ。


「……でも、これはもう着れない」

「流石にねぇ……ボロボロだし……」

「でもこっちのは着れそう」

「?」


 コナタの指摘にユリィが視線を落とす。足元には金属製のタンスが設置されており、コナタはそこの引き出しを開いていた。やはり自分の部屋という所なのだろう。本能的に何がどこにあるのか、というのを察知していた様子だった。その中に収められていたのは、真空パックされた同じ類の衣服だった。


「……どれだけ持ってたの?」

「……沢山持ってたと思う」

「そ、そう……」


 僅かに嬉しそうにポリ袋に似た包装がされた服を抱きかかえるコナタを横目に、流石に似たようなデザインの服が沢山あればユリィも頬を引き攣らせるしかなかったようだ。僅かに引いた様子を見せていた。

 なお、記憶を取り戻した後のコナタに聞けばこのデザインは当時一般的なもので、滅多に買い出しに出掛けられない事を考えて手に入る時に多めに買い溜めておいたとの事であった。別に偏執というわけではない。

 更に言うと、やはりここは研究所。周囲は大人が大半だ。ここでは彼女のサイズの服は基本彼女ぐらいしか使わなかったらしい。なので余った衣服を貰っていると必然として使わない物を大量に保存しておく事になり、結果としてここで日の目を見たという事だろう。


「ま、まぁ、服については使えそうで良かったね。下着とかは予備無いの?」

「……多分、こっち」


 コナタはユリィの問いかけに更に横のタンスを開く。そちらにはやはり下着類が収められていたらしいが、こちらは新品というわけではなく使った物を畳んで入れていたらしい。大半が劣化してしまっていた。


「素材は……シルクかな、これなら……なら、新品は多分手に入るよ」

「……」


 ユリィの言葉に対して、コナタは少し残念そうだ。やはり自分の物という認識が潜在意識下にはあるのだろう。そして女の子である以上、この中にはお気に入りの一つや二つはあったかもしれない。それが使えなくなってしまっていれば残念にも思うだろう。というわけで、一通り彼女の衣服の新品だけ回収すると、二人はウォークインクローゼットから出て来た。


「カイトー。終わったよー」

「ん? もう良いのか?」

「幸い新品が幾つかあったらしいからね。それを持ち帰れば布地を作るまでなら大丈夫じゃないかな」


 カイトの問いかけにユリィはざっとしたあらましを語る。そしてそれなら、とカイトも納得した。


「そうか。なら、他を見て回るか。何か気になる事はあるか?」

「……わからない。でもここは多分、私の部屋だと思う……」


 少し困惑ながらも、コナタはやはり何かわかるものがあったのだろう。ここが自分の部屋であると受け入れていた様子だった。というわけで、カイト達はひとまず彼女の思う通りにさせる事にする。兎にも角にもまずは彼女の記憶を取り戻す事が先決だ。その手がかりが見つかれば御の字だろう。


「……」


 コナタは時に椅子に腰掛け、時に机をなぞってみて感覚を確かめる。と、そんな彼女であるがウォークインクローゼットの横とはまた別の所にある彼女の背丈並もある大きな鏡の前に立って、首を傾げた。


「どうした?」

「……何か、可怪しい」


 コナタはどういうつもりか、鏡に手を当てて首をかしげる。そしてそれだけでなく鏡の中の自分に手を振ってみたり、時にこんこん、とノックしてみたりしていた。


「その鏡か?」

「……さぁ。でも、何かが可怪しい」

「さ、さぁ……まぁ、とりあえずそういう事ならどいてくれ」


 首を傾げたコナタにカイトはたたらを踏むも、気を取り直して一度鏡を退けてみる事にする。が、その先には普通に壁があっただけだ。無論、ここに隠し通路があるという事もない。


「鏡の方は……こちらもこちらで何も無いが……」

「……でも、何かが可怪しい」


 何が可怪しいかは分かっていない様子だが、どうやらコナタははっきりと違和感を感じているらしい。相変わらずカイトが持っている鏡に視線を向けていた。それを受けて、カイトはリーシャに視線を向けてみる。それに彼女も少し困った様な顔をしていたが、少し考えた後に口を開いた。


「そうですね……おそらく記憶喪失の弊害の可能性がありえます。今まで全身を写す鏡の前に立った事はありませんでしたので……」

「ふむ……ん?」


 鏡を持ち上げていたカイトであるが、そこで鏡の裏に文字が刻まれている事に気がついた。


「これは……文字か?」

「……?」


 カイトの問いかけにコナタもまた鏡の裏面を覗き込む。するとそこにはハッピーバースデーという文字が刻まれていた。それを見て、コナタが口を開く。


「……とう……さま……?」

「ん?」

「……父様がくれた……んだったと思う……」

「父様……父親からの誕生日プレゼント、という事か。なら、一応外に出しておくか?」


 カイトの問いかけにコナタはこくん、と頷いた。どうやらファルシュからの誕生日プレゼントだったらしい。よく見ればデザインとしては悪くない。まぁ、全身鏡とは些か苦笑したくなるプレゼントだが、親としてファルシュが愛していた証と言っても良いのだろう。


「良し……そう言えばお父さんの名前、思い出せないか?」

「……」


 ふるふるふる。コナタはカイトの問いかけに首を振る。とはいえ、拒絶している様子はない。というわけで、カイトは試しに聞いてみる事にした。


「ファルシュ、という名前に聞き覚えは? 先ごろこの遺跡の資料に出て来た名前なんだが……」

「……?」


 カイトの問いかけにコナタはきょとん、とした様子で首を傾げる。どうやらそんな都合の良い話はなかったらしい。それに、カイトも無理はさせるわけにはいかない、と敢えて突っ込まない事にした。


「そうか……ああ、コナタちゃん。もしどうしても鏡を見て違和感が拭えないというのなら、彼女かミース……先のお姉さんに話ておいてくれ。それから考えよう。これは君の部屋に置いておくから、何時でも確認してくれ」

「……はい」


 兎にも角にも現状ではまだコナタの状況がどうなっているかも定かではないのだ。ならしばらくは様子見でも問題はないだろう。

 というわけでカイトは鏡についてはまた後に考える事にして、そしてそれを受けて彼女も今はひとまず放置する事にしたようだ。再び探索に戻る事にする。が、特に目新しいものが見付かる事もなく、その日は引き上げる事にした。


「……と、いう様子ですが……何か思い当たる節はありませんか?」

『ふむ……鏡を見て違和感を、ねぇ……にしても、そうか。鏡、覚えていてくれたんだねぇ……』


 そんな帰還の道中。カイトはヘッドセットを介してファルシュへとコナタの状態を問いかけていた。やはり父親だ。何かわかる事があるかも、と思ったようだ。

 なお、どうやらお気に入りの服が見付かった事でコナタはそこそこ上機嫌でカイトの前を三人並んで歩いていた。こちらを気にする様子は一切無かった。


『いや、今はそれは良いか。ふぅむ……何か違和感を感じている、という事は何かがあるという事なのだろうけども……うむ。私が記憶している限り、今の彼女の姿は私が知っている姿と一切の変化はないんだけどねぇ……』


 何があるんだろうか。ファルシュはコナタの様子に首を傾げた様子で考え始める。


『ダメだ。こんなダメ親だけど、これでも娘の体調管理はしっかりしている。なので身体に関してだけはしっかりと見ていたと思うよ。なので違和感を感じる要素は無いはずだ』

「そうですか……ではやはり、記憶喪失の影響で一時的に違和感を感じているだけかもしれませんか」

『そうかもしれないねぇ……まぁ、薬については今しばらくどうにもならない。なので違和感を与えてしまうのは心苦しいが……間違いなくあの子の姿はあの子そのものの姿だ。それに間違いはない。慣れてもらうしかないだろうね』


 カイトの言葉に同意したファルシュは現状何が違和感なのかも分からない以上、手の打ちようがないようだ。というわけで、この違和感については経過を観察するという事にして、一同は拠点へと帰還する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1512話『オプロ遺跡』

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