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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1510話 オプロ遺跡 ――生存者・3――

 オプロ遺跡の元研究者ファルシュの娘コナタ。ファルシュの依頼により彼女の保護を行ったカイトであったが、所長室のシェルターより解き放った彼女は記憶を失っていた。それをファルシュに相談した所、病弱だという彼女が服用していた薬の一つに副作用として記憶障害を引き起こす薬が使われているとの事であった。

 その対処はファルシュが考える事となり、カイトは彼よりとりあえず使っている薬の処方箋を受け取るとリーシャ達の所へと帰還していた。


「わかりました。では確かに、お預かり致します」


 薬の調合について書かれた書類を受け取ったリーシャはそれをファイルに綴じておく。そうして無くならない様にして、改めて素材などを確認する事にした。


「……」

「どうだ? 何か問題はあるか?」

「そう……ですね。幾つかの薬草については私も聞いたことがないものが含まれています。その内幾つかは似た名前で同じ薬効を持つ物がありますので、おそらく時代の移り変わりで名前が微妙に変化したのだと思われます。が、数種、似た名前の思いつかない薬草も見受けられます。もう少し詳しい事が分からない事には調合は難しいかと……」


 カイトの問いかけにリーシャは幾つかの内容を別途メモにしたためながらそう答える。なお、何を書いているかというと、名前が変化したと思しき薬草について今の名前と効能、見た目の特徴などを書き出しているらしい。後でファルシュに確認して貰って、それで良いのならそれを使うつもりだった。


「わかった。そちらについては流石に専門外も良い所だ。そちらは任せるよ」

「はい」

「それで、コナタちゃんは?」


 カイトは周囲を見回して、ユリィ、ミースと共に消えていたコナタを探す。が、どうやら医務室代わりのテントには居ない様子だった。


「彼女なら今、ミースが連れて研究所の周辺を歩いています。彼女が外に興味を覚えたので……何か記憶を取り戻すきっかけになれば、と。彼女自身も記憶を取り戻す事に拒否反応は見せませんでしたので……」

「ふむ……それなら問題はないか」


 ひとまず記憶を失っている以外にコナタには問題が起きていないらしい。更に言うと薬による記憶障害とて疑いであって、まだ確定した情報ではない。何かふとしたきっかけで記憶を取り戻す無いではなかった。そこについては専門外のカイトが言うべき事ではないし、無理をさせないだろうという信頼もある。彼が気にする事はないだろう。


「そう言えば、彼女の服についてはどうした? 見た所、保護した時の服を着ていた様子だが……」

「一応、今の服も用意はしてみましたが……気付いたらまたあの服に袖を通していました。とはいえ、普段着という理解はあるのか、昨夜は寝間着については普通に用意したものを使っていました」

「そうか」


 カイトはコナタの着ていたどこかぴっちりとしたタイツ状の服を思い出す。シルクなどとはまた違う光沢と滑らかさがあり、近未来的な服装といえば近未来的な服装だった。素材は現代文明では失われた素材と考えて良いのだろう。間違いなく何らかの化学繊維系だと思われた。


「ふむ……何か考えないといけないか。流石にあの服はなぁ……」

「まぁ……」

「いや、お前が同意するなよ。オレはお前が一番ダメだと思うぞ。間違っても、あの子の前であんな格好すんじゃねぇぞ」

「あ、あははは……」


 一応、リーシャも自分の性癖については分かっている。なので仕事中はきちんとした服装を着ている。が、それ以外を知るカイトとしては彼女に同意されるのはなんというか納得が出来ない様子だった。とはいえ、何かを考えないとダメだというのは事実だ。なのでカイトが気を取り直した。


「はぁ……まぁ、それはともかく。どうするかね。流石にあのピッチリとしたタイツ状の服をいつまでも着せるのは拙いだろうが……ファルシュさんに一度素材が何か聞いてみる必要もあるな……」


 兎にも角にもいつまでもあの服しかない、というのは問題だろう。その為に弥生には衣服を用意してもらっていたが、当の本人が着てくれないのでは問題だ。

 とはいえ、そういった所は親であるファルシュが何かを把握していても不思議はないので彼に聞くのが一番だろう。というわけで、カイトは立ち上がってまたファルシュの所へと向かう事にする。


『ふむ? そういえば私もあの子があの服以外を着ているのを見た事がないね……多分、だけど』

「おい! おい! 父親! あんた一応、あの子の唯一の肉親だよなぁ! せめて少しは気を遣ってあげよう!?」

『あっはははは! いやぁ、これでもダメ親父は自認しているよ! まぁ、色々と用意はしてもらっていたらしいから、あのデザインが気に入っているんじゃないかな? あの子、そういう所凝り性だから。何着も同じ服を持っていても不思議はないねぇ……後で彼女の部屋に入って確認しておくべきだろうね』


 思わずタメ口でツッコミを入れてしまったカイトに対して、ファルシュは大声で笑いながら自分がダメダメである事を明言する。まぁ、これについてはカイトも一切取り繕える事はない。と、そんなファルシュは一転気を取り直した。


『とはいえ、そうだねぇ。服……ふむ。これについては君なら理解出来るだろうが化学繊維と呼ばれるものでね。高分子量素材、と言えば良いのだが……』

「ポリマー系というわけですか」

『そうだね。説明が早くて助かるよ。これについてはルナリアでは君達で言う所の高校で教えていたから、基礎知識としてこの施設にも使っていた素材の詳細はあるよ。錬金術を使えば用意出来るはずだ。おそらく彼女もそこらが潜在意識下に残っていて、あれを気に入っているのだろうね。良し、少し待ってくれ』


 ファルシュはそう言うと、手早くコナタの着ていた衣服の素材に関する情報を提示するべく検索を始める。そしてその間に、素材についての軽い話をしてくれた。


『元々はメイデアの方で偶然に開発された素材らしくてね。安価かつ大量生産に優れているという事で、当時のエネフィアでは一般的なものだった。と言っても、私の白衣の様に昔ながらの素材を使っている所も少なくないけどね』

「まぁ、それは素材の着心地などに左右されるでしょうからね。結局はその人が最も使いやすいものを、という所でしょう」

『うむ……ああ、これだ。基本的には錬金術を応用して原材料を作っていた。で、それを専用の工場に持ち込んで、生地を大量生産という所かな。なので一品物として生地を作る事そのものはさほど難しい事ではないと思うよ』

「ふむ……」


 ファルシュから提示されたコナタの着る衣服の素材の原料を見て、カイトは大凡地球で言う所のポリエチレンに似た素材だと理解する。と言っても勿論、似ているだけで同じではない。

 例えば物理的性質が似ているだけで、この素材は魔術に対する強固な防御特性を示していたりもしている。これはポリエチレン素材には無い特性だ。その影響からか、優れた耐熱性も保有しているらしい。

 あれだけピッチリとした様子でありながら通気性も優れているらしく、当時のルナリアでは普段着用として広く使われていたものらしかった。一概には言えないが、衣類用の素材としてはポリエチレンやポリエステルの上位互換とでも考えれば良いのだろう。


「……そうですね。この程度なら素材の精錬はそこまで難しい事ではないでしょう。生地は作れると思いますよ」

『そうか。まぁ、それについてはそちらに頼むよ。流石にこんな衣服用の生地なんて研究所じゃ作れないからね』

「わかりました。それについては彼女の意向を聞きながら、手配しておきましょう」

『うむ、頼んだよ』


 これで衣服については何とかなるだろう。カイトはそう判断すると、これについては懇意にしている錬金術師と裁縫屋に依頼する事にする。弥生に仕立ててもらっても良いが、やはり未知の素材という事で色々と勝手も違うだろう。なので専門家に任せる事にしたようだ。と、そんな話をした所でついでなので、カイトは問いかけてみる事にした。


「そういえば彼女の性格は元々ですか? 妙にぽやん、とした独特な雰囲気があるのですが……我々では記憶喪失の影響かどうか分からないので……」

『ん? ああ、あの子の性格か。うむ。かわいいだろう? あれでいて色々と良く気のつく子でね。気付けば私の散らかした書類などをきれいに片付けてくれていたりしたものだよ』

「そうですか……それなら問題は無いですか」


 でれっとした様子で相好を崩すファルシュに、カイトはコナタのあの不思議な性格が元々だと理解する。と、ついでなのでカイトは一つ問いかける事にした。


「そういえば……彼女の名前。妙に貴方とは繋がりがありませんが」

『ああ……コナタの名か。うん。母が東方の島の出身でね。独特なネーミングだろう? いや、そういえば君たちはそう思わないか。そういえば、あの島はまだ残っているかな?』

「それで……ええ、今も残っていますよ。この間、休暇に出掛けさせて頂きました」

『そうか……なら、何時か機会があれば彼女も連れて行ってあげてくれ。何時か妻の故郷を見せてあげたくてね』


 どうやらコナタの母が中津国――当時はルナリアの所属だったらしいが――の出身者だったらしい。今で言えばハーフという事なのだろう。それならカイトにも彼女が見た目に反して中津国風の名前である事にも納得が出来た。


「そうでしたか。と言っても、当時の名残りは何も無いでしょうが……」

『ああ、構わないよ。私としても妻の遺言なんだ。何時かあの故郷の夕陽を見せてあげて、と言われていてねぇ……不甲斐なくもこの通りだから、できれば頼むよ。流石にここから動けないからねぇ。あの子も元気になったら見に行きたい、と言っていてねぇ……』


 ファルシュは僅かに儚げに笑いながら、自らの身体を指し示してカイトへとそう言って頭を下げる。それに、カイトも快諾する。


「そうですか……わかりました。では、それについてもこちらで取り計らいましょう。と言っても、時間は掛かるかと思いますが……」

『ああ、良いよ良いよ。私なんて妻が死んで十年以上も行けていないからね。あの子の治療に奔走していたら、妻には不義理をしてしまったものだよ』

「あはは」


 少し苦笑気味に笑うファルシュの言葉に、カイトもまた笑う。そうして一通りの話し合いが終わったので、カイトはその場を立ち去って再び外の拠点にまで戻る事にする。すると、そこではコナタが戻ってきていた。


「よう。散歩はどうだった?」

「……よく分からない」


 カイトの問いかけにコナタは小首を傾げる。まぁ、まだ外に出たばかりだ。分からない事は多いだろうし、色々と当時とは違う事が多い。実感がないのも仕方がないといえば、仕方がなかったのかもしれない。


「そうか……まぁ、気長にすると良い。今はまだ目覚めたばかりで勝手も掴めないだろうからな」


 カイトの言葉にコナタはこくん、と頷いた。彼女としても焦って強いて記憶を取り戻そうという感じはない様子で、更に言えば記憶を失っていても困った素振りは見受けられない。その点については良いと言えば良い事なのだろう。というわけで、カイトは本題に入る事にした。


「それで、研究所のシステムを閲覧していると君の部屋についての情報があってね。流石に女の子の部屋に男が勝手に」

「……入っても良いです」

「……あ、そう」


 自らの言葉を遮って下された許可に、カイトは目を瞬かせながらも頷いた。なお、実はまだファルシュの事は彼からの依頼により黙っている。記憶喪失の状態で親の死を告げられても混乱するだけだし、人工知能の状態で語りかけられてもより一層混乱しかねない、と彼自身から申し出られたのだ。

 これについては繊細な問題かつコナタが記憶喪失の現状での不用意な接触は避けるべき、とミースらも同意しておりコナタの近辺ではファルシュの事については黙っているように冒険部全体に通達を出してもいた。


「い、いや、とはいえやはり君にも来てもらいたくてね」

「……なら、別に」

「そうか。助かるよ」


 コナタの許諾にカイトが頷いて感謝を示す。とりあえず今日の内に衣服だけでも手配をしてあげたいところなので、忙しいが今日の内に彼女の部屋については入るつもりだった。これについては先行してファルシュが道中の安全が確保されている事を確認してくれているので、問題はないらしい。そうして、カイトはコナタを連れて再び遺跡の中央建屋へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1511話『オプロ遺跡』

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