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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1508話 オプロ遺跡 ――生存者――

 オプロ遺跡の調査任務を開始しておよそ一週間。施設の動力を復旧してそれに伴い起きていた異常に対処する日々を送っていたカイトであるが、そんな中。遺跡調査の協力をしてくれていたファルシュよりひとつ頼み事を受けて欲しいと頼まれる。

 少なくとも今までの経緯から彼に害意が無い事を把握していたカイトはその頼みを聞く事にして昼休憩に入り、そして一時間後に中央建屋ラウンジに帰還していた。そうして、彼は声を上げた。


「ファルシュさん、カイトです」

『ああ、来てくれたね。待っていたよ』


 カイトの呼び出しに応じたファルシュは何時も通り笑いながら半透明の姿を現した。が、その手には何時もとは違い一つのロケットの様な物が握られていた。


「ええ……それで、頼み事という事でしたが。出来る事ならお手伝い致しますが……」

『うむ……まぁ、君なら既に気付いていると思うが。私は今までなるべく君たちが第二所長室に近付かない様にしていた。それは良いかな?』

「ええ、まぁ……」


 ファルシュの問いかけにカイトは曖昧ながらも頷いた。これについては当然、カイトも気が付いていた。今回の調査任務における一同の予定は彼との遭遇二日目の時点で語っている。その予定では所長室には三日前には入っている予定だったが、その前にファルシュから異常のチェックと修正を行う提案を受けたのだ。

 更には幾つかの薬品庫へ向かう際に所長室の近くを通ったが、その際にはどういうわけかファルシュが現れてなるべく所長室から注意を逸らす様な素振りを見せていた。そういった事に気付いていれば、彼が所長室にあまり立ち入って欲しくはないという事は早々に理解出来た。


『うむ。それで君たちの今までの調査実績を鑑みた際、やはり気付いてはいると思うが……所長室にはシェルター代わりの役目がある』

「一応、推測という所ですが……かつてここから北に数百キロの所にある通信系の研究を行う所の所長室を見ています」

『あそこか。あそこは戦争中盤における最激戦区の一つだった。あそこが落ちたのは痛かった……まぁ、敵の手に渡らない様に色々と封印したとは聞いたが……その封印を解いたか』

「封印、というよりも湖の下に沈めたというのが正しい様子でしたが……」


 目を閉じて告げたファルシュの言葉にカイトは大凡を語る。そしてそこらの語り合いが終わった頃、ファルシュは一つ首を振った。


『いや、今はこんな事を話し合う為に話をしたのではないな。それで実は、君たちがオプロ遺跡と呼ぶこの遺跡には一人、生存者が居る』

「……それは貴方にとって大切な方と見て間違いありませんね?」

『……やはり、君は素晴らしい知性を持っているね。ああ、そうだとも。私にとって、とても大切な存在だ』


 僅かに考えた後のカイトの問いかけに、ファルシュははっきりと自分にとって大切な存在であると明言する。そうして、彼はその詳細を語り始める。


『私の娘でね。私と共にこの研究所に残っていたのだが……やはり人手不足でね。私が研究をしたり、魔物の襲撃があった時には万が一の場合に備えて所長室に避難する様に言い含めておいたんだ。で、私本体の死亡を受けて、非常時のシステムを起動したのだが……まさかここまで時間が経過するとは思ってもいなかった。すぐに誰かは来るだろうとは思っていたのだけれどね。まぁ、その後の経緯を聞けば納得は納得だったけれど』

「……わかりました。保護については私が請け負いましょう」

『頼むよ。早くに妻を亡くし、当時でさえ私しか身寄りが無くてね。研究バカだった私にとって、ただ一つの宝なんだ。親の贔屓目だが、素直で良い子だ。人里離れた所で暮らしていた所為で若干、人と感性が違う子なんだが……迷惑は掛けない。どうか、守ってやって欲しい』


 カイトの明言に対して、ファルシュは深々と頭を下げる。どうやら、マイペースではあるものの親としての情は深いと考えて良いのだろう。本当に人工知能なのか、と疑いたくなる程に言葉には愛情というものが感じられた。カイトとしてもそれなら、と一切の余地もなく保護するつもりだった。


『それで、これが娘の容姿だ』

「わー。かわいいー」

『だろう? もうこのちょっと恥ずかしげな所とかが実に可愛くてね。今はもう少し成長しているが……今も変わらず私の愛らしい天使だよ』


 ロケットを開いて中に収められていた写真を見たユリィの言葉に、ファルシュは相好を崩す。どうやら昔からの親ばかと言っても良いらしい。ロケットの中のファルシュは娘を嬉しそうに抱きかかえるも、そんなファルシュは相変わらず無精髭が生えているからか娘らしい女の子に少し嫌がられていた。そんな彼にカイトは笑いながら、先を促す事にした。


「あはは……ファルシュさん。とりあえず先にその子を救出してしまいましょう。時の止まったシェルターではありますが、当時とてこんな数千年もの使用は想定されていないはずだ。体調などを崩しているかもしれない。一刻も早く出してあげるべきでしょう」

『お、おお、そうだね。いやぁ、どうにも娘の話になると我を忘れてしまうよ』

「あはは」


 楽しげに笑ったファルシュにカイトは一つ笑うと、一転気を取り直して行動開始に向けた指示を出す事にする。

 

「……皐月、悪いが一旦ファルシュさんの娘を保護してくる。その間に外のティナと弥生さんに連絡を取って、保護の手はずを整えてあげてくれ」

「私達はこっちに残った方が良い?」

「ああ。流石に唐突に大人数に囲まれていると不安になる可能性はある。それは避けておきたい」


 皐月の問いかけにカイトは手短に理由を伝える。ティナと弥生に連絡を取らせたのは、前者は公爵家を介して保護の手配を行う為、後者はこの様子だと生活用品は新しく整える必要があるだろう。食料やアメニティグッズは問題ないが、衣服は中々に手配が難しい。それを担当するのは弥生となる為、彼女の協力も不可欠だった。というわけで、皐月もそれを受け入れた。


「わかった。じゃあ、こっちでやっておくわね」

「ああ、頼む。シャル、お前もオレと一緒に来てくれ。他の面子は一旦この場で待機。もし皐月から指示があれば、それに従う様に」


 皐月の返答に一つ頷いた後、カイトは改めて他の面子にも指示を出しておく。そうして一通りの指示を出したのを見て、ファルシュが問いかけた。


『もう良いかね?』

「ええ、おまたせしました」

『いや、こちらが無理を言ってのことだ。それぐらいは待つよ……さぁ、では行こうか』


 カイトが頷いたのを受けて、ファルシュは改めてカイト達三人――勿論ユリィも同行する為――の案内を開始する。そうして道中で三人はファルシュの娘自慢を聞きながら移動する事になる。が、それを聞きながらもカイト達は念話で会話を行っていた。


『娘……ね。ここに家族で来ていた研究者はそこそこ多かったわね』

『ふむ……そうなると流石に全員は覚えていないか?』

『そうね。でも……父子のみの研究者はそう多くはないわ』


 情報ならファルシュが勝手に喋ってくれている。なのでそれを聞けば良いだけの話だ。そしてそれを聞きながら、カイトが問いかけた。


『なんとかなりそうか?』

『……微妙といえば微妙ね。見たことがある、というのも私の所感だし……もしかしたらそういうつもりなだけで見たことがない可能性もあるわ』

『まぁ、それはそうだがな』


 確かにシャルロットの言っている事は正しい。見たことがある様な気がする、とは言っているものの彼女とてはっきりと見た事があると思っているわけではない。

 なので実際に研究所に来た時にどこかですれ違っただけ、という可能性も決して低くはない。が、ぱっと見て見覚えがある、と言うぐらいなのだから流石にカイトもシャルロットもそれは無いと思っていた。


『何か、何かが引っかかるのよ。あの男。確実にどこかで見ているの。警戒しないとダメと私の中の何かがそう囁いているわ』

『どこかで、ねぇ……』


 そのどこで、かつ何の事情で、という所が分からない事には現状先にも進めない。というわけでカイトはため息を吐くしかない。と、そんな事をしているとあっという間に所長室へとたどり着いた。


『さぁ、着いたぞ。流石に統括システム側ではシェルターは開けなくてね。申し訳ないが先の鍵を使って開いてくれ』


 所長室の扉の前に立ったファルシュは扉の横にある制御端末を指し示して、シャルロットへとそう依頼する。後に聞いた話であるが、どうやらシステム異常でシェルターが開かれる事の無い様に、シェルター稼働時には施設の統括システムとは独立したシステムが展開されているらしい。なので施設側からの解除は出来ず、外側から解錠するしかないそうだ。


「じゃあ、通すわ」


 そんなファルシュの依頼を受けて、シャルロットがカードキーを横の制御端末に通して自分の認識コードを入力する。それを受けて、一つ電子音が鳴り響いた。認識されたらしい。


『良し。これで気密性の解除が……うん。解けた。っと! コナタ! 急いでくれ! 中のコナタ……娘が倒れた!』

「っ!」


 ファルシュの報告を受け、カイトは急いで中に入る。すると所長室の中央と思しき所で一人の女の子が倒れ伏していた。それは確かにファルシュが見せたロケットの女の子が成長した様な容姿で、年の頃合いとしては大凡天桜学園の生徒達よりも数歳年下という所だろう。外見年齢としては大凡十代半ばの前半より、という所だ。


『コナタ! コナタ! 聞こえるかい!』


 そんな倒れ伏した女の子を抱き起こしたカイトの横に映像として現れ、ファルシュが娘へと必死で呼びかける。その一方、カイトは落ち着いて脈を取っていた。


「……大丈夫です。少なくとも生きてはいます」

『っ……そうだ。生命反応を計測する装置を起動して……』


 カイトの様子にファルシュも落ち着いて今の自分に出来る事を行う事にしたらしい。施設に備え付けられている各種の検査機を起動させて娘の体調を測定する。


『……良し。少なくとも脈拍に問題は無い。肉体的にも……問題はない。おそらく一時的に気を失っているだけなのだろう。何分ここまで長期のシェルター使用は我々としても考えていないが……後遺症の一つとして長時間の時間停止の後、急激に時が流れる事で身体に変調を来す可能性は示唆されていた。おそらくそれなのだろう』


 各種の検査機で多重に娘の体調を調べていたファルシュは検査結果を受け取って、僅かに安心した様に胸を撫で下ろす。と、そんな検査結果を映像で見せてもらっていたシャルロットがふとした疑問を抱いた。


「……いえ、これで正常値なの? 随分と色々な数値が低い様に見えるのだけど……」

『ん? ああ、実は娘は病弱でね……妻からの遺伝なんだ。それ故か年の割には成長が遅くてね……実は種族として見れば君達と変わらないぐらいの年齢なのだが……まぁ、種族的に成長が遅い種族の血を引いている事もあるが、それでも成長が遅いんだ』


 シャルロットの指摘を受けたファルシュは僅かに悲しげに目を伏せる。それを受けてカイトも女の子――コナタというらしい――を改めてしっかりと視てみると、確かに身に纏う魔力は数多の強者を見てきた彼らをして膨大と言わしめる程のの、逆に肉体的にはそれに不釣合いな脆弱さが見受けられた。


「……魔力がかなり過剰ですね。常人の倍……いえ、その更に倍以上はありそうですか。気を失っている現状でこれだと、実際はどれだけやら、とお見受けしますが……」

『うむ……私の治療の影響もあるのだが……元々生まれた時から常人の数倍以上の魔力を保有していてね。それが肉体的にも影響してしまっている。その量になると封印措置も現実的ではなくてね……投薬治療や定期的な魔力の発散など、色々と必要なんだ』


 カイトの診断に頷いたファルシュはいたましげに娘を見ながら、一つ頷いた。おそらく彼が医学系の研究者であるのには、そこらの娘の兼ね合いもあったのだろう。

 人里離れた所に、というのもその治療の一環だと考えれば筋が通った。これだけ莫大な魔力だ。暴走すれば人里なぞひとたまりもない。安全面への配慮という、至極常識的な判断だった。


『申し訳ないが君達の話を盗み聞きさせて貰って、君達の所には優れた医者が居ると知ってね。そこらもあって君なら安心出来ると踏んで、娘を頼みたかったんだ』

「なるほど……」


 確かにカイトから見てもファルシュの娘は非常に特異な状況だ。おそらく彼が親であっても普通の者には預けたくない。優れた医者との繋がりがあるカイトへ、と考えたのは親心として当然の事だったのだろう。


「わかりました。懇意にさせて頂いている医者にすぐに診てもらいましょう」

『良いのかね? 来ていないと聞いたのだが……』

「構いませんよ。医者が一人だけでもありませんから……」

『ありがとう。やはり君に頼んで正解だった』


 カイトの申し出にファルシュは再度深々と頭を下げる。投薬治療をされていたのならリーシャを呼ぶ必要があるだろうし、親が死んだ事も知らないのであればミースも呼ぶ必要があるだろう。ということでカイトは受けた恩を返す為、己の主治医二人を遺跡へと呼び出す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1509話『オプロ遺跡』

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