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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1504話 オプロ遺跡 ――遺産――

 オプロ遺跡の元研究者ファルシュ・カリタス。彼の意識を移植したという人工知能の導きを受けて情報を統括するというサーバールームへと足を運んだカイト率いる調査隊。彼らはひとまずサーバールームにたどり着くと、経年劣化により破損したパーツを持ち込んだ部品で取り替えたり、傾いて接続不良を起こしていたサーバーを修正していたりしていた。


「ふぅ……これで劣化していたケーブルを交換出来ました。スイッチも……良し」

『良し。これで13番サーバーも問題無し、と……少し待ってくれよ。今再起動を掛けるから……良し。これで再起動が開始した。まぁ、何時もお決まりのシステムチェックが入るからしばらくは待ちになるんだけどもね』


 サーバー同士の倒壊による挟み込みで起きたケーブルの断線を修理したカイトの報告を受けて、ファルシュが該当のサーバーの再起動を掛ける。

 なお、やはり長時間放置されていたという事で、システム上自動で再起動前にシステムチェックが入る様になっているらしい。これについては湖底の遺跡のサーバーもそうだったし、シャルロットもそういう仕組であると明言していた。本来ならこういう場合にはインターネットに似た情報網にアクセスしてアップデートも行うそうだが、既にルナリアの情報システムが崩壊して久しい。なのでそれはキャンセル出来るそうだ。


『さて……後は6番、11番、25番、31番のサーバーだけだが……』

「これは流石に無理そうですね……外装が経年劣化した挙げ句、倒壊。更にその上に別のサーバーが倒れ込んでしまった所為で内部基盤まで完全に逝っちゃってます」

『みたいだね。君たちの中に時系統魔術の使い手は?』

「流石にリバース系は……」

『だろうね。流石にあれは高度な魔術師だけが出来た事。我々だって魔道具での再現は諦めたからねぇ』


 カイトの返答にファルシュは仕方がないと肩を竦める。時を巻き戻す系統の魔術はどうしても困難を極める魔術となる。これを魔道具のような簡易に出来る様にすることは、どうしても費用対効果の問題で旧文明三つでも不可能と判断されたらしい。

 なお、レガド曰く一応魔道具化も可能と結論付けられたものの、魔道具というよりももはや持ち運びが出来ない巨大な設備になるとの事だった。そんな物を量産するぐらいなら優れた魔術師を養成した方が遥かに効果的と判断された、との事であった。


『まぁ、それについては君達に預けるよ。6番がやられたのが痛いんだが……』

「それには何が?」

『それは分からない。なにせ失われているからね……とはいえ、基本的に番号が若い程重要なデータが入っている。後ろの方は記録媒体というよりメモリになるから、15番以降は研究所が稼働していない現状だと無くても問題はないんだが……二桁ナンバーならともかく、一桁ナンバーになると確実に実験データになるからねぇ……まぁ、それでも一桁も前半のナンバーじゃない事を喜ぶべきかもしれない』


 ファルシュは苦い顔で不幸中の幸いを明言する。これは後に彼が語った事だが、特に1番と2番が同時に使えなくなっていたら大問題だったらしい。

 ここに収められていたデータは施設のインフラ系を統括したり、研究員の登録情報を統括していたりするらしい。これが失われると登録されている研究者全員の登録情報が喪失する事となり、シャルロットのIDがあっても動かせない事になるそうだ。


『とりあえず、現状で復旧出来たサーバーのシステムチェックや内部データの破損については今日中に終わらせておくよ。明日には中身が閲覧出来る状態に出来ると思うよ』

「ありがとうございます」

『いや、構わないさ。私達の研究はどういう方向であれ、世の中の人の為になる事を考えて行っている。それは喩え武器だろうと変わらない。誰かを殺す為の武器を作っていた奴も居るだろうけど……私は誰かを守る為の物を作っていたと信じたい。喩え文明が崩壊したとて、ここの研究が今の人の役に立つのならそれを広める事に私は喜んで力を貸すよ』


 カイトの感謝に対して、ファルシュは朗らかに笑ってそう明言する。これは作られた映像である事はカイト達も承知であるが、少なくともその顔には心の底からそう思っている様子があった。これは間違いなく彼の本心なのだろう。そんな彼の様子を見て、カイトは改めて感謝を示した。


「そうですか……貴方のような方が味方で助かりました」

『あはは。私も君のような子がエネフィアに協力してくれて嬉しい限りだよ』


 カイトの感謝にファルシュは少し照れくさそうに笑う。と、そんな会話をしているとどうやら丁度時間が来たらしい。ティナからの連絡が入った。


『カイトー。聞こえとるなー』

「ああ……時間か?」

『うむ。一応道中に危険が無い事は確認しておるが……それでもまだ万が一が起き得ないとは言い切れん。早目の撤退を心掛けるべきじゃろう』

「わかった……ファルシュさん。どうやら我々の撤退の時間になった様子です」

『ん? ああ、もうそんな時間か。丁度作業も終わった所だし、破損したサーバーについてはまた折を見て回収すると良い。どうせ誰も来ないんだしね』


 カイトの指摘にファルシュは腕時計を見るような素振りをして時間を確認。カイト達に言外に帰還を促す。そうして、カイト達はサーバールームを後にして外へと帰還する事にするのだった。




 さて、それからおよそ二時間。カイトは今日も今日とて各所からの報告を受け取ると、シーラ、ツィアートの両名と共に定例の報告会を行っていた。


「ふむ……少なくとも現状では彼を信用出来る、と」

「少なくとも私はそう感じた。彼の言っている事には一本の筋が通っている」

「君はどう思うかね?」


 ツィアートの意見を聞いたシーラは重ねてカイトへと問いかける。それに、カイトは改めてはっきりと明言した。


「そうですね……現状であれば信用しても良いでしょう。私が見た限りでも彼に害意の様なものは感じられない。ブラックボックスのある部屋も分かっている。勿論、これが嘘である可能性はありますが……それもすぐに分かる事です。この遺跡は現在、周囲から情報網として遮断されている。彼が外から遠隔で操作している、という事はあり得ないでしょう。であれば、嘘を吐く意味はさほど見受けられない。もし本当ならブラックボックスを破壊すればそれで終わりですし、あの程度の地下構造なら本気でやれば一撃で破壊可能です。情報を失うのは痛いですが……」

「流石は冒険者、という所か」


 カイトの返答にシーラが僅かに苦笑する。ここらの暴力的な発想は冒険者の得意とする所だ。が、現状ではそれが出来るか出来ないかは重要だろう。特に相手は地下に居る。安易に手は出せない。それを一方的に倒せるのなら、それに越したことはない。


「まぁ、ツィアートには悪いが、これは軍としての決定だ。上層部としても彼から可能な限り情報を得る一方、万が一にも備える様に指示されている。もし万が一彼が悪意ある存在だった場合、遺跡の地下ごと討伐して構わない」

「わかりました」

「……まぁ、文句は言えまい」


 シーラの許可にはっきりと了承を示したカイトに対して、ツィアートはやはり不承不承という所だ。が、それでも現状は分かっているらしい。不満げながらも了承を示していた。


「よろしい。とはいえ、流石にこの判断を君の独断で行う事はやめてくれよ」

「わかっています」

「うむ。それなら結構。流石に遺跡を倒壊させる事になっては軍が判断した方が良いからな」


 カイトの返答に頷いたシーラは改めて一応の所を明言する。そうして、更に三人は現状を話し合う事になった。


「ふむ……なるほど。現状では新たに構造が発見されている事はないと」

「うむ。と言っても今日は彼らと協力して瓦礫の撤去を進めていただけだ。地図で記されている未知の構造体の確認に移れるのは、早くとも明日からの事だろう」

「そうか……わかった。それについては冒険者側との協力を怠らない様にしてくれ。新たに見付かったエリアは分かっているだろうが、危険性が除去されていない。十分に注意する様に」


 ツィアートの報告にシーラは改めてはっきりと注意を促す。そうしてこの日の定例報告会も終わりとなり、三人は明日に備えて行動する事になるのだった。




 明けて翌日の朝。この日はこの日で普通に作業を行う事になっていたが、そこでファルシュが苦い顔で口を開いた。


『ああ、来たね。待っていたよ』

「ファルシュさん。おはようございます」

『ん? ああ、おはよう。いやー、すっかり人工知能になっていたからかそんな事忘れていたよ』


 どうやら今日も今日とてファルシュはマイペースらしい。いや、彼の言う通りなら人工知能として時の経過なぞあってないが如くなのだろう。なので彼にとっては朝も昼も夜も変わらない。と、そんな彼であるが、カイトは彼が少し真剣みのある表情を浮かべていた事に気が付いていた。


「それで、どうされました? 真剣そうな顔をされていましたが……」

『おっと……うむ。これが少し困った事態になっていてね。どうやら君達が動力炉を復旧させた際、実験室に収められていた幾つかの試作品が暴走してしまっている様なんだ。経年劣化で接続不良、更には魔物による損傷などが相まって、という所なのだろうけどもねぇ』

「危険性は?」

『無ければ言わないさ。一応、この建屋だと動力室のある階層より下だからひとまずの問題は無いんだろうが……更に言えばこの建屋で研究されていたのは主には生物学系だから暴走しても問題無いんだよね。けど、他の施設だと軍事用のゴーレムとかあるからねぇ』


 カイトの問いかけに困った様に笑ったファルシュであるが、一転して苦い顔を浮かべる。どうやらこの建屋以外の実験室でも同じ様に暴走が考えられるらしい。それに、カイトも確かにこれは困ったと少しだけ考える事にする。


「ふむ……一番危険性の高い建屋はどこですか?」

『北西だよ。あそこが色々と自律型のゴーレムの開発が盛んでね。更には当時の敵の関係から、洗脳や外部からの影響を排除する事を主眼として開発されていたゴーレムも多い。一応、暴走状態でも研究者を攻撃しない様にはなっている筈なんだが……君たちはまぁ、ねぇ……どうやっても戦闘も無しの停止は無理だろう』

「北西……翔の所か。翔、オレだ」


 ファルシュからの情報提供を受けたカイトは、該当の建屋を統括する翔へと即座に連絡を入れる。これに、翔は即座に応じた。


『なんだ?』

「ああ……今ファルシュ……例の情報提供者からそちらの建屋で試作機の幾つかが暴走状態にあるという報告が入ってな」

『マジ?……いや、耳を澄ませても破壊音とかは聞こえないが……』

「そうか。なら、一旦調査は停止させて少し待ってくれ」

『ああ、わかった。そっちで考える間に獣人の奴からも話を聞いたり、通達出したりしておくよ』


 異変が起きている可能性があるのだ。安易に進むより停止するべき、というのは翔も分かっている。なのでカイトが対処を考える間に翔は全班へと作業の一時中断を通達する事にする。その一方、カイトはカイトでファルシュと次の行動を考える事にした。


「……今の所、何か異変は感じられないそうです」

『そうか。まぁ、幸か不幸かは分からないが、大半のゴーレム達は現在エネルギー切れで補給中だ。なので今は異常が検出されているだけで動いているわけではないのだろうが……おそらくエネルギー供給が終われば、暴れ出す個体も現れるだろう』

「ふむ……確かにその可能性は高いですか……」


 エネルギー切れで動けるゴーレムは存在しない。そのエネルギー切れに対応する為に小型の魔導炉を搭載したゴーレムがあるわけだが、やはり魔導炉を搭載するとその分量産性は格段に落ちる。

 なのでレガドの様な特別な施設でなければ、基本は施設に設けたエネルギー供給システムからエネルギーを補給して動くゴーレムが大半だ。それ故、どのゴーレム達もエネルギーが規定ラインを下回ったと補給に戻り、しかし施設そのものが電源喪失で補給できず活動停止。今は補給中というわけなのだろう。


『まぁ、警備ゴーレム達なんかの私で管理出来るゴーレムについては補給終了後、別命あるまで待機にしてあるので良いのだが……やはり実験が行われていた建屋だとその研究者の指示が無いと動かせなくてね。この人工知能が持つ権限はあくまでも私本体の権限。そこらはどうする事も出来ないんだ』

「そうですか……わかりました。そちらについてはこちらで何か手を打ちます」

『すまないねぇ……ああ、それで君達にも一つ頼みたい』

「なんですか?」

『この建屋は生物学系を取り扱っていた、とは何度か話したね。それで薬品庫に放置されていた薬品の幾つかの保存状態が悪化していて、施設の再稼働に伴って温度条件が変化したりしてガスが発生してしまっているんだ。一応、非常システムを起動させて外に漏れ出ない様にはしているんだが……』


 カイトの問いかけにファルシュは苦い顔で現在中央建屋で起きているもう一つの異変を明言する。これに、カイトはその先を理解した。


「それの対処をして欲しい、と」

『そういうことだね。あれを何とかしないと下手をするとどかん、といってしまう可能性がある』

「わかりました」


 そうなると、自分達で翔の所の増援には向かえないな。カイトはそう考えながら、改めてどうするかを考える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1505話『オプロ遺跡』

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