第1502話 オプロ遺跡 ――生存者?――
オプロ遺跡の動力炉の復旧を行い、数千年ぶりに施設全体へとエネルギーの供給を行ったカイト達はその日、ひとまずは施設のシステムチェックを行い一日が終わる事となる。そうして拠点へと帰還後、カイトは今日も今日とて各班の報告を纏めると作戦司令室へと向かいシーラ達と会議を行っていた。
「ふむ……なるほど。やはり各施設共に色々と死んでいたか」
「ええ……各調査班からの報告では、大凡施設の五割は停止しているという事だそうです。と言っても、まだ起動しているのはインフラ系に限った話ですが……」
「我々研究班でも同じ報告だ。大凡見た所は彼らと変わらないだろう」
カイトの言葉に続けて、ツィアートが研究班からの報告を伝達する。まぁ、今日は動力の復旧という事で大凡全体的にその確認に終止していた。なので冒険部側からの報告も大学側からの報告も一緒と考えて良いだろう。
「わかった。とはいえ、扉などについては?」
「鍵が取り付けられていない物については動いているという話だ。実際、我々が通った扉の大半が自動で動く様になっていた」
「ふむ……それなら調査は格段に楽になったと考えても?」
「ああ。先に報告した通り、光源などについても復旧している。今までより格段に調査は行いやすくなった」
シーラの問いかけにツィアートははっきりと頷いた。それを受け、シーラは明日以降の予定について指示を下す。
「そうか。ならば各建屋については邪魔な資材の撤収を進めさせてくれ。ただ、やはりエネルギー供給システムの再稼働に伴いゴーレム達が復旧を開始する可能性もある。十分に注意はする様にしてくれ」
「一応、統括システムを落として警備システムはオフにしているのだろう?」
「ええ。どう考えても我々は部外者かつ侵入者ですからね。警備システムを落とすにあたり、勝手に復旧しない様に統括システムは凍結しておくべきと判断しました」
「……本来なら報告が欲しかった所であるが……まぁ、結論としては変わらんか」
カイトからの報告――と言ってもオペレーターを介して報告はしていたが――にシーラは僅かに苦い顔をするも、その判断は最適だと判断したらしい。一つ頷いて不問にする事にしたようだ。
というのも、警備システムをオフにするなぞ本来は明らかな悪意ある行動だ。いくらシャルロットが正式なアカウントで停止させたとて、統括システムが再稼働させる可能性は無いではない。統括システムをオフにしておくのが最良だろう。
「とはいえ、それでも各個のゴーレムが動く可能性は無いではない。もし動いているゴーレムを見付けたとて、安易に触れない様に」
「分かっている。流石に我々とて安全の確保も出来ていない所で迂闊な事はせんよ」
「それなら良い……カイトくん。今回の依頼、本来とは異なる状況になってしまったが……このままの遂行は可能か? もし必要なら更に追加の人員を要請する事も可能だが……」
ツィアートの返答に頷いたシーラは次にカイトへと問いかける。既に当初の予定とは異なり、現在の任務はオプロ遺跡の危険性の再調査から未知の領域への潜入に切り替わっている。
本来はそれでも多少の地下構造だろうという見込みだったのだが、シャルロットの情報提供により大規模な地下施設が見付かった事で全く違う様相を呈していた。追加で人員を求めよう、という提案については当然の話ではあった。それに、カイトは僅かに考える事にする。
「そうですね……いえ、現状で内側の人手は足りています。一班欠けた状態ですが、未知の構造を発見した場合に備えて部隊には余裕を持たせています。些か日程が伸びてしまいますが……それで問題が無いのでしたら、追加の必要は特には」
「ふむ……わかった。ひとまずは必要ないという事で良いのだな?」
「ええ」
「わかった。上にはそういう風に報告しておこう……もし上の判断で人員に追加を掛ける、というのであれば何か希望はあるか?」
カイトが頷いたのを受けたシーラは更に重ねて彼へと問いかける。現場は不要と言ったが、最終的な判断は上がする事だ。とはいえ、現場で動いているのがカイト達である以上、それとの連携は考える必要があるだろう。それに、カイトは再度考える。
「……そうですね。でしたら同盟に申し入れを。特に以前の崖で発見された遺跡で中心となった二つに申し入れをしていただければ。あそこ二つは戦闘力、遺跡保全に関する理解は十分にあります」
「わかった。それについては上層部に伝えておこう」
「ありがとうございます」
「ああ……では、他には? 無いな。では、解散。明日に備えてゆっくり休んでくれ」
何か他に報告事項は無いか確認を取ったシーラは、カイトとツィアートが首を振ったのを受けて今日の定例報告を終わらせる事にする。そうして、三人は各々明日に備えて行動する事にするのだった。
さて、明けて翌日の朝。今日も今日とてカイトは調査班を率いて地下階へと潜入していた。そうして彼らがまず目指したのは、動力室だ。
「まぁ、起動させて一日経過しているからな。異変が起きていないか見ておこう、ってわけ」
「なるほど……数千年ぶりに動かしてるものね」
「ああ。流石に数千年ぶりの起動だ。何かシステムエラーや異常が無いかは確認しておきたい」
そんな道中、カイトは皐月と話ながら歩いていた。やはりエネルギー供給により中央建屋全体も光源が復活しており、おまけに地下の秘密区画を隔てていた大扉も横にあった制御端末で開閉出来る様になっていた。移動はかなり楽で、おまけに空調も復活したからか埃っぽさが無くなっていた。と、そんなわけでかなり快適になった地下階を移動し続けしばらく。一同は動力室にたどり着いていた。
「さて……オペレーター。まずは設定していたシステムチェックを報告」
『はい』
シャルロットの指示を受けて、今日も彼女が座っている第一コンソールの前のモニターに一日経過した後のシステムチェックの結果が表示される。そして同じくホタルを介して報告を見ていたティナが苦い顔をした。
『ふむ……やはり数千年経過しておると動かすだけでエラーが出ておる部分も多いのう……幾つかの自動ドアはショートした様子じゃのう』
「仕方がないわ。誰も時の流れには逆らえない。流石にルナリアも数千年手入れしない事なんて考えていないもの」
『ま、そりゃそうじゃ。余も考えん』
シャルロットの苦言にティナは笑って仕方がないと判断して、昨日ダウンロードした地図情報に該当箇所の情報を記載し始める。そうしてそれをティナに任せる事にして、シャルロットは次の手配に取り掛かる事にした。
「オペレーター。ブラックボックスの確認に向かいたいのだけど……統括システムはどこ?」
『統括システムの設置は地下の第四階層のサーバールームに設置されております。該当の部屋までの道のりを表示しますか?』
「お願い」
予備の統括システムはシャルロットの要請を受けて、地図データに彼女らが次に目指す事になる統括システムがあるというサーバールームの情報を表示させる。どうやらここから二階層下がる事になるらしい。中央建屋全体を考えれば第五階層になるはずだが、第四階層というのはこの施設の事を言っていたのだろう。と、そんな地図を改めて見て、シャルロットが目を瞬かせた。
「……あら? 所長室?」
「どうした?」
「所長室は確か最上階の真ん中ではなかったかしら……下僕。昨日ダウンロードした地図を貸して」
「ああ、良いぞ」
シャルロットの求めを受けたカイトは彼女へと持ってきていた地図データが入った端末を投げ渡す。それを受け取って、シャルロットは改めて地図を確認した。
「……可怪しいわね……」
「何かあったか?」
「前に案内された時、所長室は最上階だったのよ。そしてこの地図……ほら、こことここ」
シャルロットは椅子を動かしてカイトへと近寄ると、地図を彼へと見える様に提示する。彼女が指し示したのは最上階にある所長室と、どういうわけか地下にも存在している所長室だ。
この地図上では二つの所長室が存在していたのである。サーバールームに向かう道筋が丁度地下の所長室に近かったので、偶然二つある事に気が付いたのであった。
「ふむ……地下三階の南側奥の部屋か……こちらはかなり大きいな」
「ええ……オペレーター。所長室が二つある様子だけど、地図の誤表示では?」
『いいえ。最上階の所長室は第一、地下三階の所長室は第二となっております。シェルター処理が出来なかった為、地下区画に新たに所長室を設定しました。また、その際に第一に比べ規模を拡大。作戦司令室としても活用出来る様に設計しております』
予備の統括システムからの報告に、二人はなるほど、と頷いた。当然だがシャルロットも所長室がシェルター代わりとして活用される事になった事は知っている。その措置が最上階の所長室では無理だったので、地下にも新しく作ったという事なのだろう。
が、利便性なら上層階の方が良い。なので常には上を使い、万が一や戦闘時には下を使う事にしたという事なのだろう。ということで、彼女も特に疑問なく納得した。
「そう。なら問題無いわね」
『お役に立てたのなら何よりです。またご用命の際にはお声掛け下さい』
シャルロットの返答に予備の統括システムがそう返答する。と、それが終わってではサーバールームを目指すか、という所で、唐突にティナから連絡が入った。
『シャル。聞こえておるか?』
「何?」
『お主、確か昨日統括システムは凍結したと言わんかったか?』
「したわ……え?」
ティナの問いかけを受けたシャルロットが昨日凍結した統括システムの状態を確認すべくコンソールを操作して、固まった。
「……どうなってるの?」
「どうした?」
「統括システムが勝手に起動してる……ティナ。そちらから操作した?」
『いや、しとらん。下手な何かが入り込むと困るので、こちらには情報を送る事しかできん様にしておる。それもホタルに持たせた端末を介して出来るだけじゃ。あれには受信機能は備えさせておらん』
忙しなく手を動かすシャルロットの問いかけを受けて、ティナがはっきりと首を振る。と、そんな所に唐突に声が響き渡った。
『あ、ごめんごめん! それをやったのは私だよ!』
『「「っ!」」』
「総員、隊列を組め! ツィアートさん!」
「あ、ああ!」
唐突に響いた自分達ではない男性の声だ。全員が腰掛けていた椅子から立ち上がり、即座に武器を構えて警戒を露わにする。と、そんな一同をどこかから見ているらしく、先の男性が大慌てで制止を掛けた。
『ああ、ちょっと! そんな警戒しないでくれ! えっと、ちょっと待ってくれよ……』
どうやら館内放送を使っているらしい男はそう言うって、少しだけ沈黙する。そうして少しすると、一人の無精髭が生えた三十代後半ぐらいの男の立体映像が浮かび上がった。
男は髪もかなり長めでボサボサ。体躯は痩せてはいたものの活気には溢れており、不健康そうではあったがどこか研究にかまけて身だしなみなどを気にしていない様子が見受けられた。
「映像……か?」
『ああ。この研究所の研究者……の意識を移植した人工知能とでもいう所かな。人工知能はわかるかい?』
無精髭の男性は楽しげに笑いながらカイトを見ながら問いかける。カイトを選んだのは後に聞けば、先の一幕と今までの行動――中央建屋に入ってからここまでの行動を見ていたらしい――から、彼が隊長格なのだろうと判断したという事だった。
「ああ……全員ではないが、オレ達の半分ぐらいはかつて貴方達が異世界からの召喚実験で取り寄せた物の世界から事故で転移した者だ。と言っても数千年が経過した世界、という所だが……」
『なるほど。我々が滅びた一方で、君達の世界はそのまま続いたわけか。因果なものだな』
カイトの返答を聞いて男は特に驚く事もなく、逆に少し楽しげに笑っていた。と、そんな男はふと忘れていたと再び大きく笑った。
『あ、ああ! すっかり忘れていた! 私はファルシュ・カリタス。この研究所で研究者をしていた者だ。と言っても先にも言ったが、その意識を移植しただけのものだがね』
「では、貴方本人は?」
『ん? ああ、既に死んでるよ。私はこの研究所に残っていたのだが……人手不足で手が足りないから自分の意識を移植して自分の作業を手伝わせていてね。それがシステムの復旧に合わせて復活した、というわけさ』
「え、えらくあっさりとしていますね……」
別にどうとも思わないのかあっさりと死んでいる事を明言したファルシュにカイトは思わず頬を引き攣らせる。それに、ファルシュは楽しげに声を上げた。
『いやぁ! まぁ、今こうやって私は生きてるわけだし? いや、本体は死んでるけどね! でも自意識があれば肉体なんてどうでも良い事さ! いや、この私と本体が完全に同一の個体か、魂はここに移っているのか……ふむ。確かに気にはなる話だが……』
「は、はぁ……」
それで良いのだろうか。前向きに捉えているとでも言えば良いのかわからないカイトは生返事をするだけだった。
『まぁ、それは良いか。それで統括システムは私が復活させて貰ったよ。見た所安心は出来そうだったから警備システムについてもこちらで無効化してあげた』
「そうですか……ありがとうございます」
『うむ。感謝してくれ』
カイトの感謝に対して、ファルシュがどこか偉そうに頷いた。こうして、カイト達はある意味生存者と言い得るこの研究所の研究者であるファルシュと出会う事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1503話『オプロ遺跡』




