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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1501話 オプロ遺跡 ――システムチェック――

 オプロ遺跡の調査任務を開始して数日。カイト達は新たに見付かった地下区画の最上階にあった動力室を発見し、専門家らの助言を受けつつ動力炉の復旧を開始する事となる。

 そうしてシャルロットの手によって動力炉の復旧に成功した一同であったが、各所へのエネルギーの融通に際して軍からの要請を受けて各所の準備が整うのを待つ事となっていた。


『冒険部ギルドマスター。こちら作戦司令室。応答を』

「こちら冒険部ギルドマスター。何か?」

『各調査班、近衛兵団の準備が整いました。段階的に出力を上げてください』

「了解……シャル。頼む」


 カイトはオペレーターの要請を受けて、シャルロットに作業の開始を依頼する。そうしてゆっくりと魔導炉が出力を上げていき、遂に各所へのエネルギー供給システムが稼働出来る領域となった。と、そこでシャルロットがふと手を止めた。


「……少し待って。一応統括システムが起動しない様に細工しておくわ」

「……そうだな。頼む」


 一応、シャルロットもこの研究所は閉鎖されて破棄された事を理解している。しているが、その際に何があったかは定かではない。彼女自身この研究所の破棄の際に何があったか知らない事を明言している。

 なのでもし統括システムを起動して、下手に警備システムなどが起動してしまったら面倒と思ったようだ。彼女が居るので警備システムそのものは問題なく停止させられるが、色々と手間になる。解除まで戦闘も必須だ。確認出来る様にしてから、統括システムを起動させる事にしたようだ。


「……良し。これで基地の統括システムとインフラ系を切り離せたわ。扉の開閉、電灯の生きている物については動かせる」

「そうか……良し。やってくれ」

「ええ……」


 カイトの要請を受けたシャルロットが再度システムの起動を再開させる。そうして、動力室に明かりが戻ってきた。


「おぉ……まだ生きているのか」

「所々死んでるね」


 驚いた様子のツィアートに対して、ユリィはやはりいくらかの電灯が停止している事に気付いていた。やはりあまりの年月の経過によって一見無事に見えても各所には経年劣化による劣化が見受けられた。この様子なら、他の所も似たようなものだろう。と、そんな彼女の言葉を小耳に挟みながら、カイトは中継基地へと通信を繋いでいた。


「こちら先遣隊。電力が復旧。部屋の状態はどうですか?」

『……ええ。こちらもスイッチが起動しました。光源の確保を確認』

「わかりました……シャル。とりあえずこの建屋は大丈夫そうだ」

「そう……エネルギー供給システム安定。現状を維持……これで問題無いわね」


 カイトの報告を小耳に挟んだシャルロットは一つ頷くと、コンソールを叩いていた手を停止させる。どうやら、これで現状で出来る事は全て終了という所らしい。そうして彼女は椅子に深く腰掛けると、エネルギー供給が終わった事で出来る事をする事にした。


「オペレーター。簡易で良いので全ての施設の状況をチェック。異常についてはリスト化して第一コンソールのメインモニターに表示」

『了解』

「終了予定は?」

『現在時がエラーにより表示出来ません。手動による再入力を』

「経過時間で問題無いわ」

『了解……終了予定は今より三時間後を予定。統括システムが起動すれば処理が加速すると思われますが、起動しますか?』

「いいえ。ブラックボックスが確認出来ない為、統括システムの起動は一時凍結がクイーンより指示されているわ」

『了解』


 シャルロットの指示に対して、予備の統括システムが了承を示して作業に入る。なお、この場では彼女は語らなかったが、本来なら統括システムの一時凍結などの指示は上級職員のアカウントでも出来ないらしい。最上級の権限を持つ彼女のアカウントだから可能だった、という事であった。曲がりなりにも最高神というわけである。


「シャル。並列して通信施設の状況を確認させられるか? 可能ならこの施設のデータをダウンロードしたいらしい」

「……オペレーター。優先順位変更。通信施設のチェックを優先。これについては終了次第報告」

『了解。本チェックについては異常がなければ1分で終了する見込み』


 カイトの要請を受けたシャルロットの指示に予備の統括システムが早速作業に入る。と、そうして作業の終了まで待つ事になる一同であるが、そんな中でカイトとユリィの二人が自身を見ている事にシャルロットが気が付いた。


「何?」

「いや……結構、長い間一緒に居たつもりだったんだけどな」

「長い、ね」


 カイトの言葉にシャルロットがくすり、と笑う。長い間一緒と言ったが、彼女からしてみればそんな時間は瞬きの如くだ。が、彼女としてもあの一時は確かに濃い時間で、長く一緒に居たような気がした。


「……そうでもないわ。多分、二ヶ月か三ヶ月。そんなぐらいよ」

「そうだったかねぇ……」


 どうせ暇なのだ。カイトは懐かしげな顔で椅子に深く腰掛け、そんな彼の肩の上からユリィがシャルロットの肩の上に移動する。今でこそカイトの肩の上が定位置だが、旅の最中に女の子と一緒だった時には彼女らの肩に座っている事もよくあった。それどころか最初の定位置は彼の肩ではなくアルテシアの肩だ。なのでシャルロットの肩の上にも普通に座るらしい。


「懐かしいなー、ここも」

「勝手に人の肩の上に乗らないで」

「いいじゃん。久しぶりなんだし」

「少し前に座ってたわね……」

「気にしない気にしない」


 呆れた様に椅子に深く腰掛けて読書を始めたシャルロットに対して、ユリィが楽しげに笑う。なお、終了予定もあくまで異常が出ない場合に限っての話だ。なので異常が出ればその分更にシステムチェックは伸びる事になる。

 というわけで、カイト達は今日一日この動力室に留まってシステムチェックを待つ事になるだろう、というのが現状での彼らの予定だった。深刻な異常が出た場合にはすぐに伝える必要があるからだ。統括システムが動いていない以上、どうしてもここに残らざるを得ないのである。と、その一方でカイトの方にでは皐月が話をしていた。


「なんか嬉しそうね」

「ん? ああ、まぁな……オレの最古参の仲間と一緒に探検してるんだ。やっぱ、嬉しい」


 シャルロットとユリィが楽しげに話し合う姿は、カイトにとっては懐かしいものだった。あの時の彼にそんな余裕はあまりなかったが、それでも記憶はしている。それを彼は目を閉じて思い出す。


「色々と、あったんだよ。オレにも……」

「色々ねぇ……まぁ、あんたの場合はそうなんでしょうけど」

「あはは……爺さん達は仲間ってより今思えば、庇護者だったからなぁ……やっぱ、彼女が一番最初の仲間さ」


 楽しげに、カイトはそう昔を懐かしむ。それに、皐月が問いかけた。


「今は不満?」

「いや? 今の方が満足さ……こんな事言うと、怒られるかもだがな」

「はぁ……あんたやっぱ、年取ったわねー」

「おっさんって呼ばないでねー」


 含蓄のある顔をした自身を見て茶化すような一言を述べた皐月に、カイトはどこか冗談っぽくそう告げる。今の方が満足、というのは今ここにシャルロットが居て、皐月達が居る事だ。皐月達は転移に巻き込まれた側なので不幸といえば不幸だが、カイトとしては彼女らと共に冒険出来る事は嬉しくはあった。そうして相棒が旧交を温める傍ら、カイトもまた幼馴染や暦と話しながら時間を潰す事にするのだった。




 システムチェックの開始からおよそ半日。夕方になった頃にようやく、全てのシステムチェックが終了した。


「シャルー。終わったっぽいよー」

「……あら……あ、それダウト」

「んげっ!? ばれないと思ったのに……」


 未知の階層という事で全てに興味津々というツィアートであれば半日あっても時間が足りないという状況だったが、流石に見知ったシャルロットは勿論、興味のないカイト達も揃って暇だった。

 というわけで、今はカイトを筆頭にユリィらが集まってトランプをしていた。なお、皐月が検査の終了を受けてよそ見したのでしれっと札を出したのだが、それが逆にシャルロットには嘘と見抜かれたらしい。そうしてそんな皐月に、シャルロットが楽しげに微笑んだ。


「あら……私に嘘はいけないわ……オペレーター。検査データをダウンロードは?」

『可能です』

「……ホタル」

「はい」


 シャルロットの要請を受けたホタルに加えて、カイトとユリィが立ち上がる。作業が終わったのだ。であれば、ここからは仕事だった。


「ツィアートさん。システムチェックが終わりました。戻ってください」

『ん? もうかね。そこまで時間が経過した感は無かったのだが……わかった。戻ろう』

「はい」


 ヘッドセットを介したカイトの連絡を受けて、動力室の端で色々と調べていたツィアートが戻ってきて所定の場所に腰掛ける。なお、人数分の椅子はこの部屋にあったので、それを動かして作業をしない面子も腰掛ける事にしていた。


「さて……深刻なエラーは検知されなかった筈なのだけど……ティナ。ホタルを介してそちらも確認して」

『うむ。こちらは各建屋の結果を精査しよう。お主には中央の建屋のチェックを頼む』

「ええ」


 中央のコンソールに腰掛けたシャルロットは最初に指示していた検査結果がモニターに表示されているのを見ながら、作業を開始する事にする。


「あら……やっぱり地上階についてはほとんどダメね。大半の施設が断線。まぁ、別に何かがあるわけでもないけれど」

『そもそもお前が渡したんだからな』

「そうね」


 カイトのツッコミにシャルロットがクスクスと笑う。そもそも上層階に何もないのは、シャルロットが開闢帝カインにこの研究所の事を教えたからだ。その結果マルス王国が建国された事を考えれば良い事だったのだろうが、故に今では何も無かった。確かに、彼女の所為である。


「各建屋へのエネルギー供給は……良かった。これは地中深くに埋められていたおかげで問題は出て無さそうね」

『うむ。こちらのチェックでも各建屋共に問題なく設備は動いていると出ておるな。また、報告でも各建屋問題がないと報告されておる』

「じゃあ、ここは問題無しと」


 ティナと話し合いながらシャルロットはシステムチェックを続けていく。そうして一通りのインフラ系のチェックを終わらせた彼女は改めて地下階の状況を確認する事にした。


「……おそらく魔物は出ていそうね。今も居るかは分からないけれど」

「どうした?」

「監視カメラの映像をそちらに送るわ。と言っても、一千と数百年以上も昔の映像だけれど」


 どうやらシャルロットはシステムチェックにおける異常検出を受け、警備システムに潜って手に入れていたらしい。監視カメラに残っていた映像をカイトへと送信する。そうして彼の前のモニターに、どこかの部屋で動く魔物の映像が映し出された。


「これは……」

「地下五階の実験室の映像よ。結界の停止を受けて、魔物が出たようね」

「まぁ、当然か……ん?」

「ゴーレムは動いていたようね。問題なく討伐された様子よ」

「なるほど……全電源が喪失していても、ゴーレムは別電源か」


 ルナリア文明のゴーレムに内蔵されている小型の魔導炉は優れたものだ。それを知るカイトとしても数百年後においてもゴーレムが動いていた事に疑問はなかった。なのでこれについては報告しておく事にして、同時にゴーレムがまだ動く可能性も考慮しておく事にする。

 と、そうしてしばらく中央のコンソールに腰掛けた面子で作業を行っていると、オペレーターから連絡が入ってきた。


『こちらオペレーター。聞こえますか?』

「……あ、はい。なんですか?」

『撤退予定時刻が近付いています。ご注意を』

「……もうそんな時間か。ホタル。情報の持ち出しは出来ているな?」

「はい」

「良し……シャル。時間だ。後は明日に回すか、軍の解析に頼もう」


 これ以上残って夜に突入して何かが起きれば面倒だ。故にカイトは自分で行っていた作業を中断するべく作業を開始する。


「そう……そうね。そろそろ月が出る頃合い。私の時間……仕事は終わりね」

「そういうこと……全員、撤退の準備を開始しろ。道中の電灯がどうなっているかも見ておきたいしな」


 カイトは改めて全員に通達を出す。そうして、彼らは今まで通ってきたルートのインフラ設備の状態を確認しながら、動力室から撤退する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1502話『オプロ遺跡』

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