表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1527/3942

第1497話 オプロ遺跡 ――中央建屋・東側奥――

 皇国の依頼を受けてオプロ遺跡の調査を開始して二日。初日の調査で見付かった壁に偽装した防護壁を皇都へと報告していた調査隊であるが、二日目の終わりに結論が出たらしく返答があったとシーラから通達されていた。


「というわけだ。上層部としては先にソラくん……だったか? 彼の一件があった以上、この防護壁も意図的に偽装された可能性があると見ている。調査は絶対との事だ」


 二日目の調査を終えた後の会議にて、シーラが皇都よりの返信をカイトとツィアートへと通達する。やはりここで何かが起きる事だけは避けたいというのが、皇都に居る軍上層部の考えらしい。

 もし今何かが起きたとしても、ここにはカイトとティナを筆頭に月の女神シャルロット、神剣を持つソラが揃っている。後々後悔するよりなんとかなる今開けておくのが良いだろう、と判断されたとの事だった。


「そういうわけで調査を行って貰いたいのだが……カイトくん。問題は?」

「それが仕事ですし、それに向けた準備も整えて来ています。問題ありません」

「そうか。わかった。だがやはり未知の構造になる。我々としても念には念を入れておきたい。突入の前には飛空艇の艦隊を周囲に展開させる。一度報告を」

「わかりました」


 シーラの指示は当然といえば当然だっただろう。そのために飛空艇に洗脳解除装置の試作品を設置していたわけだ。いくらソラが居て洗脳や汚染に対処出来ているとはいえ、使わない道理はない。と、カイトはシーラの応諾に対して、改めて問いかける。


「そうだ。人員については上層部より何か指示はありましたか?」

「いや……ああ、そうか。ソラくんが居るのだったな。ふむ……彼が必要か? 班分けなどについても上層部に伝えている。特段の指示が無い所を見ると変更する必要はないだろう、と判断されているのだろうが……必要なら、私から上にかけ合おうか?」

「いえ、それなら大丈夫です」


 シーラの問いかけに対して、カイトは上層部の意向を理解して首を振る。カイトとしてもソラを入れてくれと上層部が言うのなら入れるつもりだったが、必要がないという判断の理由も理解出来た。

 内側にはカイト、シャルロットの二人。外側にソラ、ティナの二人が居れば万が一があっても安心できる、という判断だったのだろう。


「そうか。部隊や力量に関しては君の方がよく知っているだろう。その判断を尊重しよう……ああ、ツィアート。君とてここ以外の遺跡に行っている以上承知はしているだろうが……未知の構造だ。危険は十分にあると思え。同行そのものは止めないが、行くなら行くで今までの様に無闇矢鱈に突っ込んだりはしないようにな」

「分かっている。私とて死にに行くつもりはない。まだ幾つかの論文を書き上げていないのでな。あれを書き終えるまで死ねんよ」

「それなら結構。十分に注意だけはしてくれ」


 ツィアートの返答にシーラは肩を竦めなつつも良しとしておく。実際、カイトとしても専門家の意見――シャルロットも居るが――は聞きたい所だ。更に言えば遺跡の調査において研究者が同行する、というのは遺跡探索を専門とする冒険者においては普通の依頼といえる。

 今後、冒険部がこの部門で名を挙げれば、必然としてそういう依頼も来るだろう。なら、少しでも状況を整えられて危険が少ないこの遺跡で訓練を積むのは、十分に冒険部としても利益となる。


「それで、カイトくん。突入だが明日の朝一番ではなく、明日の朝は何時もの出立から一時間程度遅らせてくれ。先立って上層部に事の次第を伝えた所、マクダウェル家からとある装置の開発を担った研究者がこちらに来るという事になってな。動作の最終チェックと実際に動いた後の確認、データを取りたいという事だ」

「わかりました。その間は?」

「現場で待機していてくれ。そこまで時間は掛からないという事ではあったが……どこか他の所を調べている暇は無いだろう」

「わかりました。では、明日は地下階へと潜入後、そこで待機しておきます」

「頼む」


 カイトの返答にシーラは一つ頷いて、更に幾つかの注意事項を伝えておく。なお、わかるだろうがこのマクダウェル家の研究者というのはティナだ。

 彼女もこの遺跡で装置を動かす予定が出るとは思っていなかったが、こういうことなのでしっかりと自分の目で動作状況を確認しておこう、と思ったらしい。皇国上層部としても彼女が確認してくれるのなら尚更安心だと判断したらしく、彼女の要請を受ける事にしたとの事であった。


「良し。二人共関係各員には明日に備えてしっかりと休みを取らせてくれ。では、解散」


 どうやら伝えるべき事は一通り伝えたという事なのだろう。シーラは最後にそう解散を告げる。そうして、カイトもそれを受けて冒険部に割り当てられたスペースへと戻る事にするのだった。




 さて、一夜明けて翌日の朝。カイトは何時もの様に部隊を率いて地下階へと入っていた。が、今日は一日目とは違い降りてすぐの所で立ち止まっていた。


「さてと……こちら潜入部隊。所定の位置に到着した」

『了解。こちらはもうしばらく掛りますので、今しばらくは待機を』


 カイトの報告を受けた近衛兵団のオペレーターが待機の指示を出す。なお、流石に未知の構造に入るとなったので遺跡の調査は一時中止で、冒険部各班もカイト率いる突入部隊を除いて中央建屋周辺に展開。更には近衛兵達も展開して警戒していた。そうして準備を待つ間、カイトはホタルへと問いかける。


「ホタル。この材質はどうだ?」

「……検査の結果、おそらく上層階の防護壁と同じ複合材だと思われます。対魔防御性能、対物防御性能共に非常に優れている様子。センサーも魔力を使った物は大半キャンセルされています」

「ふむ……持っててよかった地球のセンサーか」


 ホタルの返答を聞きながら、カイトはコンコン、と壁に偽装された防護壁を叩く。シャルロット曰く、この研究所は地下に広がる形式になっているらしい。地下階は本来は地下一階を接続部としてそれより下が円錐状になっており、地下階でも最上階になるここで階段を隠してしまえば隠蔽も可能だろうというのがシャルロットの言葉だった。

 更には構造に特殊な部材を使っている為、センサー類も完全に無効化している。今まで調べても見付からなかったのは道理と言えた。現にホタルもまだエネフィア製のセンサー類ではこの先の空間を見付けられていない。地下も勿論、同様だ。


「さて……暦。これを切れるか?」

「……無理ですね」

「上出来だ」


 カイトの問いかけを受けた暦は壁に手を当てて、魔力を流して内部の構造を確認する。が、無理という判断を下したのを受けて、カイトが満足気に頷いた。ここらは師匠でもある彼が教えている事だ。適時確認させていた。


「さて……じゃあ、待ち時間暇なので適度に講習でもするか」


 後三十分は暇だろう。なのでカイトは暦に材質の見極め方、コツなどを伝授する事にする。


「前に語ったが、だいたいの材質は魔力の通り易さで判別出来るんだが……有り難くないのはこういった複合材の場合でな。特にこのルナリアの複合材は厄介だ」

「どう厄介なんですか?」

「触れて見てわかっただろうが、この防護壁は巧妙に他の壁と同じ性質を検出出来る様に偽装されている。実際、そっちの壁とかに触れてみろ。手に伝わる感触はほぼ一緒だ」


 カイトの指摘を受けて、暦は試しに横の壁に手を当ててみる。そうして先と同じ様に少しだけ魔力を通してみると、本当に防護壁と似た様な感触が返ってきた。


「……同じ……ですね。鈍い感触があります」

「そうだ。これが凄いというか複合材の厄介な所というか……ああ、先に言っておけば、この普通の壁の方はコンクリに似た素材の中に精錬したアダマンを入れてある。まぁ、鉄筋コンクリートみたいなもんだ。マルス帝国、皇国ともに保存処理をしていたから、コンクリの方もまだまだ現役で使えるな」

「へー……」


 暦は手を壁に当てながら頷いた。と、そんな彼女はふと少しの疑問を得たらしい。


「でも地下にまだ構造があるのなら、地面側に検査機当てれば何とかなりませんか?」

「そうなんだろうがなぁ……ここは流石に旧文明が一枚上手だった、としか言いえん」

「一階層分、地面に土を盛ってるのよ。しかもご丁寧にソナーを撹乱させる特殊な鉱石も混ぜ込んでね」


 カイトの言葉を引き継いだシャルロットがこんこん、と足で地面を叩く。無論、これはここの地下だけの話ではない。この研究所の敷地全体にそういう加工を施しているらしい。なので誰もがこの更に地下に地下階があると気付かなかったとの事だ。

 そして知っていたシャルロットも当時のマルス王国上層部、具体的には開闢帝カインには地下の事を教えていない。必要な物に気を取られ、更に地下がある事に気が付かなかったとしても道理ではあった。


「まぁ、誰もが魔導炉はあるだろう、とは考えていたが……」

「怪しいとか思わなかったんですか?」

「おいおい。オレ達にはレガドが居るから構造がわかってるだけだぜ?」


 暦の問いかけにカイトは耳に装着したヘッドセットを軽く小突いた。そもそもカイト達がルナリア文明の研究所の構造が基本は統一されているなどの情報は全てレガドからの提供だ。

 だから知っているのであって、そんな情報の無い例えばツィアートらにとっては中央に魔導炉があるという事は推測の一つでしかない。故にオプロ遺跡の調査に関わる学者の多くは崩落の最も多い北東の建屋に魔導炉があるのでは、と思っていたようだ。と、そんな話しをしていれば三十分なぞあっという間に経過したらしい。


『オペレーターです。冒険部ギルドマスター、どうぞ』

「はい」

『支度が整いました。突入、どうぞ』

「了解……全員、ゴーサインが出た。これより突入する」


 カイトは息を整えて、全員に用意を促す。そして彼自身もまた、腰だめに刀を構えた。が、即座に斬撃は放たない。彼にとっても未知の素材だ。切り裂くのなら、それなりにしっかりと確認する必要があった。


(構造材……表面の構造材、詳細不明。が、性質そのものは通常物質に酷似。内部、アダマンと吸魔石の複合構造を確認……力技での破壊は不可。表層の物理攻撃・魔力に対する性質は不明……が、切り裂けるな)


 この程度なら可能。カイトはそう判断すると、一度だけ深呼吸する。そうして、次の瞬間。人一人が通れる程の大きさに防護壁を切り裂いた。


「ふぅ……」

「……切り裂いたのか?」


 どうやらあまりの早業にツィアートの目には何が起きたか分からなかったらしい。残心の様に深呼吸したカイトの動作で切り裂けただろうというのはわかったが、それだけしか起きていない様子でわからなかったのだろう。


「ええ。ホタル」

「はい……暦様。少しそちらを空けてください」

「あ、はい」


 ホタルの申し出を受けた暦が壁際から離れる。防護壁を開いた先に何が待ち受けているかは分からない。故に最大限の警戒をして臨むべきだろう。なお、暦を退けた理由は壁際に切り裂いた防護壁の破片を置く為だ。


「マスター」

「ああ……ユリィ、シャル」


 カイトは己の切り裂いた防護壁の一部に専用の魔道具――取っ手のような物――を取り付けて動かせる様にしたホタルの要請を受けて、即座に隊列を整える。

 隊列としてはカイトを先頭にして、ユリィがシャルロットの肩に乗ったパターン。魔術師としても優れているシャルロットがカイトの支援をする隊列だ。そうして隊列が整ったのを見て、ホタルが一つ頷いて壁を外した。


「……っ……ふぅ」


 防護壁が外れて通路の先が現れて一瞬、カイトは警戒を滲ませる。が、幸いな事に何かが出て来る事はなく、通路の先には動作を停止しているゴーレムが何体か停止している様子しかなかった。どうやら空気に晒されていなかったからか、あまり風化した様子はなかった。


「司令部。こちらギルドマスター……封を開いた。が、今の所問題無し」

『了解。警戒態勢は維持。進んでください』

「了解……行くぞ」


 とりあえずは問題はなかったものの、ここから先に問題が無いとは限らない。故にカイトは警戒しながら防護壁をくぐり抜けて、更に先へと進んでいく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1498話『オプロ遺跡』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ