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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1496話 オプロ遺跡 ――地下階――

 皇国からの依頼によりオプロ遺跡という皇国国内にある巨大遺跡の一つにやってきていたカイト達冒険部一同。彼らは幾つかの班に分かれて行動を開始する事になる。そうしてソラ達と別れたカイトはツィアートという皇都の大学の教授と共に行動する事となり、中央の建屋の地下階へと足を踏み入れていた。


「ふむ……そういえば、ツィアートさん。地図を受け取った時に思ったのですが、動力室が見受けられません。何か考えられる事はありますか?」

「ああ、それか。我々も探したのだがな……どうやら瓦礫の下に埋もれているのだと思われる。無論、通路の方だがね」

「やはり、そう思いますか?」

「それはそうだろう。まぁ、この建屋には無い、というのもこの建屋で未開通の階段が先の一つだけでね。それ故、他の所にあるというのが通例なのだよ」

「……シャル」


 ここらはやはり専門家故か普通に見立てを教えてくれたツィアートの返答に、カイトはシャルロットに問いかける事にする。レガドも居るが、シャルロットは実際にここで過ごしている。彼女に聞いた方が遥かに正確だろう。そんな彼女はホタルから話を聞いて現在地がどのあたりかを把握し、壁に手を当てて何かを調べていた。


「何?」

「何かわかったか?」

「……ええ。ここは東側第一非常階段の真横……どこかのバカエルフが一度ここでずっこけた事があったわ」

「お、おう……」


 瓦礫の下から何かを発見したらしいシャルロットはそれをカイトに見せながら、どうでも良い情報を教えてくれる。なお、どこかのバカエルフは基本的にエルネストだろう。と、そんな彼女が見せた物を見てカイトが問いかける。


「それは?」

「現在地を指し示すプレートよ。見る影もないけれど」


 どうやらシャルロットが持っていた金属の板には、本来ならばここがどこかを指し示す表記があるはずらしい。が、風化の影響でもはや跡形もない様子だった。と、そんなシャルロットにツィアートが問いかける。


「む? それは単なる構造材の一つではないのかね」

「違うわ……ここの部分。よく見なさい」

「ふむ……僅かに曲を描いているが……」

「崩壊による破裂にしては断面がきれいよ。人工的に穴を空けたのだと考えるのが妥当ね。更には表面を指でなぞると、僅かな凹凸が見て取れるわ」

「む……」


 シャルロットの指摘を受けて、ツィアートは手袋を取って金属のプレートの表面と穴の形跡らしいあたりを指でなぞる。


「なるほど……確かにこのなめらかさ……確かに人工的と考えた方が良さそうだ……」

「そういうことね。後は指でしっかりと形跡をなぞれば、当時の文字で第一という文字が読み取れる。手袋で遺跡の保全を優先するのも良いけれど、時には己の手で、己の心で感じてみる事も重要よ」

「むぅ……」


 シャルロットの指摘にツィアートは僅かに不満げ――素手で触るのは当然だが劣化を促進する為――ながらも、実際としてこの僅かな差ならたしかに分からなかっただろうと納得するしかなかったようだ。と、そんなツィアートを無視したシャルロットはそのまま明かりのある通路とは逆側。地下階の壁を見た。


「……どうした?」

「……私、この仕掛は知らないわ」


 カイトの問いかけに対して、シャルロットは僅かに訝しみながら壁を叩く。そうして、彼女はホタルを見て顎で壁を指し示した。それにホタルは一度カイトを見るも、彼が頷いたのを受けてソナーを壁に接触させる。


「マスター……この先に空洞があります。おそらく、通路の類かと」

「何!?」

「……お、おう」


 ホタルの返答にカイトよりも先に反応したのはツィアートだ。彼は汚れるのも気にせず壁に耳を当てて手で叩いて反応を確認していた。

 まぁ、この程度で分かるのなら誰かが見付けているだろうので無意味だろうが、そんな事も気付かない程に驚いていたのだろう。ホタルがわかったのは地球製の純粋科学によるソナーを使っているからだ。ルナリア文明は旧文明の中でも特に魔道具が発達していたが故、逆に純粋な科学的な対策は比較的甘かった。


「第一非常階段の横。この先が動力炉に続く通路だったのよ……私が最後に聞いた時には、こんな仕掛けをした、って言ってなかった筈なのだけど……」

「最後にお前が来たのは?」

「……エルネストが死んですぐね。大神殿陥落を伝える為、ここに来たのが最後よ。その後お兄様に報告に行ってすぐに主戦場が中央へと移ったから、来ていないわね。ざっと終戦から三年という所かしら」

「報告は……こんな些細な仕掛けを報告するとも思えん、か」


 通路の先にあるのは動力炉。もし攻め込まれたのなら、隠したいはずだ。この程度の偽装でも効果はあるかも、としていても不思議はない。そして通信網が寸断されていた時代だ。通達出来る情報に限りはある。偽装一つを隠していたとて、不思議はないだろう。


「どうするかね……」


 まさか初手で足止めを食うとは思わず、カイトは僅かに考える。この先に空間があるのは事実だろう。当時の関係者が明言しているし、更にはホタルによる科学的根拠も得られている。隠された構造があるのは事実だろう。


「良し。問題無さそうか……中継基地。こちら第一班」

『おーう。天音か。どうした?』

「悪い、作戦司令室に繋いでくれ。少し相談する事が出た」

『あいよ』


 幸いツィアートは壁の確認に忙しいらしく、こちらの話を聞いている様子もなかった。今なら時間を取れるだろう。というわけで少し待っていると、シーラに取り次いで貰える事となった。


『何かあったか? まさかツィアートがまた面倒な事を言い始めたかね』

「いえ……」


 シーラの冗談めかした問いかけに、カイトは今しがたの話を彼女へと報告する。それを受けて、シーラは眉の根を付けてどうしようか悩んでいた。


『ふむ……わかった。報告感謝する。それについてはこちらで即座に皇都へと報告し、判断を仰ごう。君たちは今日はそのまま本来の予定を続行してくれ』

「わかりました……ツィアートさん。その壁については皇都で判断されるという事ですので、今日はこのまま先に進みましょう」

「……そうか」


 やはり好奇心が先立っているのだろう。カイトの言葉にかなり無念そうな様子があった。なお、最終的に彼はホタルから即興で音響測定に似た魔術を習ってそれを使用して確認していた。

 が、魔術を使っている以上は意味がなかったようだ。旧文明の遺跡の性能は現代で一般的な魔術では太刀打ちできない。分からなくても仕方がなかった。

 なので今は左右の壁を見て何か痕跡はないか、と確認していた。そんなツィアートは気を取り直すと、壁とは逆側に歩き出した。


「良し、行こう。今日の分は今日の内に終わらせる。可能なら明日の分も終わらせよう」

「は、はぁ……」


 老いてなお血気盛んな様子のツィアートに、カイトは只々生返事をするしか出来なかった。基本的に神経質かつ気難しい人物ではあるのだろうが、それもこれも全ては考古学という学問を愛しているからなのだろう。

 そうして一人いそいそと歩いていくツィアートの後ろを、カイト達も歩いていく。と、そんな中でカイトはツィアートや事情を知らない面子に聞こえない様に小声でシャルロットに問いかけた。


「……こっち方面には何があったんだ?」

「単なる事務室と休憩室よ。正確には中央休憩室……仮眠室というべきかもしれないわね」

「あー……お前の顔の理由が分かるわ」


 シャルロットの呆れたような顔に、カイトは何があったのか大凡を理解する。彼女の言葉によれば、この研究所はルナリア王国でもかなり上位に位置していたらしい。

 レガドのような秘密研究所ではないので改修前には国家機密レベルに重要な研究はしていなかったらしいが、それでもかなり高度な研究はしていたとの事だ。中には研究バカと言われるような者も居て、神話大戦の最中にはそれ故に多くの者がここで寝ていた事もあるそうだ。


「更に向こう側には備品倉庫と研究室が幾つか。後は……薬品庫ぐらい……だったと思うわ。いえ……後兵士の詰め所の一つが西側非常階段の横にあったような……」

「実験室とかは?」

「それはあっちか上。といっても、試作品も試作品の南西の建屋にある実験室を使うような領域でない奴を試験する部屋ね。動作確認程度、と考えれば良いわ」


 カイトの問いかけにシャルロットは後ろ手に背後を指さした。どうやら重要な設備は全て、背後にあるのだろう。あそこだけ壁に偽装されていたのもなるほど、と納得出来た。


「なるほどね……ということはここは本当に研究開発だけか」

「と言っても、ここの研究開発はほとんど医療系がメインになっていたわ。増築もそれ故ね。周辺の研究施設の研究者達を取り込んでいった結果、ね」

「増えた研究に対処する為、場所を取る研究はそれで別に建屋を作ったのか」

「そういうことね」


 どうやら中央建屋で研究されていたのは医療系だということだ。それなら、カイトとしても安心出来た。兵器系の開発がされていれば何らかのはずみで残っていた試験機が動き出す事もあり得る。

 特に邪神側は魔道具を乗っ取れる。もし残党が残っていれば、そういうことも起こり得るのだ。が、医療系の魔道具では操った程度では害を為せない。その面では安心は安心だった。と、そんな事を話しながら話していると、廊下にあった扉の一つの前でツィアートが立ち止まった。


「ここが今日の最初の目的地だった部屋だ。ここらでは一番大きな部屋だ」

「仮眠室よ」

「なるほど……」

「さぁ、急いで調査を行うぞ」

「はい」


 兎にも角にもやる気を見せてくれている分に問題はない。そして未知の通路を発見出来たからといって、今まで分かっている所を未調査にする必要はない。なのでカイト達はその日一日掛けて今までに発見できているエリアをくまなく探索する事になるのだった。




 さて、カイト達が調査を開始しておよそ9時間。昼食を挟みつつ調査を行ったカイト達はこの日の調査を終えて拠点に帰還していた。そうしてカイトは一時間程掛けて一通り各建屋の調査状況の報告を受けると、それを手に作戦司令室に顔を出していた。


「と、言う感じです。現在までに新たに発見出来ているのは中央建屋のみと」

「なるほど……ツィアート。この先に動力炉があると思うか?」

「無い方が考えられん。そもそも、動力炉がどこかにあるというのは最初から言われていた。中央建屋に痕跡が無い事が不思議に考えられていた程だ。が、それが旧文明の技術で隠されていたのなら、納得も出来る」


 シーラの問いかけにツィアートははっきりと、動力炉がある可能性を明言する。彼もまだあの壁が壁に偽装された防護壁とわかったわけではないが、ホタル――というよりゴーレム――の検査機は信用しているらしい。

 まぁ、検査機を信用しないでは調査もなにもあったものではない。よほど高度な魔術師でなければ、個人で出来る事は限られる。自分で分からないでも検査機がそう示している以上、信じる事にしたらしい。


「そうか……わかった。であれば、その意見も上に報告しておこう」

「ああ、そうしてくれ。あの先には調査の価値があるだろう」


 シーラの返答にツィアートは更に念を押す。カイトとしてもあの先には行くべきだろうと思うし、学術的にもあの先には興味があるのだろう。もし難色を示されていたとしても、ダメ押しになってくれるはずだ。と、そんな真面目な話を終えた所でシーラが少しだけ楽しげにツィアートへと問いかけた。


「ふむ……にしても、もしこの先に調査に向かう場合、君は難色を示すと思ったのだがな」

「? 何故だ。そこに未知の状況が見えたのだ。調べるのが学者というものだろう」

「いや……この状況だ。破壊する事になると思うのだがな」

「む……いや、だが……むぅ……」


 どうやらツィアートとしても今回の任務の趣旨については理解しているらしい。未知の構造が見付かった以上、安全を優先すべきだとは思っているようだ。が、やはり破壊して進むと言われては素直に承諾しかねるものがあったらしい。そんな彼に、カイトも僅かに苦笑しながら告げた。


「まぁ、なるべく無駄に傷付けない様にはしますし、破壊した部位についてもきちんと丁寧に扱います。もしその時には、それで勘弁してください」

「むぅ……まぁ、仕方がないか……」


 仕方がないとは分かっている事は分かっている。故にカイトの言葉が最後のダメ押しになったのだろう。今日一日冒険部と行動を共にしてみて、少しは信頼が得られたと考えて良いのだろう。

 どうやら、中央建屋以外もきちんと丁寧に扱っていたようだ。そうして、何とかツィアートの承諾を得られた事でこの日の会議は終了となったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1497話『オプロ遺跡』

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