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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第71章 いにしえより遺る者編

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第1494話 オプロ遺跡 ――中央建屋・一日目――

 大陸同盟の依頼を受けて行われる事になったエネシア大陸全土に点在するルナリア文明の遺跡の再調査。その一環としてカイト達冒険部もまた、皇都東にあるというオプロ遺跡という遺跡の再調査を受ける事になっていた。そうして到着したその日を準備期間として部隊の組分けの再確認や地図を使っての手順の確認、装備などの用意に使うと、翌日の朝から実際に行動開始となっていた。


「さて……全員揃ったな」


 勢揃いした冒険部各班の前に立ち、カイトが声を上げる。一応今日は初日という事で全員揃って行動を開始する事にしていた。


「今回の任務はオプロ遺跡と呼ばれる遺跡の再調査。とはいえ、各建屋共に調査はされている為、基本的な任務としては単なる警護任務となると考えてくれ」


 カイトは改めて、今回の任務内容を通達する。ここらはこれから実際に行うのだし、逐一確認しておいて損はない。そうして一通り通達を出した所で、改めて彼が号令を掛けた。


「良し。では、以上……各班、行動に移れ」

「「「了解!」」」


 カイトの号令に合わせて、各班がそれぞれの所定の場所へと移動していく。その一方、カイトも行動に入る為にヘッドセットを起動させた。それで連絡を取る先は作戦司令室、シーラの所だ。


「こちら冒険部。行動開始可能です」

『そうかね。ツィアートは中央建屋前で待つとの事だ』

「もうですか?」


 返ってきたシーラの言葉にカイトが目を丸くする。なお、軍のオペレーターを介していない様に見えるが、聞けば彼女は基本的には近衛兵団の統率もあるので常には作戦司令室に待機している為、だそうだ。作戦司令室もテントだ。そこまで広くないのでカイトの声を聞いてオペレーターに命じて自分で受けたらしい。


『いや、なにげに半年近く待たされているらしくてね。相当焦れていた。君達が来るまで延々愚痴を聞かされたよ』

「親しいのですか?」

『大学の同期だ。私も奴もアストレア領の出身という事で話が合った。それ以来の付き合いなんだよ』


 もう三十年ぐらいの付き合いになるか。シーラは笑いながらカイトの疑問に対してそう答えた。昨日から妙に親しげだな、という印象があったのだが、どうやら古馴染みという事だったのだろう。語るシーラの口調にも親しみがあった。


『まぁ、気難しい奴だが……うむ。悪いやつではない。気難しいがね。魔族とエルフのハーフという珍しい私に対しても偏見など無しに話しかけてきたりしたものだ』

「はぁ……」


 どうやら気難しいながらも、シーラはツィアートを認めているという所なのだろう。そしてこの様子と昨日の話し合いを鑑みるなら、逆もまた然りというわけだろう。

 なお、だから彼女がこの遺跡の統括を任されたというわけではない。遺跡調査という事で中央研究所所属の技術士官達が統率を取る事になり、その中にシーラも入っていただけだ。ここで一緒になったのは全くの偶然――と言っても鑑みるぐらいはされただろうが――らしく、ツィアートも統率を取るのがシーラと知った時には随分と驚いたとの事であった。


『まぁ、そういうわけなので頼むよ。あいつに死なれると中々に寝覚めが悪い。奥方にも申し訳が立たない。あんな気難しい奴でも妻帯者だし、よく出来た奥方でねあいつもあいつであいつなりには、愛妻家だ。私もあいつの子供がおむつを履いていた頃からの知り合いでね。一つ頼むよ』

「わかりました」


 シーラの困った様な感じの愚痴にも近い依頼に、カイトは半分笑いながら頷いておく。やはり所詮は人の子というわけなのだろう。そうして、カイトはそんなツィアートの待つ中央建屋前へと部隊を引き連れて歩いていく事にするのだった。




 さて、カイトがたどり着いた中央建屋。それは十階建て、およそ三百平方メートル程度の巨大な建物だった。それはまさしく見上げんばかりの巨大さで、何を研究していたのだろうか、と甚だ疑問だった。


「これが、オプロ遺跡の中央建屋か……」

「オプロ遺跡、ね……」


 オプロ遺跡の中央建屋を見上げるカイトの横には、同じ様にかつて自分が属していた文明の遺跡を見上げるシャルロットが居た。


「この子も、長き月日の巡りを経験したのね」

「お前よりもずっと、な」

「……そうね」


 シャルロットには眠った三百年がある。それに比べてこの遺跡は三百年をそのまま経過していた。そこかしこには風化が見受けられ、きちんとした処理がされていても朽ち果てた様子があった。

 仕方がない。二千年以上の月日が経過しているのだ。一時は戦乱でまともな処置を受けられていない。こうもなる。と、そんな話を終わらせたカイトは耳に手を当ててヘッドセットを起動させる。


「ティナ、聞こえるか?」

『なんじゃー。現在余は手が離せんぞー』

「そか。終わったら連絡くれー」

『あいよー』


 兎にも角にもこの遺跡はルナリア文明の遺跡だ。であればシャルロットとレガドという二つの組み合わせを活用しない手はどこにもない。というわけで、ティナには前回の湖底の遺跡と同じ様に通信機を繋いでもらっていたのである。そうして数分後。ティナからの返答が返ってきた。


『終わったぞー』

『おまたせいたしました。女神よ、お久しぶりです』

「……」

「どうした?」


 僅かな停滞を生んだシャルロットにカイトが問いかける。それに、彼女が微笑んだ。


「何もないわ……久しぶりね、レガド」

『はい……この様に通信機を介して話すのはかれこれ……いえ、その様な場ではありませんね』


 かつてを思い出し思い出話の一つでも考えたらしいレガドであるが、一転思い直した様に話題を切る。そうして彼女は改めてカイトへと告げる。


『ユスティーナ嬢からの連絡を受け、中継機を介してその研究所とのリンクを確立すべく動いております。が、やはりここもメインの電源か通信ユニットが喪失していると考えて良いでしょう』

「やっぱりか。前に来た時もそんな感じだったからなぁ……構造はかなり残ってるんだが……」


 レガドからの情報にカイトは特に驚く事はなかった。前に来た時も既にここは全電源喪失状態で、扉一つ動く事はなかった。その際はアンリがちょちょいとピッキングしてくれて中に入ったが、中に入った理由は中に潜んでいた当時の皇国の特殊工作員と合流する為だった。

 特殊工作員が何をしていたかは定かではないが、少なくとも彼は入られている事を知られたくはないらしく扉は出入りの際に閉じていたらしい。そして聞けば現代では無用に入られない様に扉は閉じているとの事で、今回もきちんと戸締まりはする様に言われている。ピッキングツールは持ち込んでいた。


『なんじゃ、お主来た事あったのか』

「言ってなかったか? 昔一度な」

『聞いとらんが……まぁ、お主が言わぬ所を見ると、さほどしっかりと入ったというわけでもなかろう』

「ああ。中央建屋の入ってすぐの所までだった。それ以降は爺さんがなんかしてた、ってぐらい。当時のオレだ。詳しくはなーんにも知らねぇよ」


 ティナの言葉に同意しつつ、カイトは笑いながら完全に知らない事を明言する。これについては彼が少し前に言っていた通りだ。


「ま、それはどうでも良いだろう。で? とりあえずオレ達は電源の復旧でも目指した方が良いか?」

『可能なら。更に言えば、現状そちら側より提供された地図には本来は敷地内にあるべき通信用施設が見受けられません。おそらくまだ未発見なのだと思われます』

「はい、速攻未知の構造体のお話頂きましたー」


 レガドからの指摘にカイトは心底嫌そうな顔で諸手を挙げてそうぶん投げる。湖底の遺跡でも見付けていたが、あの施設は必ず存在しているらしい。

 レガド曰くよほど徹底的に破壊されない限りは最低でも施設の土台ぐらいは見つかるはず、との事だ。そしてオプロ遺跡そのものは比較的原型を留めている。ならば見付かっていないと考えるのが吉だろう。


「レガド。それは外か、内側か?」

『どちらも可能性はありえますが……ドローンからの映像によれば五つの構造体のどれにも通信機が乗っていただろう形跡は見受けられません』

「そちらに残っている見取り図には?」

『外にあるとなっております……が、神話大戦の影響か提出されている見取り図と私の持つ見取り図の情報に若干の誤差が見受けられます。おそらく、一度大規模な改修が行われたと見て良いでしょう』


 カイトの問いかけを受けたレガドは自分の持つ情報があてにならない事を明言する。そしてそれにシャルロットもまた頷いた。


「ええ、一度大規模な改修をしてるわ。南西の建屋は元々倉庫だったのだけど……それを戦略兵器開発の為の施設に改修してるわ。更にはこの敷地の外に軍の宿舎もあったわね」

「知ってんのかい」

「田舎だけど重要だもの」


 クスクスと楽しげに、シャルロットがカイトのツッコミに笑う。田舎なのであまり来る事はなかったというのは事実らしいのだが、実はここにはエルネスト達が一時拠点として活動していたらしい。

 更には重要拠点という事で、彼女も付近で何度となく戦ったとの事だ。僻地だからと興味がないのと、知らないのとはまた別との事である。そんな彼女は一転、真剣な目で更に続ける。


「ここの構造が残っていたのは、おそらく最後まで比較的多くの英雄がここに残れたからね。まぁ、それも最終決戦において出ていったから、その後の戦力再編で研究所そのものが一時閉鎖になったけど……」

「で、その後の騒乱で研究所は放置されて、数百年後にマルス王国が発見、という流れか」

「そうね。戦後の首都移転計画で一時閉鎖が決定。首都移転の間隙を残党に攻撃されて、ルナリアは崩壊が旧文明崩壊の流れよ」


 カイトの推測にシャルロットがはっきりと頷いた。彼女曰く研究所が廃棄になったのはあまりに首都から遠すぎた為、との事だ。当時の残存戦力ではこんな僻地まで守り抜ける余裕がないと判断され、基礎的な施設の維持のみに留める人員だけが置かれる事になったらしい。

 が、その後のルナリア王国再編における騒乱でその人員も研究所を後にして、その後すぐにルナリア王国が崩壊。この研究所を知る者達は散り散りになり、気付けば誰も知らない状態で放置されてしまったとの事だ。で、数百年後に開闢帝カインが見つけ出して保全措置を行い、それが皇国へと引き継がれた形であった。


「……何?」

「なんとなく」

「月明かりはまだ満ちていないわ」

「そういう気分でもないがね」


 何処と無くさみしげだったシャルロットを後ろから抱きかかえたカイトは恥ずかしげな彼女に対して、少しだけ苦笑する。ただ寂しそうだったから、寄り添っただけだ。なお、流石に彼とて見られたくはないらしく、魔術で隠形は施した。そうしてしばらくの後、シャルロットが気を取り直した。


「兎にも角にもここは兵器開発が行われていた場所の一つ。何も無いというのはおそらく事実でしょう。カイン……開闢帝がここを見付けた折り、大半の武器を回収したもの」

「……もしかして……開闢帝とお知り合い?」


 回収した、と断言した事を訝しんだカイトの問いかけに、シャルロットは少しだけ目を閉じて思い出す。彼女が目覚めてまだ起きて一ヶ月と少し。意識的には既に目覚めているが、どうしても記憶が眠っている部分も多いらしい。

 数万年以上を生きる神だからこそ、こうなってしまうとの事だ。眠りで記憶を整理した結果、意識的にどこにあるか思い出すのに一苦労してしまうのである。彼女の場合目覚めていた期間が非常に長かった為、数年は一千年以上前の古い記憶はすぐには取り出せないだろう、との事であった。


「……そうね。一度だけ、彼と会ったはずよ。彼にこの研究所の中身を回収したいと請われて、彼の旅路に一度だけ同行した事があるの。と言っても、当時彼の幹部と言われた二人は各地を転戦中で、見知ったのは彼だけだけど……」

「ここに来たんかい……てかオプロってお前かよ……」

「オプロ、は単に兵器を意味する単語よ?」

「先に言ってくれ……」


 道理で無いとはっきりと断言するわけだ。楽しげに嘯いたシャルロットの返答にカイトはがっくりと肩を落とす。そんな彼に、シャルロットが口を尖らせた。


「何? 文句あるの?」

「無いよ……でもよくそんな話を聞いたな」

「異大陸へ渡る船を一隻用意してくれる、という契約だったのよ。流石に当時の私じゃ信仰の及ばない他大陸に渡る力は無かったし……ルナリアの残した飛空艇を一隻、彼らが保有していたの。それと引き換えに武器を、というわけよ。彼らもほぼほぼ非武装の飛空艇を抱えていた所で、となって物々交換ね」


 当時のシャルロットは後に聞けば、丁度この大陸の大半の残党を封じたか討伐出来た頃合いだったらしい。なので次は波及したアニエス大陸へ行きたい所だったらしいのだが、当然当時の文明はどちらも崩壊した後だ。故に飛空艇は壊滅、異大陸へ迎える帆船もほとんどなく、だ。

 なので自身は使わない研究所の武器の情報を、彼らは同じく必要のない小型の飛空艇を、という取引を交わしたとの事であった。と言っても、だ。流石に秘密区画等の存在は教えなかったそうだ。そこまで信頼はしていない、とは後の彼女の言葉であった。


「そうか……ん? どうやってその開闢帝はお前の存在を知ったんだ?」

「当時はこの研究所の魔導炉が稼働していたのよ。それで上層部のコンソールに私……学者としての私の情報があって、生き残りと思って私に接触したらしいわ。その当時は流石に女神とは知らなかったんじゃないかしら」

「なるほどね……」


 聞けば納得だ。そもそも現代で多くが動かないのは整備されず経年劣化の為だ。当時はまだ崩壊して数百年。二百年や三百年という領域だ。運が良ければ魔導炉が動いても不思議はなかった。と、そんな当時の話を聞いていると、ツィアートがやってきた。


「……居たか。こちらの準備は出来ている。そちらは?」

「こちらも同じく出来ています……作業手順については昨日話した通りでお願いします」

「……わかっている」


 念押ししてよかったか。カイトはどこか機先を制された様な様子を見せたツィアートに内心で胸を撫で下ろす。昨日もここらはシーラと共に何度も説得して、先に安全性の確認を優先する事を決定したのだ。今更変更するのは面倒だった。そうして、カイトは部隊を率いて中央建屋の中へと入っていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1495話『オプロ遺跡』

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