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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1486話 究極の料理を・1

 カイト達がクッキング・フェスティバルの審査に参加して二日。段々と終わりを向かえつつあった収穫祭も後二日となっていた。そしてこの日は遂に収穫祭最後のイベントとなるクッキング・フェスティバルの最終日となり、これが終われば後は後夜祭を残すのみとなる所までたどり着いていた。


「……」


 何度も感じていた事であるが、これが最後なのだと思うと僅かな物悲しさが去就するものなのだろう。神殿都市のそこかしこでカイトと同じ様に今年ももう終わりなのか、と収穫祭の終わりを名残惜しそうに感じている人々の姿があった。そんな姿を見ながら、カイトはクッキング・フェスティバルの最後を見届けるべく立っていた。


『はい! では結果発表です!』


 これで長かったクッキング・フェスティバルも終わり。最後の審査対象となる二組の発表が今、始まろうとしていた。片方は一応は素人だが聞いた所によるとテレビ等で活躍する料理人で、もう片方はプロの料理人だそうだ。どちらも一日の最後という事で品目はデザート。前者は旬の果物を煮込んだコンポートに近い――詳しくは色々な手配に追われていてカイトは知らない――デザートとの事で、後者も季節の果物をふんだんに使ったケーキだった。


「これで、終わりか。最終日は少し早目に終わるのが通例だという話だったが……」


 カルメの言葉を聞きながら、カイトは一度時計を見る。時刻は18時を少し回った所。何時もならこの後に最後の一組が残っているが、最終日のみはクッキング・フェスティバル運営側が招いたプロの料理人が料理を行うという事で一組分早目に終わる事になっていた。


「……状況は?」

『はい。コブ氏が持ち込まれた全ての機材の状況は問題ありません。『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の保存状態も問題無し』

「そうか。後少しだが、しっかり頼む」

『はい』


 流石にもう後一時間で問題が起きるとは思えんか。カイトは食材の管理を行う担当者からの報告に一つ頷いた。既に『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の肉は解体され、取り分けられた状態だ。

 これについてはウォルドーの助言によって既に使える部位、使えない部位が判明していた。なので一部についてはマクダウェル家、ひいてはカイトからの指示により冷凍保存が既に行われていた。


「良し」


 これで後はもう終わりを待つだけだ。カイトはそう頷くと、最後の最後をしっかりと見届ける事にする。


『総合点……97点! おぉっと! 最後の最後で高得点!』


 終わったか。最後となるプロのスイーツ職人の総合点を聞いて、カイトは遂に全ての工程が終了した事を理解する。そうしてしばらくの間ケーキに対する論評が行われる事となり、そしてそれも十分程で終わる事となった。


『これにて、マクダウェル家主催四大祭の一つ、収穫祭最後のイベントクッキング・フェスティバルは全ての審査が終了致しました! 皇帝陛下。今年の祭典は如何でしたでしょうか』

『うむ。今年は例年に比べ、様々な知恵を凝らした料理が多かった。一日目の日本よりの客人達の料理を筆頭にして、二つの世界の明日を願う料理の兆しも生まれつつあった事は真に喜ばしい事だ』


 カルメの問いかけを受けた皇帝レオンハルトが今年のクッキング・フェスティバルの総括を行っていく。やはり為政者として二つの世界の明日を願う料理については特段触れる事にしていたらしい。

 彼のコメントが終われば続けてクラウディアへと話が振られ、そこから順々に審査委員一人ひとりに話が振られていく。そうして更にキリエに話が振られ、残る所はこの審査委員における審査委員長となるウォルドーのみとなった。


『はい、ありがとうございます! では、最後に審査委員長のコブさん。今年を振り返ってみて如何でしたでしょうか』

『はい……今年は一日目から私も色々と考えさせられる事になりました。今もまだ頭の中であの料理を自分なりに落とし込むのならどうするか、と考えさせられている料理は非常に多く、例年に比べ非常に質の良いレシピが公表される事を嬉しく思います』


 カルメの促しを受けたウォルドーが自分の所感を語り始める。やはりここら今年は色々と揉め事が多かった一年だったからだろう。料理をメインとする者達もなんとか自分達に出来る事で世界を元気付けようと考えているらしく、例年より多くの地域のプロの料理人による参加者があったらしい。

 カイトも知る限りではどこかの国で王室御用達をしていたり、貴族の専属料理人をしている様な者の参加もあったそうだ。これは世界に暗雲が垂れ込めている事の傍証でもあったが、同時に多くの者がそれに立ち向かおうとしている証でもあった。カイトとしては、喜ばしい事であった。


『確かに、今年は例年に比べ多くの参加者が見込まれたという情報です。良い刺激になった、という所でしょうか』

『そうですね。非常に良い刺激を受ける事が出来ました。中には私も負けてはいられないな、とも思うレシピも多かった。総じて、非常に良い年だったでしょう。来年も、この調子が続けば幸いだと思います』

『ありがとうございます。では、コブさん。ご準備の方をよろしくおねがいします』

『はい。折角の余興もあります。腕によりをかけ、百年忘れられない料理を作らさせて頂きます』


 カルメの促しを受けて、ウォルドーが立ち上がる。そしてそれを受けて、カルメが改めてアナウンスを行った。


『コブ氏による料理は三十分後! 18時30分よりの開始となっております! それまでは今しばらく、参加者の皆様の料理を食べつつ、お待ち下さい!』


 カルメのアナウンスを受けて一度舞台の上から皇帝レオンハルトらが撤収する。なお、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』であるが解体ショー等は行わない事になっている。

 確かにテレビ局側からは解体ショーをしてはどうか、という提案があったそうだ。ランクSでも『冥界の森』にしか生息しない魔物の解体だ。注目の的になる事は間違いない。が、残念ながらこれにはとある指摘が出て、今年は取りやめとなった。

 というのも、あの解体が出来るのはエネフィア広しと言えどウォルドーぐらいなものだからだ。食べた事のあるカイトでさえ解体したわけではない。一部を切り分けた程度だ。出来ないのである。

 探せば居るかもしれないが、少なくとも食に精通しながら『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を解体出来るという料理人は現状ウォルドーだけだ。彼の準備の間を保たせる為に彼の手を煩わせてしまっては本末転倒だろう。とはいえ、カイトは応対した者としてその解体に同席したので、解体の仕方も理解した。なので機会があれば来年から、という事にしておいた。


「良し! 大急ぎで支度に入れ! 『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の肉はトレイに入れ、白布で覆え!」

「はい、台車通りまーす!」

「『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の肉の保存状態、問題ないな! あれに問題が出ると公爵家どころか皇帝陛下からお叱りが来るぞ!」

「舞台左の調理台を大急ぎで撤収させるぞ!」


 撤収した審査委員達を横目に見つつ、大急ぎでクッキング・フェスティバルの係員達が大急ぎで最後の支度に取り掛かる。ここからはウォルドーのみが料理をするし、彼は主賓の一人だ。調理台を一つにする等色々とする事があった。


「良し。オレも動くか」


 そんな忙しない係員達の動きを横目に、カイトもまた行動を開始する。何だかんだ言いつつも彼とて哀愁に浸っていられる場合ではない。ウォルドーに対処した手前、彼もまた動く必要があった。というわけで、彼は料理の支度を整えるウォルドーの所へと向かう事にする。


「ウォルドーさん」

「ああ、カイツさん。あ、すいません、この様な状態で」

「いえ。こちらこそお忙しい中、失礼しました」


 カイトがウォルドーの控室に入った時、ウォルドーはどうやら着替えていた所だったらしい。とはいえ、どちらももう土壇場だ。仕方がないといえば仕方がなかった。そうしてそんな着替え中のウォルドーがカイトへと問いかけた。


「それで、どの様なご用件ですか?」

「ああ、はい。一応最後の確認を、と」


 カイトはそう言うと、この後の段取りを書いた紙と食材の置いてある場所等の最終決定が書かれている写真を机の上に置いた。


「こちらが、最終的な食材の置き場となっております。調理に参考になればと」

「ああ、ありがとうございます……ふむ……」

「一応、ご要望にあった食材は全て揃っているはずですが……もし何か足りないものがあれば、この場でご指摘をお願い致します」

「わかりました。少々、お待ち下さい」


 ウォルドーはささっと着替えを行うと、身だしなみを整えるよりも先にカイトの提示した写真を確認する。兎にも角にも食材が無ければ料理は出来ない。身だしなみ云々よりも何よりも、これをチェックしておく必要があった。というわけで写真を見ていたウォルドーであるが、確認を終えたらしく一つ頷いた。


「……そうですね。大丈夫です」

「わかりました。では、役員の方にもそうお伝えしておきます」

「はい、ありがとうございます」


 カイトの返答にウォルドーも笑顔で頷いた。そうしてそれを受けて、カイトは再度舞台脇へと移動して問題がない事を報告する。


「わかりました。では、引き続き用意を続けさせます」

「お願いします」


 カイトからの報告を受けた大会役員が応じたのを受けて、カイトは後は役員と係員達に任せる事にする。そのために彼らは居るのだ。カイトが手を出すべき事ではない。ということで、彼はその場を離れて己の為に用意されている部屋へと移動した。


「ふぅ……」


 これで後は人事を尽くして天命を待つのみ。カイトはそう頷くとほんの僅かな休息をゆっくりとする。が、ゆっくりしていられるのもごく僅かな時間だけだ。故にカイトは数度深呼吸して精神を整えると、即座に耳に手を当てる。


「警戒状況はどうか」

『はい、問題ありません。皇帝陛下の周辺に怪しい人影無し。その他、食材への毒物混入等も無し』

「そうか。再度になるが、食材と食器の管理は再度徹底しろ。気流制御による毒の付着。食器類の洗浄もしっかりと行わせる様に。また、万が一に備えた回復薬、解毒剤の準備は問題無いか、最後にしっかりと確認しろ。調理が始まったとてその確認は可能だ。最後までしっかり手を抜かない様に」

『はい』


 ここが最後だ。百里を行く者は九十を半ばとすの精神で最後までしっかりと気を抜かずにやる必要があった。そうしてカイトは改めて各所に檄を飛ばすわけだが、そんな事をしていればあっという間に残り時間なぞ経過する。


『さぁ、おまたせ致しました! クッキング・フェスティバルの最後のお時間となりました! これより料理して頂きます料理人を改めてご紹介致しましょう!』


 夜闇が完全に周囲を包んだ頃、ライトアップされた舞台の上にカルメが戻ってきた。彼女は改めてこれが最後である事を明言して、それと共にモニターにはウォルドーの姿が浮かび上がった。


『クッキング・フェスティバルへの出場回数、なんと史上最多の二十三回! この舞台上に登った数、なんとこちらも最多記録タイとなる十回! その平均点数は95点という驚異の記録! 公開したレシピの数々は多くの奥様方を虜にしてきたかの戦う料理人が遂に今年、念願叶っての審査委員長となって帰って参りました!』


 やはりメインとなる料理人だからだろう。カルメはこのクッキング・フェスティバルにおけるウォルドーの偉業をざっと並べ立てる。


『さぁ、では彼をお呼び致しましょう! その名は……ウォルドー・コブ! どうぞ!』


 カルメのアナウンスを受けて鳴り響いた万雷の喝采と共に、舞台上に身だしなみを整えたウォルドーが登壇する。そうして彼が一礼した所で、カルメがマイクを向けた。


『コブさん。今年は念願叶っての審査委員長という事でしたが……審査される側から審査する側となったご感想は如何でしたでしょうか』

『そうですね……やはり審査してみる側になって見える物がありました。立場が変われば料理に込める想いも変わる。それを知れた良い経験でした』


 本当に心の底からそう思っているのだろう。ウォルドーは真剣なれどどこか様々な想いを抱えた様な表情で、はっきりとそう明言する。そしてだから、と彼は更にはっきりと告げた。


『様々な方が様々な立場で、様々な想いで料理を作る。そこには確かに食べてもらう方々への想いが一様にあるというのに、なんとも奥深い事だと思い知らされました。なので私も私が料理に掛ける想いを全て尽くして料理をしたいと思います』

『そうですか……では、期待させて頂きたいと思います。さて……それで調理ですが、今回のメイン食材はコブさんたっての希望により、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』なる魔物の狩猟が行われたとの事でしたが』

『ええ……まさかこの『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を使って料理が出来る日が来るとは、本当にマクダウェル家とそれに尽力して頂いた冒険者の方々には足を向けて寝られない。ぜひとも、存分に食べて頂きたいと思います』


 ウォルドーは改めて、カイト達へと『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の件の感謝を述べてその上で気合を漲らせる。それにカルメも一つ頷いた。


『わかりました……では、早速調理に入って頂きたい……所なのですが! その前に今年のメイン食材をご披露致しましょう!』


 真剣な顔でウォルドーと会話をしていたカルメであるが、一転して今までと同じ感じで声を上げる。そしてそれを受けて、モニターに映っている映像が白布に覆われたトレイに変わった。


『今年のメイン食材は……こちら! ランクSクラスの魔物『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の肉の中でも特に厳選された部位! あまりの希少性と狩猟難度の高さから名称さえまだ無いまさに極みの肉! 僅かに照りが現れているのは、常温でさえ溶け出す良質な脂の証拠! 切り出すのもコブさん自らが行った一品物です!』


 効果音と共に覆いを外された『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の肉の塊が衆目に晒され、更にそれに対してカルメが説明を行う。そうして一通りの説明を終えた所で、改めてカルメが声を張り上げた。


『では……調理スタートです!』

『よろしくお願い致します』


 ブザー音と共に、ウォルドーが頭を下げる。そうして、彼は早速とばかりに料理の仕込みに入る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1487話『究極の料理を』

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