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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1485話 何時かの未来へ

 収穫祭最後のイベントとなるクッキング・フェスティバル。その一日目に行われたカイト達の料理の審査。これについては点数そのものは低評価に近い評価がくだされたものの、そこに隠されていた意図を読み取った皇帝レオンハルトやクラウディアらの言葉により、その評価は一気に覆される事となる。

 そしてそれを受けていつの日か地球とエネフィア、二つの世界が交わる日を願うカイト達の料理は広まっていく事になるわけだが、それはまだ未来の話だ。というわけで、自分達の審査を終えたカイトは控室に戻ると、きっちり約束を果たしていた。


「はいよ、これで人数分出来上がり」

「「「いただきます!」」」


 皇帝レオンハルトに密かに頼んで封鎖してもらった控室にて、カイトは大精霊達を呼び出して先程自らが作っていた料理を振る舞っていた。丁度時間も19時と夕食に良い頃合いなので控室を借りたらしい。

 元々場所にこだわる様な面子でもない。この部屋の周辺を密かに警護する近衛兵達が超絶に緊張しているぐらいしか問題はなかった。

 とはいえ正体の露呈を考えるとこれでも不安なので、周囲の警戒にはティナとユリィにも頼んでいる。故に彼女らも外に出ていったので一人で十二人――時乃達も含んでいる――をもてなす事になったが、これだけで正体を隠せるのだ。万々歳だろう。


「うん、カイトらしいよね。こういう事考えるのって」

「というより、カイトぐらいしか考えられないというのが普通なのでしょう」


 シルフィの意見に対して、ウンディーネがそう述べる。やはりカイト程異世界を渡り歩いた人物は居ない。だからこそ、こんな二つの世界が交わるなぞという荒唐無稽な日が何時の日か訪れると信じられているのだろう。と、そんな話を聞きながら椅子に座っていたカイトへと、サラマンデルが問いかけた。


「カイト。何を考えている?」

「んー……ちょっと」

「また楽しい事考えてる」


 サラマンデルの問いかけに答えたカイトの顔には、この二つの世界が交わる料理を考えた時と同じ少しいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。そんな企みを見透かしたかの様なルナの言葉に、カイトは楽しげに頷いた。


「ああ、楽しいな」


 カイトの右目は真紅に染まり、そして僅かに光り輝いていた。魔眼を使っていたのだろう。そんな彼の視ている先を、大精霊達もまた見通した。そうして見えた世界に、ソルが僅かに驚きながら問いかけた。


「……あの世界、ですか?」

「ああ……なぁ、あの世界の料理をエネフィアナイズ、日本ナイズにするにはどうすれば良いと思う? また逆に、あの世界の味にこの二つの世界の料理を合わせるのなら、どうすれば良いだろうな」


 カイトが見ていたのは、セレスティア達が居た世界だ。そしてそれはすなわち、『もう一人のカイト』が生まれ育った世界でもある。


「今はまだ取っ掛かりさえ無いけどさ……いつの日か、あの世界も交わる日が来るんだろう」


 運命という言葉は信じたくないカイトであるが、それでも各々には各々何らかの為すべき事があるのだろうとも思っていた。それ故、彼は今はまだ手の届かない三つ目の異世界を見ながら、こう口にした。


「オレ達が転移したのには、何らかの理由があるんだろう。それは未来を知らないオレにはわからないが……もしかしたら、オレ達がきっかけとなって世界を交わらせて行く事が出来るのかもしれない」

「元々主様が考えておった事じゃのう」

「ああ……でもさ。今にして思うんだ。二つの世界だけで終わらないんじゃないか、ってな」


 時乃の言葉にカイトが思い出したのは、イクスフォスの妹にして己が愛する者の一人。地球ではルシフェルと呼ばれる女だ。彼女はイクスフォスと同じ種族。つまり、どこの世界だろうと自由自在に転移出来る。そしてその力を借り受けてカイトもまた、どこの世界にも行ける。

 無論、これは単に人の往来というだけだ。まだ世界の間に流れる時の問題や文化風習の差という問題は大きい。が、それでも。彼はそのはるか彼方の未来が予見出来た。


「何時か……何時かオレはあの日あの時に帰る」


 カイトが思うのは、かつて己の運命が変わった日。一人の女が狂い果て、憎悪によって滅びた世界が組み直されたあの日の事だ。あの日に、彼は何時か帰らなければならなかった。今を創る為に、過去を創らねばならないのだ。しかし、それが終わればそれでおしまいだと思っていた。


「全部が終わった後、密かに行こうとは思っていた。終わった後の者たちが関わるべきではない、ってな」


 あの世界を、もう一人の自分が愛した世界を()()()の愛する女達に見せたかった。が、同時にあの世界での自身の影響力を鑑みて、密かにしようと思っていた。だが、その考えを改めた。


「だが、終わってなんていない。そう、オレの……オレ達の旅路はまだ続いてるんだ」

「「「……」」」


 楽しげで、少年の様な顔のカイトに対して大精霊達は微笑んでいた。そもそも彼女らは世界側の存在だ。そしてこれは世界側の意思にも合致する。その意志を持つ者が生まれたのだ。嬉しくもあったのだろう。


「何時か行こう、皆で。そう、皆で。そして、皆で旅をしよう。厄介者と疎まれるかもしれない。望まない者も居るかもしれない。だが、構わないだろう。そんなものはそいつらの考えだ。それを尊重しよう」

「くくく……親は無くとも子は育つ、じゃのう」


 楽しげに語るカイトの言葉の意味を正確に理解していた時乃は楽しげに笑っていた。皆の意味。そして旅の意味を正確に理解出来ていればこそのこの言葉だった。


「のう、主様。皆とは、どういう意味じゃ?」

「皆さ……三つの世界の皆。そして、どこかへ旅立った奴ら」


 目を閉じると、それだけで思い出せる。この世界で得た仲間達。地球で得た仲間達。そして、『もう一人のカイト』が得ていた仲間たち。そしてそれ故、彼は笑いながら告げる。


「そうだな。まずは、世界中に散っていった仲間達を探そう。どーせ、あいつらも馬鹿なんだ。どっかで馬鹿やってるバカを探せば良いだけだ。簡単な話だ」

「どこが簡単なのやら」


 楽しげに、嬉しげに語るカイトに対して空亜もまた笑いながらそう呟いた。カイトが探そうと言ったのは『もう一人のカイト』の仲間達だ。

 どこかへと旅立っていったと言われる彼らを探そう。そう言っていたのである。そしてそんなカイトは、空亜の苦言にも似た言葉に『もう一人のカイト』が持っていたある遺物を取り出した。


「簡単だ。だってここにこれがあるんだからな。アル達でさえ似た旗を見たらそれだけでわかったんだ。小僧どもが分かって、古株共がわからないはずがないさ」


 カイトが取り出したのは、かつて己が保有していた旗。青地に七匹の龍が描かれた旗だ。それはかつての自分達の誇り。そして、目印だった。彼は去っていった仲間達がそうした事を知らないまま、これを目印にしようと思ったのである。やはり、彼らは仲間だった。心の奥底が通じ合っていた。


「のう、主よ……その旅の中心となる者になるというのか?」

「そりゃ、仕方があるめぇよ。オレ以外に適任者は居ないからな。なにせ三つの世界を股にかけ、更にはまた別の世界にまで伝手があるって奴だ。オレ以外にやれる奴が居ると思うか?」


 こればっかりは自分にしか出来ない事だ。カイトははっきりとそう断言する。そしてそんな彼はそのまま、楽しげにそれに対する思慮を始めた。


「ああ、それならこの旗も色々と変えないとな。この旗は単一の世界のものだし……どんな意匠が良いんだろう」


 ああ、楽しい。カイトはまだ見ぬ冒険の匂いを感じ取り、少し前とは打って変わって楽しげな表情で考え事を始める。それに、大精霊達は思わず苦笑した。


「やはり、親は無くとも子は育つじゃのう」

「本人が嫌がっても、勝手に真なる王に突き進んでいきますか」


 苦笑する時乃の言葉に、ウンディーネが同じ顔で同意する。地球にてカイトが再会を果たしたかつての義理の父ギルガメッシュ。彼はカイトを世界を纏める王としようとしていた。

 無論、この王は国の長を指すものではなく、まとめ役とでも言うべき存在だ。領土は持たず、民を治めるでもない。ただ全ての者を、神さえも統率する者。真なる王。世界はその存在をそう呼んでいた。それについてカイトは嫌がっていたが、知らず、彼はこの王となる事を明言していた様なものだった。

 そうして、そんな事にも気付かない程に楽しげなカイトはその後もしばらく未来の計画を立てながら、大精霊達の料理の世話をする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。なお、流石に本作では全く別の世界へ旅立つ事はありません。本筋から離れますからね。

 次回予告:第1486話『究極の料理を』

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