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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1481話 直前

 収穫祭における自分達の出番を待つ間、他の一般参加者達の料理を楽しみながら待つ事にしたカイト達三人。そんな彼らは朝一番には軽食を食べ、昼にはしっかりとした料理を食べ歩き、午後の三時にはお菓子を摘み、とクッキング・フェスティバルの参加においては正しいといえば正しい――行儀は悪い――楽しみ方を行っていた。そうして時間を潰したわけであるが、流石に夕方頃になるとそうも言っていられない。なので適度に時間を潰した彼らは一度控室に戻っていた。


「ふぅ……食った食った……といってもまだ後もあるから腹半分ぐらいにしないと駄目だ、ってのが悲しい所だな」

「そのための、レシピ本だからねー」


 そのためのレシピ本。ユリィが告げたのにはわけがある。というより、当たり前の話だった。


「まー、いくらオレでもあの料理を全部は食えんわ。流石に量が多いし、まだまだ夜の部もあるからな」


 カイトが思い出したのは、およそ三時間おきに料理が入れ替わる会場だ。カイトも見ていたがいくら仕込みをしていたからとて、料理には食べるに最適な時間がある。

 例えば夕食の残りを朝食にする者は居たとて、逆に朝の起き抜けの時間に食べるあっさりとした朝食を夕食とする者はさほど多くはないだろう。無論、あっさりとした物を食べたいというのなら話は別だ。が、最も適しているのはやはり朝食として開発されているのだから、最適な時間は朝食なのだろう。

 こんな感じに料理を最適な時間に食べられる様に、時間を設定されていたのである。更に言えば審査される料理もきちんとそれに合わせて予定が組まれている。カイト達が後に回されたのは彼らがメインであると同時に、彼らの料理が夕食に適していると判断されたからでもあった。


「というより、料理としてみればここからが本番みたいなものだからね。人としても今からが一番多いんじゃないかな。実際、クズハ曰く例年夜になるにつれて来客数も増加傾向にある、って話だし」

「オレだって今の時間から回りたいからな」


 ユリィの推測にカイトも半分ぐらい笑いながら同意して頷いた。基本、今までに提供されていたのは朝食から間食。昼食として確かにしっかりとしたメニューも提供されてはいたものの、それでも比率として考えれば夕食ほどしっかりとしたメニューはない。

 そもそも冒険者でなければ基本的には食生活はエネフィアも地球も大差はない。そして人口比率として考えても、どう考えても冒険者は全人口の何%かという領域だ。なので地球と同じ様に昼には仕事があるのであっさりと、体力を使った夜にはしっかり食べたいという者は多かった。

 しかも夜の部にはお酒にあるおつまみ系のレシピも公開される。酒飲みのカイトからすれば一番メインの時間だっただろう。が、審査があるのだから仕方がなかった。というわけで、


「ま、そんな事言っても仕方がないか……とりあえずは自分達の仕事だ。ここらで普通の大会ならどこかの妨害とかもあるわけですが」

「まぁ、そんな事が起きればまずクズハらが激高するじゃろうし、何より見張りもしっかりついておるからのう」

「あっはははは。今回の見張りはどう頑張っても抜けないな。オレでも無理だ」


 半笑いのティナの指摘にカイトは大いに笑う。この見張りなのであるが、普通に考えればマクダウェル家の誇る腕利きだとでも思うだろう。そして勿論、彼らも見張りに就いている。が、今年はそんな領域ではなかった。というわけで、大いに笑ったカイトは一転少しだけ苦笑する。


「はぁ……さて、コブ氏はまさかガチで大精霊達の口に入ると知れば、どうなるだろうな」

「さてのう……実際、普通に練り歩いておるからのう」


 ここはカイトの主催する春夏秋冬の四大祭の一つ、収穫祭だ。つまりは必然大精霊達が居て、何よりこのクッキング・フェスティバルへの参加は彼女らの意向を汲んでの事だ。

 そして彼女らの望みは一つ。カイトの手料理が食べたい、である。ついでなので他の料理も食べているが、メインはそれだ。それなのにカイトの用意した食材に手を出されようものなら、即刻通報されるだろう。そして彼女らの警戒網を抜ける様な奴がわざわざカイトの料理を盗み出す事もない。安全というわけであった。


「あははは。楽しんで頂けているのなら、何よりだ。料理もしっかり人数分確保する様に指示出しているしな」

「うむ……さて、では後一時間じゃが……その間どうするかのう」

「さぁなぁ……とりあえずレシピ本でも読んで待っておくか?」

「それが良いかもしれんな」


 ティナは一つ頷くと、魔糸を使って部屋に備え付けられていたレシピ本を手に取った。ここは控室。何か時間を潰せる物を用意してあるのは当然の事で、パンフレットやレシピ本等の軽い読み物以外にも軽食の類も用意されていた。というわけで、適当に読書でもしながら時間を潰すことおよそ二十分程。部屋の扉がノックされた。


『アマネ様。よろしいでしょうか』

「ああ……どうぞ」

「失礼します」


 ノックをして入ってきたのは大会の係員だ。どうやら時間という所なのだろう。三十分前には会場入り――正確には大広場中央の特設会場――しておく必要があるので、移動等を考えれば丁度だと言えた。


「お時間が近付いて参りました。色々と確認事項がございますので、ご同行願えますでしょうか」

「ええ、わかりました……荷物等は?」

「この部屋についてはフェス一日目の終了時間までに退去して頂ければ大丈夫です。その間は自由にお使いください」

「わかりました」


 カイトは部屋の退去についてを係員に確認しておく――無論立場上知らないわけがなかったが――と、荷物をその場に置いてティナ、ユリィの二人と共に移動を開始する。そうして三人は特設会場脇に設営された待機エリアへと案内される事となった。


「お待ちしておりました」

「よろしくおねがいします」


 案内された先では大会の運営委員達がせわしなく動いており、その中の一人が進み出て頭を下げる。そうして少しの間一同は担当者より注意事項の説明を受ける事になった。


「まず、当然の事ですが基本的に衛生管理は徹底して頂きます。除菌薬については各調理スペースの角にこの様な白い箱があります。基本、調理前やもし何らかの事情で床に触れたり外に出た場合は、これに手を入れてください。後は自動で殺菌処理が行われる事になっております」

「どれぐらいの時間入れておけば?」

「30秒程です。これを、こうやって……」


 衛生管理を担当しているらしい係員の一人はカイトの問いかけを受けて、ティッシュボックス程度で手のひらが入る深さの箱に自ら手を入れてみせる。箱の見える位置にはランプが取り付けられており、青かった光が赤色になっていた。

 この中にはアルコールが入っており、更には特殊な魔術が刻まれているらしい。アルコール消毒を加速させて急速に殺菌をしてしまうとの事であった。そうしてしっかり三十秒後。再びランプが青色に光った。


「これで、殺菌終了です。基本的にはこの上部に取り付けられたランプで確認してください。入れると赤になり、これが青色になれば手を出して大丈夫です」


 係員は再確認の為、言葉で説明を行う。なお、この箱については一般参加者達も厳守させられているので、カイト達も見たことがあった。大昔にカイト達が試作した物を改良して、短時間で殺菌できる様にしたものとの事であった。


「さて……これで衛生管理については終了です。次に持ち込まれた包丁類ですが、そちらについてはこちらで準備の折りにきちんと机の上にご用意させて頂きます」


 当たり前の話であるが、包丁は刃物。人を殺せる道具だ。なのでもし自分の包丁を持ち込む場合については運営に提出して、専用の安全装置を装着しなければならなかった。

 専用の安全装置は非殺傷化の魔道具とでも考えれば良い。持ち手の部分の邪魔にならない所に装着され、クッキング・フェスティバル終了後には外されるとの事であった。外す理由は持ち帰られて解析され無効化されるのを防ぐ為だ。なので専用の装置が無いと装着は勿論のこと、外す事も出来ないらしい。そのかわり、返却時には新品同様に研いだ状態で返却してくれる。


「えぇっと……ああ、後は既に提出されました食材、下拵え済みの料理についてはそれぞれ申請の際に申請して頂きました方法で食材を並べるエリアに並べさせて頂きます。また、冷蔵・冷凍保存を申請されております場合には、会場内の冷蔵庫をご確認ください」


 一通り衛生面・安全面の説明を終わらせた係員はそのまま引き続き、持ち込んだ食材系の話を開始する。ここらについては申請した通りらしく、カイト達も場所を聞いておくだけだった。

 そうしてしばらくそういった注意事項を聞いていると、どうやら前の参加者の審査が終わったらしい。慌ただしく支度が開始される事になった。


「おーい! 説明、まだ掛かるか!?」

「あ、はーい! もう終わります! えっと……よし。一通り、これで注意事項の説明は終わりました。何かご質問は?」

「いえ、私は特には」

「余もないな」

「しつもーん。私、どう考えてもあれ入んない、ってか手が届かないっぽいけど」


 カイトの視線を受けて首を振ったティナに対して、ユリィが挙手して問いかける。あれ、というのは殺菌消毒用の白い箱だ。確かに彼女の体躯を考えた場合、奥まで入るとは思いにくい。更に言えばあのランプに連動しているだろうセンサーが反応するかも微妙な所だろう。というわけで、その指摘を受けた係員も忘れていたと、教えてくれた。


「あ、ああ、そう言えばそうでしたね。妖精の方については、側面に専用の場所があります……えっと……確かここらに……あ、あった。ここから手を入れてください」


 どうやらユリィ程度の大きさの妖精族がこのクッキング・フェスティバルに参加するのは非常に稀な事だったのだろう。係員は少し焦った様な顔をしつつも、記憶を頼りにして白い箱の側面を僅かに開いて手を入れる場所を教えてくれた。

 なお、ユリィはこれについて知っているので聞かないでも分かっている。これを開発しているのはマクダウェル家だ。知らないはずがない。が、聞かないと聞かないで疑問に思われる事もあるだろう。なので一応聞いておいた、というわけである。


「では、他には?」

「……いえ、特には」


 再度の係員の問いかけにカイトはティナとユリィの顔を見回して、特に無かったので一つ頷いて問題無い事を明言する。それに、係員も一つ頷いた。


「ありがとうございます。では、もうしばらくお待ち下さい。また時間が来ればお呼び致します……こっちの説明は終わった! 他の手配は!?」


 カイト達への説明を終わらせた係員は彼らに頭を下げると、慌ただしげにその場を立ち去って即座に他の準備の手伝いに入る。カイトらへの説明の間にも係員達は例えば先に使った調理スペースの清掃や細々とした後片付け、カイトらの持ち込んだ食材の搬送など忙しなく動いており、幾ばくの猶予も無いのだろう。そうして少し待っていると、本当にすぐに彼らの出番が回ってきた。


「おまたせしました。前の方の後片付けと皆様の料理の準備が整いました。司会者の方でもうしばらくのお話がありました後、皆様をお呼びする事になります。ご準備の程は如何でしょうか?」


 どうやら最終確認という所なのだろう。先程説明した係員とはまた別の係員がカイト達へと問いかける。それに、カイトは一度二人と顔を見合わせて問題が無い事を確認する。


「……大丈夫です」

「わかりました……」


 係員はヘッドセットを通して、カイト達に問題が無い事を本部へと報告する。そしてそれを受けたからか、司会者が今までしていた話を手短に切り上げて、次の参加者、つまりはカイト達の話題を行う事となった。そうして、それが少しした所でカイト達は舞台入りする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1482話『彼らにしか出来ない事』

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