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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1478話 クッキング・フェスティバルへ

 見本市を終えて数日。カイトは天桜学園の屋台運営を行いながら、二つの立場でクッキング・フェスティバルの準備に勤しんでいた。


「良し。これで全部終わり、と……」


 カイトは最後の書類にサインを記入して、ペンを机に置く。これでクッキング・フェスティバルの開始に関する各種の書類は全て書き終えた事になる。というわけで、これで今年の収穫祭もトラブルさえ起きなければ公的には最後まで行える事になった。


「ふぅ……」


 カイトは小さくため息を吐いて、窓の外を見る。ここまで終わらせれば長かった収穫祭も後一週間足らずだ。


「善き哉、善き哉……と」


 やはり何事も終わりになると物寂しいものだ。なのでカイトは一人そう、少しだけ物寂しい様子で窓の外を見る。


「どうしたの?」

「んー? いや、ちょっと、さ」


 アウラの問いかけにカイトは椅子に深く腰掛けつつ、窓の外から聞こえる喧騒に耳を澄ませる。この祭りは己の主催する祭りの内、最大規模の物だ。季節柄、更にはこの祭りが主とする事柄の性質、開かれている期間等複合的な要因から、どうしても人の往来は激しくなる。

 なので他の大祭に比べたとて、その規模は最大の物だ。となると、これを聞けるのはどれだけ早かろうと来年になる事だろう。


「今から、来年を心待ちにするのは可怪しいかな?」

「ん……問題ない」

「……そうか」


 カイトはアウラへともたれ掛かる。来年はどうしようか。カイトは今からそれを考える。今年は帰ったばかりという事で、自分が主体的に何かを計画していない。というより、次の冬の大祭も何一つ計画しないだろう。自分が去って三百年。何一つ勝手がわからないからだ。


「そうだな。来年までにはアイツラの一件を片付けちまおう。で……そうだな。皆呼ぼう」

「皆?」

「地球の奴ら」


 楽しげに、カイトは青空を仰ぎ見る。地球でも自分が知り合った者たちは、揃いも揃ってお祭り騒ぎが大好きだった。彼らを呼んで盛大に祭りをやるというのは、確かにカイトらしいかもしれなかった。


「そうだな。そうと決まれば、色々と整えるか」


 二つの世界は何時か繋がる。カイトはそれを信じていたし、おそらくそれは良くも悪くも自分達がきっかけとなるのだろうとも思っていた。そんな彼へとアウラが問いかける。


「楽しい?」

「ああ、きっと」


 何時か、叶うのならいっそ家族を呼んだりしても良いかもしれない。カイトはそう思っていた。そしてだからこそ、彼の顔は楽しげだった。


「あぁ……楽しいな。やっぱり、何時もこの時が一番楽しいんだ」

「ん。おねーちゃんもこの時のカイトの顔を見るのが好き」

「あっははは。そりゃどうも……うっし! そうと決まれば、とりま今度の時に姉貴にでも持ちかけてみるか!」


 折角世界を越えた連合軍を結成しようとしているのだ。ならその時にでも相談してみるのも一興だろう。と、そんな彼へとアウラが告げる。


「でもその前に」

「ああ、わかってるよ。来年のことの前に、まだ今年も終わってないからな」


 少しだけ照れ臭そうにしながら、カイトは窓枠から離れた。彼の言う通り、まだ今年も終わっていないのだ。現状で足元を掬われる事も無いだろうが、その足元を掬われる事はないだろうという所で足元を掬われた男を彼は知っている。なら、今年も最後の最後まで油断なく終わらせるだけである。


「よし。再度になるが、衛生管理は?」

「ん、問題ない。消毒用のアルコールもしっかり準備してる」

「おし。天桜のアルコールを錬金術で量産した甲斐があるな」


 やはりクッキング・フェスティバルとなると莫大な数の参加者が料理を行う。しかも一般参加もあるので、衛生面についても殊更に念入りにしておく必要があった。

 なので天桜学園の調理室で使っていたアルコールの量産体制を整えさせたのである。これについてもまた公益の観点からマクダウェル家とヴィクトル商会を中心として販売する予定だった。


「じゃあ、とりあえずオレも料理の支度に戻るかね」

「あ、カイト。そう言えば包丁の研ぎ終わったって」

「あ、マジか。わかった。ありがと。受け取ってくるよ」

「んー」


 アウラからの連絡にカイトは礼を言うと、今回のクッキング・フェスティバルに備えて研いで貰っていた包丁を受け取りに行く事にする。そうして、彼も個人として収穫祭最後の山場となるクッキング・フェスティバルの準備に入る事にするのだった。




 さて、そんな日から数日。雨の日も何度かあった収穫祭であったが、クッキング・フェスティバル開始となるこの日は幸いな事に晴天だった。


「本日は晴天なり、か」


 雲ひとつない空というのはまさにこの事だ。カイトはそう考えながら、一つ頷いた。これなら参加者達も気分良く参加出来るだろう。今年の収穫祭も色々と事件もあったが、最後の最後は有終の美を飾る事が出来そうだった。


「おし。とりあえずティナ、そっちの支度は?」

「うむ。出来とるぞー」


 カイトの問いかけにティナが珍しくエプロン姿で頷いた。彼女も料理が出来ないわけではないが、やはり料理となるとカイトの方がよくやっていた。彼女は研究に忙しく、軽い料理はしてもそこまで本格的な料理は滅多にやらないのだ。その軽い料理にしてもエプロンを着用する程の事でもない。なので結果的にカイトの方がよくエプロンを着ているというわけであった。


「さて……ティナ。そっちに任せた下拵えは?」

「うむ。漬け込み等についてはもう既に係に提出しておる」

「なら、大丈夫だな」


 当たり前であるが、料理である。時間が掛かる料理はどうしても存在している。なのでそういった例えば煮物や漬け込む必要のある料理になると先に準備をしておいて、担当の係に提出する事で食材の一つとして使う事が許可されていたのである。そしてそんなティナであるが、一方のカイトの方に問いかける。


「で、そういうお主の方こそ、手に入れる事が出来ておるのか?」

「おうともさ。伊達にバカ皇子に散々やれこれを作れあれを作れと言われてたわけじゃない」


 カイトはそう言うと、こちらも検査が終わったらしい食材の入った冷蔵室を見せる。これもまた当然の事なのであるが、いくらカイトが当主を務めるマクダウェル家で、今が収穫祭だとはいえ揃えられる食材には限度がある。

 例えば今回で言えば魔物の肉は手に入れられていない。他にもあまりに量を手に入れられない調味料の類も無い。こればかりは需要と供給の関係で、どうしても際限無しに手に入れられないからだ。

 とはいえ、その調味料を使いたいという者は当然居るだろう。カイトはそういった用意していない食材や調味料の類を手に入れていたのである。こちらもまた、きちんと検査をしておけば使用出来た。


「中々に面倒かつ手間が掛かったが……まぁ、今回は料理をするのが目的ではなく食べてもらう、レシピを公開する事が目的だからな。些か手が掛かったのは、仕方がないか」


 実のところカイトが領土各地を所狭しと駆け回っていたのは、こういった公爵家では手に入れられていない食材の類を手に入れる為でもあった。どうしてもその食材を売っている地元に出掛けに行く必要があったのである。そんな彼が手に入れていたのは、エネフィア特有の食材達だった。と、そんな事を思い出していたカイトに向けて、ティナが楽しげに告げた。


「さて……中々に難しい仕事であるが」

「ああ。これはオレ達だから出来る仕事で、オレ達だからやらねばならない仕事だ」

「うむ……くくく」

「ん? どうした?」


 自らの意見に同意したティナが唐突に笑い出したのを受けて、カイトが小首を傾げる。本当に唐突に、何の脈絡もなく笑い出したのだ。そんな彼女はカイトへと先程より更に楽しげに口を開く。


「いや、何。これはお主がやる仕事じゃとばかり思うておったがのう……まさか余もその仕事をやる立場となるとは、思いもよらなんだ。十数年も昔……天才と言われた余もこんな未来は見通せもせなんだ。それを思うと、妙に楽しくなってのう」

「おいおい……未来ってのは何時だってわからないもんだ。そんな事を言い始めりゃ、その一年前。オレ達がこんな関係になってるなんて見通せていたか?」

「そうじゃのう……だから、楽しくある」


 カイトの言葉を認めたティナは満足げに頷いた。今では普通であるが、こんな風にカイトに抱き寄せられる事なぞ考えた事もなかった。無論、カイトだってあの当時知っていたわけでもない。

 だから、彼女にはあの時からすれば不思議としか言い得ない今が楽しくて仕方がなかったのだろう。と、そんな所にユリィが飛来する。するのだが、そんな彼女は二人を見るなり、半眼でため息を吐いた。


「ぴっぴー。こんな往来でバカップル禁止ー。というか、流石に恥ずかしくないの?」

「「ん?」」


 ユリィの指摘にカイトとティナは目を瞬かせて少しだけ周囲を見回した。どうやら、少しばかり注目を集めてしまっていたらしい。若い少女の羨ましそうな視線から同じく若い青年の嫉妬じみた視線、更にはご年配の奥様の微笑ましそうな視線まで多種多様な視線を集めていた様子である。

 そしてこれには流石にカイトも恥ずかしかったらしい。かなり頬を赤らめながらティナから離れて――ティナも相当恥ずかしかった様子である――軌道修正を行った。


「あ、あはははは……え、えーっと……ユリィ。とりあえず支度は? こっちは出来てるが……」

「できてるよー。久方ぶりにこの姿で料理だから、ちょっと勝手が狂ってるけどね」


 流石にユリィとてこの状況で無闇矢鱈に茶化したりはしなかったようだ。今指摘したり茶化せばティナが大いにへそを曲げるだろうし、何より時間はさほど無い。仕方がなかったとも言える。というわけで気を取り直したカイトの問いかけに対して、ユリィは楽しげに頷いた。


「そう言えば……この面子でエプロン姿で料理するのって何時以来だろ」

「んー……そういや、ほとんど無かったな。オレとお前は良くあるけど」

「……なんじゃろう。余、責められとらんか?」

「「なんでさ」」


 二人の会話を聞いていたティナの少し拗ねた様な問いかけに、二人は思わず苦笑する。どうやらあまり料理をしていないと捉えられたらしい。

 まぁ、事実といえば事実だろう。何より彼らの場合はマクダウェル家という家があり、貴族である以上専属の料理人が存在している。彼女が料理をする必要がなかった、というべきなのだろう。と、そんな他愛もない話をしていると、どうやらクッキング・フェスティバルの開始時間となった様だ。係の者がやってきた。


「これよりクッキング・フェスティバル一日目を開幕します! 青色の番号札をお持ちの方は一度、受付で説明された大会の係員の所までお越しください! もし場所がわからない場合、私の方までお越しください! 通常の番号札をお持ちの方はあちらの係員の所へと移動してください!」


 係員が声を張り上げて、参加者達に移動を促す。青色の番号札は、参加者の中でも一部の者が持つ札だ。クッキング・フェスティバルの参加は確かに無制限であるが、審査員の腹は有限だ。

 そのために三日に日程を分けているわけであるが、それでも限度がある。無論合間合間に休憩を設けているが、それでも限度があるだろう。審査委員は著名人が多いので衛生面の管理だってより一層面倒になる。

 それに何より、皆が皆審査員に審査して貰いたいわけではない。審査してもらったとて貰えるのは名誉のみ。確かに店なら箔が付くのだろうが、一般市民からするとそんな箔が付いた所で大半はどうでも良いだろう。なので申請の際に審査委員による評価が欲しい者はそう申請して、別に良いという者は料理とレシピを提出して終わりでも良かったのである。それでも申し込みの数に応じては抽選制となるとの事であった。


「さて……オレ達も控室に向かうか」

「うむ」

「はいさ」


 そんなわけなのであるが、カイト達はこの青い番号札を持っていた。今回、神殿都市の運営から彼らが頼まれたのは目玉となる事だ。なので招待客として専用の番号札が与えられいて、審査を受ける事になっていた。

 と言ってもこれは別に彼らだけではなく天桜学園であれば後は睦月率いる神楽坂三姉妹や、天桜学園の部活である料理研究会のメンバー達が貰っていた。この三つは屋台と同じ理由――目玉を分散させたい――から別々の日程に分けられていて、カイト達が一日目、睦月らが二日目、料理研究会が三日目だった。


「さて……オレ達の番は……最後の方か」

「ま、しょうがあるまい。なにせ目玉故な」


 指定された受付で改めて工程表を確認したカイトとティナは笑いながらも一つ頷いた。ここら、やはりエンターテイメントという所なのだろう。一番の目玉となるカイトらは最後の方に回される事になっていた。

 それでも最後にならないのは、その後に大本命たるプロの料理人が控えているからだ。エンタメ性としてカイトらが大本命なら、料理としての大本命がこのプロだった。

 とはいえ、そうなると必然として待ち時間が長くなる。こればかりは仕方がない。が、開会式に参加はしなければならないので、もう会場入りしていたというわけだ。というわけで、三人は自分達の順番等を確認して、改めて開会式に臨むことにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1469話『クッキング・フェスティバル開幕』

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