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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1474話 夜会

 カイトとソラへの二つ名の授与式の後に行われた受賞者達を主賓としたパーティ。そこで主催者に名を連ねる皇帝レオンハルトとの会話を行ったカイトは彼の考えを受け、皇国各地に残る旧文明の遺跡の調査に関する協力を要請される。

 冒険部としてそれを快諾したカイトは皇帝レオンハルトの命を受けパーティの裏で調整を開始した皇国の職員達と同じく、マクダウェル家の従者達に皇帝レオンハルトの意向に沿って調整を行うように指示を出していた。そしてそれに並行して、己は同じく参加していたアベルへと接触していた。皇帝レオンハルトの意向を大公や他の公爵に伝えに行っていたのである。


「というわけだ」

「なるほど……再調査か」


 カイトからの伝令を受けて、アベルは一つ頷いた。彼が率いているのは獣人。身体能力に優れた種族だ。優れた嗅覚や触覚を活用して風の流れや匂いを感じ取り、隠された部屋を見つけ出す事を得意としている。遺跡の隠し部屋や復活の近い邪神の眷属が居たのなら分かるかもしれなかった。彼らの助力は必要だろう。


「わかった。皇帝陛下の意向、確かに聞いた。こちらも調整をしておこう」

「ああ、そちらはそちらで任せる。こちらもこちらで手配はしている」

「ああ……マクダウェル公。次は誰に? 大公か?」

「大公両家には皇帝陛下からの伝令が向かっている。詳細はそちらと同じく後にホテルで確認となるだろうが」


 アベルの問いかけにカイトは首を振った。当然であるがここで話せる事は限られている。一応職員に命じて密かに隠形を施させているが、それだって僅かな間しか使えない。皇帝レオンハルトの意向を内々に伝えるのが出来る限りだ。

 あえて言えばこういう意向を示していたぞ、と密かに伝えただけだ。既に皇帝レオンハルトは根回しに入っている。そしてすぐにでも動きたいというのが彼の意向だ。そこを鑑みた時、明日になって反対を示されても面倒だ。というわけで、カイトは参加している各公爵に挨拶回りの名目で接触して皇帝レオンハルトからの根回しを行っておく。


「さて……」


 これで一通り根回しは終わった。カイトは挨拶回りを兼ねた根回しを終えて壁際で一休みする。色々と気になる点が無いわけではない。旧文明の遺跡の調査は必須だし、急務といえば急務だ。冒険部としても旧文明の遺跡へ合法的に入れるのなら願ってもない事だろう。


「とはいえ……まぁ、わかっている範囲の遺跡となるのは確定なんだよな……」


 カイトは壁にもたれかかりながら、わずかに苦味を浮かべる。やはりここら、幾つもの立場が入り乱れるカイトならではの苦悩と言って良いのだろう。考えればわかろうものだが、今回は再調査だ。

 改めて調査するのであって、未知の遺跡への調査ではない。なので冒険部として有益な結果は殆ど得られないだろう。仕方がないといえば仕方がない。

 とはいえ、カイト達が新たに見つけ出す事が無いわけでもない。先の湖底の遺跡のように新たな発見があるかもしれない。最初から落胆する必要も無いだろう。


「……そう遠くない遺跡になるとは思うが……ふむ」


 旧文明の遺跡はエネシア大陸に幾つも見付かっている。皇国にも勿論ある。流石に三桁にはならないものの、十数個ある事だけは事実だ。おそらく、かなり大規模な調査隊となるだろう。


「まぁ、丁度良いといえば丁度良いか」


 カイトが考えたのはトリンの事だ。彼は一ヶ月の間こちらに協力してくれる事になっている。その肩慣らしには丁度よい案件といえば丁度よい案件だ。この案件は依頼主や場所の関係もあり、冒険部だけで動く事はない。皇国の研究所の学者達も加えての任務となるだろう。彼からしてみれば冒険者だけより遥かにやりやすい依頼と言えた。


「……ああ、椿。収穫祭終了後に依頼が一件ある」

『はい』

「皇国各地にある旧文明の遺跡の調査を行う。その参加ギルドの一つとしてウチにも内々に打診があった。皇帝陛下より直々の打診だ。優先して動けるように調整を頼む」

『かしこまりました』


 カイトはヘッドセットを通じて椿へと調整を命じておく。やはり相手は皇帝レオンハルトだ。彼から直々の打診――ただ彼が考えた場に一緒に居たというだけだが――であれば、それは最優先の仕事として良いだろう。

 そうして、椿に調整を頼んだ傍らカイトは壁際から移動する。流石に主賓がこんな所でいつまでも壁の花をしているわけにもいかないだろう。一時的な休憩として見られていたが、カイトと話したいらしい貴族や受賞者達がちらほらと彼を見ていた。というわけで、彼は近くの若い女性へと声を掛けた。丁度話が終わった所だった。


「少々、よろしいですか?」

「ええ……えっと、貴方は……」

「カイト・天音です、フィオーレさん」

「ああ、貴方が。白いロングコートじゃなかったので貴族と見間違えてしまいましたわ」

「あはは」


 フィオーレというらしい女性の冗談にカイトが笑顔で応ずる。とはいえ、さもありなんといえばさもありなんだ。流石に皇帝レオンハルトが主催するパーティで礼服の着用は絶対だ。

 しかも彼は主賓である。流石にこの場はカイトも燕尾服で、髪型もしっかりと整えている。何より彼は正真正銘貴族なのだから、貴族と見間違えても仕方がなかった。


「美術館にて開催されていた個展、拝見させて頂きました」

「ありがとうございます。どうでしたか?」

「そうですね……どれも素晴らしかったですが、私としては花園の絵が気に入りました」

「あら……」


 カイトの答えにフィオーレがわずかに目を見開いた。それはあえて言えば驚きで良いだろう。冒険者であるカイトがそれに気付くか、と感心した様な趣きがあった。というのも、実は花園の絵というのは存在しないからだ。が、確かにそれは存在していた。


「最初は何故この様な形に絵画を、と疑問だったのですが……少し離れて納得致しました。皇帝陛下が称賛されるのも当然の事でしょう。おみそれ致しました」

「ありがとうございます。こちらこそ、おみそれ致しました」


 上機嫌にカイトの称賛を受け入れたフィオーレはカイトへと称賛を返す。そんな彼女は少し興味深げにカイトへと問いかけた。


「でも……よくお気づきになりましたわね。あれは貴族でも気付かぬ方もいらっしゃったのですけど……」

「あはは。実は地球に居る姉代わりの方が画家の卵でして。彼女の絵を良く見るのです」

「あら……そうなのですか」


 カイトの言葉にフィオーレが少しの興味を覗かせる。やはり同じ画家だというのだ。しかも卵とはいえ、カイトにこの見識を与えたのだ。気になるのは仕方がない。そしてこれは嘘ではなく、この人物は灯里の妹の光里だった。学問の大天才が灯里なら、光里は芸術関係に優れた才能を持っていたのである。


「はい。フィオーレさんとは違い水彩画を得意とされているのですが……彼女の知り合いの個展に行かせて頂いた時、彼女よりそんな絵もあるのだと教えて頂きました。個展全てを一つの芸術として仕立て上げる。素晴らしい腕前でした」

「ありがとう」


 まぁ、やはりここらはお付き合いという所だろう。カイトの重ねての称賛にフィオーレも重ねて感謝を示す。そうしてそれが終わったら、カイトは次に興味深そうにこの話を聞いていた彼女のパトロンの貴族との話をする事になった。


「おぉ、あれがわかるかね」

「はい。大陸間会議の後、ヴァルタード帝国に滞在致しました。その際、クレイムという方と少し懇意に」

「おぉ、陶芸家クレイムか。彼の作品は素晴らしい。あれであの値段で売るのだから、嘆かわしい限りであるが……仕方がないといえば仕方がないのだろう」


 カイトの言葉に知った名が出たからだろう。上機嫌ながらもフィオーレのパトロン貴族は困った様な、それでいて称賛する様な顔を浮かべていた。

 なお、何が嘆かわしいというのかというとクレイムの作品は良品だが安いのだ。それ故、物の価値がわからない奴が買い漁る事があるので困るという事らしい。が、仕方がないと言う所を見れば、彼もクレイムの考えは理解しているという事で間違いないだろう。


「彼の作品は使って味が出てこそ完成されるものだ。私が後援するのは画家であるが……うむ。彼の考えはあえて言えば年月を経た事で絵画に味が出るのと似ている」


 特にカイトとしては何かを考えて口にしたわけではない名であるが、どうやらこのパトロン貴族にとっては最適な話題だったらしい。やはり芸術の好みは人それぞれだ。そしてクレイムの作品は彼の支援する所とは別であったが、彼の好みとする系統ではあったらしい。上機嫌そうにそう語っていた。


「そうだ。それでは君は彼の作品を買ったのかね」

「ええ……ご飯茶碗を。どうしてもエネフィアではご飯茶碗を手に入れる事は難しいですから……」

「おぉ、なるほど……末永く使いたまえ。あれは長い年月を経て初めて味が出る。一生モノだろう」

「ありがとうございます。大切にさせて頂きます」

「うむ」


 カイトの応諾にパトロン貴族は上機嫌に頷いた。どうやらカイトは気に入られたらしい。まぁ、冒険者で芸術を理解出来る者は数少ない。素晴らしいと理解出来ても、それを活かす事が出来る者は更に少なくなる。となると、彼らの様な者は依頼出来る相手も限られてくる。

 その一人と思われたのなら、これは上客となってくれる可能性はあるだろう。これもまた営業といえば営業だった。夜会とはコネを作る場。営業と一緒なのである。

 というわけで、しばらくの会話の後彼はパトロン貴族の従者より彼の名刺を貰う事になり、もしもの時は是非依頼させてくれという言葉を頂戴してその場を後にした。


「ふぅ……」

「やぁ、勇者くん」

「ああ、アマデウスか」


 次にカイトの所にやってきたのはアマデウスだ。彼も芸術系であればエネフィアでも大家と言える。このパーティに参列しているのは何ら不思議の無い事だった。

 それに名家でもある。パトロンとしても活動しており、その支援相手が今回の式典では何か賞を貰っていたらしい。参列せねばならないのも事実だった。


「確か……支援しているヴァイオリニストが皇都でのコンクールにて入賞したんだったか?」

「そうだね。可能なら彼の音色を聞いてほしい所だけれど……」


 アマデウスは音楽系の受賞者達が集まって話をしている一角を見る。と言っても偶然音楽系で集まっていた様子だ。また少しすれば散っていくだろう。


「流石に受賞者が演奏するのもな。余興としてなら良いのだろうが……」

「そうだね……うん、実に残念だ。彼の奏でる音色は実にフェリブル(熱狂的)なんだ! そう、それはまるでタンゴのリズムのように! まさにフォーコ()! 彼の魂がまるでフォーコ()となり」

「どうどう……抑えて抑えて……」


 お前の方が情熱的だろう。そう突っ込みたくなるカイトはテンションを上げていくアマデウスへと両手で抑えるように制止する。この場には皇帝レオンハルト以下著名な貴族達も多い。下手に騒がれるとクズハの評判――最終的な責任者は彼女である為――にまで差し障る。

 と、それを受けてアマデウスが普通に戻った。幸いそこまで注目を集めないで良かったのは、運が良かったと言って良いだろう。


「おっと……そうだったね。ここで大声を上げるのは些かマナーに欠ける行動だ。まぁ、皇都で活躍する彼だけども、君とは会う事もあるだろう。君の音色は実に興味深いからね」

「はいはい……」


 好きにしてくれ。カイトはそう思いながらもアマデウスの言葉に従って歩き始める。どうやら、彼が支援しているヴァイオリニストを紹介しようという事なのだろう。そうして、カイトはその後も幾つかの著名人との縁を得ながら夜会の中を立ち回っていく事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1475話『次の遺跡へ』

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