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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1473話 懸念

 授与式の後に行われていた演説を終えた後。カイトは舞台袖に戻って少しの苦笑を浮かべていた。


「些か、詭弁か」


 カイトが思ったのはそんな事だ。そもそも彼こそが勇者カイト。旗印に成りえる存在だ。更に言えばあの事件の隠匿をしたのだってカイト自身だ。幾つかの嘘が紛れ込んでいたのは間違いなく事実だろう。それをカイトは詭弁と言ったのである。


「……」


 だが、これで良いだろう。あそこで語った事は嘘を混じえていたが、決して全てが嘘ではない。力をあわせねばならない事は事実だし、力を貸してくれというのは本心だ。あの戦いは決して先日と同じ様に戦いを治める事が出来るわけではない。間違ってもカイトは己一人で、自分達だけでの解決が出来るとは思っていない。と、そんなカイトの所に皇帝レオンハルトがやってきた。


「公よ」

「陛下」

「ずいぶんとまたすごい演説をしたではないか」

「いえ……」


 皇帝レオンハルトの称賛に対して、カイトは苦笑気味に首を振る。


「あれはあの時考えた事をそのまま伝えただけです。演説とは言い難い……が、あれが私にとっては最良なので……」

「ふむ? そういえば公は良くアドリブを多用すると聞いているな。あれは結局どういう事なのだ?」


 時々だがやはりカイトは原稿全部無視で演説を打ち上げる事がある。それは皇国でも三百年前当時の事を知っているのなら非常に有名な事だった。

 が、何故そんな事をするのか、というのは大半が知らない。それは皇室であってもそうだった。それに、カイトは少しだけ頭を悩ませる。何故、と言われると説明は非常に難しいものがあった。


「……何故、ですか……難しい話としか。まぁ、あまりこうはっきりとは言い切れないのですが……元々、私は野戦育ちですからね。この様な貴族としての振る舞いはやはりどうしても後天的に手に入れたものなのです。だから……どうしても私の言葉は私であって私ではない。いえ、やはり私だというのは確かな事なのですが……」


 前々から言われていた事であるが、カイトはそもそも感覚で掴んだ事をなんとか論理的に話そうとする人物だ。なので根本としては考える事は得意ではなかった。それ故か、説明する彼の顔は困った様子だった。


「兎にも角にも、考えて書いた文章はどうにもイマイチ馴染まないのです。書いた言葉は頭で考えた言葉。心を伝えようとすると、どうしても……」

「ただ感ずるままを口にする方が良いというわけか?」

「おそらく」


 皇帝レオンハルトの問いかけにカイトは困った顔を浮かべるだけだ。ただ感ずるままを口にする。それ故、彼の言葉には人間味がある。無論、それ故に本来なら使うべきだろう『私』という一人称は彼本来の『オレ』となってしまうし、幾ら彼だって時と場合は選んでいる。が、それでもカイト個人の言葉だからこそその言葉には説得力があった事だけは事実だろう。


「そうかね……っと、それではな。こちらにはまだ他にも色々と残っている」

「はい……では、また夜にでも」


 カイトは皇帝レオンハルトとわずかばかりの会話を交わし合うと、頭を下げてその場を後にする。一応これで今回の戦功に関する報奨は全て終わりだ。が、それはカイトに関係がある事は、というだけの話だ。

 これ以外にもまだまだ沢山称賛や賞与に関する事は残っている。今行われたのが冒険者や軍人に対する物だけであって、関係者や趣き等を鑑みれば一度に全てを終わらせられるわけでもなかった。


「まぁ、こんな所だな」

「……あれをやるのか……」


 カイトの演説は当然だが、ソラ達参列者達もまた聞いていた。舞台袖に引っ込んだと言えども参列者が演説するのだ。それを完全にスルーして立ち去るのは外聞が悪い。というわけでソラは今後の勉強も含めて聞いていたわけだが、やはりカイトと己を比較するのが馬鹿だったと思うだけである。


「カイト。後で良いから原稿貸して……」

「ああ、原稿ね。あれなら原稿使ってないぞ」

「へ? どいうこと?」


 カイトの返答にソラが目を丸くする。それに、カイトは今度は気楽に先程までの事を教える事にした。それを聞いて、ソラは呆れ半分納得半分という所だった。


「それで……職員が慌ててたわけか……」

「あっはははは。何言うかわからんからな。実際、オレも何言うか考えてなかったし」


 まぁ、ここらで根回しをしていたのは流石にカイトという所なのだろう。そしてカイトその人の演説の腕を見込まれているという事もある。そこらを複合的に考えた時、こんな事も可能になったそうだ。


「……まぁ、アドバイスをしてやれるわけじゃないが……うん。基本的にもし演説をするにしても最初は唐突に決まることが大半だ。その時、お前が何を想い何を伝えたいのか。それを伝えることが大切なんだよ」

「何を伝えたいのか、ね……」


 カイトに言われて、ソラは少しだけ自分の感情を見つめてみる。が、何か思い浮かぶことは無かった。当たり前といえば当たり前だ。カイトが見据えていたのは今よりもずっと先。何時か目覚めるだろう邪神との戦いに向けて己の想いを語った。

 勿論、それはソラもわかっている。わかっているが、それに向けて誰かに何かを語りたいかと言われるとそうではない。ソラが見据えているのはせいぜい戦いが起きるので準備をしようという所に過ぎない。それ以上のことは何もわからない。いや、それ以前の問題として、ソラにはその戦いがどの様な物なのか想像も出来ないのだ。だから、語ろうにも何も語れない。ただ漠然と戦いが起きることを理解しているに過ぎないからだ。


「……駄目だ。なーんも思いつかね」

「それで良いさ。ま、それでも土壇場に切羽詰まるか、それとも己の想いを語れるか。そこだけは指揮官として見られる点だと言うことは覚えておけ」

「あいよ」


 カイトの助言にソラは一つ頷いた。これについてはそれで良いのだろう。というわけで、カイト達はお互いに受け取った物――二つ名以外にも粗品程度の贈り物はあった――を持って一度ホテルへと戻ることにするのだった。




 さて、それからおよそ半日。カイトはスーツに着替えていた。やはり事の性質から夜には様々な賞を与えられた者達が集まってパーティを行う事になっており、カイトもソラもその中の一人として招かれていた。主賓の一人と言っても良いだろう。

 主催者は皇帝レオンハルトとマクダウェル家の連名だ。流石にこれを拒絶する事は出来なかった為、予定も元々空けておいた。同行者はギルド上層部全員。やはりカイトはギルドマスターで、ソラはそのサブマスターだ。上層部は揃って出席が望まれた。


「おぉ、来たかね」

「陛下」


 やはりパーティに来て主催者に挨拶もしないのは外聞に差し障る。それが皇帝レオンハルトであればなおさらだろう。なのでカイトは皇帝レオンハルトが丁度空いたのを見計らって、挨拶に赴いていた。

 なお、見計らってというが実際にはきちんと調整してもらっての話だ。マクダウェル公カイトならまだしも、一介の冒険者がやたらめったら挨拶に行ける相手ではない。皇帝と話したい者はごまんと居るのだ。きちんと密かに調整している職員に話を通していた。


「この度はお招き頂きありがとうございます」

「うむ……先の演説、見事であった」

「ありがとうございます」


 やはり何事も社交辞令から入らざるを得ないのは、この場がパーティだからだろう。そして曲がりなりにも相手は主賓。流石に賛辞から入らないといけないのは当然であった。


「それで、近頃の活動はどうかね」

「ええ……」


 一応、表向きカイトは単なる冒険者だ。適時報告は入れさせているだろうが、皇帝レオンハルトは詳細にカイト達の活動がどうなっているか知っているわけではない。

 なので筋として、皇帝レオンハルトはカイト達の活動状況を聞く事にした様子である。そしてこうしておけば、もし何かがあって他国から冒険部の活動に関して問われてもここで話を聞いたと言う事が出来る。というわけで、カイトはざっと皇帝レオンハルトへとこれまでの活動を軽く語る。


「そうかね……ウルカにも。おぉ、そう言えばこのパーティにはバーンタイン殿も来ている。後で挨拶に行ってはどうかね」

「ありがとうございます。是非とも、後ほどご挨拶に」

「うむ」


 やはり今回の一件において大きかったのはラエリアでの戦いだ。あれとこの間のマリーシア王国での一件、更には『ポートランド・エメリア』における活躍を鑑みてカイトへの二つ名の授与となったわけだ。

 そこの三つが話題に上るのは当然だっただろう。そこでの活躍について問われ、カイトは瞬がウルカで修行していた事等を語ったのである。そうして皇帝レオンハルトは更にソラへと話を振り、この間の『木漏れ日の森』における戦いについてを問いかける事になった。


「ふむ……やはり各地の遺跡には敵の残滓が残っている可能性は高いか」

「ええ……あそこは幸いエルネスト殿が対応してくださっていたので無事だった様子ですが……」

「ふぅむ……」


 皇帝レオンハルトにとって目下の課題は<<死魔将(しましょう)>>達と邪神の復活だ。なので皇帝レオンハルトはソラから実際に普通の戦士として戦った者の感覚を聞いて考える事があったのだろう。難しい顔で唸っていた。


「うむ。誰かあるか」

「はい、陛下」


 皇帝レオンハルトは何かを考えついたらしく、側に居た秘書らしい男を呼び寄せる。それが来た事を確認して、皇帝レオンハルトは一つ問いかけた。


「確か各種の授与式は明後日には終わるのだったな?」

「……はい。予定によればそうなっております」

「そうか。であれば、明後日の午前に少し時間は空けられるか?」

「……午前の行幸をわずかに削れば可能かと」

「その方向で話を進めてくれ」


 皇帝レオンハルトは秘書へとそう命ずると、改めてカイト達の方へと顔を向ける。


「ああ、すまなかったな。まだ決まった事ではないが、明後日に余の所に来てくれまいか」

「それは一介の冒険者として、という事でしょうか」

「そうとも言えるし、そうとも言えん。依頼ではあるが……うむ。君達の活動にも関わりがある事だ」


 皇帝レオンハルトはカイトの問いかけに一つ頷くと、改めて真剣な顔で告げる。


「先の話を聞き、更には先の事故の事もある。まだまだ余らが知り得ぬ事は多い。直近に迫っている事を考えれば、一度旧文明の遺跡を総ざらいで再調査してみるべきだろうと余は思う。どうかね?」

「当然の事だと思われます。先の遺跡も何も無いと思われていたにも関わらず、邪神の復活が近付いた事で異変が起きました。今だからわかる事もあるでしょう」

「うむ……先日の襲撃を考えれば、敵の復活は近いなれどもまだしばらくの余裕はあるのだろう。あれは余が見るに威力偵察。であれば、余としては出来る限りの不意打ちは避けたい。その調査に力を貸して貰いたい」


 皇帝レオンハルトはカイト達へと改めて話を明言する。やはりこの問題は国を挙げて対処する事になっている。なのでユニオンとしても可能な限りこの案件への協力をするように通達が出ており、カイト達も協力する意向を示していた。


「無論、君達だけに頼む事ではない。が、ソラくんは神剣を持つ。何か分かる事もあるだろう。是非に頼みたい」

「ソラが神剣を得たのも何かの縁なのでしょう。そして我々としても幾度となく皇帝陛下やクズハ様に支援を頂いております。ご恩を返す機会を与えて下さった事には感謝しかございません。快く、引受させて頂きます」

「そうか……詳細については明後日また話す事にしよう」


 皇帝レオンハルトはカイトの内諾を受けて一つ頷いた。彼としてもソラの話を聞いて再度の調査を決めた様だ。既に調査そのものは発見されている分に関してはしていたが、やはり復活が近付いた事で何かがあるかもしれないと危惧するのは当然の事だろう。

 先手を取る事が出来るのなら、可能な限り先手を取りたかった。と、そんな事をしているとあっという間に持ち時間が終わったらしい。


「陛下」

「お、おぉ……すまなかったな。出来ればもう少し話したかったが……」

「いえ」


 途中色々と挟んだ所為で社交辞令や今までについての実務的な話ぐらいしか出来なかった事を受けて、皇帝レオンハルトは僅かに申し訳なさそうな顔でカイト達へと謝罪する。

 とはいえ、必要だったのも事実だろう。というわけで、カイト達は皇帝レオンハルトとはそこで分かれ、再び各々の楽しみ方でパーティを楽しむ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1474話『夜会』

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