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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1471話 カイトの授与式・2

「うっし……あー……まずは謝っておく事がある!」


 開口一番、カイトは居並んだ民衆達に向けて声を大にする。それに、彼の友人達の中でも真面目と言われる者たちは一気に胃が痛くなった。間違いなくこれはカイトが暴走した。そう察するのは非常に簡単だった。

 が、それがわかったのはその周囲の者たちだけで、そう言われた民衆達は何のことやらとぽかん、と目を丸くするだけだ。そんな民衆達を前にカイトは横を向いて口を開く。


「すまん! やっぱ原稿無視! アドリブバリバリで行くわ!」

「やっぱりか! 貴様これで何度目だ!」

「忘れたわ、んなの!」


 いえーい、とサムズアップして楽しげに笑うカイトは、横で怒声を上げたウィルを軽くスルーする。何故かカイトが偉そうなのは、これがやったら駄目な事だとわかっているからだろう。


「うっし! 謝罪終了! 色々と後で面倒だが、それは揃って無視してくれ!」

「はぁ……」


 笑えば良いのかそれとも混乱すれば良いのかわからない様子の複雑な民衆達は半ば引きつった様な笑いを浮かべながらも、カイトの言葉にどうしてか心惹かれた。それは後に彼がイクスフォスと比較されるのが当然である、不思議な人徳が成し得た事だった。そしてそれは、ため息を吐いたウィルも一緒だった。


「……なぁ、皆。一つだけ聞いてくれ」


 カイトは先程までの楽しげな表情が嘘の様に、様々な徳の滲んだ顔を浮かべる。そうして、彼は歴史に残る幾つもの演説の一つを始める事になるのだった。




 さて、それから三百年。カイトはあの時と同じ事をすると決めていた。勿論、今は昔とは違う。色々と彼とて根回しを覚えた。なので皇帝レオンハルトにだけはこの事を伝えておいた。


「ははははは! 公のアドリブか! 昔聞いたが、うむ。まさかそれをしようとはな」

「ええ、まぁ……」

「勇者カイトの演説は基本賢帝か魔帝が書くが、時折唐突に思いついたかの様にアドリブをする事があっただったな」


 皇帝レオンハルトはカイトから提出された原稿――当然だが皇帝が居る以上は原稿の提出は求められた――に一度目を落として、そして一つ頷いた。


「うむ。流石に俺にもその度胸は無いな」

「度胸と言いますか……いえ、これは私が言うべきではないですか」


 皇帝レオンハルトの言葉にカイトは我が事ながら、と恥ずかしげに苦笑を浮かべる。


「まぁ、公の事だ。止めても聞くまいし、止める必要もあるまい」


 カイトが演説を何回かしている事は皇帝レオンハルトも当然知っている。であれば止める必要はないだろうと考えた様子だ。一つ頷いて彼に許可を出す。そうして、カイトは久方ぶりにアドリブでの演説を決める事にするのだった。




 さて、それから少し。彼は神殿都市の大広場の中央に立っていた。これから行われるのは彼ら勲功を立てた者への報奨。二つ名や勲章の授与式だ。前者は主にカイト達冒険者へ、後者は軍の兵士達への物といって良い。そしてカイトはその最後となっていた。通例だと勲章の方が格上となるのだが、カイトは特例だった。

 実は最後に一番格の高い勲章を貰う者が演説を行う事になるのだが、やはり今回の授与にあたり鑑みられたカイトの偉業が多すぎた。本来はどれか一つで十分の筈であるが、それが複数個だ。

 しかも、折しも今は世界に暗雲立ち込める状況だ。なので二つ名の授与にも関わらず彼が一番最後となったのは政治的な要因も大きかった。日本人に与える。これが重要だったのである。なので最初がソラで、最後はカイトだった。


「ソラ・天城。前へ」

「はっ!」


 ソラは名を呼ばれて皇帝レオンハルトの前へと進みでる。そうして、ソラは皇帝レオンハルトの前で跪いた。やはり二度目という事もあるので動きに淀みは取れているかと思われるが、実際には前回よりも更に緊張している様子だった。前回とは違い一人ひとりの授与――人数がそこまででも無かった為――なので、ラエリアの一件より非常に緊張していたのである。


「うむ」

「この者、マクシミリアン領『木漏れ日の森』において……」


 皇帝レオンハルトが一つ頷くと、横に控えていた宰相が羊皮紙を手にソラの功績を皇帝レオンハルトと参列者達へと述べあげていく。

 当然だが全員が全員、今回授与される者の功績を全て知っているわけではない。が、このあとに夜会も控えている以上、この場に参列しておいて知らないは流石に外聞が悪い。なのでここで覚えておけ、というわけであった。そうしてしばらくの語りの後、係の者が羊皮紙を閉じた。


「以上となります」

「うむ。では、ソラ・天城よ。汝には二つ名として『太陽の剣(サンライト)』の二つ名を与えよう」

「ありがとうございます」


 今回は以前に瞬とアルに行われた授与式とは違い、皇帝レオンハルトはユニオンや軍の名代として授与する立場だ。前回のあれはアルに授けた二つ名が大きかった事と、もう一人の瞬が彼が主催した御前試合で目覚ましい功績を上げたので皇帝レオンハルトが直々に広く知らしめたわけだ。

 が、今回は各地からの報告を聞いてそれに対する表彰を、という形だ。なので形としては横の宰相からソラ達の活躍を報告させ、彼がその場で二つ名を与えるという形だった。


「うむ。かの森での戦いは余も聞いた。かの邪神の眷属の生き残りに対してよくぞ勝利した。差し迫ったこの時期にそなたの様な戦士が現れた事はまことに喜ばしい。その力、是非とも皆を守る為に活かしてくれたまえ」

「はっ」


 皇帝レオンハルトの言葉にソラが頭を下げる。これで、とりあえず彼に対する表彰は終わりだった。そして通例ならばこのあとにはカイトとなるわけであるが、今回は特例としてカイトが最後だ。

 なので次にはどこかの地方でカイト達と同じ様に邪神の眷属と戦ったらしい冒険者が呼ばれ、それに対して功績が述べ上げられて二つ名が与えられる。

 やはり時期が時期だからだろう。授けられる二つ名の中でも大きい物はかの邪神に関する活躍が多かった。まぁ、これのおかげでソラはさほど大きくは取り上げられない。数ある内の一人という程度になるからだ。そうして更に冒険者、軍人と続いていき最後になった。


「カイト・天音……前へ」

「はっ」


 名前を呼ばれ、カイトが前へと進み出る。それを受けて皇帝レオンハルトが一つ頷くと、宰相が今までと同じ様にカイトの功績を讃え上げる。

 とはいえ、やはりカイトに限ってしまえば今まで長い間の活躍があるからだろう。本来二つ名は一つの案件で与えるのが通例だ。それが幾つもの事件を述べ上げるのは非常に珍しい事で、他の者達の倍程度の長さがあった。それでも、一件一件であれば他よりも短い。どれだけ短くしてもこれだけになってしまったそうである。


「以上が、この者の功績となります」

「うむ……さて。この功績に対して、授ける二つ名を決めるのにユニオン及び我らは非常に苦慮した。並々ならぬ功績であるには違いない」


 皇帝レオンハルトはカイトの二つ名を公表する前に、改めてカイトの功績が並々ならぬ事を明言する。これについては改めて言うまでもなく、内乱においてはギルドを率いて二つの目標の達成、『ポートランド・エメリア』においては単騎でランクSの魔物を抑え込む等枚挙に暇がない。そして更にはまだあった。


「更には諸君らも知る通り、今この世界には暗雲が垂れ込めている……故に、我らはこの異世界からの戦士に対してこの二つ名を授ける事にすると決定した」


 皇帝レオンハルトは一度口を閉ざすと、宰相に一つ頷いて一つの楯を持ってこさせる。やはり他より大きな功績を残した事を示す為だろう。カイトには他の冒険者達とは違って楯が贈られる事になっていた。

 これはやはりどうしても功績が大きいものの、与えられる二つ名が一つという事がある。なので楯を与えて形として与えようとなったらしい。ギルドマスターとして拠点を持つ為、特例との事であった。そうして持ってこられた楯を皇帝レオンハルトが直々にカイトへと下賜する。


「……これを、君に与えよう。そして二つ名はそこにある通り、『異世界の勇者(アナザー・ブレイブ)』。君と同じ名を持ち、君と同じ様に異世界から来た勇者になぞらえた二つ名だ」


 皇帝レオンハルトは改めてカイトへとこの二つ名の由来を語る。今まではそんな事はしなかったが、やはりカイトが一番メインとなるからだろう。


「ありがとうございます」


 楯を受け取り、カイトが頭を下げる。これで一応の授与式は終わりとなる。が、それで終われるわけもない。当然だが今終わったのは功績に対する報奨と称賛だ。これは当然するべき事で、あえて言えば最低限の仕事というだけだ。演説をして、彼らの後に続く者たちを奮起させるのが長の仕事だった。


「うむ」


 皇帝レオンハルトに頭を下げ、カイトはその場を後にする。これで授与式そのものは終わりとなるので、カイトはそのままソラ達と共に舞台裏へと通される事になる。

 幾ら特設の舞台を設けていると言ってもスペースには限りがある。皇帝レオンハルトの演説があるというのに、その前に立っているのは無礼という事で下がる事になっていたのである。そうしてカイト達が舞台袖に消えたのを受けて、宰相が口を開いた。


「では、これより皇帝陛下よりお言葉を頂戴致します」

「……まずは皆、よく来てくれた。礼を言う。この苦難の時にこの様な数多の英雄を迎える事が出来たのは、我が国のみならずこのエネシア大陸、いや、エネフィア全ての民にとって朗報であろう」


 宰相の言葉を受けて、皇帝レオンハルトが演説を開始する。当然だが皇帝レオンハルトの言葉だ。皇国貴族は当然のこと、他国の貴族も一切席を外す事は無い。


「先に余が開催した御前試合。それを覚えている者は多かろう」


 前を見ていた皇帝レオンハルトは一度視線をソラへと移す。これがソラを示していたというのは、それで誰もが理解しただろう。そうして誰しもにソラの事を理解させた後、彼は再び前を向いて演説を続けた。


「異世界日本より来たりし幼き戦士達……彼らの姿を思い出してもらいたい。あの戦いにて竜一匹に苦戦していた彼らであるが、今ついにはかの邪神の尖兵を打ち破った。喜ばしい限りだ」


 皇帝レオンハルトの演説はやはり今の時勢として、対邪神を睨んだ物となっていた。どうしてもエネフィアでは『死魔将(しましょう)』達以外にも旧文明を滅ぼす原因となった三つの原因に対して潜在的に多大な畏怖を抱いている。

 まだ一つは良い。『守護者(ガーディアン)』は星の守護者。安易に手を出さねば良いだけだ。が、他二つは明確な敵として描かれている。その二つの片方が今、舞い戻ろうとしているのだ。これに対して奮起を促すのは当然の事であった。

 そうして皇帝レオンハルトの演説が行われていく事になるのだが、その横でカイトは己の演説に備える事になっていた。実は皇帝レオンハルトの演説にはその次に演説する者が準備をする為の調整の意味合いもあったらしい。


「天音さん。こちらを耳に」

「ああ、わかった」


 カイトは皇国の職員から手渡された小型のヘッドセット型の魔道具を耳に入れる。一応きちんと舞台や周囲の調整はされているので自分の声が聞こえなくなる事はないが、何が起きるかはわからない。

 なのでこれを使って万が一の為にはスピーカーから流れる自分の声を聞く事も出来る様にしていたのであった。昔は小さな糸で繋がったイヤーピースにしていたそうだが、カイト達がワイヤレスを開発したので今年からこれに変わったそうだ。そうしてカイトは更に渡しておいた演説の内容が書かれた紙を受け取って、懐にしまい込む。


「良し。これで大丈夫だ」

「わかりました。では、もうしばらくお待ち下さい」


 カイトの了承に皇国の職員が頷いた。そうして、しばらくの後。皇帝レオンハルトの演説が終わり、彼がその場を後にする。それを受けて、カイトは再び壇上へと戻っていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1472話『カイトの演説』

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