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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1468話 終わりの始まり

 マクダウェル領神殿都市で行われるマクダウェル四大祭の一つ収穫祭。それは一ヶ月もの帰還を使って行われる盛大なお祭りだ。そんなお祭りであるが、既に開始から二週間を過ぎて既に折り返しを超え、残り十日ほどになっていた。


(うーん……流石音楽に生命を賭したバカ……音楽に掛けて言えばものすごいな……)


 カイトは壇上にてオーケストラの指揮を行うアマデウスを見ながら、素直にそう思う。基本的に収穫祭の最後の開始を告げる楽曲は毎年新曲が披露される事になっている。なのでカイトも一度も聞いた事が無い音楽だった。

 収穫祭は確かに食べ物に感謝するお祭りであるが、秋は読書の秋やスポーツの秋とも言う。なので収穫祭はある種の文化的なお祭りでもあった。

 それ故、文芸家達からすれば食物への感謝と共に、こういった文化的な活動の面からも一年で最大のお祭りと言えた。その流れから、この終わりの始まりを告げるオーケストラは必ず新規楽曲を提供するのが通例となっていたのである。


(……過度に荘厳にならず、かといってオーケストラの醍醐味である数多の管楽器を上手く使っている。が……どこか牧歌的で決してお高く止まっていない)


 目を閉じれば、それだけでコンサート・ホールが木漏れ日の中に早変わりする。長閑で牧歌的でありながら、しかし荘厳ささえ漂わせる。それはさながら数百年の月日を経た森の様で、数百年の月日を生きるハイ・エルフ達を代表するような音楽。そう思わせるような美しい音色だった。


「……」


 ただ揺蕩うように。カイトは目を閉じて音楽に酔いしれる。それこそ、小鳥たちの囀りさえ聞こえそうなほどだった。


(……ああ、これは小雨が嵐に変わり……森の怖さを表しているんだろうな)


 アマデウスが奏でている音楽を聞きながら、カイトは目を閉じて浮かび上がる森の中を揺蕩う。優しい木もれ陽の森が彼らを出迎えたのなら、その次に続いたのは森の荘厳さ、恐ろしさなどを多重に含んだ複雑な音色だ。が、それが終わればまた柔らかな音色が戻ってくる。そして柔らかで暖かな森に見送られ、物語は終わりを迎えた。


「……」


 素晴らしい。ただ一言、それだけがカイトの感想だ。が、音楽会で言葉は不要。故に終わった後に送るべきなのは、万雷の拍手だけだ。だから、カイトもそれに倣って惜しみない拍手をオーケストラに送る。そしてそれを前に、アマデウスがこちらへと振り向いた。


「ありがとうございました」


 満足にやりきったのだろう。アマデウスは満足げに頭を深々と下げる。やはり音楽に掛けてだけは、彼は一切の妥協がない。その彼が満足出来ていたのであれば、十分な出来栄えと言って良かった。


「流石は音楽に掛けては神に愛されし男という所か」


 間違いなく素晴らしい出来栄えというのはカイトにもよくわかった。音楽については才能はないと自認するカイトであるが、それでも良いか悪いかを聞き分けるのであれば可能だ。そも、音楽だけで情景を浮かべさせる事が出来るのだ。それが素晴らしくなければなんなのか、としか言い得ない。


「さてと。次は……」


 カイトはこのコンサートの次の演者を調べるべく、パンフレットに視線を落とす。一番開始はアマデウス率いる楽団が務めていた。トリを務めるでも良かったが、アマデウスたっての希望だった。

 なお、今日のコンサートについては大半がこういう風に真面目な楽団が大半だ。アリサら大衆音楽については明日からになっていた。と、そんな彼であるが、出演者のリストを見てわずかに首をかしげる。


「うん? ああ、そうか。そういえばトリを務めるのがアリサだと言っていたか……それで、人魚達が最後か。確かに正しいな」


 次の楽団の演奏を、と見て更にその次もと確認していったカイトであるが、どうやらこのコンサートの最後を務めるのは人魚達の楽団だそうだ。アリサは王族として声楽で出るそうだ。


「ふむ……そういえばこうやって聞くのは初めてといえば初めてか」


 長い付き合いだし歌姫と呼ばれていた様に最初から歌を歌っている事はカイトも知っていた。知っていたが、彼女は三百年前から大衆音楽を主として歌っていた。なのでこういうかしこまった舞台で歌っているのを聞くのは初と言える。いや、かしこまった舞台で聞くのが初めてというだけで、大衆音楽以外を歌っているのを聞いた事はある。なので決して初めて聞くわけではない。


「まぁ、楽しみにさせて貰うか」


 カイトはそういうと、しばらくの間は最後の舞台までのんびりと様々な地域の音楽を聞きながら収穫祭の終わりの始まりを楽しむ事にするのだった。




 さて、そんな収穫祭の終わりの始まりから少し。彼はまた別の所にやってきていた。とはいえ、こちらは収穫祭に関係するというより、彼の身分上仕方がないと言えた。


「「陛下」」


 カイトと共にソラが跪き、やってきた皇帝レオンハルトに頭を下げる。まぁ、はっきりと言ってしまえば授与式の最後の打ち合わせという所である。数日に渡るコンサートが終われば、その次に待っているのはカイト達の授与式だ。なので実質的にはここが最後の打ち合わせ――勿論微調整はするが――になる予定だった。なので最後の打ち合わせとなったので、彼も参加したというわけである。


「うむ。両人共、元気で何よりだ」


 頭を下げたカイトとソラに向けて皇帝レオンハルトは一つ頷くと、頷いて言外に顔を上げる様に指示を出す。そうして彼が腰掛けた所で他の役員に混じってカイト達も腰掛けて、打ち合わせがスタートとなった。が、流石に単刀直入に早速本題から、というわけにもいかないのがこの世の中だ。故に皇帝レオンハルトは楽しげにカイトへと問いかけた。


「公よ。ずいぶんと楽しい事をしていた様子だな」

「あははは。はい、陛下。皇都で皇室御用達と言われる名店の店主が生涯最高の料理を提供したい、と申しておいででしたので……なら、当家としても存分にその地位と繋がりを使って少々余興を、と」

「はははは! 公に掛かれば伝説も余興か! ずいぶんととんでもない余興だな!」


 カイトのしでかした事はどうやら、皇帝レオンハルトにも伝わっていた様子だ。カイトの発言に皇帝レオンハルトは声を大にして楽しげに笑う。伝説というのは間違いなく『冥界の森』に行って帰ってきた事だ。これは間違いなく本来なら伝説だ。が、それをカイトは単なる余興と言ってのけた。間違いなく、勇者にしか出来ない事と言っても過言ではなかった。


「ふむ。では、その店主の味も楽しみにさせて貰う事にしよう。で、ソラくん。君もすこぶる活躍をしていたそうではないか。マクシミリアンの者より話は聞いた」

「ありがとうございます」


 カイトの余興とやらを楽しみにする事にした皇帝レオンハルトはそのままソラへと視線を向ける。やはり授与式をする以上、彼の所にもソラの話は詳細に伝わっていた。勿論、神剣を授かった事はこの前の時点で聞いていた。が、やはり皇帝と一冒険者の少年だ。そう安々と話せるわけがなく、今になって称賛をというわけであった。


「うむ。その腰の神剣に見合う戦士になってくれたまえ」

「はい」

「ああ……道は険しく、先は長い。だがそれでも、何時かは到れるだろう。頑張りたまえ」

「……はい」


 皇帝レオンハルトの言葉をソラはしっかりと胸に刻み込む。そうして種々の雑談の後、皇帝レオンハルトが一つ頷いた。


「うむ。まぁ、雑談はほどほどにする事にしよう……さて、まずは。うむ。笑うしか無い事であるが、マクダウェル公。貴公の事だ」

「はっ」


 気を取り直して本題に入るか、と思ったらしい皇帝レオンハルトであるが、やはりそれでもカイトの事になると思わず吹き出すのを堪えられなかったらしい。とはいえ、それも仕方がないといえば仕方がない。


「貴公にこの二つ名か」

「まぁ……変な話といえば変な話ですか」


 カイトに与えられる事になっている二つ名は言うまでもなく『異世界の勇者(アナザー・ブレイブ)』。当て字は『もう一人』とするか『異世界』とするか悩んだそうであるが、もう一人でない事はわかっているのでそちらは変だろう、となったらしい。そして流石にもう一人というのは仰々しい。結果、カイトが異世界・地球より来た事を重要視してこの二つ名になったそうだ。


「にしても……ふむ。今にして思えば。ずいぶんと妙な話よ。貴公は今まで無数の武勲を立てていながら、二つ名を授与される事が無かったとはな」

「ふむ……まぁ、そこらは色々と私自身が策を施していた事もありましたが……何より皇国だけではなく他国でも活動していたから、という言葉に尽きるでしょう。やはり活動が多岐にわたる事になると、どうしても他国での調整が絡んできますので……」

「まぁ、そうであるが……」


 カイトの指摘を皇帝レオンハルトは認めるも、やはり苦い顔だった。今までカイトは瞬に匹敵するかそれ以上の武勲を挙げているわけであるが、そもそも一つだけ間違いというか普通ではない点がここにはあった。それ故、カイトがそれを指摘した。


「あはは。陛下。確かに私は武勲を立てております。が、その武勲。本来は陛下はご存知ではない武勲となりましょう?」

「……ふむ。それはそうか。確かに、俺が他国での貴公の活躍まで詳細に知っているのは可怪しいか」


 今回、皇帝レオンハルトはマリーシア王国の推挙を受け、更に大陸間会議における冒険部の活躍を鑑みてカイトへの二つ名の授与に賛同を示した。ここに更に神聖帝国ラエリア、ヴァルタード帝国の両国も賛同を示した事で今回の二つ名と相成ったわけだ。

 良くも悪くもカイトは確かに大きな功績を残してはいたものの、どこかの国で多数の功績を残したという事が少なかった。幾つかの国で個々に大きな功績を残していたので、どの国も皇国の面子の側面から二つ名の授与を躊躇うしかなかったのである。


「まぁ、それでも公の功績が大きいのは間違いないだろう。どうにせよここから先、更に多くの国々と関わろう。その時、やはり二つ名の一つもある方が便利だろう」

「ええ……こればかりはね」


 皇帝レオンハルトの指摘にカイトは若干笑いながら同意する。ここらはそれ故にこそ彼もここまで仰々しい二つ名の授与を受け入れていた。ここから先、冒険部は更に多くの国々と関わる事になるだろう。近くはソラのラグナ連邦がそうだし、更に少し先には教国もある。他にもまたラエリアにも行く。そうなってくると、どうしても名は大きい方が良かった。


「うむ……それで、次だ。次はソラくんだが……『太陽の剣(サンライト)』。君も君でかなり大きな名と言えよう。特に今は時期が時期だ。何が由来かを知らずとも、その二つ名を知る者は多くなろう」

「はぁ……」


 そんなものなのか。皇帝レオンハルトの指摘にソラは生返事だ。とはいえ、これは仕方がないといえば仕方がない。どうしても邪神との戦いを主導しているのは国家だ。

 こればかりは相手の事、規模の事等を複合的に考えれば当然と言える。間違いなく一つのギルドや一つの国だけでなんとか出来る問題ではない。そしてソラが邪神の生き残りと戦った事は間違いなく伝わるだろう。

 何故勝てた、何故この二つ名を与えられたのか。そこらの詳細は知られなくとも、この邪神の生き残りと二度戦って一度は生き延び、二度目は勝利したという事は間違いなく各国が知る事になる。非常に大きな名と言っても過言ではなかった。間違いなく、かつて瞬が与えられた二つ名よりも遥かに大きいだろう。


「ははは。まぁ、分からぬのも無理はない。が、少なくとも情報の価値を悟れるほどに腕の立つ冒険者であれば、まず君の名を知る事になろう。間違いなく、今後は君もまた冒険部の顔の一つとなるのだ」

「まぁ、だから驕れというわけではないんだが……そこらは覚悟はしておけ、というわけだ。お前は間違いなく皇国でも有名な冒険者の一人に加わったと言って間違いない。少しは身の振り方を考えないと駄目だ、というわけだ」

「あ……はい。気を付けます」


 皇帝レオンハルトの言葉を噛み砕いて教えてくれたカイトの説明を受けて、ソラがそういう事か、と皇帝レオンハルトに頭を下げる。


「うむ。まぁ、気負いなく、しかししっかりとその剣に恥じる事のない戦士になれ……さて、では次であるが……」

「はい。次は実際の手順となりますが……」


 皇帝レオンハルトの指示を受けて、会議を取り仕切る司会進行役とでも言うべき官僚が口を開いた。そうして、カイト達はその後しばらくの間皇帝レオンハルトとともにどのような形で二つ名が授与され、どのような形で式典が進行していくのかを聞く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1469話『一度目の授与式は』

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