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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1466話 魔王の力

 『冥界の森』に居るというランクSクラスの魔物の中でも最上位に位置している『偉大なる獣(グラン・ビースト)』という魔物。その魔物を収穫祭の余興代わりに狩猟しに来ていたカイト達一同であったが、魔物の討伐はくじ引きの結果、ティナが単独で行う事になっていた。

 そんな戦いであるが当然、ティナにとって最上位の魔物であろうと最下位の魔物であろうと大差はない。故にあっという間に戦いは終わったわけであるが、それはそれとしてもカイト達は見たものが信じられず呆然となっていた。


「ほーれ。終わったぞー」

「お、おう……おつかれ……」


 とりあえず圧勝は圧勝だ。一方的な戦いと言って間違いではなかった。間違いではなかったが、幾ら何でもここで転移術を行使したという事実はカイト達ぶっ飛んだ奴らからしてもぶっ飛んだと言うしかなかった。というわけで、カイトが問いかける。


「……いや、お前……転移術使わなかったか?」

「うむ。使った」

「いや、そうあっけらかんと返さないでくんないかね……」


 自身もほとほとぶっ飛んだ人物であると自負しているカイトであるが、流石に場所の特性上無理とわかっている魔術を普通に使いこなしていたティナには呆れるしかない。

 しかし当然の事だが彼女は道理にそぐわない事はやらない主義だ。であれば、これにも必然として可能となる道理がそこにあるはずだ、とカイトは気を取り直して問いかけた。


「どうやったんだ?」

「うむ……さて、まずその前に。お主に聞いておくが、魔術無効や転移不可という状況は理論的にはどういう事じゃと捉えておる?」

「うん? それは概念的な話じゃなくてきちんとした魔術的な、学術的な話で良いのか?」

「うむ」


 カイトの確認にティナははっきりと頷いた。概念的に魔術無効という事は不可能ではない。が、それが自然発生的にある空間に発生するというのは流石に自然現象としては起こりにくく、『冥界の森』ほど広大な領域を覆い尽くす事も不可能だ。

 であれば、ここを満たす転移禁止という空間。その理由には必ずどこかに学術的に解明可能な原因がある筈だ。そしてそれについては長きに渡る研究の結果、きちんと判明していた。そしてそれはカイトも知っていた。


「ここを満たしている転移禁止。それの原因ははっきりと言ってしまえば空間の歪みだな。ここら一帯は自然として空間の歪みが多発する地域だ。それ故、常に空間は歪みを生み続け、複雑多様に変異している。その結果、オレ達をもってしても数瞬先の空間の予測が不可能という一切転移が不可能となる土壌が生まれている」

「うむ。その通りじゃ」


 ティナはカイトの解説に一つ頷いて、それを良しと認めた。ここらは彼の語った通りなので、その通りと言うしかない。というわけでティナは更にその先へと話を進める事にしたようだ。


「まぁ、そういうわけで通常は余でさえ先を見通せぬほどにこの一帯は空間が歪んでおる。その変化はまさに変幻自在。先にお主が言うた通り、一瞬先さえ見通せぬほどの様子じゃ」

「だろうな」


 カイトはティナの解説に頷いて、一度この一帯に満ちる空間の歪みをしっかりと己の目で見定める。が、何度見通してもどうやっても先は見通せない。そして先が見通せない事には転移術は行使出来ない。

 こればかりは転移術の原理上仕方がない事だった。転移術は転移先の様々な情報を予測して見通す事で初めて行使可能な非常に難しい魔術だ。敢えて言えば転移先の各属性の数値の予測が微細にでも狂えば、それだけで転移は失敗する。

 それ故に非常に難しい魔術であるのは当然だ。本当に機械でも無理な程の、職人芸と言うしかない精密な予測をせねばならないのだ。それ故にこそ、カイト達でさえこの空間では使用不可能とされていたのである。が、ティナは使ってみせた。であれば、必然としてそこには何らかの道理があるはずだった。


「というわけで、余は空間を敢えて隔離したわけじゃ」

「空間を隔離、ねぇ……」

「ふむ。まぁ、わからんのも無理はあるまい。厳密には余は隔離しておらんからな」

「……ああ、そうか。お前の力量なら、あの程度の隔絶で十分というわけか」


 ティナが何を思い、あの行動を行っていたのか。それを理解して、カイトは一つ頷いた。


「うむ。あの空間は奴の手によって半ば隔離されたも道理じゃ。空間の歪みと言えど、所詮は自然発生した物に過ぎぬ。であれば、必然として人為的に引き起こされた物の方が大半強固かつ強大な力を有しておる。であれば、あれが重なれば……」

「巨大な異変の流れは遮断され、変化も自然と緩やかになるというわけか」

「うむ。そういう事じゃな」


 己の言葉を引き継いで結論を述べたカイトにティナは一つ頷くと、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を冷凍保存する。彼女が最後に何をやったのかというと特に難しい事はしていないらしい。

 杖の先端から魔力をソナーの様にして放つことで『偉大なる獣(グラン・ビースト)』のコアの場所を探り、コアだけを的確に破壊しただけとの事である。

 ゼロ距離からなので彼女であれば特に苦もなく出来る様子であった。勿論であるがこれは彼女であれば、であって非常に難しい芸当である事に間違いはない。


「空間の変化が起きるのであれば、その変化を穏やかにしてやれば良い。そしてその上で空間を固定させてやれば、問題もなく転移術を行使出来よう」

「確かに道理といえば道理か」


 先にカイトが言っていたが、この空間で転移術が使えない理由は空間が常に変動し続けるからだ。変動し続ける空間の先を予測する、というのはいくら魔術師が優れた知性を持っていたとしても不可能だ。ティナでさえそうなのだから、他は何をか言わんやである。

 が、それがわかっているのなら対策の一つも立てられる。ティナは『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の強力な切り裂きにより空間を引き裂かせ周囲からの影響を少なくし、予想が簡単になる様にしてみせたのであった。


「ま、無論それだけではなく、きちんと空間を一時的に固定してやっておる。あまり余以外にオススメ出来る事では無いのう」

「というより、お前以外の誰が出来るんだか……」


 まだ空間を隔離してやる事までは良いだろう。これについては腕さえ伴えば誰だって出来る。カイトだって出来るだろうし、武闘派のバーンタインやこの場で一番弱いと言われるウィルだって出来る。出来るが、その後の行動まで出来るかと言われるとはっきりと言えばやりたくないと断言するしかない。

 幾ら影響を限定的にしたからと言っても変化する事は変化する。それを予測なぞとてもではないが出来た物ではなかった。というわけで、ティナは鼻高々であった。


「ま、余は魔王故な。この程度は出来るし、出来ぬと思ってもらっても困る。それにたまさか小僧が殻を破った様子じゃからのう。余は更に上を見せるか、と思うたに過ぎぬよ」

「更に上どころか頂点見せとるわ……」


 ティナの解説にカイトは呆れ返る。とはいえ、これで終わりは終わりだ。幸いというべきかティナが出たおかげで『偉大なる獣(グラン・ビースト)』は傷一つ無く狩猟が完了している。問題はないだろう。というわけで、カイトは単なる肉の塊となった事で収納が可能になった『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を見ながら告げる。


「冷凍処置が終わったらさっさと帰るぞ。別にあっちで何か問題が起きているとは思わんが……長居したい所でもない」

「そうじゃな。では、戻る事にするかのう」


 カイトの言葉にティナも同意すると、それに合わせて一同は踵を返す事にする。ここに長居したくないのは事実だ。ここまで楽勝な彼らだろうと、ここが危険地帯だというのはわかっている。それ故、彼らはそのままアイシャ達の待つ『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』まで戻る事にするのだった。




 さて、それから数時間後。彼らは数度の戦いの後、再び野営地を設営してキャンプを行っていた。そもそもここに来るまでに一日掛かっているのだ。なので帰りもまた一日要するのは当然だろう。


「さて……何事もなかったわけなんですが」

「何事もなかった、というには些か物騒な所じゃがのう」

「まぁな」


 カイトは今日の一同の晩ごはんとなったマンモスのような魔物を見ながら、ティナの言葉に同意する。大きさはマンモス程度の大きさで、実際にもしこれが地球で発見されれば生きたマンモスかとタブロイド紙を騒がせた事だろう。


「さて……なんってーか原始人の気持ちがわかるわけなんですが……」

「マンガ肉でも作るか?」

「それはそれで楽しそうだな。うっし。ちょっと豪快にシシカバブでも作るか」

「ん? ドネルケバブでは無いのか?」

「時間掛かるからな」


 カイトはティナの問いかけに答えながら、切り取っていた肉を手頃な大きさに切り分けていく。その一方でティナはユリィと一緒に持ち込んだ野菜を細かく刻み始める。肉ばかりでは栄養価が偏るので、付け合せというわけだ。


「というわけで最近料理の練習に励んでいるわけですが」

「む?」

「どしたの?」


 カイトの唐突な発言にティナとユリィの二人が首を傾げる。そんな二人に、カイトは良い匂いをさせる肉の塊を見た。


「流石にこの肉を使うわけにはいかないよなぁ……」

「流石にねぇ……」


 カイトの言葉にユリィはあはは、と苦笑する。一応、今回のクッキング・フェスティバルはレシピを公開する事になっている。ここでカイト達が中心となり料理をしているのはまず第一には彼らが一番上手だから、で間違いないが同時にこれもあった。というわけで、やはり料理の最中にはクッキング・フェスティバルの事を考えている事も多かった。それ故、という事なのだろう。


「美味いとは思うんだけどなぁ……」

「美味しいけどこれを定期的に提供出来るわけがないからねー」

「それなぁ……」


 最高の食材で最高の料理を作る。これは料理に携わる者なら誰もが一度は夢見る事かもしれない。が、それを飲食店や常日頃として提供出来るかというと、そうではない。

 冒険部の屋台があれだけ盛況なのも全ては『ロック鳥』の肉を使っているからだ。通常は味わえない料理を格安で提供してくれている。それが現実だ。美味いからと何時でも提供出来るわけでなければ、それは全て机上の空論に過ぎないのである。


「こればかりは冒険者の特権って所だもの」

「お前が美食家になったのもそこらの理由だっけ?」

「そうなのよー。ウチほら、スパルタでしょー?」


 唐突に口を挟んだクオンはため息混じりに机に寝そべった。まぁ、代々ここまでの戦闘能力を保有している一族だ。その修行方法は非常に独特かつスパルタだった。なのでカイトが武蔵にされた様にどこかの魔境に放り込まれる事も良くあるのであった。


「となると狩って食べないと駄目で、魔物でも狩って食べるわけなの。で、そうなるとこれが美味しい魔物に出会えてねー」

「お前もお前で大概野生児地味た生き方してたらしいなー」

「カイトほどじゃないけどねー。ウチはきちんと監督居たし」


 まぁ、当然といえば当然の事だったのだろう。やはり幾ら最強を目指せど、最初からスパルタにはしない。きちんと時の<<八天将(はちてんしょう)>>が監督になって狩りの仕方や万が一には備えてくれていたとの事である。と、そんなクオンが顔を上げた。


「で、カイトー。まだー? きちんと切り分けておいたでしょー」

「料理にゃ時間が掛かるんだよ。少し待て」

「ステーキで良いでしょー」

「ステーキも出すがもう少し待てって」


 空腹に耐えかねている為か何時もより饒舌なクオンの愚痴を聞きながら、カイトは肉を串に刺してクオンへと投げ渡す。それを彼女は器用に魔糸でキャッチすると、焚き火の横に突き刺していった。一応手伝っている様子だった。ただ手より口が多めに動いているだけだ。そもそもこの魔物が美味しい事を指摘したのは彼女なので、誰よりも空腹に耐えかねているらしかった。


「うぅ……お腹空いた……ぷすぷすぷす……」

「しばらくは焼き上がるまで待ってろ」

「はーい」


 カイトの言葉にクオンは素直に従って、再びコテン、と机に突っ伏した。そうして、そんなこんなで『冥界の森』の最後の一日は来た時と同じく何事も無く終わる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1467話『折返しを超えて』

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