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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1465話 最強の獣

 『冥界の森』に設営した野営地にて一夜を明かしたカイト達。彼らは雄大な自然や満天の星空などに囲まれながら呑気な一夜を明かすと、翌日の朝は少し遅い時間に出発する事にしていた。

 と、そこらここらに来た者ならわかる事がわからない者が一人居る。バーンタインだ。というわけで、ある意味では一番の熟練のバランタインがその理由を教えてやった。


「おお、そうか。お前さんここら初めてか。なら、教えとくか。ここらは逆に少し時間遅らせた方が安全なんだよ。ほら、魔物共も飯食うだろ? 朝飯の時に色々とバトるからな。それに巻き込まれると面倒だ。だから、普通とは違ってちょっとずらした時間に出るわけだ」

「なるほど……」


 それはそうか。確かに今回この場に居る連中は誰も彼もが化物揃いだ。ギルドマスターとしては同格と言えるクオンやアイナディス、そういう組織の面であれば格下と言えるソレイユでさえ間違いなく戦士としては彼より上だ。

 だがだからといって、わざわざやばいとわかっている時に突っ込むほど馬鹿ではない。確かに数体程度なら問題なく同時に相手を出来るし、最悪はカイトとティナであればこの一帯を殲滅さえしてしまえるだろう。が、出来るからとやるのはまた話が違う。面倒なだけだ。


「というわけでまぁ、しばらくは待ちだな。魔物共が飯食って一休みした頃に出発だ」

「へい」


 バランタインの解説を聞いてバーンタインもどうやら納得したらしい。というわけなのであるが、そんな彼は少し遠くで倒れている魔物に釘付けだった。


「で……一応、聞いておきてぇんですが……」

「ああ、あれか? べっつに何か気にする事もねぇだろ。単なる魔物の死体。不思議あるか?」

「いえ……そりゃ、ねぇんですが……その、昨夜何が?」


 バーンタインの視線の先にあったのは、無数の武器に串刺しにされた巨大な何らかの魔物の死体だった。こんな事をするのはカイトしか居ないだろう。音も立てずに彼が夜中に魔物を討伐していたのである。

 というか、それしかないだろう。まぁ、こんな光景は彼と一緒に旅をした事のある面子なら見慣れた光景なので気にしていなかったが、唯一そうではない彼は呆気に取られていたというわけであった。というわけで、何時ものことと興味無くスルーしていたバランタインがカイトへと問いかけた。


「おーう、カイト。お前さん、昨日何やった?」

「ああ、こいつ? 夜中ぼけー、っとしてたら目についたから潰しといた。それだけ」

「だとよ」

「……」


 そのぼけー、としてたら目についたから殺したとあっさりと殺せる魔物ではない筈なんだがなぁ。バーンタインは特に驚いた様子も無い全員に逆に驚いていた。


「いやぁ、そのまま放置でも良かったんだけどさぁ……そこそこ強そうだったからクオンが出るとほら、皆目を覚ますだろ? 特にソレイユとか既におねむだったしさぁ。なので皆さんの安眠の為、ちょっとやらせて頂きました」

「へ、へぇ……」


 なるほど。確かに勇者カイトはぶっ飛んでいる。彼自身、カイトが戦った事なぞ一切気付けなかったのだ。それをよく理解出来るのに十分だった。

 なお、その魔物であるが今はカイトによって解体されて肉を切り出され、彼らの朝食に変貌していた。残る肉は後でティナが魔術で消滅させてしてしまう、との事であった。


「さ、んなどうでも良い事より飯だ飯。カイト、今日の朝飯なんだー?」

「おーう。今日は昨日の酒も残ってるだろうから、ちょっと胃腸に良い物を作ってる。おっさんはそっち食べとけー」

「えー」

「うるせぇよ。おっさんが可愛らしい声上げてんじゃねぇ。気持ち悪い」

「はははは! 俺も柄じゃねぇって思ったわ」


 どうやら、カイト達は今日も朝から何時も通りらしい。そんな何時も通りであって、その何時も通りが既にぶっ飛んでいる事を改めて理解して、バーンタインも朝食を食べる事にするのだった。




 さて、朝食を食べて少し。腹ごなしが出来た頃に一同は再出発して、『冥界の森』を更に奥へと進んでいた。


「そろそろ出そうなんだがなぁ……」

「どうしても、ここらの魔物の縄張りだけは読めねぇからなぁ……」

「うーん。ここでお目当ての魔物を見付けるのってかなり難しいのよねぇ……」


 常に移動する上にここらは生存競争が激しい。それ故、何度も分け入っていたバランタインやここらを修行場として活用するクオン達さえどこにお目当ての『偉大なる獣(グラン・ビースト)』が居るかわからなかった。


「んー……そうでもないみたい」

「「「ん?」」」


 ソレイユの呟きを聞いて、一同が一斉に彼女を見る。そうして彼女が指さした方向を全員が一斉に見た。


「おー……でっかいなー」

「ふむ……以前見たより大きいか」

「以前見た個体は平均値より小さいって言わなかったっけ?」

「そう言えばそんな事も言っていたか」


 一同の目に見えたのは、四足歩行する30メートル程度の巨大な獣だ。が、犬の様とも虎の様とも言えない。どちらも混ぜ合わせた様な体躯だ。

 茶色に近い黒々とした肌はものすごい筋肉質で、その口から覗く牙は鋭く尖っている。爪なぞもはや鋭利な刃物よりも遥かに鋭そうだった。と、そんな四足歩行する『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を見て、ティナが首を鳴らす。


「ふむ……順番で言えば余か」

「んー……私の後だから……そっか。ティナで合ってるわね」

「デスゾーンだからなー」


 ティナの確認に頷いたクオンの呟きに、カイトが密かにため息を吐く。デスゾーン、というのはくじ引きにて決定した戦う順番の中で、一番やばい面子が続いていた一帯だ。クオンで始まりティナへと続き、最後はカイトである。どんな奴だろうと裸足で逃げ出す組み合わせとなっていた。


「ティナー。わかってると思うがそいつ、お持ち帰りだからまるこげにはするなよー」

「わーっとるよー」


 曲がりなりにも相手はランクSでも最上位に位置すると言われる魔物である。それに対して告げたカイトも応じたティナも至って平然としたものであった。というわけで、ティナは軽く火球を生み出して、三キロ先にて寝そべっていた『偉大なる獣(グラン・ビースト)』へ向けて発射した。

 無論、これは単なる呼び寄せる為の餌だ。なので火球は『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の数メートル先で障壁に阻まれて消し飛んだ。が、それで良い。


「ほれ。しばし遊んでやろう。来るが良い」


 ふわり、と地面からわずかに浮かび上がったティナは杖を手に優雅に足を組んでそう告げる。と、そんな平然としたのティナ様子を見て、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』もティナが今の攻撃をしたのだと理解したらしい。数キロ先まで響くような大きな雄叫びを上げて、地面を蹴った。


「……あ、あの……一応、聞いておきてぇ、っていうかもう必要はねぇと思うんですが……」

「ああ、必要は無いなら聞く必要はねぇだろ」

「へ、へぇ……」


 バランタインの返答にバーンタインは頬を引きつらせるだけだ。何を言いたかったのか、というのは至極簡単だ。この『偉大なる獣(グラン・ビースト)』であるが、実はすこぶる魔術の効果が薄い。その癖獣と言われるぐらいなので非常に力は強く、動きも素早い。

 それに対してティナは魔王と言われている事からもわかる様に、魔術こそを己の土俵としている。相性はそれこそこの『冥界の森』でも有数の悪さと言って過言ではなかった。が、ティナである。楽勝だろうと全員が断言した。


「さて……」


 音速の壁を突破して猛烈な勢いで突進してくる『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を見ながら、ティナは適当に幾つかの魔術を周囲に仕込んでおく。この勢いで突進されるのは彼女としても些かありがたくない。

 別に魔術の照準が合わせられないほどではないが、それでも些か本気になる必要があるからだ。いや、曲がりなりにも最上位種の魔物を相手に些か本気で十分という時点で色々と可怪しいのであろうが、彼女だと思えば不思議はなかった。


「まずは、一発」


 ティナの宣言と同時に、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の進路上の地面が隆起して10メートルほどの岩壁となる。が、それに対して『偉大なる獣(グラン・ビースト)』は迷いなくタックルの様に肩を前に突き出して突っ込んだ。


「うむ。良い判断じゃ。が……それはわかり易すぎような」


 わずかにジャンプする様にタックルで突っ込んだ『偉大なる獣(グラン・ビースト)』に対して、ティナはその岩壁のすぐ後ろに『偉大なる獣(グラン・ビースト)』がすっぽりと入るような深い穴を生み出していた。ジャンプした直後だ。しかも岩壁によって勢いもずいぶんと落ちている。故に本来ならば、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』は逃れる事も出来ずに穴の真下に落ちるのみだ。

 が、曲がりなりにもランクSの魔物である。『偉大なる獣(グラン・ビースト)』は穴があるのに気付くや否や、虚空を思いっきり踏みしめて跳び上がった。その視線は一直線にティナを睨みつけており、そのまま彼女へと襲いかかるつもりなのだろう。が、そんなティナはもう楽しげだった。


「一度は言ってみたかったこのセリフ……孔明の罠じゃ!」


 どぉん。そんな轟音が鳴り響き、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』が猛烈な勢いで落下していく。ここまでの一連の流れを見通していたティナが最後の仕掛けとして空中に空気弾を仕込んでおり、ジャンプと同時にそれを炸裂させたのである。


「引っかかった引っかかった。で、この上から高温に熱した土を被せます」

「うっわ。えっげつねー」

「私でもやらないのにねー」


 強引に穴に叩き込んだ『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の上から溶岩を流し込んだティナを見ながら、カイトとユリィが楽しげに呟いた。が、この程度でどうにかなる相手ではない。というわけで、完全に溶岩流の中に呑まれた『偉大なる獣(グラン・ビースト)』が溶岩を吹き飛ばしながら再度跳び上がった。


「ほいよ」


 そんな『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の振るう爪に対して、ティナは軽やかに宙を舞って回避する。音速を超えるどころか魔力も相まって空間さえ切り裂いていたが、別に当たらなければどうということはない。それ故、ティナは空間さえ斬り裂く『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の切り裂きの効果範囲を完全に見切ると、空中で数度回避を続けていく。


「おー……縦横無尽に切り裂いてるなー……」


 やはりランクSも最上位の魔物だ。『偉大なる獣(グラン・ビースト)』は虚空を蹴って縦横無尽に空中を駆け回り、ティナを斬り裂くべく虚空へと爪を立てていく。そんなティナを見ながら、カイトは少しだけティナの考えを推測する事にした。


「何考えてるんだろ」

「うーん……別にティナの事だから遊んでるで良いんだろうけど……」

「ふむ……意図的に空中で避けている、様には見えるな」


 カイト以下ルクス、ウィルの三人はティナの行動の意図を読むべく推察を行う。と、その一方のティナであるが、どうやら着々と準備は整いつつあったらしい。


「さて……後はあそこだけじゃから……踏み込みはここかのう」


 ティナは周囲に刻まれた無数の空間の切れ目を見ながら、その中でもまだ自分が逃げられる程度の隙間がある部分を見る。そこに自分が出られないほどの傷が刻まれれば、それで十分だった。というわけで、ティナは『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の動きを誘導してその部分の空間に傷跡を残させる。


「良し。これで良いな」


 自分がもう逃げられない状況に追い込まれているにも関わらず、ティナはそれで良しと頷いた。そして事実、それで良かった。そうして、一同はティナが魔王と言われる所以を目の当たりにする事となった。


「……ここじゃ!」


 ぐっと虚空を踏みしめて自らに襲いかかろうとした『偉大なる獣(グラン・ビースト)』のタイミングを見定めて、ティナがある魔術をを起動させる。


「「「ふぁ!?」」」


 起きた現象を見て、全員が一斉に素っ頓狂な声を出す。ティナが使ったのは()()()。この『冥界の森』では決して使えない筈の魔術だった。そしてそれ故、唐突に消えたティナに対してこの『偉大なる獣(グラン・ビースト)』は転移術が使われた事を一瞬理解出来なかった。

 ここら一帯で生きているのならどの魔物も転移術を使えようと使う事はない。場所の特性上、使えないからだ。使うという発想も無かっただろう。

 故に『偉大なる獣(グラン・ビースト)』からしてみれば未知の現象だと言っても過言ではなかった。そうして僅かな驚きを得た『偉大なる獣(グラン・ビースト)』はわずかにバランスを崩して、勢い余って自らが切り裂いた空間の傷へと衝突した。


「ほれ、チェックメイトじゃ」


 バランスを崩して空間の傷に激突した『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の腹へとティナが杖の先端を押し付ける。そうして、次の瞬間。ゼロ距離で何かの魔術が展開され、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』は四肢から力を失う事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1466話『魔王の力』

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