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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1463話 キャンプ

 カイトが戦闘を終え、更にその戦闘に呼び寄せられた『阿修羅(あしゅら)』をバーンタインが討伐してしばらく。カイト達は周囲の安全の確保を確認すると、そこに野営の準備を行っていた。


「出来たぞー。余謹製の結界じゃから、ここらでも問題なく寝れるぞー」

「おーう。オレももうちょっとで下拵え出来るから、もうちょい待ってなー。味どうよ」

「ふむ……疲労度を考えればもう少し濃い目で良いだろう。ああ、後スープも作ったほうが良いな。ここらは冷えそうだ」

「あいさ」

「うむー。おーい、お主ら。テントの準備はどうじゃー」


 ウィルに味見をしてもらいながら料理するカイトの返答を聞いたティナは一つ頷くと、全員が寝る為のテントを設営しているルクス達へと問いかける。ここら、やはり彼らは慣れたものだ。それこそバーンタインよりも遥かに慣れていた。

 当然だろう。彼らが生きた時代は大半の村は焼かれていた。宿場町も何をか言わんやである。町中でさえテントを立てた事だって少なくない。さらに言えば、部隊を結成してからは町中でそんな大人数が泊まれるわけもない。付近に許可を得て野営地を設営している事が多かった。テントを張る作業はお手の物だった。


「もう少しで出来るよー。いやぁ、身体が覚えてるもんだねー」

「まー、俺たちゃ晩年以外は年に数回はやってたしなー」


 ルクスの言葉にバランタインもやはり懐かしげだった。特に彼の場合は長年冒険者だったのだ。尚更懐かしいものがあったのだろう。と、そんな二人に上で茶化していたユリィが教える。


「今はでも結構便利な物あるよー。私の寝袋とかもカイトが注文した特注品だし」

「そういや、お前さんら。今も一緒に寝てんのか?」

「なーんか落ち着かないのよねー。一緒じゃないと」


 バランタインの問いかけにユリィが楽しげに頷いた。なんだかんだ恋人だろうとなかろうと一緒に眠っているのがこの二人だ。旅先や旅の最中であればひっついて寝ている事の方が多い。


「まぁ、あの頃の唯一の悩みと言えばカイトに寝ぼけて押しつぶされかねない所だったけど……」

「今のオレの悩みはお前のアッパーカットが人のドタマにヒットしてる時がある事だな」

「あはは……はい、これで完了」


 横合いから口を挟んだカイトに笑いながら、ルクスは手慣れた手付きでテントの設営を終わらせる。そうして数度テントの状態を確認すれば、それで終わりだ。


「うん。これで完璧……カイトー。こっちも終わったよー」

「おーう。こっちももうちょっとで終わるー……はい、煮込みも完了」


 カイトは最後に味見をして味の調整が必要のない事を確認すると、一つ頷いて鍋を持ち上げる。残った分は明日の朝に食べるつもりなので少し多めに作ってある。そうして、カイト達は揃って晩ごはんを食べる事にするのだった。




 さて、晩ごはんを食べてしばらく。カイト達は気ままに『冥界の森』の夜景を楽しんでいた。と、そうして食べ終わった後、気ままに晩酌でもしていたカイト達であったがそんな中でバランタインがふと口を開いた。


「ふぃー……いっつも思うんだがよ」

「んだよ?」

「ここの夜景だけは、マジですげぇよな」


 バランタインが見上げた夜空は、まさしく満天の星空と言うのが相応しい。周囲にはカイト達が起こした焚き火以外の明かりは一切存在していない。それだって周囲に気付かれない様にかなり小さな火だ。暖を取るというよりも、真っ暗闇にならない様にしている程度のものでしかない。故に外で冒険者達が野営するよりも更に星がよく見れた。


「……」

「ん? どしたよ」

「いやさぁ。今思えばオレ、今までずっとこの夜景をのんびり眺める機会なかったなー、って思った」

「あー……まぁ、お前さんはそうなるだろうなぁ……」


 カイトがここに来る時は決まって、時間が無かった。故に夜を徹して移動するなんて事は何時ものことだったし、そうでない時といえば武蔵に修行で放り込まれた時だ。その時点で彼の力は何をか言わんやである。


「ま、そりゃどうでも良いか。今見れてるわけではあるし……で、おっさんがわざわざ言うってどした?」

「柄でもねぇか?」

「柄じゃねぇだろ」

「あっはははは! 違いあるめぇ!」


 カイトのツッコミにバランタインもまた大笑いする。彼自身、柄ではないと思っている様子だ。


「……いやぁ、つっても俺もまぁ、こんなのんびり見れた事は無いからよ。そう思うわ」

「あー……そういや、結局これだけの面子が全員顔見知りなのに、どっか行こうとか無かったもんなぁ……」


 この場に居るのは間違いなくこの世界最強クラスの人員だけだ。故に、こんな魔境であっても呑気に語らえる。が、当然これは元からではない。カイトを除けば全員が何年もの地道な修行の上、ティナの修行を受け才能が開花したが故の話だ。故に、カイトもまたのんびりと全員の顔を見渡した。


「……今思えば、結構駆け足で生きてきたもんだ」

「お前さんが言うと含蓄が有り過ぎんだろ」

「あっはははは。マジでな。単に上級士官程度のスペックを保持していたってだけのガキが三年で世界最強だ。マジで生き急いだもんだわ」

「まー、実際。お前さんをオレが初めて見た時にゃこいつは早死する、ってしか思わなかったもんだが……存外長い付き合いになってるもんだなぁ……」


 思い返せば、あの頃はこの小僧は絶対に長生きしないだろうと思っただけだったな。今では年は離れど親友と言えるほどになったカイトを見て、バランタインはそう思う。その少年が気付けば主君となり大人となり、自分が諦めていた夢をいとも簡単に達成したのだ。そう思うと何か楽しくもあった。と、そんな事を思い出したからか、バランタインはふと思った事を口にする。


「そういや、あの村……まだあんのかね?」

「流石に無いんじゃね? 今は飛空艇もあって、そこまで近くなくて良いわけだし……あの村は流石にここから近かったからな」

「かねぇ……」


 二人が思い出したのは、かつてバランタイン率いるギルドとカイトが出会った場所。そしてカイトが死ぬ前に最後に宿泊した村だ。それはここへ挑もうとする馬鹿な冒険者達で賑わう宿場町のような所だ。カイトは堕龍を追って偶然立ち寄ったに過ぎないが、バランタインはここに仕事で挑む予定で来ていた。


「てーかよ。今思ったんだが……そこら辺にあるでかい亀裂とか変な歪み。あれぜってーお前さんのやった跡」

「あっははは! 多分オレもそう思うわ!」

「あっはははは! マジでお前さん、化物じみた戦い方してやがったなー!」

「いや、自分で言うのもなんだけど、ここであの出力でバトってるとかないわー!」


 カイトとバランタインは二人して、堕龍討伐時の事を話し合う。改めて言うまでもないが、カイトはあの時サクリファイスを使ってまで戦っている。その出力は今と大差がない。その出力での全力戦闘である。地形は大きく変貌していたのであった。と、そんなカイトに向けてルクスが当然といえば当然の疑問を呈した。


「そう言えばあの頃、何時も思ってたんだけどさ。君、僕が見た度に大怪我してたような気がするんだけど、いったいどうやって治療してたのさ。あれ、大半全治半年とか多かったよね」

「そういや……結構ボロボロになってる事多かったよな……」

「多かった、っていうか大抵ボロボロになってるような気がしないでもない私である」


 ルクスの指摘に過去を振り返りそう思ったカイトであるが、それに対してユリィは横に居たからこそ見ていた事を告げる。それにはカイトもそうだった、と頷くしかなかった。


「あー……まぁ、そうだよなー……でもよく考えりゃ、オレ達一ヶ月以上寝てた事ないよな……」

「……カイト。ちょっとごめんね?」

「ん?」

「寝てろって医者に言われてるのに勝手に出てったの誰かな!? 誰でしょうね!?」

「ひででででっ! いってぇ!」


 カイトは病院から抜け出す事はそこそこ多かった。それでも一応言えば入院代や治療費の踏み倒しはしたことがない、とは二人の言葉である。

 が、そんな事はさておいて。兎にも角にも抜け出していたのは事実である。故にユリィは大いに怒り、カイトの頬を引っ張っていた。なお、小型化して定位置(肩の上)に居たので両手で抓っていた。


「いってぇ……悪かったって……」

「もう……でも、そう言えばそれにしちゃ早く退院した事も多いよね」

「そうだよなぁ……まぁ、なんだかんだ良い回復薬とか貰えてた事も多いけど……」

「あー……そう言えばそんな事も多かったよねー……」


 なんだかんだ大精霊達と繋がっていれば必然として大精霊の眷属である各地の異族達とも仲良くなれていたし、そこで各地の異族が持つ特別な回復薬を貰えていた事も多かった。そんな事をしていると、普通より傷の治りがよくなったのだろう。が、それだけでもない。


「あ、後は女の子に治してもらってたとかも多かったよね」

「あー……そういや多かったよな」

「まぁ、正確に言うと怪我のまま出掛けて女の子に見付かって治療された、だけど」

「あはは」

「……お前は何をやっているんだ」


 ある意味、体を張ったナンパにも見えかねない。そんなカイトにウィルが非常に呆れ返っていた。


「あの時はそんな余裕皆無だったんだよ。第一、寝てると身体鈍るって思って殆ど寝てらんなかったし」

「……まぁ、いまさら言っても無駄か」

「無駄だろ。もう終わってるんだし」


 何かを言おうとしたウィルであるが、彼の言う通りこの時点で既に過去。更にはもうしない事もわかっている。なので苦言を呈するのは止めたらしい。と、そんな所にテントからバーンタインが現れた。

 やはり『阿修羅(あしゅら)』をあれだけの速度で倒したのは疲れたらしく、移動を終えると魔力の回復の為に一眠りしていたのであった。ここら、やはり地力の差が出ていたようだ。


「おう、起きたか」

「バランタインさん……っと、すいやせん」


 バーンタインはバランタインより投げ渡された木製のコップを受け取ると、焚き火の近くの手頃な所に腰掛けた。


「ま、気付けの一杯だ。飲めや」

「すいやせん……んぐっ!」


 バーンタインはバランタインより注いでもらった酒を一気に飲み干した。ここら、やはり祖先と子孫で似通っているのか豪快に飲み干す姿はそっくりだった。


「っくっはー! 美味い……どこの酒ですかい?」

「ウルカの水を使って米焼酎を作ってる所があってな。この収穫祭に持ってこられていた。ずいぶんと珍しいもんだから、数本取り寄せたんだが……一本持ってきた」

「こいつが、ウルカに……」


 自分の地元にも関わらず、バーンタインはどうやら飲んだ事がなかったらしい。カイトの解説に驚いた様子で注がれた酒の残りを見る。そんな彼に、カイトは笑いながら少し教えてやった。


「あはは。時にゃ、仕事を抜け出して色々と見えるもんがあ」

「お前はサボり過ぎだ」

「カイトはサボり過ぎだよ」

「カイトはサボり過ぎ」

「お主はサボり過ぎじゃ」


 カイトの言葉を遮って、四人――バランタイン以外ウィルと公爵家組全員――がツッコミを入れる。


「お前ら容赦無いな! そのおかげで何人優秀な人材登用できてると思ってるんだよ!」

「それは貴様の手柄ではない……が、まぁ、街の巡視が必要だという言葉は認めよう。サボりは認めんが」

「うぅ……おやすみが欲しいですよぅ……」


 ウィルのツッコミにカイトが項垂れる。が、そもそもそんな事を言わせたいが為にこんな話をしたのではない。故にカイトは気を取り直した。


「いや、もうこの際死人に口無し。無視だ無視」

「私は生きてるよー」

「余も生きとるな」

「……もう無視だ。お前ら全員無視だ。とりあえず、時には隠れて色々と見て回るのも面白い。色々と見える物があるからな」


 楽しげに戯れたティナとユリィを無視して、カイトはバーンタインへと少しの統治のコツを説く。どうせ彼もカイトも揃って並の暗殺者なら普通に対処出来る存在だ。別に供も連れずに歩いた所で問題はない。


「ははは。聞いてた通りの方だ」

「あはは。そう思ってくれたのなら結構だ……ま、せっかく起きたのならもうしばらく飲もうぜ」

「っと……すいやせん」


 カイトが差し出した酒瓶を見て、バーンタインは慌ててカップの中身を飲み干して差し出した。こういう気ままな夜は冒険者の醍醐味だ。そうして、彼らはのんびりとした時間を地獄の中で過ごす事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1464話『さらなる高みへ』

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