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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1461話 伝説の中で

 収穫祭の余興の為、『冥界の森』へとやってきていたカイト率いる『冥界の森』探検隊。彼らは『冥界の森』をまるで散歩の様に歩いていたわけであるが、ひょんな事からカイト達さえ見たこともない蛇にも似た未知の魔物と遭遇する事となる。そんな魔物はその遭遇の原因となったカイトが対処する事になり、彼は数度の攻撃の中で対処を考えさせられる事になっていた。


「はてさて……面白い魔物に出会ったもんだな」

「見たことないよねー、こんな魔物」

「まぁ、どこかにカラクリがあるんだろうけどな」


 コアを魔弾で撃ち抜いたというのにどういうわけかコアが復元した様子を見て、カイトはユリィと楽しげに現状を語り合う。別にこの程度で驚いていたらここではやっていけない。

 確かに珍しい現象ではあるが、決してありえないとは思っていない。というより、ここでありえないと思うのはまず間違いだ。ここは、そんな場所だ。


「さて……」


 とはいえ、このままでは倒せないのは事実だ。そもそもコアが破壊されても生きているという時点で色々と可怪しい。というわけで、カイトは一旦様子見を挟む事にする。

 と、そんな彼らの見ている前で、三つに分かれたコアそれぞれに液状化した魔物の体組織が集合し、三匹の蛇の様な魔物が生まれた。


「……おー……マジか」

「これは凄いねー」

「群体に近いのかもなぁ……」


 分裂を果たした魔物を見て、カイトもユリィもそんな事が出来るのか、と驚きに包まれつつも感心した様に頷いていた。と、その一方で分裂して三体に増えた魔物は再びカイトへと蛇の威嚇の様に口を開いてしゃー、っという音を出す。


「毒液そのものの威力は変わらなそうだな」


 じゅっ、という音を上げて溶解した地面を見ながら、カイトはそう判断を下す。どうやら三体に分裂しても毒液そのものの成分は変わっていないらしい。猛毒である事は間違いないだろう。

 なお、その毒液だが、カイトは特に感慨もなく僅かに飛空術で浮いて滑る様にして回避していた。と、そうして一体の毒液の噴射を回避した所へ、別の一体による毒液攻撃が発射された。


「こいつも変わらず」

「そしてこっちも変わらず」


 くるくるくる、とアイススケートの様に回りながら回避を続けるカイトとユリィは毒液の様子を見てそう判断する。どうやら分裂してもどれかの性能が落ちている、という事はない様子だ。が、当然分裂した以上、落ちているものがあった。


「ほいよ」


 カイトは回転しながら先程よりずいぶんと気軽に逆袈裟懸けに斬撃を放つ。それはランクSの魔物であれば障壁も砕けない様な一撃だ。が、それにも関わらず、妙な蛇型の魔物の障壁はいとも簡単に打ち砕かれ、左右真っ二つに両断されていた。


「速度はずいぶん低下しているし、反応速度も落ちてるな。おまけにおまけに防御力も激減。発射速度も勿論低下。ここらの雑魚にでも余裕で潰されるんじゃないか?」

「だよね……ずどーん!」


 カイトの肩の上からユリィが極太の光条を放ち、また別の一体をコアごと貫いた。先程の再生の時にコアの位置は確認していたので、余裕で狙撃可能だった。


「うん、雑魚」

「はい、雑魚ー」


 三体に分かれた結果、性能まで三分の一程度に落ちてしまっている。カイトもユリィもこの弱さを見てはそう結論付けるしかなかった。が、それでも再生力だけはそのままだ。故に、結論はこうである。


「でも、殺せないと」

「だよね……どうするの?」

「どうしようかね」


 カイトとしてもこの敵をどうやって倒せば良いか即座には思い付かないらしい。色々と方法は無くはないが、面倒だとも思っていた。が、この様子の時点で特段苦戦は感じていないのだろう。色々と手はあるが、その中のどれが一番有効だろうか悩んでいる、というのが実際の所なのだろう。


「……ん?」


 時に毒液に射掛けられ、時に突っ込んでくる敵の攻撃を適当に回避しているカイトであるが、ふとした時に何か得も言われぬ違和感を感じて少しだけ目を細める。


「ちょっとずつだけど……早くなってないか?」

「確認してきまーす」

「頼みまーす」


 カイトの呟きを受けたユリィがふわりと浮かび上がり、それを受けてカイトはもう少し踊る事にする。攻撃しても無意味なのであれば、攻撃する意味はない。なら、回避だけで十分だった。


「ふむふむ……ふむふ……って、きゃあ! カイト! せめてこっちへの攻撃ぐらいは防いでくれないかな!?」

「あ、ごめんごめん!」

「もうっ……」


 飛びかかってきた敵を回避したユリィは横っ腹に飛び蹴りを入れたカイトの分身を見ながら、再度敵の観察に入る。そうして、一分ほど。ユリィが結論を下した。


「だーんだん速くなってるっぽいよー!」

「あー、だーろうなー」


 カイトはユリィからの報告に納得し、頷いた。そんな事だろうとは思っていた。が、それならそれで物凄い面倒な魔物と言っても過言ではなかった。


「トカゲの尻尾切りというかなんというか……まぁ、とりあえず」


 カイトは少しだけ意識を集中して、三体の魔物の内の一体の魔力の流れを見極める。別に難しい事ではない。神陰流の基礎の基礎は世界の流れを見切る事。これを応用というか、これを使えば魔力の流れを見切る事なぞ造作もない。そうして、カイトは盛大にため息を吐いた。三体の魔物の中でまたそれぞれ別のコアが出来つつあったのだ。


「ふむ……コアが増えるわけか。食べられた時に、という所かね。なんかヒュドラを思い出すな」


 斬撃しても切り裂かれた部分から再生する。確かに現代の生物に当てはめればプラナリアが一番近いと感じるわけであるが、神話で言えばギリシア最大の英雄ヘラクレスが戦ったヒュドラという怪物が一番似通っていた。

 まぁ、あれは切った首から二つに増えて首が生えてくるというこの魔物とはまた別の厄介さがあったが、斬撃が殆ど通用しないという意味では似通っていた。あちらも毒液を吐くし、再生能力もずば抜けていた。


「とりあえずまぁ……このままだと面倒だし」


 カイトはそう言うと、コアを新たに復元しつつある三体の魔物を魔糸で絡め取る。そうしてその内二体を魔糸で細切れにするとコアを取り出して、更に残る一体の両側を切り開いて取り出したコアを強引に突っ込んだ。


『しゃぁああああああ!』

「おぉ! 良い塩梅に再生しやがったな!」


 再生力は元々優れていたのだ。コアを強引に突っ込まれても元々が自分のコアだからか普通に順応していたらしい。即座に押し込まれたコアを取り込んで、元通り一体の魔物に戻っていた。また、それに合わせて細切れになった肉片も吸収し、完全に元通りだった。


「さて、どうするかね」


 これで増殖の心配は無くなった。カイトはそう判断すると改めてこの魔物の討伐方法を考える。雑魚ではないが、決して強敵ではない。生きる事に特化した魔物と言っても良いだろう。

 が、それ故にこそこの魔物はここで討伐しておくべきだ、とカイトは判断していた。というわけで一見すると再び遊んで見える様な舞を開始する。が、今度は時に槍で突き、時にハンマーでぶっ叩くなどのカウンターも織り込んでいた。


「……大伯父貴は何をなさってるんだ?」

「ん? ああ、そうか。そら、お前さんにゃ不思議に映るか」


 バーンタインの疑問にバランタインは特に驚くでも無く頷いた。やはりどうしてもバーンタイン達後世のものからすると、カイトとは馬鹿強い世界最強を(ほしいまま)にした戦士だ。こんな程度の相手に苦戦する様には思えない。が、身内からするとそうではなかった。


「確かに、あいつは一撃必殺にも近い戦闘力を持ってて、ここでも多分そいつぁ出来るだろう。が、あいつはあれが基本だ。武器を切り替え魔術を使い、徹底的に基本に忠実に戦う」


 基本に忠実。冒険者の基本は如何に確実に、効率的に魔物を倒すか。そのためには相手の最適解となる弱点を知る必要がある。普通はそれをパーティを組んで調べるわけであるが、カイトは一人でそれが出来る。なのでそれをしている、というだけであった。


「おっもしれぇだろう? 槍を使い斧を使い、拳を使い魔術を使い、ってな」


 ここまで異質な戦いを見せていて、それでいて究極的には基本に忠実。見ているこちらがお手本の様な戦いと言いたくなるほどだ。が、それ故にこそ面白かった。一人で基本に忠実な戦いをするのだ。

 しかもその戦いをしているのが世界最強の勇者だという。面白いというのも、頷ける。と、そんなカイトであるが、見ている内にどうやら最適解を見付けていたらしい。気付けば拳だけで戦っていた。


「拳……? 効いてるようには、思わないんだが……」

「ん……」


 バーンタインの呟きにバランタインは少しだけ目を細める。そうして、それが単なる殴りではない事を理解した。


「なるほど。ありゃ、気だ。気を使ってぶん殴ってるな。なるほど。生命力が高いが故に、ぶっ潰すにゃ気が一番良いのか」

「どうやら自分の生命力が高すぎるから、他人の生命エネルギー……気には特段の拒絶反応を有しておるようじゃのう。内部で反発が起き、自壊が始まっておるわ」


 バランタインの言葉に応じて、ティナが内部で起きている事を見極める。どうやらあの魔物は強力な再生力を有しているが故、即座に全回復するらしい。が、それ故にこそ他者のエネルギーを受け入れる余力がない。生命エネルギーの発露とも言える気が殊更有効らしかった。


「ふむ……内部破壊を起こしておるのは外に出さぬ為か。内部浸透の一撃……余らにはできんのう」

「俺様にも無理だな。流石にありゃ、面倒だ……おーう! カイト! どうせなら<<炎武(えんぶ)>>も使っただどうだー!」

「もうやってる!」

「おう、なんだ。使ってんのか……ってことは、あれか。面白い事考えてやがるな」


 どうやらバランタインにはカイトが何をしているかよくわかったらしい。楽しげに頷いていた。と、そんな彼にバーンタインが問いかけた。


「何をしているんですか?」

「ん? ああ、<<炎武(えんぶ)>>で活力を他者に分け与える力があんだろ? 殴りの瞬間、それも織り交ぜてんのさ……さて、もう少ししたら結果が出るぞ」


 バランタインは楽しげにカイトの戦いの結末を見守る。もう、答えも結論も見えている。そうして、数分後。カイトの打撃には一切のダメージを受けていないにも関わらず、内部から敵が爆散した。


「おぉ……」

「さて……こっから、どうするんだ?」

「はい?」

「まだ、終わりじゃねぇ。こいつぁ単に自分の中のエネルギーがやばいのを見て自分で自爆しただけだ。その証拠に見てみろ。コアはまだ無事だ」


 バランタインは楽しげに浮かぶ三つのコアを指さした。カイトはこれを狙ってやっていたわけだが、それでもこれなら先程から何度もやっている。今更といえば、今更だ。


「こぉー……」


 そんなカイトはコアを完全に露出させた敵に対して、特殊な呼吸法を用いて気を蓄積させる。そうして、気を溜めた拳で思いっきりコアを殴りつけた。


「おっし。思った通り」


 基本的に肉体の性質とコアの性質は似通っている。故にコアにも気による攻撃はかなり有効だったらしく、打ち砕かれたコアは再生しようとしているものの、カイトの気の力の所為でくっつこうとしては剥離してしまっていた。そしてそれに合わせて、再生速度もゆっくりとなっている。


「はぁ! たぁ!」


 この機を逃す手はない。そう見抜いたカイトは両手足に気を纏わせて、一気にコアを三連続で打ち砕いていく。そうして、あっという間にコアは三つとも復元が困難な状況になった。


「さて……どうだ?」


 勝った。そう理解しているカイトはなんとか再生しようとして、しかし出来ないコアの様子を見守る。再生しようとしても出来ず、エネルギーを使い果たして死ぬのが目に見えていた。


「……」


 どしゃ。そんな音を聞いて、カイトは背を向ける。コアの再生も肉体の再生もカイトの気によって邪魔され、全ての生命エネルギーを使い果たしたのだ。終わってみれば、結局はカイトの圧勝だった。こうして、カイトは勇者の勇者たる所以を見せつけて、戦いを終えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1462話『伝説へと至る道』

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