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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1457話 冥界の森

 収穫祭の余興の為、カイトは『冥界の森』に生息すると言うエネフィアでも最強クラスの魔物の一体『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を狩猟する事になっていた。そんな彼は本来は己の旗艦となる筈の『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』を使ってクオンら冒険者の中でもトップクラスの人員を率いて『冥界の森』へと向かっていた。その道中。『冥界の森』までの僅かな時間に彼は一時の夢を見ていた。それはかつて、彼が一番最初にここに来た時の夢だった。


『……』


 『冥界の森』の奥深く。戦いを終えた彼は失った部位を魔力で補完すると、一度大空を見上げる。


『……カイ……ト……なの?』

『おう』


 カイトは大空から、自分を何時も守ってくれていた相棒へと視線を移す。死と再生。それを経た今、この青空の様に心は晴れ渡っていた。


『……うん、てめぇの心臓がきちんと動いてるってのは悪くないもんだ』


 カイトなのだろう。ユリィもそう思う。だがそれでも、彼女にも信じられるものではなかった。何より、周囲の冒険者達さえ何が起きたか分からず困惑しているばかりである。


『お前さん……一体、何が起きた? そこの龍が輝いたと思ったら……お前さんが光に包まれた。そして気付けば、お前さんが立っていた』

『あんたは……』


 そう言えばどこかで見た事があったような。カイトはこの時はまだ顔見知りでさえなかったバランタインを見ながら訝しむ。そもそもこの時はまだカイトはユリィが一人暴走した自身を止めるべく危険を顧みずに近くの村に戻った事を知らない。


『ここは……うん。多分、『冥界の森』と呼ばれている場所……だよな』


 カイトは一つ頷くと、周囲を見回してしっかりと現状を認識する。が、やはり彼はまだ蘇生してすぐ。自分の力を満足に使いこなせていなかった。


『……なるほど。そんな感じか』

『……何が?』

『ん? あ、いや……あー……』


 しまったな。カイトはおっかなびっくり問いかけるユリィの問いかけに、少しだけ困った様な顔を浮かべる。


『……まぁ、良いか。とりあえずお前には言わないと駄目な事がある』

『?』

『ありがとな』

『っ』


 朗らかで、憑き物が落ちた様な顔のカイトにユリィが先程までとはまた別の涙を浮かべる。そうして、彼女が再度泣き出して、カイトはそれを宥めるのに必死になる事になるのだった。




 それから、幾星霜。全ての真実を知って様々な出会いを経て、カイトは幾度かここに立っていた。


「懐かしいな、この絶望感」


 あぁ、わかる。この圧倒的な圧力。進めば死ぬ。並の者であればそう思わずにはいられないほどの圧倒的な気配。あと一歩先からは地獄。それをカイトは実感し、大きく息を吸い込んだ。


「……すぅ……はぁ……こうやってのんきにここで息を吸うのってどれぐらいぶりだろうな」

「少なくとも私には記憶ないよ」

「あっははははは。そうだなぁ……」


 ジト目のユリィに対して、カイトは笑いながら懐かしげに目を細める。次の一歩を踏み出せば、そこから先は地獄だ。そして彼女がここに来る時は大抵がのっぴきならない状態だった。

 一度目は、カイトが暴走して。二度目は、武蔵に放り込まれたカイトについていって。どちらものんきに出来る状況ではなかった。

 そしてカイトもカイトでここでのんきに出来た記憶なぞ殆どない。一度目は憎悪に塗れ、ここがどこだかもわからない状態になっていた。二度目の時は修行の為で余裕はない。

 三度目の時は、そもそも何かを考える事さえ出来ないほどに焦っていた。一日が惜しい。一分でも、一歩でも前へ。邪魔するなら殺す。その意思しかなかった。呼吸を忘れていたかもしれない。だから、本当にこれはもしかしたら初めてかもしれなかった。


「ねぇ、にぃー。呑気にしてるけどさー……ずーっとこっち見てるんだけど」

「ですよねー」


 ソレイユの指摘にカイトもまた、笑うしかなかった。まぁ、敢えて言うが。彼らとてこんな場所に呑気に突っ立っている理由なぞない。動かないには動かないなりの、動けないなりの理由があったのだ。


「どーしよっかなー」

「にっらめっこしましょー」

「あっははは。マジで現状それだもんなー」

『それは良いからさっさと倒せ。このままではにっちもさっちもいかんぞ』


 どうしようか悩むカイトに対して、ソレイユが現状の見たままを告げる。そんな二人というか三人に声を掛けたのは、艦内放送を使ったティナである。わかりやすく言ってしまえば次元の裂け目から出たらその前には思いっきり魔物が突っ立っていたのであった。

 流石に魔物の方もいきなり空間が裂けて飛空艇が出て来るとは思わず呆気に取られ、今は警戒を表に出している、と言う所だ。後少しで暴れだすだろう。カイト達の方はそれを察して一番近かった彼がソレイユを連れて外に出た、というわけである。というわけで、数秒後。当然の事が起きた。


『ぎゃぁああああおおおおおお!』

「でっすよねー!」


 まるで恐竜のいななきの様な遠吠えを上げた魔物に対して、カイトは耳を塞ぎながらそれはこうなるだろう、と笑う。魔物の容姿としてはティラノサウルスに近い。

 が、大きさは恐竜のそれとは比較にならず、ティラノサウルスの五倍、およそ五十メートルはありそうだった。間違いなく中型程度の飛空艇なら噛み砕くだろう。


「ソレイユ! 頼む!」

「はーい!」


 カイトの要請を受けて、ソレイユが即座に弓を射る姿勢に入る。ここからは油断していたら即座に死。彼女らでも油断は出来ない。そうして大きく吠えるティラノサウルスの様な敵に向けて、ソレイユが速射を叩き込んだ。


「あー……駄目かー……」


 速射とは速度を重視する矢だ。それ故隙無く放てるわけであるが、逆説的に言えば威力はない。ティラノサウルスの様な魔物の障壁は打ち砕けたものの、それが限界だった。

 分厚い皮に阻まれて突き刺さるに留まった。それを見てソレイユは残念そうな顔であるが、それはそうだとしか言えない。本来はここの魔物の障壁を破砕出来るだけ、十分に凄いのだ。

 ここの魔物は大半がランクSの冒険者が本気でやってもこの魔物の障壁を打ち砕けるかどうか、という領域だ。それを速射で砕けるのだから、彼女らがどれだけ強いかというのがよく分かる。


「『原初の地竜(オールド・レックス)』……ランクS地竜種の最上位の一体。まっさかこいつにお出迎えしてもらえるなんてなー」

「今日の晩ごはんはマンガ肉だねー」

「おっしゃ」


 カイトはユリィの雑談を聞きながら、地面に着地する。そしてそれと同時に、『原初の地竜(オールド・レックス)』が大きく息を吸い込んだ。


「おっと。これはまずいな」


 カイトは着地すると同時に、『原初の地竜(オールド・レックス)』が何をするかを理解する。もうわかりきった事だ。<<竜の伊吹(ドラゴン・ブレス)>>を放とうとしているのである。

 このクラスの地竜の一撃だ。間違いなく大きく地面は抉れ、如何に『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』であろうとも致命的なダメージは免れないだろう。下手をするとどこか遠くの村一つぐらいなら壊滅する可能性さえあった。


「さぁ、来い!」


 であれば、一切合切を受け止めるのみ。そう判断したカイトはその場にしっかりと腰を落として、障壁を最大に展開する。真正面から受け止めるつもりだった。が、ここで。カイトは久しぶりにここが魔境である事を思い出す事になる。


「!?」


 大きく息を吸い込んでいざ放つというタイミングで、『原初の地竜(オールド・レックス)』は地面に向けて<<竜の伊吹(ドラゴン・ブレス)>>を放ったのだ。普通なら意味の無い行動で、単に溜めた魔力を無駄にしたに過ぎない。そして相手は人ではなく魔物だ。高度な魔術は使ってこない。

 だが、しかし。高度な魔術が使えない事と高度な攻撃が出来ない事は同じではない。その次の瞬間。『原初の地竜(オールド・レックス)』の立つ一帯の地面が光り輝いて、地面に大きな亀裂が入った。


「ユリィ! 前を頼む!」

「あいさ!」

「やらせるかよ!」


 己の肩から飛び降りたユリィに前――つまり『原初の地竜(オールド・レックス)』――を任せると、カイトはそのまま地面に思いっきり拳を振り下ろす。そして、その次の瞬間。地中深くで大爆発が起きて、しかしその威力の大半はカイトの攻撃により相殺され外に吹き出す事は無かった。


「なんってことしやがる! こいつ地面を吹き飛ばしてこっちまるごと吹き飛ばそうとしやがったな!?」

「カイト! そんな事言ってる場合じゃないよ!」

「わーってる!」


 己の攻撃が防がれたのを見るや即座に強烈なタックルを繰り出してきた『原初の地竜(オールド・レックス)』を見て、カイトはユリィを再び肩に乗せてその場からサイドステップで遠ざかる。

 『原初の地竜(オールド・レックス)』がした事は簡単といえば簡単だ。カイトの言った通りだ。『原初の地竜(オールド・レックス)』は<<竜の伊吹(ドラゴン・ブレス)>>を地面に放ったわけであるが、それは当然地中深くにまで到達する事になるだろう。

 が、ここで『原初の地竜(オールド・レックス)』は一手加えて、おおよそ地下100メートルほどの所で爆発が起きる様にしていたのである。その距離でランクSの地竜種の<<竜の伊吹(ドラゴン・ブレス)>>の爆発だ。下手をしなくとも地球の爆弾を遥かに超えた大破壊を引き起こす事は間違いないだろう。


「ソレイユ! 軌道はそっちで逸らしてくれよ!」

「はーい!」


 カイトの指示を受けて、ソレイユが再度矢を放つ。とはいえ、今度はしっかり準備出来ていた。なのでその一撃は先程と同じく障壁を破砕して、しかし先と同じ様に『原初の地竜(オールド・レックス)』の身体を貫く事はなかった。が、それで良かった。彼女が放った矢は衝撃を重視して、貫通力は重要視していない。

 故にわずかに曲がる様にして放たれた矢は『原初の地竜(オールド・レックス)』の側面に衝突すると、横合いから大きく『原初の地竜(オールド・レックス)』の巨体を吹き飛ばして飛空艇への衝突を防いでみせた。


「おし! さすがはエネフィア最高の弓兵の一人! ユリィ! 牽制頼む!」

「はーい!」


 カイトの要請を受けて、再びユリィが彼の肩から飛び降りる。そうして彼女は何時も馴染みの雷撃をいくつも生み出して、吹き飛ばされて地面を滑る『原初の地竜(オールド・レックス)』へと追撃を仕掛けた。


「さて!」


 そんなユリィの雷撃と一緒に、カイトは地面を這う様にして『原初の地竜(オールド・レックス)』を追撃する。が、あまり遠くまで戦場を広げても面倒だ。故に彼は<<縮地(しゅくち)>>を使って一気に雷撃を追い抜くと、更にそのまま『原初の地竜(オールド・レックス)』をも追い抜いて滑る『原初の地竜(オールド・レックス)』の背中側へと立ちふさがる。


「はい、どっせい!」


 猛烈な勢いで地面を滑ってくる『原初の地竜(オールド・レックス)』の背に向けて、カイトは思いっきり正拳突きを叩き込む。それを受けて『原初の地竜(オールド・レックス)』は思いっきり海老反りになり、今度は猛烈な勢いで逆向きに吹き飛ばされていった。が、それはユリィの放った雷撃の直撃を受けて、その場に停止する。


「……はーい、狙って狙ってー」

「はーい……」


 ユリィの茶化すような声を聞きながら、こちらもまた飛空艇の上から飛び降りていたソレイユが弓を構える。が、今度は先程よりも更に力を溜めていた。今度は、しっかりと仕留めるつもりらしい。


「いっけぇ!」


 ソレイユが叫ぶと同時に、彼女が溜めに溜めた魔力を受けた矢が放たれる。それは一直線に感電してしびれる『原初の地竜(オールド・レックス)』へと飛翔すると、その胴体に大きな風穴を空けた。

 が、これで死ぬようなら、ランクSの個体ではない。喩え胴体に風穴が空こうと生きるのがランクSの魔物の所以であり、ここが地獄の所以だ。殺しても死なないからこそ、ここは『冥界の森』なのである。

 故に、『原初の地竜(オールド・レックス)』は口から血の塊を吐き出すと激怒した様子で全身から煙を吹き出した。すると、見る見るうちに傷が癒えていく。魔力で強引に再生しているのである。


「にぃー」

「あいよー」


 とはいえ、だ。ここに居るのはそんなランクSの魔物を頻繁に狩っているランクSの冒険者達である。更にいえばこの世界最強クラスの面子だ。こんなものは見慣れていたし、特に驚くべき事でもない。

 彼らを驚かせたいのなら粉微塵にしても復元する、プラナリアの様に分裂増殖した、ぐらいはしてもらわねば困るのである。というわけで、再生途中ながらもソレイユとユリィに突進を仕掛けようとした『原初の地竜(オールド・レックス)』の頭上からカイトが超高速で飛来する。


「おぉおおおお!」


 気合一閃。カイトは落下の加速をプラスして、『原初の地竜(オールド・レックス)』の首へと一撃を放つ。それは一刀両断に『原初の地竜(オールド・レックス)』の首を断つと、それでようやく終わりだった。流石に胴体に大きな風穴が空いた上に首を断たれれば幾らランクSの魔物だろうと命はないらしい。


「ふぅ」


 どしーん、という『原初の地竜(オールド・レックス)』が倒れる音を背で聞きながら、カイトは一つ息を吐いて血糊を振り払い納刀する。こうして、カイト達は到着して早々に手荒い歓迎を受けつつも『冥界の森』へと到着する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1458話『今日の晩ごはん』

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