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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1456話 冥界を前に

 収穫祭の名物の一つであるクッキング・フェスティバル。その主要審査員であるウォルドーという男がどうしても手に入れたいと申し出た魔物『偉大なる獣(グラン・ビースト)』。収穫祭の余興の一環としてこれを狩ることを決めたカイトはその後、クオン達を筆頭にした冒険者の中でも最上位に位置する奴らを集め狩りに出掛ける事にしていた。


「うぉー。マジで久しぶりに乗るな」

「ウチのは滅多にどこかに留まらないものねー。いや、将が普段使いして王が使ってない玉座ってどうなのよと聞かれると困るんだけども」


 久方ぶりの『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』に懐かしげなカイトに対して、一応の主人であるクオンが一つ頷いた。確かにカイトは天王。このギルドの本来の頂点で、この玉座は彼の玉座だ。


「まぁ、気にするな。ウチにゃ自家用機あるからな。前は性能で劣ってたが……そろそろ超えそうなのが」

「どやぁ。宇宙船もそろそろ作るぞ」

「調子乗るとやりたい放題だからなぁ、お前……」


 ドヤ顔を晒すティナに対して、カイトはただひたすら呆れていた。基本的に好き勝手にやらせているのは彼なので最終的な責任は彼にあると言っても良いだろうが、それでもどこかで止めねばならないのも事実である。なのでそろそろ止めるべきか、それともこれは流石に趣味なので良いだろう、と止めないで良いかは悩ましい所であった。


「まぁ、それは置いておくとしても、だ。とりあえず調整はどうだ?」

「うむ。まぁ、流石に旧文明の遺産故に余もはっきりとした事は言えん。なにせ旧文明も最後の最後にロールアウト……いや、おそらくこの性能じゃとロールアウトもせんかったんじゃろうが……」


 ぽんぽん、とティナは『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』の内壁を叩く。この機体に使われている素材は全て、旧文明が作った未知の素材だ。一応解析により合金である事は確定しているそうだが、正確な所はまだ何もわからない。

 どうしても魔金属はその特性上科学的な成分分析などが出来ないのだ。そして素材が何を使っているかわからないと錬金術でも調査は難しい。迂闊に触れて復元できなくなると問題だからだ。そして何より、この飛空艇はエネフィアで唯一となる次元潜行艦だ。

 技術的に未知の領域が多く、ティナも手を焼いているとの事である。この間彼女が作った様に若干の防御兵器として転用するのが精一杯だったとの事であった。


「が、まぁ、問題無く動こう。そこについては余も太鼓判を押そう」

「良し……じゃあ、各自配置に」

「うむ」


 カイトの号令を受けて、ティナが移動を開始する。それに合わせて、カイトも奥へと進みいわゆる艦橋と言われる場所にまでたどり着いた。基本的な構造としては、今の飛空艇も変わらない。なので艦橋には艦長席やら操縦席やらがあり、他にも乗員用の椅子がある。が、その形式は少し独特だった。


「この玉座に王が帰還するのは、ざっと三百年ぶりね」

「そうだと思うのなら、そこではなく円卓の側に腰掛けて貰いたいものだな。現にアイシャはきちんと自席に腰掛けている」

「わかってやってる癖にー」


 カイトの膝に横向きに腰掛けたクオンがうりうり、とカイトの胸を人差し指でグリグリと弄る。そんなカイトが座る席であるが、これはクオンが言う通りである。彼の席、すなわち玉座。『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』の中にある玉座であった。

 その彼の前には、一つの円卓があった。そこにある椅子の数は八個。天の王に侍る八人の将。それが座る円卓だった。無論、そこにはクオンの席もあり、アイシャの席もある。故にアイシャはそこに座っている。


「さて……」


 カイトは足を組み、肘置きに肘を置いて頬杖をつく。クオンも言っていたが、わかってやっている。そうして、カイトは己の肩に腰掛ける相棒へと敢えて偉そうに告げた。


「では、ユリシアくん。号令を発したまえ」

「イエッサー!」


 ずびしっ、とユリィが敬礼で応ずる。そうして彼女は前を向いて、号令を発した。


「全速前進!」

「うむ! では、機関最大! 出力上昇!」


 ユリィの号令を受けたティナが『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』の操縦席から各種のコンソールを弄って、出力を上げていく。それを受けて、ゆっくりとだが『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』が浮上を始める。

 この規模かつ性能の飛空艇にしては非常に凄い事に、この飛空艇はどうやら単身でも動かせるらしい。なのでティナ一人で動かせた。そうして、『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』がある程度の高度にまでなるとティナはとあるスイッチへと手を伸ばす。


「さて……では、次元潜行システム起動」


 ティナが押し込んだスイッチは次元に穴を空ける装置のスイッチだ。それを受けて、『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』の先端から青白いレーザ光が発射され、空間の中に穿孔が生まれる。

 これがどういう原理なのかは、まだティナにもわかっていない。わかっていないが、このレーザ光の様な超高度な魔術の塊により次元に穴が生まれるのである。『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』が旧文明の最大最後の遺産と呼ばれる所以だった。


「では……次元潜行開始!」


 ティナの宣言に合わせて、『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』は一気に己が空けた穿孔へと突入し、その姿はエネフィアから消え去ったのだった。




 さて、消え去った『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』の中。周囲を見渡せる艦橋から見える風景はというと、それはそれで非常に幻想的だった。


「おぉ……こいつぁ……」


 すげぇ。おそらく冒険者として数々の凄い物を見てきただろうバーンタインが思わず呆気に取られる。いくら彼でも次元潜行をした事は無い。それどころか『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』に乗るのは初めてだ。なのでこの光景を見るのは初めてで、彼だけが驚きを得ていた。


「なんなんだ、こいつぁ……」

「知らんよ、誰もな。無論、オレも知らんし、こいつらも知らん」

「私達は興味が無い、という所だけどね」


 バーンタインの呟きに応じたカイトは続けて相変わらず己の膝に腰掛けるクオンを指差すが、彼女もまたその光景はわからなかった。さて、そんな一同が見ている光景であるが、これはある種地球のSFで語られるワープの光景に酷似していた。


「この渦……? 輪……? みたいなのはなんなんだ?」

「知らんよ。まぁ、ティナ曰く……」

「おそらくこの周囲に見える虹色に近い青い光はこの次元潜行艦を覆う障壁が外の空間との間の衝突で起きておる力の奔流の余波じゃろう。まぁ、お主に言うてもわからんじゃろうが……空気との摩擦熱の様なものじゃ」

「す、すいやせん……さっぱりでさぁ」


 空気との摩擦熱と言われてもさっぱりらしい。バーンタインはティナの解説に恥ずかしげに頭を下げていた。まぁ、これを彼も超高速で動かせば燃えるだろう、と言われればわかっただろうが、学術的な話故にこう言ったから分からなかっただけだ。というわけで、わからないならわからないでも問題が無いティナはそのまま解説を続ける事にした。


「それで良い。ま、そういうもんじゃと覚えておけば何時かは役に立つやもしれん。というわけで、話を続けると……おそらくこの輪の様な物は外の次元の影響がわずかに出ておる、という所なのであろうな。言ってしまえば虹の単色がより強調されておる、というわけよ。外の影響がエネルギーの差として現れ、視覚的な差として現れておると思うておる。無論、流石にこの次元の裂け目の中で外に出たいとは幾ら余でも思わぬし、計測器を出してどうなるかがわからぬので単なる見える事から考えられる推測にしかすぎんがのう」

「……はぁ」


 バーンタインはティナの解説に間抜け面を晒すだけだ。そもそもこの前の段階で理解不能な顔をしていたのだ。この時点で何が何だかどころか理解を放棄していた。

 が、理解放棄でも良い。別にこんなもの知っていた所で戦闘には何ら一切の影響はないし、よもや冒険者としての仕事には何の影響も出る事はない。そして彼が生きる上で『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』に乗るのはおそらくそう何度も無いだろう。気にする必要もない。


「はい。では以上魔王様の一切理解出来ない次元潜行艦の次元潜行中の外の様子のお話でしたー……で、ティナ。一応聞いておくけど、到着までどれぐらいだ?」

「うむ。まぁ、ざっと半日ほどであろうな。今回は次元潜行……『熾天の玉座(してんのぎょくざ)』を使っての移動じゃし、何時かどこかでお主が言うた様に他次元の中まではどこの国の憲法も影響を及ぼさぬ。そして最終到着地は『冥界の森』。どの国も保有をしておらん無主の地よ。問題なく往来可能じゃ」


 カイトの問いかけを受けたティナがおおよその到着予定時刻を明言する。何時か言われていたが、エネフィアにも領土領海の概念の他に飛空艇の発展によって領空の概念がある。

 が、その領空だろうと、ここがどこだか内部に居るティナ達にさえわからない次元の境目の中には影響がない。そもそもここが空なのか地面なのかもさっぱりだ。果ては宇宙かもしれない。憲法上、流石に次元の領有については規定が出来ない。

 なのでおそらくは他国の領内を移動しているのであろうが、どこの国にも申請する必要が無いのであった。どういうふうに移動しているかわからないし、そもそも移動している事を誰も理解出来ないからだ。


「そうか。なら、今日の晩飯ぐらいからは向こうか」

「うむ。まぁ、お主にとっては慣れ親しんだ地なのやもしれんがのう」

「こいつの時におもいっきり駆け抜けたからな」

「うにゅ」


 カイトは相変わらず己の肩に腰掛けたユリィの頬を愛しげに撫ぜ、それに対するユリィもまた愛しそうに彼の指に頬を擦り寄せる。クオン達でさえ滅多な事では奥地までは行かないあの魔境。その奥まで進んだのは彼とバルフレアらごくわずかだ。

 そのバルフレアらとて何度も足を踏み入れたわけではない。行った回数や日数であればクオンらには負けるが、親しんだのであれば、彼の方が遥かに慣れ親しんだだろう。


「まぁ、どうせあとしばらくは自動操縦だろう?」

「うむ。万が一に次元の切れ目の様な物があり警告が発せられても艦内放送で伝わる様になっておるし、以前余が見た時に遠隔で操作出来る様にはしておるよ。なので好きにすればよかろう」

「あいよ……というわけで、各自シートベルトは外して好きに休みましょう。どうせ行けば地獄の真っ只中。休める時に休んでおくのが、重要だ」


 これから向かう先はこのエネシア大陸最大の魔境となる『冥界の森』。冒険者の中でもランクSの冒険者が最大の準備をして、その上で念入りな計画と絶大な精神の摩耗を覚悟して入る所だ。間違いなく、そう簡単に休めるとは思えない。であれば、休める間に休んでおくべきだろう。そうして、カイトも休むべくそのまま椅子に深く腰掛けて少しだけ目を閉じる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1457話『冥界の森』

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