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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第70章 クッキング・フェスティバル編

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第1454話 幻の肉

 マクダウェル領の四大祭。その中の一つ、秋の大祭。別名収穫祭と言われるこの祭典における最後の目玉の一つであるクッキング・フェステイバルの審査委員の一人であるウォルドーという皇都の三ツ星料理人。収穫祭の最中にも関わらず不参加の噂が流れた彼に事の経緯と参加の是非を確認していたカイトであるが、ひとまず参加については問題なく参加が彼の口から明言される。

と、そんな彼との話し合いの中、彼が料理の食材の一つとして魔物の食材を望んでいる事を知る事となる。そうして彼が通信を終えて情報を送ってくれるのを待つ間呆気にとられていたカイトであったが、我を取り戻した彼は呆れるではなく、大笑いを浮かべていた。


「あっはははははは! 面白いじゃねぇか」

「む?」

「いやぁ、料理にあそこまでの生命を掛けている奴は久しぶりに見たな」


 大笑いしたカイトは一転、目端に伝う涙を獰猛にウォルドーの在り方を良しと認め、称賛する。そしてだからこそ、カイトは一つ決めた。


「魔物次第だが……オレが直々に動こう」

「お主が?」

「客が全力を出したい、と言ったんだぞ? それに応えんで主がなんとする。大抵の困難な事ならば成し遂げてみせるオレだ。季節柄入手出来ない、流石に遠すぎるというのなら話が別だが、ランクSの魔物だろうと生け捕りにしてみせるぞ」

「はぁ……」


 また悪い癖の一つが出た。カイトの獰猛な笑みを見てその言葉を聞きながらティナが呆れ果てた様にため息を吐いた。そんな彼女に、カイトも笑みを引っ込めて明言する。


「わーってるよ。こんな話は聞くな、だろう?」

「わかっておるのなら言わせるでないわ」

「が……不可能を成してこそ、無理を通して道理を引っ込めてこその勇者カイト。あそこまで一つの道に生命を懸けた男にどうしてもこれが欲しい、とまで言わせたんだ。じゃあ、食ってみてぇじゃねぇか。その満点の料理をよ」


 王として苦言を呈するティナに対して、カイトは楽しげだ。ここら、ウォルドーは<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>の技術班に似ていたという所なのだろう。彼らに対して呆れる事の多いカイトであるが、同時に彼らの熱意を見てカイトが面白がってそれに勢いを付ける事も多い。と、そんな彼の言葉に、ティナも思う事があったらしい。


「ふむ……確かに、食べてみたいとは余も思うのう」


 あの狂態だ。そして彼が何十年と温め、今日に備えて準備していたレシピだ。間違いなく美味しい。二人は今まで数多の人物を見てきたからこそ、ウォルドーの作る料理が美味しいだろう事を見抜いていた。というわけで、二人は送られてきたデータを見る事にする。


「どれどれ……」

「ふむ……」

「「……」」

「……どうされたのですか?」


 資料を見るなり目を瞬かせてこてん、と首を傾げたカイトとティナに、椿が問いかける。


「……え、これまじで食ったの?」

「でなければ、言うとは思えんのう……」

「「あ、あははは……」」


 何者なんだ、ウォルドーは。カイトもティナも記されていた魔物の名前を見て、思わず乾いた笑いを上げる。確かに、狩ろうとすれば二人なら狩れる魔物だ。が、それでもそうならないと駄目な理由があった。と、そんな主達の様子に椿も少し興味を抱いたのか、資料を覗き込む。


「『偉大なる獣(グラン・ビースト)』の肉……? 存じ上げませんが、有名な魔物なのですか?」

「あっははははは! バカ言ってるだろ、この人! あれを食べたとか! マジ有り得んわ!」

「何がありえないのですか?」

「あはははは……はぁ。いや、まぁ……なんというか……」


 椿の問いかけにカイトは目端を伝う涙を拭う。これを手に入れてくれ。それは公爵家に頼んだ所で無理だとしか思えなかった。まず間違いなくカイトが動くか、公爵家の中でもカイトの正体を知り得る旧来の従者組しか狩れない魔物だ。

 それも、まず間違いなくかなりの強敵だ。カイトだって少しは気合を入れる。そんな魔物だ。これを食べれた事のあるウォルドーとはいったい何者なのか。素直にそう思うのも仕方がない。


「陸上の魔物の中では最上位の一体じゃ。ランクSの魔物……それもクオンらが強いと断じる様な化物級じゃのう」

「ク、クオン様が……」


 あのクオンが強いと断ずる魔物である。それは強いだろうと椿にもはっきりと理解出来た。それを、食べた。ティナさえ食べた事はなかったのに、だ。どれほどの腕があれば出来るのかさっぱりだった。


「まず間違いなくこんな奴の肉なぞ市場には出回らん。まぁ、美味っちゃ、美味なんだが……」

「お、お主食ったのか!?」

「一度な。武蔵先生にあの魔界に突っ込まれた一週間ででかい魔物みっけ、って食料にした。あれは確かに美味かった。ま、そう言ってもあの当時なんで出来たのはステーキだけだったが……ふむ……今度一度きちんとした調理を試してみるかね……」

「……余はお主が食っておった事がびっくりじゃ」


 どうやら、ティナがカイトが食した事を聞いてびっくりするほどの事ではあったらしい。と、そんな二人へと椿が再度問いかける。


「手に入れられないのですか?」

「いや、問題は無い。奴が巣食っている場所はわかっている。やろうとすれば一週間以内には行って帰ってこれる」

「まぁ……そうじゃのう」


 確かに可能は可能。それを知るティナはカイトの断言に同意する。が、場所が場所だった。


「『冥界の森』……その入口から先が奴の生息域だ。というより、この大陸ではあそこ以外には殆ど生息しないな。あそこから奴が出た、というだけで周辺諸国が連合を組むほどのヤバイ魔物だ」

「なっ……」


 カイトの口から告げられた場所の名前に、椿が思わず絶句する。『冥界の森』。それはこのエネシア大陸最大の魔境と言われる最悪の場所だ。生息する魔物の最低ランクはS。最低で最高位しかいないのだ。しかも転移術は禁止という特殊な力場が存在している。

 そこに居る魔物。それを食べたということはつまり、単騎で一国に匹敵するとさえ言われるランクSの冒険者達が徒党を組む魔境に挑み生還したという事でもある。ウォルドーは紛れもない強者で間違いないだろう。


「あそこから生還して、なおかつ奴の肉を食ったねぇ……マジバカというか……もうあそこまで行けばあっぱれだわ」

「生還……何故そう言い切れるのですか?」

「ああ、そりゃ簡単。あそこに行く様なキャラバンがそんな『偉大なる獣(グラン・ビースト)』を狩って肉を持ち帰る様な余裕があるわけがない。そんなキャラバンがあれば間違いなく伝説に近い話としてユニオンの歴史に残っているはずだ。が、それが無い。ということは自分で現地に行って食った、ってわけなんだろ」

「なるほど……」


 確かに、それはそうだ。カイトの推測に椿は道理を見て、頷いた。以前に言われていたが、『冥界の森』は間違いなしの地獄だ。魔物との交戦は可能な限り避け、荷物は最小限。必要とあらば魔力の吸収と新陳代謝の調整だけで――つまり飲まず食わずで――数日潜伏出来るだけの精神力と技術が必要となってくる。

 そんな所で呑気に魔物を狩って捌いてしかも持ち帰れる様な処理をして、なぞ出来るわけがない。出来て一食限り。その場限りの処置がせいぜいだ。

 カイトだって修行中にはあまりの危険度から一食分しか確保しなかった。あの場では処理している時間も惜しいのだ。それほどの危険度なのである。もしそんな事が出来るのなら間違いなく冒険者として超一流。三百年不在としたカイトでさえ知っているだろうレベルとなるだろう。


「にしても……本当に生命懸けてんなー……」


 呆れるしか無いとはこのことだ。カイトは素直にそう思う。なにせランクSの中でも最上位に位置する魔物を狩って食べたというのだ。しかもその味を覚えていて、それを料理しようとまで考えているという。おそらく冒険者の時代には本当に危険な所にまで食材を求めて旅をしていたと簡単に想像出来た。


「しょうがない。そこまでのバカがどうしても欲しいと言うんだ……今回は特例として手に入れてやろうじゃねぇか」

「行くのか?」

「ああ……オレとしてもあれをどう調理するのか気になる。部位を選ばずステーキでさえ美味だったんだ。それに専門の料理人の手が加わりどう変わるのか。ぜひとも拝んでみたい」

「ふむ……」


 それは確かに。先程も自身で同意したが、ここまでの料理バカがどうしても欲しいという食材だ。そしてその美味である事はカイトが明言した。であれば間違いなくゲテモノという事はないだろう。であれば、素直に食べてみたい。彼女もそう思う。


「とはいえ、流石におおっぴらに動けぬ余らじゃ。何かを考える必要はあろう」

「それなんだよなぁ……と、言いたい所なんだが。今回はちょーっと考えついた」

「うん?」


 カイトの言葉にティナが首を傾げる。先にも言ったが、『偉大なる獣(グラン・ビースト)』とはランクSの中でも最上位に位置する魔物だ。並大抵の戦力では勝ち目がない。国が総力を上げる領域だ。

 無論そこは二人なので単独だろうと片手間で倒せるだろうが、それは『勇者カイト』と『魔王ユスティーナ』の事だ。間違っても冒険部の二人で出来る相手ではない。というわけで、カイトはその考えとやらをティナに語った。


「今は収穫祭。世界各地から高名な冒険者達が集っているわけで……」

「キャラバンを組もうと? 面子は……ふむ。なるほど。中々に面白い面子が揃っておるのう」


 カイトの指摘に自分の頭で一度考えてみたティナは一転、確かに不可能ではない面子が揃っている事を理解した。今この場には八大ギルドの長達が集っている。確かに全員ではないが、それでも居るのは最低でもバーンタイン級だ。行って狩って帰ってくるのは十分に可能だった。


「椿。公爵家としての余興を一つ考えついた。来ている八大の長達に会談を要請してくれ」

「かしこまりました」


 カイトの指示を受けて、椿が早速手配に入る。どうせ彼らも暇は暇だろう。なにせ今は祭りだ。何か戦いに関する事が出来るわけではない。そろそろ、戦士であればどうしても持ち合わせる強敵との戦いを望む血の滾りが表に出ている頃だ。


「楽しい事になるな……」

「まー、間違いなく伝説にはなるじゃろうなぁ……お主がやる事なので何時もの事と言えば何時もの事なのであるが」

「そう、何時もの事何時もの事」


 カイトは非常に楽しげだった。こんな伝説や逸話を作るのは何時もの事だし、それに少年少女達は憧れを抱いてきた。カイトがそんな伝説にまた一つの華を添えるというだけだ。

 が、そんなぶっ飛んだ伝説を作る時は何時も、彼は楽しげだった。これが、カイトのもう一つの顔。冒険者カイトとしての顔だった。


「御主人様。皆様、夕刻以降であれば集合が可能なご様子です」

「おっしゃ。その間に準備を整えよう。椿、飛空艇の手配を頼む。必要なのは輸送艇一隻。軍用の大型で頼む」

「輸送艇一隻……で良いのですか?」


 カイトの指示を図りかね、椿が困惑気味に問いかける。これから行こうとしているのはこの大陸最大の魔境だ。軍であれば近くを通るというだけで一個艦隊を整える。なのに、輸送艇一隻。正しい判断とは言い難い。


「問題はない。オレ、ティナ、その他面々……単騎で飛空艇の艦隊数個分に匹敵する。数が居ると守りにくい。一隻で十分だ」

「……かしこまりました」


 確かに、それはそうだろう。そもそもカイトとティナだけでも十分だ。ならば、輸送艇一隻で良いのも頷けた。というわけで早速クズハらと連携して作業に取り掛かった椿の横で、カイトは深く椅子に腰掛ける。


「久しぶりだな、あの森に入るのは」

「森……というが実際には森とは言い難いがのう」

「まぁな。実際にはでかい荒野の方が多いしな……というか、お前。行ったことあんの?」

「最奥までは無いのう。入り口付近に数度、という所じゃ。入り口も中間付近までは入った事はない。君子危うきに近寄らず。危険がわかっておって無意味に突っ込むほど、余は馬鹿ではない」


 道理といえば道理な判断だろう。そもそもカイトだって少しは気合を入れる魔物が彷徨いているのが『冥界の森』の魔境だ。本来は迂闊に近寄るべきではない、というのが正しい判断だった。というわけで、その常識的な判断を聞いてカイトも頷いた。


「そりゃそうか……そう言えば完全踏破したのはオレとバルフレアだけ、だしなぁ……」


 実際、これから集める面子もどれだけがそこに立ち入った事がある事やら。カイトとしては素直にそう思うわけであるが、実力としては可能と見込んでいる。不安はない。そうして、カイトは自分が必要だと思った面子が揃うまでの間、しばらくその出立に備えた準備を行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1455話『最高の冒険者達』

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