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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第69話 収穫祭・中編

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第1451話 一つ終わって

 収穫祭の最中に行われたシャリクとシャーナの再会。これに従って護衛の任務を行う事になっていたカイトは、朝一番の再会の後もシャーナに従って護衛任務を続けていた。そんな彼らであるが、まず揃って早々に出掛けたのは土の大神殿だった。


「お待ちしておりました、シャリク陛下、シャーナ殿下」


 一同の来訪を受けて、土の大神官が頭を下げる。基本的にこの収穫祭は大精霊や収穫に関わる神々に感謝を捧げる為の物だ。なのでまず各種の神殿にお参りするのがマナーとされていた。

 なお、どの神殿に行くのかというのは人それぞれ、家それぞれで異なる。二人なら土の大神殿だし、例えば皇帝レオンハルトであればバランタインの血脈である事もあって火の大神殿に向かっていた。

 無論、ここ以外にもお参りに行っても良い。が、一番最初に行くべきとされていたのは、この自らの血脈や家で祀っている神族の神殿だった。


「ああ……何分初めての事なので、何か無作法があった場合容赦を頼む」

「いえ……勇者様のお言葉では、何より感謝する事が大切と。敬う気持ちさえあるのなら、多少の無作法は我らも咎めません。どうか、ご安心を」


 シャリクの断りに土の大神官がそう言って頭を下げる。シャリクが初めてというのは事実なのだが、それ以前としてラエリアの帝室――ひいては旧王室としても――としてもかなり久しぶりの事らしい。

 しかも、帝政に変わってから色々とまだ忙しい。なので作法としても不確かな所が多いとの事で、不勉強を承知ながら謝罪したというわけである。無論、それなら収穫祭に来ないのも手だったのだろう。

 が、まだ政情が不安定な今だからこそ前途を願って来るべきという意見があった事と、マクダウェル家に世話になっている以上は、とのシャリクの強い意思もあった。

 危険ではないかとも思えるが、この間に事を起こせば大精霊に詣でる事を建前としている以上、大精霊に喧嘩を売る事にもなってしまう。大義名分として大精霊に不遜を働いたとして諸外国や宗教界隈からの受けは最悪になってしまう。よほどの悪政でも行っていなければ謀反は起こせないし、よしんばよほどの悪政に事を起こそうにも、民や諸外国への風聞を考えれば大精霊を詣でている間は避けた方が良かった。


「そうか……では、少し失礼する」


 土の大神官の断りを受けて、シャリクがシャーナを伴って土の大神殿へと歩いていく。そうして、二人は大神官から話を聞き、為政者の務めとして幾ばくの寄進と記帳を行って大神殿を後にする。


「さて……では次だが……」

「はい」


 基本的にこれからどこに行くのか、というのは予め決められている。なので基本的にはそれに沿って動くだけだ。その横にカイトは従うわけであるが、彼はやはり職務がある。なのでその側に控えながらも常にはバリー達――と言うよりもシャリクが連れてきた護衛専門のオペレーター――と連絡を取り合っていた。


『次の予定となる神学校ですが、警備状態に問題無し。そのまま進めて大丈夫です』

「了解した」


 オペレーターの言葉にカイトはばれない程度に小さく了解を返す。ひとまず何も問題は起きていないらしい。次に向かうのは神学校で、あのジオラマを見るとの事であった。

 と言っても、流石にあの十字架については現物は使わない事にされた。やはりまだ詳細な検査が終わらないという事で、その代りにあの時カイトが見た模型を使って十字架を使う為に事前の準備をしている風景を視察するとの事であった。

 あまりに急な事で前後の予定が動かせない事と、連合軍の兼ね合いで皇国との協調性を見せる為にはどうしても必要だったとの事であった。ここら、教国と同じ判断をされたと考えて良いだろう。


「というわけで、これがこの間見付かった十字架を再現したもので……」

「ふむ……」


 ドゥニスの解説にシャリクが頷く。今日の一杯はシャーナはこの視察に同行する事になっている。なので真面目な視察はこれ一つという所で、後は基本的には図書館や美術館の観光の趣きが強かった。そうして、カイトはこの日一日彼女に付き従って護衛任務を行う事になるのだった。




 シャリクとシャーナの再会が終わってまた数日。一つの仕事が終わったからとて、カイトの仕事は終わらない。今度はアユルが来るのでそちらの手伝いもあった。と言っても、こちらについてはあくまでも手伝いという所だ。なので軸足は既に屋台に戻っていた。


「ふぅ……」


 教国から来た調査隊を見送って、カイトは一つ深く息を吐いた。先方の調査結果でも何事も無かったという事が確認された為、アユルの来訪についてもしっかりと行われる事になったのである。今の時期なのでいっそ無い方が楽といえば楽かもしれないが、それを言うのは野暮というものだろう。


「よし。これでひとまず問題はないか」


 とりあえずアユルさえ問題なく応対出来たのなら、中盤までの重要な来客については対応出来たと言って良い。カイトとしても一息つく事が出来るというものだ。

 と言っても所詮これは中盤が終わった、というに過ぎない。まだまだ収穫祭は続くし、後半になれば今度はまた別に客が来る。安心出来るわけではなかった。


「ルーファウス……は忙しいか。アリス」

「あ、はい。なんですか?」


 やはりルーファウスは武人だからだろう。書類仕事はアルと同じ様に軍の仕事としてやれない事はないものの、四苦八苦している様子だった。アルよりも四苦八苦していると言っても良いかもしれない。

 しかも、今は調査隊が急に来た直後だ。色々とやらねばならない事が増えたらしかった。そこをカイトは気遣って、アリスを呼んだのである。


「いや、ルーファウスがあの様子だからな。とりあえず準備はどうか、ってな」

「ああ、はい。それについては一通り問題無く進んでいます。エードラム卿も調査隊が問題無しと判断されたので、その際に指摘された問題点等を含めてマクスウェルに戻られました」

「そうか。なら、大丈夫そうだな」


 何か差し迫った問題は起きていないのだろう。ひとまずアリスの顔に焦りは見受けられなかった。更に言うと彼女のみ、今回のアユルの視察に同行しない事になっている。

 まぁ、彼女は見習い騎士。実力としては今回アユルの護衛の騎士達より数段落ちる。あの一件があった後だ。何かが起きた場合、彼女が足手まといになる。そこを鑑みた結果と考えるのが妥当だろう。

 それに最初から彼女は参加の予定は無かった。単にルーファウスと共に収穫祭の事前調査を、というだけだ。そこに色々とあってルーファウスには色々な仕事が出来てしまった、というだけだ。本来はアリス程度の忙しさが妥当なのであった。


「……そうだ。折角だ。収穫祭、楽しめているか?」

「はい……少し良かったのかな、と思うぐらいには……」


 折角なので問いかけたカイトに、アリスは少しだけ恥ずかしげに頷いた。何が折角なのかというと、カイトは一応は出向先の長でもある。なので一応の部下となる彼女がきちんと休めているのか確認する意味合いがあった。まぁ、更に言えば話のネタが無かったとも言える。


「そうか。それは結構だ。そう言えば聞いたんだが……アルの妹さんと会ってたんだって?」

「あ、はい。神学校に兄と調査に行った折り、偶然案内が彼女でした」

「そうか。助かったよ、部屋の件。色々と急だったからな」

「いえ……折角なので少しお話してみたかったですし……」


 カイトの感謝にアリスが恥ずかしげに少しだけ視線を逸らす。先にカイトが提案していたが、先の一件であの寮生達については現在天桜学園で宿泊しているホテルにて受け入れた。勿論、それでも十分な空き部屋があったのだが、当人達の希望によりアリスと同室となったそうだ。


「そうか……どうだった?」

「面白い方……と思います」

「それなら良かった」


 アリスの返答にカイトはただ頷くだけだ。カイトがルリアに出会ったのはまだ数回だけだ。それもあくまでも仕事、公人としてしか会った事がない。曲がりなりにもかつての仲間の子孫として機会があれば単なる私人として会いたい所であるが、今の所その機会には恵まれていなかった。と、そんなカイトはアリスと会話していて、ふと忘れていた事を思い出した。


「そうだ。そう言えば一つ忘れてた」

「?」

「えっと……少し待ってくれ」


 怪訝な顔のアリスに対して、カイトはこの期間の間自分の机となっている机の引き出しを漁る。そうして、椿が纏めてくれていたファイルの中から二つの手紙を取り出した。


「あった。神学校経由でアリスとルーファウス宛に妹さんから手紙が届いていたそうでな。いや、正確には神学校というより、ルリアちゃんなんだが……あの一件でこちらに回されてな。で、オレが二人の分を預かっていたんだ。調査隊だ何だですっかり忘れていた」

「あ、ありがとうございます」


 カイトの差し出した手紙を受け取って、アリスはそれをポケットに入れておく。なお、何故ルリアを経由したかというとこの手紙が届くのは丁度収穫祭の頃だと予想して、との事だ。彼女を経由して更にアルを経由して、二人に渡して貰おうと考えたそうである。

 アルが冒険部に所属している事は文通が始まった当初にルリアから聞いていたとの事で、そこに二人も居る事も彼女から聞いたらしかった。ルードヴィッヒからは軍務という事で詳しくは教えてもらっていないそうである。なので二人がどうしているのかは詳しくは知らず、自身や家の近況報告も含めて手紙をしたためたとの事だった。


「一応、聞いた所によると中身には検閲が入っている。なので何か問題になる事は無いとの事だ」

「はい……では、失礼します」

「ああ」


 とりあえずこれで必要な事は全部終わらせた。なのでカイトはアリスの言葉に頷いて彼女を下がらせる。それに何より、家族からの手紙だ。早目に読ませてやろうとの考えだった。


「さて……」


 アリスを下がらせたカイトはひとまず、書類を読む振りをしながら二人への手紙の事を考える。検閲の結果は当然だが、彼にも報告されている。一ギルドマスターであれば伝えられないが、領主には伝えられる。まぁ、それについては特に無し、というのが結論なのでカイトも特に思う事はなかった。


「特に何も無い、か。まぁ、それは良いか。にしても、会わないとだめかね」


 やはり立場が立場だ。カイトが現状ルーファウスとアリスを受け入れている。実態は監視と調査だが、名目上は助力だ。なのでルードヴィッヒには会わねばならないだろう。そこで二人の妹にも会う事になる可能性は高かった。


「どんな子かねぇ……」


 当たり前の話であるが、カイトはルクスの弟の事も知っている。彼とは自身が抱えたヴァイスリッター家とのやり取りを考えれば最後は良い別れ方を出来なかったと言わざるを得ないのだろう。

 しかしそれでも、一時期は懇意にしていた。なので少しだけ、彼の顔には楽しげな顔が浮かんでいた。と、そんな所にユリィが飛来した。


「どったのー?」

「ん? 仕事は終わりか?」

「とりあえずはね。エフイルさんとも打ち合わせ終わったし。神学校の子達も落ち着き取り戻せてるっぽいって」

「そうか。助かった」


 そもそもユリィが神学校の一件に関われなかったのは、学生達を落ち着かせる為だ。なので事件が終わった事もあり通常業務になっていた。今日はその後処理の一環をして、戻ってきたのである。そんな彼女は改めてカイトへと問いかける。


「で、カイトはどうしたの?」

「んー……いや、向こうの妹さんってのがどんな子かって思ってな。料理上手だ、という事は聞いたが……」

「そう言えば、その子だけ知らないね」


 カイトが気にした事でどうやらユリィも少し気になった様子だ。一応話の流れで少し聞いた事はあって、ルリアと同じく医学系に所属している事と料理上手だというぐらいは聞いた事がある。が、それ以外はとんと聞いていなかった。


「で、それがどうしたの?」

「向こうに行く時には会う事もあるかとな」

「ああ、そういうことね……で、これからどうする? 何か今仕事中?」


 所詮こんな事は特にどうでも良い事だ。本当に興味があればルーファウスなりアリスになり聞くだけだ。それをしない所をみれば、さほど興味があるわけでもないのだろう。というわけでのユリィの問いかけに、カイトは少し考える。


「いや、今は待機時間だ。何か出来るわけでもなくてな」

「そかー。じゃ、私出掛けてくるねー」

「ひでぇな、おい」


 ふわりと浮かぶユリィを見ながら、カイトが僅かに苦笑する。動けない相棒を完全放置で遊びに出かけるのだ。そう言いたくなるのも仕方がない。が、これも仕事である。というわけで、カイトはその後も少しの間問題が起きた時の為、その場に待機する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1452話『トラブルは終わらない』

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