第1445話 救出完了
『迷宮』のボスであったクラス2『守護者』を討伐した事で開いた宝部屋への扉。カイト達は要救助者達の前で宝を確保する事は流石に無作法だろうと判断した為、先遣隊とホタル、一葉達が守る寮に戻る前にお宝を確認していた。
そうしてそこにあった三つの宝物、旧文明の資料二つと何らかの力を有しているらしいネックレスを確保すると、それを手に要救助者達の待つ神学校の寮へと帰還していた。そんな彼らを出迎えたのは、寮の前庭にて陣を敷いていたヴァイスであった。
「うむ。戻ったか。お嬢はともかく……坊は何時も通りボロボロか」
「爺さま。こちらに問題は?」
「特にはなにも」
クオンの問いかけにヴァイスははっきりと何も起きなかった事を明言する。その一方、カイトはホタル達からの報告を受けていた。
「そうか。蜘蛛型ゴーレムが襲ってくる事は無かったか」
「はい。途中、あの通りこの階層に蜘蛛型ゴーレムが来たので本機を含め警戒はしておりましたが……奴らは中央の建物を警戒するだけで、こちらには一切の興味を示す事はありませんでした」
「まぁ、道理だろうな」
ホタルの報告を受けながら、カイトは横目で彼らが中央の建物を出ると出迎えた蜘蛛型ゴーレムを見る。一同がこの階層にたどり着くと一切の追撃を止めた蜘蛛型ゴーレムであるが、ホタル達の報告によれば彼らがドームに入った頃にこの階層に降りてきたらしい。おそらくドームに動きがあった時点で何らかの通知が出る様になっているという事なのだろう。
「うむ。あの中にはやはり『守護者』がおった。おそらく、それが万が一にでも外に出るのを防ぐ為という所じゃろう。いや、もしやすると自爆してでも『守護者』の戦力を削ぐつもりやったのかもしれん」
今となっては、それはわからないが。ティナは今はもはや動きを完全に停止した蜘蛛型ゴーレムを興味深げに観察しながらそんな推測を口にした。彼女らの予想ではこの『迷宮』はある種の『守護者』の封印装置だ。
蜘蛛型ゴーレムが襲ってきた理由は力無き者にこの『守護者』の封印を解かせない為。最下層に入らなかったのは、ここまでたどり着けたのなら討伐可能かもしれないと判断されたからだろう。ドーム横の台座には封印を解く為の術式が記載されていた事を考えれば、これが一番筋が通った。
「そして役目を終えた今、もはや戦う必要もない、という事か」
「うむ」
「……長いお役目、お疲れ様でした」
ゴーレムとは制作者の命令を受けて疑問を持つ事もなく延々と働き続ける機械だ。そして今の今まで旧文明の崩壊より二千年以上もその役目を果たし続けていただろう。
それ故、そんな蜘蛛型ゴーレム達に向けてホタルが小さく――それこそ自分さえ気付かない程に小さく――頭を下げて労をねぎらう。そんな彼女にカイトとティナが思わず目を丸くして、カイトが微笑みと共に頷いた。
「そうだな……お疲れ様」
「うむ。長き役目、大義であった。今はただ、ゆるりと休むが良い」
「っっっっ」
そんな主と制作者の片割れのねぎらいの言葉を聞いたからだろう。ホタルは自分がねぎらいを口にしていた事に気付いたらしく、顔を真っ赤に染めていた。
「ははは。随分とお前も成長したもんだ」
昔なら、何の感慨も抱かなかっただろう。そんなかつてとは違う今のホタルを、カイトは只々良しと認めるだけだ。そうあってくれというのが彼の願いであり、彼女を作った者たちの本当の願いだ。そう在れる様に段々と近付いている様子だった。が、やはりホタルは恥ずかしそうだった。そんな彼女を横目に、カイトは楽しげに歩き出す。
「さて……とりあえずこれで任務は完了だろうな」
流石にこの状況で何かが起きるとは考えにくい。既に蜘蛛型ゴーレム達は任務を終えて停止している。そしてここは人造とはいえ『迷宮』。魔物も『迷宮』のシステムが正常に機能している限りは出ない。故にカイトは後は脱出するだけだと判断する。
「ティナ。このあとの手はずは?」
「うむ。当初の予定通りこのまま脱出で良いじゃろう。荷物についても問題はあるまい」
「建物は大丈夫……になると信じるしかないか」
「大丈夫の可能性が高かろう。この『迷宮』は既に封印装置としての役割を既に終えた。であれば、この様な人造の『迷宮』は消えるが道理。そしてその際には取り込んだ物は元通り外に出るのが流れじゃ。インフラ設備についても、元通りに戻ろう」
カイトの懸念を聞いたティナは論理的に問題はないだろう、と明言する。とはいえ、そうならない可能性もある。なのでこの脱出についてもしっかりと考えていた。
『迷宮』の崩壊が起きるのはこの『迷宮』に挑んだ者たち、すなわちカイトらが出た後だというのが大方の予想だ。最初から居た要救助者達を後にすると、どうなるかわからない。なので彼女らが出た後にカイト達が出るというわけであった。
順番としてはヴァイスら先遣隊、要救助者達、カイト達という順番だ。外がもし未知の空間に繋がっていても大丈夫な様に、というわけであった。
「そうか……なら、とりあえず支度させるか」
「うむ。とりあえず最低限の荷物を持って脱出じゃな……では、こちらはその指示を行おう」
「頼む」
ここからは軍の指揮官としてのティナの役割になる。冒険者の統率役に過ぎないカイトの出る幕ではない。というわけで、あとのことはティナに任せてカイトは脱出の用意が整うのを待つことにするのだった。
カイトらがボス戦を終えて先遣隊と合流してから体感時間としてはおよそ二時間。要救助者の体感時間として事件発生からおよそ二十四時間が経過した頃合いだ。その頃になり、おおよそ全ての脱出の準備が整ったとの報告があった。
「では、これより脱出する。生徒達を軍の兵士と冒険者達で挟み込む様に隊列を組め」
要救助者達が全員寮の外に出て並んだのを受けて、ティナが救助隊全員に指示を出す。そうして全ての隊列が組まれた事が確認出来た所で、一同が揃って歩き出した。
そんな道中。やはり専門分野だからだろう。イストリアとドゥニスの専門家達が興味津々という具合で中央の建物に至るまでの建物を観察していた。
「ふむ……これが……イストリア。君はこの構造をどう見る?」
「ふむ……あの装飾の形状。北部で見付かった遺跡にある装飾に似ていないか?」
「やはり、君もそう思うか。だが、あの下の構造。どこかエネシアの旧文明の影響も見えないか?」
「む……そういえばそうだな……これは初めて見る形かもしれない。ドゥニス。そっちの記録装置のデータ、後でこちらにも回してくれ。じっくりと確認したい」
どうやら専門家達からしてもこの『迷宮』は色々と興味深い所があるらしい。熱心に観察しながらカメラで記録していた。なお、流石に彼らもここに残るとは一言も言わなかったらしい。
どうやら『守護者』の一件で冷静になったらしい。素直に指示に従って脱出してくれていた。とはいえ、そんな脱出の際に記録用のカメラを持ち出したあたり、学者という事だろう。その一方のカイトはというと、彼も隊列に加わりながら近くのルリア、アルの二人と話をしていた。
「私……一応これでもヴァイスリッターなんですけど、『迷宮』には初めて入りました」
「そうなのか?」
「あー……そう言えば僕らが駄目って言ってたっけ……」
一応言えばルリアにもきちんと護身術程度の戦闘は習わせている。彼女の役割は治癒術者。しかも野戦病院等をメインとした応急処置も学んでいる。更に言えば実戦経験もある事はある。
本来はこういった『迷宮』を探索する部隊に加わる事も出来るのだが、彼女はリジェと同じく飛び級をしていない関係で軍属ではない。なのでアルやルキウスが駄目と言って参加させていなかったらしい。なお、ならばリジェはというと彼の場合は後に軍属が確定しているし、そもそも冒険者も兼業しているので普通に入っているし彼らも拒まない。彼女のみが未経験だったというわけである。
「とはいえ、君もお手柄だったらしいな」
「い、いえ! 一応これでも医療従事者見習いですし……それに生徒会の役員も……」
カイトの称賛にルリアが真っ赤になりながらボソボソとそう言い訳を行う。やはり家が家だし、そもそもが兵士達の治療等に関わる事をメインとしているからだろう。
確かにこういう軍事行動への参加経験は無いそうだが、野戦病院等へ研修に入った事はあるらしい。その一環で唐突な魔物の襲撃で混乱する村への支援もした事があったらしく、唐突な事件に混乱する生徒達の精神的な支柱の一人となったそうだ。大きな混乱もなく、下手に脱出を計画する事もなく救援を待つ事が出来たのは間違いなく彼女らの手柄と言えた。
「カイト、お願いだから妹口説かないでよ」
「あっははは。可愛らしい女の子だからな」
「うぅ……」
楽しげにカイトはアルの苦言をスルーし、一方のルリアはこれが社交辞令の様なものだとわかっていてもやはり照れ臭そうだった。と、そんな感じで歩く事少し。一同は中央の建物に到着する。
「ここが……」
「これは……すごいな。こんな建物、どの遺跡にも合致しない形状だ」
「おそらく崩壊前の最後の最後に作られた特別な構造なのだろう。歴史的な発見だ」
やはり一番興味があった建物だから、だろう。思わずイストリアとドゥニスは足を止めて観察をしていた。そんな二人に、カイトは苦言を呈する。
「先生方。申し訳ないが、時間は無い。今はその取れただけの記録で我慢してくれ」
「「あ、うむ……」」
無念そうではあったが、やはり仕方がないとはわかっているらしい。二人は不承不承な感じながらも再び歩き出す。
「やれやれ……これを見せないで正解だったか。見せたら確実に用意が滞っただろう」
「それは?」
「この『迷宮』のお宝って所か。何かはわからん。他にもあるが……あっちはティナ持ち。これはオレしか持てないっぽくてな」
アルの問いかけにカイトは手に入れたネックレスをくるくると弄びながらため息を吐いた。こういう興味本位の学者達はカイトもよく知っている。なので怒るでもなく、ただ呆れるだけであった。そうして更に歩き続けて、一同はドームの中央にある『転移門』にまでたどり着いた。
「さて……アル。お前らが先だ」
「うん……じゃあ、二人共また後で」
「ああ」
「うん」
『転移門』にまでたどり着くと一度隊列を崩してアルが先遣隊に加わる。アルとリィルは先遣隊ではないが、先遣隊の戦力を鑑みて二人は先遣隊の中でもヴァイスの直轄として先に行く事になったらしい。そうして、先遣隊が『転移門』に消える。そして、全員が消えてすぐ。残っていたティナが指示を出した。
「では、一人ずつ外に出よ。向こうでは既にヴァイス殿率いる部隊が事情を説明し、待っていてくれているはずじゃ」
ティナの指示を受けて、最初に教師の一人が『転移門』の先に消える。そうして教師の半分が『転移門』に消えた所で生徒達が『転移門』に消えていき、それが終わった所で残り半分の教師達が『転移門』に消えた。そうして要救助者達が『転移門』の先に消えたのを見届けて、カイトは一つ頷いた。
「良し。ホタル、生体反応は?」
「我々以外に感無し。要救助者はゼロです」
「良し……じゃあ、全員脱出ー。お疲れ様っしたー」
「ほれ、全員さっさと出ぬか」
カイトの号令に合わせて、ティナが残っていた何時もの面子に退去を促す。そうして一人また一人と脱出していき、ティナさえも消えた後に残ったのはカイトだけだ。
彼はあのネックレスを持っていた。それ故、最後に脱出するべきだろうと判断されたのである。そんな彼はティナが一足先に脱出したのを見届けて、何故か立ち止まった。そうして、『守護者』が封じられていた装置を見る。
「『守護者』を封じた、ね……運が良い。いや、この場合は異常ではないと処理されたので、か?」
やはりかつてはシステム側の存在だったからだろう。カイトは今までこの『迷宮』が『守護者』を封じていられた事をそう評した。そうして、彼は呆れ気味に首を振る。
「通常、『守護者』を封じたとなってはその一つ上の『守護者』を呼び込む呼び水になりかねないんだが……正常な個体で無かったが故になんとかなった、という所かね」
もしこれがクラス3だったら今頃エネフィアは無かったな。カイトはそう苦味を滲ませて笑いながら、手に双龍紋を浮かび上がらせる。その上で更に<<共鳴神化>>を起動。更には大精霊達に力を借りて、痕跡も残さず封印装置を破壊し尽くした。
自身らが出た後にまた来れるかはわからないが、この封印装置が解析されれば非常に面倒だ。もし万が一、後世にこれが解析されて『守護者』を封じようとする者が現れれば、彼が危惧した懸念が現実になりかねない。完全に抹消する必要があった。
実は彼が最初にここが『守護者』の可能性を指摘しなかったのは、歴史上この上位ランクの『守護者』が出ていなかったからだ。可能性の一つとして考慮していたが、絶対視はしていなかったのである。
「設計図がどこかにあれば、破棄する様に手はずを整えるか……ったく……」
面倒事ばかり残しやがって。僅かな恨み言を残して、カイトもまた『転移門』を通って『迷宮』を後にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回予告:第1446話『ミッション・デブリーフィング』




