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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第69話 収穫祭・中編

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第1438話 下層へ

 カイト達がラエリア内紛において発見した旧文明の遺産の一つ。それの解析の最中に起きた事故によって、神殿都市にある神学校の一部が『迷宮(ダンジョン)』化するという事態が起きていた。

 それに巻き込まれた学生や教員、研究者達の救助の為、カイトはティナやクオンら腕利きの冒険者、妹が巻き込まれているアルら軍の一部腕利きを引き連れて突入していた。そんな彼は先遣隊を率いている<<八天将(はちてんしょう)>>の一人老雄ヴァイスと合流すると、彼との相談の後、方針を決めて要救助者の待つ下層へと向かう事になっていた。


「あれが、下層への入り口じゃ」

「ふむ……」


 カイト達が来るまでの僅かな間に最上階となるこのエリアを探索してくれていたヴァイスが下層への入り口らしき大きな昇降口を指し示す。彼の指し示した先にはなだらかな勾配があり、何体もの蜘蛛型ゴーレムが屯している様子だった。


「かなり広いですね」

「うむ……複数体が並んでも問題は無い」

「どうなるかね……」


 昇降口の左右の広さはおよそ30メートル程度。高さもそれに見合って高く、5メートルクラスの蜘蛛型ゴーレムでさえ自由自在に動き回れるだけの広さがある。出来るかどうかはわからないが、天井に張り付いて動いても十分な広さだろう。全方位からの包囲を考える必要がありそうだった。

 許可なく如何なる存在も通すつもりはない。そんな様子である。そんな様子を見れば、カイトもヴァイスが作戦会議の際に言っていた事が正しいと理解出来た。そしてそれ故、彼はため息混じりにこの結論を出すしかなかった。


「はぁ……強行突破しかなさそうですか」

「無い、じゃろうて」


 いくら内部に小型の魔導炉を積んでいるとて、補給の必要が無いわけではない。更に言えば幾ら『迷宮(ダンジョン)』だろうと劣化もする。なので修理と補給の為、時折小さな修理用らしきゴーレムが昇降口へと入っていくのが見えた。どう考えても動く様子が無い。


「……良し、やろう」

「うむ……総員、戦闘用意。と言っても安易に前に出るのはせず、腕利きに前を任せお主らは後ろに下がり戦え」

「「「はっ」」」


 カイトが覚悟を決めたのをきっかけとして、ティナが号令を下す。どうせ軍の兵士なぞあてにならない。せいぜい足止めになってくれれば良い方だ。なら、カイトを筆頭とした腕利きが活躍すべきだろう。

 なお、カイトについては軍の身分を使わず冒険者としての偽名を活用している。魔導機テスト・パイロットのカイムはここに入れる程の腕前ではないからだ。

 一方のティナが指揮官である理由は、ここが何かわからない為である。技術的な側面からの意見が欲しい場合が出るかもしれないからだ。また、カイトの方は今後のルクセリオン教国にて偽装する為の実績の一つを作る兼ね合いもあった。と、そんなカイトへとクオンが問いかける。


「カイト。一気に殲滅可能?」

「強襲の為の先鞭をつけるぐらいなら」

「アルフォンス。貴方、突貫出来る?」

「……流石に遠慮したいかな」


 クオンの重ねての問いかけにアルは少し考えた後、はっきりと首を振った。どう考えても自身が先の蜘蛛型ゴーレムに囲まれて生還出来る見込みが見受けられなかった。それを受けて、クオンが指示を出した。


「……カイト。斉射後、突貫お願い。ソレイユ、貴方は背後からの敵へ一斉射。背後の敵を牽制。カイトは突貫次第、掃討お願い。ある程度減らしたらこっちからも行くわ」

「りょーかい」

「あいよ」


 クオンの指示にカイトは頷くと、何時も通り無数の武器を己の保有する異空間の中へと生み出した。異空間の中なのはこれが奇襲かつ強襲だからだ。全ての準備が整うまで、バレてはならない。そうして静かに、しかし慌ただしく用意が整えられること一分。ソレイユとカイトが頷きあう。


「ソレイユ。後ろは任せる」

「はーい。にぃ、引っ張ってねー」

「あいよ」


 ソレイユに引っ付けた魔糸をカイトは再度確認して、一つ頷いた。そうして、彼は建物の屋根の縁に立つ。


「……」


 深呼吸を一つ。それで、カイトは異空間の中に貯蔵した無数の武器を一斉に顕現させて斉射を開始する。が、全ては使わない。使うのは半分程度。後は突貫後に敵陣で使うつもりだ。


「ふぅ……」


 カイトは斉射を行いながら、屋根の縁から地面へと飛び降りる。そうして自由落下に身を任せ蜘蛛型ゴーレムのレーザを回避しながら軽やかに着地したと同時に、流れる様に地面を蹴った。


「はぁああああ!」


 魔力を纏わせながら、カイトは突進を仕掛けて蜘蛛型ゴーレムを吹き飛ばして突き進む。が、幾ら彼の膨大な魔力を背景にしようと、後ろに味方が居るのだ。彼らの道を作るという目的がある以上、ある程度まで突き進むとそこで止まって切り開いた道を維持する必要があった。というわけで、彼はある程度進むとその場に停止する。


「さぁて」


 当然だが、敵が見つけ出したのはカイトただ一人。まだ全員が隠れている状態だ。それ故、蜘蛛型ゴーレムは全て即座に彼の方を向いて包囲を開始する。これだけ広いのは間違いなく、数を並べる為で間違いないのだろう。

 が、それを理解していたからこそ残弾を残していたのだ。故に、彼は自らが360度完全に包囲されるのを確認するのを待って、一気に残っていた武器を発射した。


「行け!」

「良し! 今じゃ! 突破せよ!」

「「「おぉおおおお!」」」


 カイトが敵陣を切り裂いたのを受けて、ティナが号令を掛ける。それを受けてクオンら冒険者を先頭にした兵士達が突入し、同時に彼女は魔術を使い昇降口へと投じて更に前への道を切り開く。その一方、ソレイユは残って背後から昇降口目掛けて一直線に突き進む蜘蛛型ゴーレム達へと斉射を開始していた。


「うわっ! なんか無茶苦茶多い! けど……」

「どうした?」


 唯一ソレイユと共に残るティナが背後で魔力で編んだ矢を連射する彼女へと振り向く事なく問いかける。それに、ソレイユが真剣な眼で答えた。


「……ある程度の数が残って出口は封鎖してる。多分、出られたくないっていうのが正しいと思う」

「ふむ……」


 どうやらヴァイスが述べていた事が正しかったらしい。全てで追撃する事はなく、ある程度の数はこちらとは逆側、すなわち出口側へと向かっていたらしい。それにティナは原因を考えようとして、即座に首を振った。今は、考えるタイミングではない。


「ソレイユ。先に行くぞ」

「ん」


 やはり相手の数と出力だ。ソレイユとてかなり力を入れて牽制を行っている。が、相手はゴーレム。自らの損傷はある程度無視している為、牽制も衝撃波で吹き飛ばす事が主眼となっている。中々に厄介な状況と言えた。

 とはいえ、そのためにカイトの支援を入れているし、その支援を行う為にもティナもこの場から先に進む必要がある。故に彼女は滑空の要領で昇降口へと突っ込むと、軍の兵士達を守る様に武器を投射するカイトと合流した。


「後はソレイユだけじゃ!」

「あいよ! ソレイユ!」

『はーい!』


 魔糸を介せば念話も使える。それを会議の中で把握していたカイトとソレイユは魔糸を介して会話を行うと、即座に彼女の回収作業に入る事にした。そうして、矢の斉射をやめて弓を背負った彼女が合図を送るとカイトが編んだ魔糸が彼女を包み込み、カイトは一気にそれを引っ張った。


「おらよ!」

「わーい!」

「ほいよ!」


 高速で飛来したソレイユは空中で魔糸から解き放たれると、飛び込む様な姿勢でカイトへと抱きついた。そうして数回転して、カイトは彼女を地面に降ろした。


「頼む」

「はーい!」


 ここからは、ソレイユの出番だ。故に彼女は下へ向けて矢をつがえると、力を収束させていく。周囲についてはクオンや軍の兵士達――抑える程度なら軍の兵士でも出来る――が抑えてくれているので、十分に力を溜めた矢を放つ事が出来た。


「みんなー! どいてー!」


 ソレイユの掛け声を受けて、下層への道を封じていた蜘蛛型ゴーレムと戦っていた面子が一気にその場を飛び退いて射線上から退去する。そしてそれを確認し、ソレイユが矢を射る。


「にぃ!」

「あいよ! しっかり掴まってろ!」

「はーい!」


 矢を放つと同時に再度弓を背負ったソレイユはカイトの背に飛び乗ると、しっかりと掴まった。そしてそれを受けて、今まで防衛戦に関与しなかったカイトは再び異空間の中に蓄積した武器の山を己の通った後の左右に顕現しながら突進して、ある程度まで進むと再びそこで停止する。


「良し! 準備完了!」

「良し、進め!」


 カイトの合図を受けて、ティナが再度号令を掛ける。そうして再度救助部隊が前進し、その一方でカイトは武器の連射を続け蜘蛛型ゴーレムを牽制しながらソレイユを背から降ろした。


「ソレイユ、頼む」

「はーい!」

「良し! では、次弾装填!」


 ソレイユがカイトに代わって敵の牽制を開始し、更にティナ率いる本隊が合流すると今度はソレイユもまた牽制の手を止める。そうして再び先ほどと同じ様にソレイユが矢を放って前の敵を蹴散らして突き進み、何度か同じ事を繰り返す事となる。そして数度の突進の後、彼らは遂に次の階層へとたどり着いた。


「良し! 出たぞ!」

「良し! 総員、一度身を隠す! あの建物へと跳べ!」


 昇降口を出ると同時に、ティナが即座に指示を下す。このまま追撃を受け続けては最後にはどれほどの量になるかわからない。敵が出口を守りたい以上、深追いはしないと判断したのである。

 そうして彼らはこちらを待ち受けていた蜘蛛型ゴーレムの群れを飛び越えて、ティナの指し示した建物の屋上へと飛び乗った。

 が、これで終わりではない。昇降口の中で見たが、あの蜘蛛型ゴーレムは屋根の上にも貼り付けていた。その間は前腕のチェーンソーは使えない様子だったが、つまりは上ってこれるのだ。

 最悪は建物を崩される。であれば、即座に別の建物に移って身を隠す必要がある。幸い素早さであればこちらの方が上だ。追跡を撒けるだろう。


「良し」


 指定された建物の屋根に着陸すると、カイトは静かに頷いた。ここからは急ぎながらもばれない様に動く必要がある。そうして全員が一度最初の作戦に沿って三つの部隊に別れて散開して、手頃な建物の中へ身を隠す事にした。


「ふぅ……」


 追跡してきた蜘蛛型ゴーレムの視界から消えた事を確認して飛び込んだ建物の一つにて、カイトは一つ深呼吸する。彼が率いている隊にはソレイユが一緒だ。突進の際に彼女を背負う事になるので、そのまま一緒の方が良いという判断である。他にはクオンとヴァイスが一緒で、ティナとアイナディスが一緒だ。アルとリィルはそれぞれクオン組、ティナ組に分かれて配置されている。


「にぃ、とりあえず大丈夫っぽいよ?」

「そうか……うん、大丈夫そうだ」


 カイトはソレイユの報告を聞きながらも自らの感覚を研ぎ澄まして、ゴーレム達がこちらを見失った事を確認する。無論、まだこちらを探しているので迂闊な事は出来ないが、少なくとも身を休める事は出来た。


「総員、現在時より三十分この場に身を潜める。その間に可能な限り休息と補給を行え」

「「「了解」」」


 カイトの指示を受けて軍の兵士達が小休止を取る事にする。三十分後にもしまだ警戒が厳しければ、更に十分様子見だ。ここらは突入前に話し合った事で、最長一時間は待機する予定だった。それ以上待っても状況に変化が無ければ、もうこれは状況に変化が無いと判断した方が良いと考えたのである。

 そうしてその待つ間にカイトとソレイユは現在地を確認して、次の合流ポイントを策定する事にする。これについては偵察兵としても一流の腕を持つソレイユが同行している事、カイトという最大の戦力が居る事で彼らが決定して先行する事になっていた。


「ここは……上と同じ様な空間か」

「『迷宮(ダンジョン)』だからじゃない?」

「か……」


 レガド内部にある人工的な『迷宮(ダンジョン)』がそうであった様に、人工であれど『迷宮(ダンジョン)』である以上はある程度『迷宮(ダンジョン)』のルールに則った構造を設ける必要があった。

 例えば『迷宮(ダンジョン)』には出入り口を設けなければならないというルールは絶対遵守しなければならないし、他にも下層なり上層なり別階層を設ける場合は必ず移動出来る様にせねばならない。部屋や空間についても、ある程度画一化しなければならない。それを鑑みれば、同じ様な空間となっているのは仕方がない事と考えて良いのだろう。


「……とりあえずあの一番高い建物を目指すか。あそこなら、合図を送りやすいだろう。逆に見やすくもある」


 カイトは一番高い建物を合流ポイントとして設定する。そうして、彼らは三十分後に設定した合流ポイントへと移動する事にして、そこの安全が確認出来た事でティナ達と合流する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告第1439話『救出』

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