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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第69話 収穫祭・中編

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第1435話 未知なる迷宮へ

 神聖帝国ラエリアの帝王シャリク来訪に際して、マスコミ向けに行われる事になっていた神学校に併設された歴史学科への視察。それの要件の一つとなっていた冒険部が内紛に介入した際に見つけた遺跡から見付かったという十字架状の宗教的アイテム。

 そこに施されていた封印に気付いたカイトの意見を受け、シャリクの来訪の前に安全性の確認を取る事になっていた。が、その作業の最中、ティナの施した安全策をも取り込んで『迷宮(ダンジョン)』が出来上がるという不可思議な現象が起きる事となる。そんな事態の急変を受けて、カイトは関係各所へと伝達と協力を要請していた。


「はぁ……面倒な事になったぞ、と……ティナ。何かわかったか?」

『いや……流石に中に入って見ねばわからぬ。空間と次元の連続性は断たれていた。その筈なのに空間を侵食して『迷宮(ダンジョン)』化なぞ、到底道理にそぐわぬ。何か余らも分からぬ事が起きていると断言して良い。というより、そう断言するしかあるまい』


 カイトが皇帝レオンハルトら関係各所へと伝達を送っていた一方、ティナは神学校に入って現場を隔離するべく動くと共に、現場の指揮を行ってくれていた。が、そんな彼女もやはり現状に頭を悩ませていた。どう考えても道理に合致しないからだ。


「『迷宮(ダンジョン)』については?」

『中に先遣隊として軍の偵察部隊が入った。が、出てはこん。生命反応は途絶えておらんな。完璧に遮断されているわけではなさそうじゃ』

「幸か不幸か、という所か……」


 反応としては『迷宮(ダンジョン)』と一緒。であれば構造としてもやはり『迷宮(ダンジョン)』と同じというわけだろう。これが脱出口のある『迷宮(ダンジョン)』であれば楽だったのだが、その可能性は低そうだった。


「とりあえず神学校については実験のミスにより該当エリアについては学生達も立ち入り禁止。校舎や寮については?」

『それがのう……一つずつ飲まれた様子じゃ。まぁ、幸いこの時期なので学生の多くが外に出ておった為、被害に遭った生徒は限られておるが……』

「苦い顔だな。何かあったか?」

『アルの妹も巻き込まれたようじゃ』

「ちっ……」


 カイトはティナからの報告に一つ舌打ちする。とはいえ、焦りは禁物だと一転首を振った。


「確か寮には非常時に備えた結界があるんだったな?」

『うむ……これについても正常に起動していると反応が返ってきておる。おそらく、じゃがのう』

「内部がどうなっているかが気になる所だが……そこは踏み込まないと駄目か」

『しか、あるまいな。で、突入部隊については決まったか?』

「ああ。それについては既に決定済みだ。今回は少数精鋭で突っ込む。何が起きるかわからんし、外は祭りの真っ最中。あまり大事にもしたくはない」


 ティナの問いかけを受けたカイトは机の上の機材を操りながら、準備の進捗についてを合わせて確認する。


「とりあえず残留の軍はクズハ達に統率を任せた。事の性質を考えればアウラも連れていきたい所だが……外からの解析次第ではリルさんの方で必要になるかもしれん。なので残留を頼んだ。ユリィも同じく残留だな。学生たちの慰撫があいつの仕事だ。連れて行けん。突入にはオレ以下、規模があった場合の対応にソレイユを連れて行く」

『兄の方はどうする?』

「フロドは外部で残留だ。周辺の警戒をして貰いたい。同じく、規模の関係から<<暁>>には外部での警戒を依頼した。その代り、内部への突入は近接戦闘にクオン、アイナを連れて行く」


 どうやら、カイトは本当に少数精鋭を考えての人選を行っていたらしい。大戦期のエースを駆り出すつもりだった。


『ふむ……やはりそこらの面子を駆り出すか』

「流石にこの状況が掴めん。何が起きているのか。それが掴めん限り、安易な行動は控えるべきだろう。ああ、後それとマスコミ向けにアルとリィルの二人も連れて行く」

『む? ああ、これも一種のデモの様にしてしまおうという話か』

「言い方は悪いが、な。まぁ、二人なら英雄の子孫として見栄えが良い。隊列に加えて損はない。それにアルの場合は妹の事もある。危険性がわからないのが厄介だが……流石にこの面子なら問題は起きない、と信じたい」


 カイトは希望的観測だが、と言外に告げながら首を振る。流石に彼以下ティナやらクオンやらこの世界でも最上位に位置する面子を連れて行くのだ。大抵の事ならなんとかなると信じたかった。それでももし無理なら、カイトとて考えがあった。


「それでも駄目なら……まぁ、流石に祭りの最中だ。こいつを使う」

『……まぁ、此度ばかりは仕方がないか』


 カイトが取り出したのは<<星の剣(無銘)>>だ。それを見てティナも苦い顔であるが、今回ばかりは流石に彼女にも原因が掴めない。対処出来るかどうかも不明だ。

 が、対処出来なくてもこの剣なら、法則そのものを書き換えて元通りに出来る。最悪は、これを使って強引に『迷宮(ダンジョン)』化を終わらせてしまう腹づもりだった。と、そんな話をしていると、カイトの所に報告がまた上がった。


「……ん、わかった。ティナ。準備が一通り終わったらしい。現地集合だから、オレも向かう」

『うむ……っと、こちらもどうやらリル殿が来られたらしい。少々挨拶に向かう』

「わかった。オレもすぐに向かう」


 どうやら全員の準備が終わるのはほぼ同時だったのだろう。カイトは己も掛けておいたロングコートを手に取ると、急ぎ足で神学校へと向かう事になるのだった。




 さて、カイトが神学校にたどり着いた時には大半の人員が揃っていて、既に突入可能な状態まで秒読みという所だった。ということで、彼はその準備を進めさせる傍らで解析をティナから引き継いでくれていたリルへと挨拶に向かっていた。


「リルさん。ありがとうございます」

「いいのよ……随分と不思議な事が起きている様子ね。私もこんな事は寡聞にして聞いた事がないわ」


 どうやら、リルとしても学者として興味深い話だと思っているらしい。これについてはティナも同意する所だし、これが時期が時期でなく人的被害が出ていなければ喜んで解析していただろう。

 が、事は急を要する。流石に今回ばかりは諦めたらしい。無論、再発防止の為に最低限の解析は行わないといけないので、そこについては突入と平行して機材を整えていた。


「貴方でさえ、ですか……」

「そうね。私も一応研究施設に使われていた封印の類は見たけれど……あれはかなり高度と言って良いでしょう。対処は不可能だった、と言うしかないわね」


 カイトに対してリルは第三者として、はっきりと対処は不可能であった事を明言する。こればかりは藪をつついて蛇を出したわけであるが、結果論から言えば悪手だったと言うだけだ。何があるかわからなかった以上、今回は運が悪かったと思うしかなかった。


「とはいえ、対処が不可能な何かがあると考えて良い。であれば、気を付けなさい」

「ありがとうございます……では、突入部隊の指揮に入ります」


 カイトはリルの念押しに感謝を示すと、ティナが待っているテントへと移動する。そこには既にカイト以外のが待っていた。


「にぃー」

「あ、来た来た……楽しい事になってるわね」

「総員、来てくれて感謝する。それでこれを楽しい事と言って良いのなら、という感じだがな。間違いなく、並以上の事態にはなってるだろうさ」

「どの程度の敵が居るかしら」

「さぁな……が、間違いなく生半可な状況とは言えんだろう」


 ティナでさえ想定不可、リルもまたこれは対処が出来ないと明言する状況だ。そして内部は『迷宮(ダンジョン)』となっているという。間違いなく敵は出てくると考えてよかった。そうして、カイトが更に続ける。


「少なくとも、ここまでの大事にしてまで守りたいものか……」

「ここまでしてでも封じるべき相手か。そのどちらかじゃろう」

「来たか……見た感じどうだった?」

「『迷宮(ダンジョン)』の拡大はやはり見受けられず。まぁ、大本のサイズがサイズじゃからのう。この程度が限度だったと考えるべきなのやもしれん」

「そこは、一安心か。良し。じゃあ、とりあえず状況を」


 ティナの返答を受けたカイトは机の上に神学校の地図を張り出した。上空からドローンを使って撮影させたもので、ひと目で『迷宮(ダンジョン)』の状況が見て取れた。


「これは……」

「十字架?」

「そんな所じゃのう……」


 『迷宮(ダンジョン)』となった際に巻き込まれた範囲はソレイユが言った通りだった。ぱっと見た限り、カイトが見た御神体の十字架と同じ形状だった。あれが拡大した様な形だった。

 が、どうやら範囲内にあった建物を侵食する様な形で取り込んでいるらしく、所々に建物の形と同じ様な影が出来上がっていた。


「まぁ、それはともかく。この十字架の中央……ここに研究施設があった。ここを中心として東西南北に十字に発生しておる」

「規模は?」

「南北に50メートル。東西に20メートルという所かのう。幅は10メートル。建物の状況に応じて若干左右されるがのう」

「内部は?」

「未だ不明」


 クオンの問いかけにティナはわかっている事だけを説明する。範囲としてはそれほどではないらしいのであるが、どうやら取り込んだ建物等の関係で大きく見えているらしい。

 なお、取り込まれたのは研究施設に加えて学生寮が一つ、授業で使うの講義棟が一つ、後は倉庫が二つらしい。この内倉庫以外には確実に人が居た事が確認されている為、そこに居た生徒と教員が要救助者という所だった。

 アルとリィルの任務は先遣隊と合流後、彼らを救助して可能ならば脱出する事だ。脱出が不可能ならば事態の解決を待つ間、要救助者の護衛を務める事になっている。流石に奥の原因解明は彼らには荷が重いと判断されていた。


「そう。まぁ、この面子で全滅があり得るとは思えないけど……本気でやった方がよさそうね」

「可能な限り、本気の方が良いだろうな」


 やはり現状は未知の状態だ。敵がどうなっているのか、中がどうなっているのか、というのは不明な所が多い。生命反応は確認されているので無事だとは思われるが、内部の非常用の魔導炉だけでいつまでも結界が保つわけでもない。早急な救助が望まれるだろう。それ故にこそ、このエネフィア最上位の冒険者達を集めたのだ。カイトが打てる可能な限りの手は打った、と言えるだろう。


「とりあえずにぃとクオンがオフェンス、私とティナが後衛、ねぇねが遊撃って感じ?」

「それが、最良だろう。後はどうなるか、って所だが……後は行ってみて考えるしかあるまい」

「じゃ、それで」


 ソレイユの提案に異論が出る事はなく、カイトの同意に全員が同意する。何がどうなっているのかわからない以上、パーティ構成で考えたのはバランス型の構成だ。彼女とて冒険者。それも熟練だ。肝要な所は心得ていた。というわけで手早く陣形を決めると、さっさと向かう事にする。


「うむ……では、実際に行く事にしよう。アルとリィルは軍のテントの方からあちらへ直に向かう。前で合流出来るじゃろう」

「あいよ……さて、中々に面倒な事になったが……これ以上に面倒な事にならなければ良いんだがな」


 現状、想定さえしていなかった事態だ。であれば必然として原因もまた、彼らには想像も出来ない事だろう。未知の相手との戦いになる可能性は非常に高かった。カイトはそれを懸念していた。と、そんな彼にティナが首を振った。


「気にしても仕方があるまい。後は、行くだけじゃ」

「まぁな……そう言えば、先遣隊は入れたと言ったな。どうやって入ったんだ?」

「そのまま飛び込めば入れる様子じゃ。先発としてゴーレムを入れて確認しておる。一応、触れた程度で引き込まれる事は無い様子じゃから、うっかり入るという事は無い」

「そうか……で、これがそれ、ねぇ……」


 カイトは地面に染み込んだ黒い影の様な物を見ながら、試しに触れてみる。大丈夫という話だし、触れて分かる事もあるだろう。


「……空間の歪みの感覚に似ているな」

「まさにそれじゃからのう。空間の連続性を飛び越えて侵食なぞ考えた事もなかったが……一体どうなっている事やら」

「……ふむ……」


 現在の文明には不可能な芸当。カイトはティナの口ぶりからそれを理解する。そして同様に彼もまた、それならばと幾つかの予測は立てていた。おそらくティナも立てている事だろう。

 が、それを確認する為にも中に入らねばならないだろう。どうにせよ可能性としてあり得るだけであって、実際に可能かと言われると首を傾げるしかないからだ。そうして彼らはアル達の到着を待って、影の中に足を踏み入れるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

 次回予告:第1436話『未知の迷宮』

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